小さい子に大きい武器
――――――良き...!
既に『艶姿』を見せる事が確定している、七章二匹目の犠牲...いや、選ばれし者、バーベットの能力、その一つが――――
場に登場すればそれだけで、相手二匹の攻撃力を下げる強力な特性。発動させただけでオドシシは物理へはそこそこ硬くなる。
(おみとおしか、そうしょくか……ダブルバトルでなくとも汎用性が高いいかくを捨てている、やっぱりオーヴェルさんは何か企んでいる!)
ヴィヴィはクリアボディなので、いかくの効果は無効になるが爽羽佳へは確実に攻撃力一段階ダウンのマイナス効果を付与できていた。
ルール上交代出来ないので、いかくを発動させればそれだけで有利となるのに……だ。
弾丸の速度となって先制攻撃!
駆ける蒼鋼は速攻能力を持つバレットパンチで、オドシシの少女を五連打! リョナ的な意味はなくポケモンなので、人間だったら内臓が飛び出している威力でも平気です。
「!? あっ、アイテムが……!」
しかしオーヴェルは絶妙なタイミング、ヴィヴィが初手でバレパンを繰り出すと完全に読めていたのか、ジックの指示よりも早くリフレクターの使用を命じていた。
ポンチョの内側を殴られたけど、自分の技は発動させたので「そのくらい通してやる」と、複雑な形状の角を回転させつつも最小の動作で、元居た地点へと戻ったバーベット。
ハニカム、もしくは何かの甲羅に近しい形状のバリアが、暫くの間味方への物理攻撃を半減させるリフレクター。
どのバトル形式でも有用な効力を持ち、ダブルでは自分だけで無く〝味方二匹〟が対象となるので、生存率が跳ね上がる強力かつ無駄とならないサポート技。
ヴィヴィは特殊攻撃も扱えるので幾分かマシだけど、爽羽佳は物理技しか覚えてないので致命的な一手を刺されてしまった!
それだけではない、ヴィヴィとジックから敵対心を受け持たされるのもバーベットの役割の一つに過ぎなかった。
僅かな時間だけでいい、その隙間、爽羽佳と空中戦を繰り広げていたネレグがリフレクター発動と共に急降下。
「あッ゙!? ヴィヴィちゃん狙われるよご主人っ~~!」
「もう遅いさ! オボンのみ、奪ってやったぜ……!」
(回復手段が消滅させられた……ッ!)
………見事な盤上の運びと流れ。
一瞬だけでもネレグへの警戒心を緩める事が真の目的。
ネレグがヴィヴィに突撃してくると念話で知らせたのだが、防衛手段が無かったのでどうにも出来なかった。
「ヴィヴィさんが『何らかのきのみ』を持っているだろうと、私の〝勘〟が教えてくれました。安心しましたわ」
対戦前夜にジックは悩んでいた、ヴィヴィに持たせるアイテムをラムにするか、オボンにするかで。
……悩んでいた苦労も時間も、あの一発で灰燼となってしまった……! メタグロスは回復系統の技が使えないので、一息付けるオボンのみは疑似的な耐久水増し手段として重宝していたのに。
「ついばむ、俺もメタグロスのSignorinaがきのみを持っているかどうかなど、判別は出来なかったがマスターの〝勘〟を信じただけさシャリ、シャク……シャクッ」
まだ疲れてないしHPも減ってはいないけど、甘酸っぱく整ったシトラスの味が口いっぱいに広がって、戦意高揚しながらもリラックス。
相反する気持ちで再び空へ舞わん!
「ネレグがついばむを命中させる為の、誘導でもありました」
(地上へ到達する距離や速度も計算していたのかっ……すげぇや……)
ピンポイント気味の技だが、所持している木の実をかっさらい無駄に消費させる事の出来る、妨害兼攻撃技のついばむ。
オーヴェルの術中にハマッてしまったが、彼女はリアルサイキッカーではないので『ヴィヴィがきのみを所持している』と、確実な保証は約束できなかった。
――――過去にバトルしたメタグロスや、公式から非公式も含めて自分が知っている限りの、メタグロスのデータを検索し弾き出した確立が『持っている可能性が高い』というだけ――――
ネレグもオーヴェルの〝勘〟を信じ、ついばんだ結果が……アレだ。
彼は何も迷い無くもう一匹の仲間が、ヴィヴィを引きつけ上空からの警戒心が薄くなった瞬間を狙い、まるで獲物を捕食するカワセミの様に翼を折りたたみ、頭に重心を集中させた急降下、そして急上昇で反撃の隙を与えさせなかった……!
オーヴェルを心から信頼していなければ、あんなに素早く鋼鉄ボディへ飛び込めない。
〝もしもヴィヴィが他のアイテムを持っていたら〟など、彼は考えてなかった。オーヴェルがそう決断したなら間違いないと、戦場を預かる手持ちとして遅疑逡巡せずに遂行しただけなのだ。
「次の攻撃へ移ります、バーベット、メガホーンですよ!」
貴重な回復手段を失ってしまった。
硬くて冷たくて、でも心は暖かく、硬度や低温脆性、腐食耐性はレベルと絆が深まるほどに増すブルーメタリックでコーティングされているので、そんじょそこらの攻撃は軽減させるヴィヴィであるが……
「……印、『角』……召喚……」
ポンチョから左手を露わにしたバーベットが、紫紺に発光する人差し指を筆になぞらえ前方へ、幻妖な手つきで『角』と描けば――――――
(あれがメガホーン!? 召喚型の武具かッ!)
自分の頭部に生えているツノと、同じ音叉形状ながら全長1.5メートル程の『角』を武器として取り出したのだ!
人化したポケモンの武具は、二種類に分けられている。
一つはヴィヴィや爽羽佳に見られる、自身の身体に装着させる『武装型』
これを装着させなければ戦闘力は大幅に低下するので、なければ困る武器。
己の力たる概念が武装として形作ったので、戦闘開始前には既に装着済みにしておく、全力で戦うための触媒である。
二つ目が『召喚型』で、たった今バーベットがやって見せた方法だ。
こちらはなくても戦える武器、他に戦う術を持っているので戦闘前に準備しなくても良い。
言い換えれば戦闘途中で、仕舞い込んでいた武器を取り出したというだけ。必要ない相手には、仕舞ったまま戦い終えてしまう事も出来る。
「……………………」
ヴィヴィは召喚型のポケモンとバトルするのは初めてだ。
少なからず驚いてしまっている間にも、バーベットは二叉の銛をヴィヴィへ投擲する!
彼女は直接手に持たず、右手を素早く対象へ向かって指で刺す形に突き出せば、その意思に応え発進。
(伸びるメガホーンッ!? 物理攻撃なのに飛び道具みたいじゃないか……!!)
今から避けるのは難しい、やむを得ず腕を交差させる防御行動をヴィヴィへ与え、彼女は1本目のメガホーンはやり過ごせた。
(あ゙っンッ! 大丈夫です! タイプ一致ではないので見た目の迫力程威力はありません……が、厄介な技です……10メートル級の距離でもすぐに到達しましたっ、レンジも広いです…………)
1本目のメガホーンが防がれ、ここでバーベットは左手を斜めへ出し、眼前に映るヴィヴィを掌で叩く勢いで横払いさせた――――ても、召喚された角は二本。
同じ正面ルートで迫っていたが、二本目は微妙にルートをズラしヴィヴィの肩へ命中した。
「この二本の角……私の意思通りに動くよ……武器扱いだから……他の技と同時に使用も……出来る……」
「本来であれば『何らかの技を使用している時に別の技を使う事は出来ない』のですが、一部の例外があります。それが……召喚型の武器を持つポケモンです」
ヴィヴィが召喚タイプと初戦闘であると、あの僅かなやり取りで見抜いてしまったオーヴェルは、ポンチョ娘と一緒に親切な教示をしてくれた。
養成学校で生徒達へバトルのお手本や、トレーナー知識を学んで貰っている時と同じ様に、ヴィヴィを一人の生徒と思いながら。
シュルルルッ、バーベットが両手を小指~人差し指の順に、手前へと曲げたら見えないストリングで結ばれているのか、パペットマスターな手捌きに刃向かわずリターン。
(あのバトルスタイル……ヨーヨーのツーハンドプレイみたいですね……それでいて巫術や呪術師の様な一面も併せ持ってます……)
円盤玩具だって身体にぶつかれば痛い。
そしてバーベットの召喚した多角形は、玩具なんかではない。
彼女の両サイドで浮遊したまま、停滞する角のオブジェは力尽きるまで消滅する事は無い。メガホーンに限って発動までの充填時間や、攻撃終了後に発生するクールタイムもスキップされる、それが召喚型の最大の特徴である!
(練度や育て方が秀でてる証拠か……素のエスパーだったら抜群で通っちゃってて、メガホーンだけで吹き飛ばされてたな……)
接近して勢いよく角で突き刺すのがメガホーンなのに、その場から一切動かず攻防に活用でき順行・逆行思いのまま。伸びるわ曲がるわ戻るわ……
ノーマルポケモン数あれど、オドシシは他のポケモンの影に隠れがちで、俗に言う『マイナー』
どんなポケモンだって使い手次第で化ける。
懐から取り出した煎餅をポリポリ食べているバーベットと、肖像画として残したいくらいの笑顔をジックへも伝染させながら、教授する職務に就いている者として明快に説明してくれるオーヴェル。
つくづく鋼複合の有り難みを感じる。巧みに、ダイナミックに〝意思を持ったヨーヨー〟をトリックさせてくるので、ヴィヴィでも分岐予測が難しい。
先程の攻撃も、自分がエスパー単であったら……―――――
(……て、マスターあのお煎餅っ!)
この子、中々ヤりますよ。どっちの意味でも