ポケ×ぎじ 蒼鋼少女   作:緋枝路 オシエ

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早めに更新です。

ハネッコめっちゃ可愛いですよね、まんじゅうみたいで!

手持ち予想は当たっていましたかね、正解は......


Segment・hepta――白執事と巫

(マスターも一時間早く……メコンさんのモーニングコールよりも早く起床し、バトルに備えて頭の中を一旦リセットさせていました。この貴婦人と何も変わりないですね……同類、ですっ……)

 

 こてまりが引退しているので、全盛期並の強さを振るえないかもしれないが、オーヴェルが『新しく育てたポケモン』と車椅子のホルダーからボールを二つ取り出せば、ボールの中からでも強豪にして精鋭のオーラを感じ取れてしまう。

 

バトルが上手いトレーナーはそれだけ育てるのが上手い……!  

 

 シワや弛み、ほうれい線からは逃れられず加齢の進んだ不鮮明になりつつある表情でも、トレーナーとして胸の内は全盛期よりも知識を――――講師は生徒からも教わる事がたくさんある――――得て、あの時をも凌駕している実力を出せそうな自信……湧いてくるっ。

 

 笑顔だけは年老いても絶やさない、平和は笑顔から生まれる物。

 

 馴染んだ感触のボールからも孫達と同じ様に大切にしている、手持ちがコンッと揺れてオーヴェルの膝掛け...のさらに上に座っている小型のポケモンが、火花散らせながら開戦を待ちわびている両者へと、ぺちぺち短い手を叩きながらぴょんっ、とその場で跳ねる。

 

 跳ねただけでそよ風に捕らわれそうになって、クライドが慌ただしく助けてくれるがお約束の流れ。

 

 オーヴェルの手持ちで唯一人化を果たしていない、生まれたばかりの癒やし枠マスコット。

 

 

 それがわたくさポケモンハネッコ、ニックネームは《おプチ》 

 

 

「ミノッ!」

 

 はねるしか覚えておらず、善悪の区別どころか強風に煽られてしまっても、無邪気な顔で頭の葉を回転させぶらり旅をエンジョイしようとしてしまう。

 

 仲間意識を持ったのか、ジックの手持ちで唯一人化を果たしていないミノムシが、ジャンプし彼の目線に合わせながらとりあえず挨拶するも、おプチはかたくりこジャンピングが面白ろ可笑しいのか、ぴょんぴょこ真似するばかり。

 

 言葉は通じ合えない……でもコミュニケーションは出来た、のか?

 

「あらおプチ、かたくりこさんとお友達になれたのかしら? もう少し二匹のほのぼの交流を眺めていたいのだけど…………さぁジックさん! 始めましょう! ルールはお伝えした通りです、使用ポケモン二匹までのダブルバトル……レフェリーさんも準備はOKですね、改めまして、よろしくお願いします」

 

「よろしくお願いします! 俺の二匹は……! この子達ですッ! いけっ ヴィヴィと爽羽佳ッ!」

 

 オーヴェルと同じ養成学校で働き、政府認定のジャッジ資格を所有しているレフェリーが、バトルスタートのコール!

 

(やはりヴィヴィさんを選抜して来ましたね、トクサネはエスパータイプに有利な龍脈が溜まる土地、理気が最も働いているのが島の北東……そう、私の館だけでなくジムが建てられている方角でもありますね)

 

 トクサネのジムリーダーは、エスパータイプのプロフェッショナル。

 

 その様な風水があると最初に見抜いた者が、初代ジムリーダーの座を政府から請け負った。

 

 モンスターボールから姿を現した、思春期真っ只中のメタグロス、トクサネでもゲーセンへ足繁く通ってそうなオニドリル。

 

「私とヴィヴィちゃんが実戦で組むのって初じゃない~! いてこましたろーねぇ!」

 

「いてこ…………えぇ、宜しくお願いします! 勝ちましょう!」

 

 マスターの為にも……それは口にせずとも、爽羽佳には伝わっていたらしくニヤ付きを堪えるのに必死だ!

 

 

「頼みますよ、ネレグ! バーベット!」

 

 

 一つは上空三メートル、もう一つはフィールド中心地点へ投げたジックと比べ、筋力の衰えをヒシりと痛感する。

 

 投げるのではなく転がされ、先に開いたのは放物線状に金箔が巨大化した様な、キラキラ流るる演出が何ともゴージャス!

 

 明るさばかりを強調させない、黒いボディの中心部に適度な金色のライン、収めたポケモンが懐きやすくなるゴージャスボールの単価はかなり高い!

 

「Piacere、我がマスター・オーヴェルの名を汚させぬ有りふれたバトルはしないと約束しましょう。マスター・ジックと二人のSignorina」

 

 クライドと同じデザインの燕尾服だが、こちらはホワイトを基調に胸ポケットのカラーはセルリアンブルー。

 

 後ろ髪を襟首でターンさせ『湖のオデット』なる異名を持つ白鳥の翼を意識したヘアスタイル。やや奇抜だがベースが線の細い美男子なので、少しの時間で違和感が消えてしまう。

 

 左眼にはモノクルを装備し、コサージュ代わりなのか、きれいなハネを左肩へ付けている、しらとりポケモンスワンナ。

 

 

 ニックネームは《ネレグ》

 

 

(ぴあちー……?? しのりーな……?? ヴィヴィちゃん、あのキザ男の言ってる言葉って何処の国??)

 

(あれはイタリアという国で使われている言語ですよ)

 

 そしてもう一つのボール、日没と闇夜を彷彿とさせるダブルカラーに、頂点のクレセントムーンがシンボル。

 

 開閉後はクレセントが拡がり、爆発した派手なエフェクトで彩られたムーンボールからは――――

 

「…………がんばる…………」

 

 スワンナの青年、ネレグよりも30㎝は低いであろう身長。

 

 キャラメルブラウンのポンチョで、前面の膝下までを隠しているので、下衣は40デニールくらいと思われるタイツの姿しか判明出来ず。

 

 鹿耳型にヘタれを見せる癖っ毛がキュート、髪色はポンチョよりも明度が薄いブラウン。

 

 アメジストの様な、大粒ブドウの様な球状が根元に埋められた二本角は、空気の流れを微妙に変えて見つめた者を不思議な感覚に陥らせてしまう。

 

 エスパータイプではないが、限りなくソレに近い感覚干渉能力や空間操作能力、幻覚であるのに実体化、エスパーのお株を奪うのは大変な尽力であるのだが……

 

(どっちもエスパータイプじゃないのか……! オーヴェルさんはトクサネではエスパーポケモンを使う事が多いと、戦歴を調べたけど『新しく育てた』って言っていたからなぁ……それがこの二匹ってことか!)

 

 地の利を活かさない? もしくはそれに乗った相手への対抗策をスタンバイしているのか……

 

 おおツノポケモンのオドシシ。

 

 

 ローテンション系少女のニックネームは《バーベット》

 

 

 ダブルバトル開始! 

 

 ……スワンナとオドシシは特殊攻撃or物理攻撃値、並んで素早さがやや高めのポケモン。

 

 レーダーチャートグラフで当てはめると、その他の能力値との揺れ幅は中庸。

 

 メタグロスの様に「殆どの能力が高水準」な訳でも、ネリの様に「素早さと攻撃に極振りしている」のではないポケモンは、トレーナーの手腕が特に浮き彫りとなるので、無策で使えば器用貧乏となりがちだ。

 

「爽羽佳は空中でネレグを、ヴィヴィは直進してバーベットの相手を頼む!」

 

 18歳のジックよりも人生でも、トレーナー業でも、豊富な経験と優れた勘を培っている老練家、オーヴェルが適当にあの二匹を投入するだろうか?

 

「空は空のスペシャリストに任せましょう」

 

 エスパーが有利となる地形効果は、この館でも働いていると本人が申していた。

 

 に関わらず、自分はエスパータイプのポケモンを使わないとは決闘相手を援助しているだけになってしまう。それはベテランが故の遊び心か、情けか、義を重んじているのか……?

 

 

 そんな事は無いっ、絶対に……何かあるハズだ!

 

 

「珍しい武器のオニドリルだな」

 

「でしょでしょ~お? 世界中見渡したって多分私だけだよ、脚を嘴扱いにさせてんのっ!」

 

 生まれ持っての飛行能力を持った二匹が、地面を振り切るかの速度で高度を上昇させる。〝レフェリーの視界に収まる〟が高度規制なので、調子に乗って飛翔し続けていたらレギュレーション違反になっておマヌケな敗北を喫してしまう事も…………

 

 飛行タイプ専用のバトルフィールドでなら、大気圏外へ突破されても追尾し燃え尽きることの無い、カメラ機材とアンテナを展開させるので思う存分、制空権争いが許される。言うまでも無くそれは、この館専用フィールドでは行えないので、抑えるべき場所は抑えなくては...

 

 片羽を横薙ぎに払い、空をも切り裂く刃を生成させ目隠れ少女へと放つ。

 

 事も無げに身体を「く」の字に逸らして、エアスラッシュを回避した爽羽佳。

 

 縦薙ぎよりも威力は劣るが、攻撃範囲を広く取った刃でも開幕早々から、ブチ当たってしまう弱いポケモンじゃない。

 

「ああ、タイプの都合も合って飛行タイプとはよくバトルをするが、お前の様に嘴を使うオニドリルは見たこともない。オンリーワンて奴だな」

 

 挨拶時はラテン系の言葉を織り交ぜて、献上的な態度であった白服の青年は、鳥類である爽羽佳に仲間意識を覚えたからなのか、大分砕けた口調となっている。

 

「閉鎖的でほのぼのし過ぎてる田舎出身だから、目立ってみたい願望があったんですぅ~! ニックネームもわざわざ漢字表記にして貰ってるーーのォッ!」

 

 遠距離系統の技を覚えていないが、一撃離脱戦法が得意な爽羽佳は必ず目標対象へ接近しなければならない。

 

 単純な力押しでは――――ちょっと早いくらいしか取り柄が無い地味なポケモンと定着してしまい脚光を浴びることが少ない――――オニドリルなので、タイプ相性が有利でも無い限り無理算段。

 

 田舎から連れ出してくれたマスター、ジックの指示でお返ししてやったのは……

 

「……ふッ! オウムがえしか、オニドリルはエアスラを覚えたか否か、頭で考えていたら足首くらいは裂かれていたかもな」

 

(そー簡単に当たってくれないよねぇ……ターゲッティングもバレて~ら)

 

 羽を仕舞い込んで自由落下、両脚に重りが装備された様にも見える光景だが、左足を横へ払って飛ばした『エセエアスラ』が後方で消滅したと確認すれば、逆上がりの要領で再び浮上し爽羽佳と顔を合わせた。

 

「頭使ってるな、特別能力値に優れないのは俺も同じ、どう補い、何を武器として勝る相手へ立ち向かうのか。……これも縁なのかも知れないな」

 

「あ~恋とかじゃないんだけど、貴方と初めて視線合わせた時さぁ、10まんボルトに撃たれた様な衝撃走ったよ。酷似感あるねぇ! お兄さんの嘴は何処にあるのかなぁ?」

 

「引っ張り出して見ろ、それが拝める時は天王山になるかもしれんがな」

 

「い~~え! 出すまでに倒してやりますともぉ~!」

 

 

《風を味方に付けた方が勝つ》 

 

 

 とある飛行タイプのジムリーダーが、育成や戦術、想いの丈を小説論として電子書籍化し出版したタイトルだ。

 

 旋回上昇する二匹もそのタイトルが頭を過ったかもしれない。

 

 爽羽佳もネレグも、良きライバルを手にしたのかもしれない!

 

 飛行vs飛行は「どっちが上を取れるか?」の制空の奪い合いだ。

 

 他のタイプなら一方的に上が取れるので気にしなくてもいいが、相手も飛行能力持ちだとそうはいかない。

 

 ましてネレグはキザな青年だけど、バトルでも〝おさきにどうぞ〟なレディファーストで勝ち星を譲渡するナヨ男なんかじゃない。

 

(ヴィヴィ、バレットパンチで距離を詰めながら攻撃だ!)

 

(了解ですッ!)

 

 念話で伝わる言葉にも、気持ちが乗ずる様になった。

 

 今は1vs1の状況が2組作られた、見栄えになっているが雰囲気に流されず守り通さずとも良い。

 

 とは言え……二匹の鳥ポケモンの高度へ到達するには、ヴィヴィでも不可能なので今は任せるしかないのだが。

 

「っ゙……今、やって、ネレグ……」

 

 

 ――あのオドシシ、バーベットの特性は『いかく』ではなかった――

 




次の更新は一週間後です!

オーヴェルさんは所謂『マイナーポケモン使い』を意識させました。
おプチを省きまして、和風テイストが二名(着物と......)
洋風テイストが二名(執事長っぽいのと主従となったばかりの若執事)にしてみました。

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