ポケ×ぎじ 蒼鋼少女   作:緋枝路 オシエ

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ピザは時々食べたくなる、猛烈に!


Segment・hepta――蒼き鉄槌

白銀線の落下地点、やはりミナモ北西が発生地点でもあった。

 

「ハァ……ハァ……出力を絞ったタイプ……派手なエフェクトでしたが、見た目ほどの威力はありません……スピード重視、それでもエネルギー充填から発動まで……時間が掛かります…………ダブルでなければ実戦投入は厳しいかも……しれません」

 

 バトル練習スペースでもある裏庭、そこで行われていたのがヴィヴィ着想の昇華技。

 

 何個かのパターンが在るらしいのだが、とりあえず威力×速度○に調整した――――は一発で成功。

 

「何本も光の柱が降り注ぐ~とか、そういうのも出来そーなの?」

 

「何本もは……難しいかもですが、一本の太線ならば……恐らくは」

 

 本日のシフトは休み、サッカーボールを空中リフティングしながら両手を肩幅サイズに開き銀色の光を集めているヴィヴィを眺めていた爽羽佳。

 

 先程の奥さんと同じで上空発射からの再び落下――座標は2メートル前方へズラした――光線には〝出力を絞った〟言葉が、疑わしくなる高火力には羽が硬直し前方へ倒れそうになった。

 

 髪と顔は女の全財産、瀬戸際の三点着地ポーズで事なきを得る反射神経も、ジックとの旅を始めて最初の頃は……顔に傷が付けばその都度彼に責任転嫁してしまった。

 

 少なくとも通常使用の*******よりかは地面への焦げ跡が目立つ。

 

 簡単に壊れたり汚れたりしない、コンテスト会場と同等の堅牢性を備える最高級な材質を使用しているのに、ヴィヴィはやたらクレーターを作ったり、蒼い閃光が空気を突き破れば波紋として設定した、座標を焦がしてしまっている。

 

 物理攻撃がバカ高いグラップラーでありながら、長距離攻撃にも対応どころかそれ一本でも全然強い特殊攻撃力で、物理を封じられた展開となっても活路は絶えぬシューターでもある。

 

「お疲れ様ヴィヴィ! あぁ、庭材の事なら気にしないで。このログハウス作ってくれた大工さん達に頼めばすぐ直るから」

 

 フリーだけどホームページは毎日更新し、お仕事も積極的に受け持っているのでお金の件は心配入らず。18歳だけどマイホームを建てているのは、この世界では特に珍しくは無い。一日ごとに修復だと、流石に貯金が持たないかもしれないが……

 

「…………んっ、申し訳ありません……最大出力であったなら、被害は庭一面まで広がっていたかもしれないです……」

 

「大丈夫だって、気にしない! その練習の時は政府認定の訓練場でやればいいんだから。あそこならきあいパンチも、ハードプラントも、とっておきも撃ち放題だしさ」

 

 ホウエン地方で一番近未来な設計となっている、ミナモ以上の大都会キンセツシティには現在建築中の、ニューキンセツスタジアムに先駆け半年前にシミュレーター施設がオープン。

 

 プロジェクターに投影された、VRスクリーン内ではどんな技も撃ち放題! 

 

 ターゲット――ポケモンを意識したシルエットでbot――は一切手を出してこない、サンドバッグ設定にする事も出来るし猛攻撃モードに設定すればありえない反応速度で躱して防御して、一瞬の隙を付いて仕留めてくるAIになるので、プロトレーナーも通っている本格派、データも提供しているからハイレベルな情報処理を行えているらしい。

 

 まだトレーナー免許を持てない子共でも、この施設では憧れの強豪、そう、ジムリーダーや四天王のレンタルデータも登録されているから〝なりきれる〟

 

……あくまでも雰囲気だけなのだが、教育の一環として授業に取り入れたいと学校から要望が殺到している。

 

 極限までリアルを追及したハイエンドシミュレーター、世界広しと言えど試験導入されているのはキンセツだけ!

 

 これもスタジアムと同じく、デボンとシルフが労力と苦難を長い間共有した技術の結晶。この二社の抜きん出た開発・研究・組織力は――ドリームワールドで一度大事件を起こしてしまったけど――もし、悪人が居るとすれば目を付けるに違いないだろう。

 

(それは……わたしとマスター……二人でお出かけする……そういう意味なのでしょうか……?)

 

 ありそうで実現出来ずだった、最高峰シミュレーター施設。噂は聞いているけど中々興味はある。

 

 その施設でならヴィヴィが全力で技を繰り出したって、VRなのだから被害に見舞われない。

 

 あの技のパターンを試すのならば、この庭を壊さずにすむから活用は論理的。

 

 ……今すぐにでもキンセツへ行きたい、その想いの根底は気兼ねなくぶっ放したいから、だけじゃない。

 

 

〝マスターと一緒にお出かけ〟

 

 

 男性と女性がアトラクションや食事を楽しみ親交を深める行為……チーズドッグを購入するのだって、食事のカテゴリーに入る、ハズ。

 

 

(……………………デー、ト…………? なぜマスターとそんな事をしなければならないのでしょうか異性と外出するだけでも〝デート〟になると知りました純然たる戦闘力向上プラン以外の意味など含有されておりませんオゾン層のチリ程度も御座いません大体マスターはエッチなんですわたしの胸ばかり見ていたり昨日のバトルでもスカートが捲れたり下着が透ける破廉恥な期待を抱いていたに違いありません……………………ブツブツブツブツ)

 

 

 少し俯きながら、両腕を組み両目を瞑ってしまったヴィヴィ。その自覚ないがシフォンケーミみたいに、ほわっほわでサッカーボールを二等分して、それぞれに貼り付けたら丁度良い大きさなおっぱいを前腕に乗っけてしまう……! 

 

 この状態の彼女は4つの頭脳、腕力だけでなく知恵比べでも他を圧倒するスペックを最大限引き出した、ルックアップ中のスタイルだ。

 

 ……そうジックと爽羽佳が勘違いしてるけど、ヴィヴィの思考は技やバトルとは無関係な領分に到達している――――

 

 

「みなさぁ~~ん♪ お待たせしましたぁ~! お昼ご飯の窯焼きピザですよぉ~~♪」

 

「ピザッ!?」

 

「ピザピザピザッ!」

 

「ミノミノミノッ!?」

 

「よっしゃ~~! 皆食べに行こう~!」

 

 ハウスキーパーであり和洋折衷、どんなジャンルの食事も美味しく作れるメイドさんの呼び声。

 

 虫食い布団で寝ていたかたくりこも、お宝コレクションを磨きながら時折、ブラックにピンクの縁取りが入ったスタンドミラーへ映る自分を「可愛さ個体値31ニャあ♪」など、己の容姿に陶酔中のナルシスト娘だって、全員集合のオーダーには逆らえない。

 

 火力が強く短時間でパリッと焼ける薪釜は、湿度や天候、薪の種類や量によっても味が変わるので培ってきたフィーリングも、窯焼きでは美味しいピザを焼く重要な条件となる。

 

 キッチンと庭、二つと最も隣接した位置に設備された煙突から立ち登るスモークに、ご近所の皆さんも拘りの味わいを持つ香りに空腹度はマッハ。

 

「ししょ~が居たらもう三枚は必要だったニャ~ね♪」

 

「ヘイッ、取り替えっこプリ~ズ♪ 厚切りチキンごっつぅ~~まぁ!」

 

 手を洗いリビングテーブルに集う6匹と1人。

 

 赤一色では気質が強すぎてしまうので、ルッコラをトッピングする事でバランスをコントロール。視覚も味覚も大満足なマリアーナをカットして爽羽佳の口へあ~ん。

 

 同じく車輪型ピザカッターで六等分にした、マヨネーズ抜きの照り焼きチキンをネリへあ~ん♪

 

 この二匹は外出先でも、よく食べさせ合いっこ(色々な味を食べれるから)している。 少々マナー違反かもしれないけど、後輩系でありながらイニシアチブを握られっぱなしのマニューラと、同級生系でギャルエッセンスてんこ盛りでありながら、その手の話題になると見栄を張ったり急いで話題を転換させようとするオニドリルだ。

 

 友達……だって分かっているのに『もの凄く百合百合しい』のだと、SNSに映えそうな自撮りしている二匹のカップリングに興奮してしまう。

 

「ミガミガミガッ、ガンプッ、んもグッ、ミノぐっ♪」

 

 無理して咀嚼バリエーションを作ってるかたくりこ。半熟卵を加えたマルゲリータのチーズが伸びまくって、顔面を覆ってしまうが気にしない! そんな事よりピザだ!

 

「ハフッ! お気に召して下さりあむぅ! 嬉しいですよぉふもっ! おィひィ……! もむんむもんっ!」

 

 ガス釜を使用しないから、生地の裏に編み目が残らず焦げ後は耳だけ。

 

 ポテトときのこのグラタン風ピザ、2カットを両手持ちしてるメコンには『いっぱい食べるキミが好き』と謳い文句を授与したくなる。野菜はハジツゲ産だ♪

 

「俺はこのディアボラが一番好きかなぁ~♪ 名称がカッコイイし!」

 

 チキンとサラミをメインに唐辛子を加えて、スパイシーな悪魔風を手に取るジック。

 

 口内がれんごくされる辛さではないので、水を飲みながら絶妙な刺激に魅力を感じてしまう。彼は辛い物も甘い物も……ていうかメコンの料理なので全部好きだし!

 

「………………………………むしゃりっ――」

 

 チーズドッグ本当に一日で77本食べちゃった系ガール、ヴィヴィ。

 

 腹ぺこ大食い属性ではない、だがチーズドッグならば話は別。

 

 なんと! マイルームにはデパートで買って貰ったメニュースタンドを設置させ、新商品が発表される毎にチラシを更新させ、毎日「明日はどれを食べようか……」ルービックキューブを弄りながら、むふむふするのが日課になってしまった!

 

 店主さんだって「もうお嬢ちゃんの仕草や瞳を見ただけで、どの種類が欲しいか分かる様になった」と想われてしまっているのだから! ヴィヴィ本人には内緒にしてるけど。

 

 もしかしてチーズを使った食べ物と相性がいいのかもしれない、どのピザも美味しいけど最もお口が満足したのは5種類のチーズピザ。

 

 無表情のままチーズを伸ばす飛距離に挑戦……その『無表情』もあの頃とは全然違う、深紅の瞳には精気が宿り声にも情感が溢れているから、初対面の子共が見たって「メタグロスのおねえちゃんうれしそー!」なる、感想を持ってくれるだろう!

 

(メコンさんのお料理……とっても美味しい……皆も幸せな表情になってます……マスターも…………)

 

 彼女は学び認識を改訂した、料理は栄養を確保する為だけの物では無いと。

 

 メコンが食べた事の無い料理を作る度に、新作フレーバーのチーズドッグを手に入れる度に、栄養学よりも敏感となった味覚が喜悦する。

 

 途中でテーブルを離れるなんて出来っこない、これこそが生きる為に本当に必要な感情……

 

 一人で食べるよりも誰かと食べた方が――食材や成分が変化している訳がないのに――美味しく感じられる。チーズドッグだって一人で食べても感動的な美味しさは得られなかった。

 

 

(…………わたしも、マスターに何か……料理……作れば――)

 

 

 ――喜んでくれるかなぁ……?――

 

 

 ジックと一緒に買いに行って、帰宅路を歩きながら食べたり、近場のベンチに座って食べたり、お土産として買ってくれた物を彼の部屋で食べたり。

 

 同じ製品でも味が全然違う。一口一口メモリに刻んでしまうくらい激変している。

 

 自分が〝誰かのために料理を作りたい〟なんて気持ちになるとは……限界まで伸ばされたチーズを口元へ戻しつつ、隣の席で手持ちとの団欒を楽しむ彼をチラ見。

 

(わたしの料理でも……これくらい喜んで貰えるかな? メコンさんに教わって……やってみたい……かもしれません……)

 

 何故彼に喜んで貰いたいのか?

 

 もっとバトルをさせて貰えるから、たくさんチーズドッグを買って貰いたいから……?

 

 価値観と基本概念を変更させるパッチでも当てられてしまったかの如く、芽生えた想いの正体が不明瞭なので困惑する。理由があるハズなのにその〝理由が〟どうしても分からない……

 

 

 数日前に贈られて来た、パーリェ作《紅色の瞳を持つ蒼の鉄槌》

 

 

 バトル中のヴィヴィをイメージしたらしい油彩画。

 

 手甲を構えた躍動感溢れる構図、命名に従い手甲と瞳には重厚な表現が成されているが、身体や表情は優しい光の質感に満ちヴィヴィの本質を捉えたパーリェ渾身、門外不出の造形術で創出された息遣いさえ聴こえるスペシャルアートだ!

 

 その素晴らしい芸術品をマイルーム……ではなく、ジックへ預かって貰うの名目でプレゼントした。

 

「…………これを見ながら変な事、しないでくださいよ……?」

 

「しないってのっ!? 何処に飾ろうかなぁ~ベッドの正面に位置する……この辺りにしようかな!」

 

 確かに絵画から飛び出してきそうなタッチ。

 

 同じ物は自分でも二度は制作出来ない、パーリェにそこまで言わせてしまった歴史的文化遺産になるかもしれない、至大至高の作品を部屋に飾ったジックは上機嫌。

 

 絵画に向かって話しかける、妖しい趣味はないけれど……カッコよくて、頭が良くて、キュートで、クールで、ぶきっちょで……見識を広げ成長していくを題材にした作品、もっと欲しくなってしまう。

 

 じゃあ他でも無い自分が、彼の為に何かを作って贈ったのならば……

 

(もっと喜ぶ、かも、ですっ!)

 

 




ヴィヴィが本当に多感な女の子になってる。

皆でご飯食べたりとか、日常描写書くの大変だけど好き!


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