メコンの日かぁ...つまりおっぱいかぁ...
「んっ! とァ、ふッ……これくらいっ!」
命中してもタイプが一致してないし、ヴィヴィにはゴーストが等倍なので痛手になる事はない。
しかし回復手段を失ってしまったので、蓄積されてしまえば取り返しの付かない事態となってしまう。
……あまり温存はしない方がいい、こうそくいどうの指示を与えている間にもバーベットはパキリンッ、ポリンッ、煎餅同士が擦れ合うリズム音を口元から演奏する度に少しずつHPを回復させられてしまっているのだから!
リフレクターも厄介だ、ラスターカノンを発射する手段も取れるのだが、出来る事ならばバーベットへ一気に大ダメージを与えてしまいたい。このバトルのキーパーソンとなっているのは彼女なのだから!
「(ここは用意周到のオーヴェルさんを信じ……)ヴィヴィ、ひかりのかべだっ!」
(覚えていましたか、ならば……)
透明なガラス板に近い質感の壁を前方に展開したヴィヴィは、メガホーンと共に襲いかかるシャドーボール――――4つもの長距離攻撃――――から逃れる事に成功した。
ひかりのかべを貼ればヴィヴィに命中しても、ダメージを与えられず消滅する。
なのでメガホーンを躱す事に専念すればいい。今回は際どかったが一撃目を軽いジャンプで、二撃目はラグが発生しないねんりきをジャンプ中に使用し、磁気で浮かぶ見えないディスプレイスタンドを蹴ることで、ノーダメージにやり過ごす!
ひかりのかべは味方の場に効果がある技だ。
バーベットだけでなくネレグが所持する特殊技をも半減させてしまうので、オーヴェル側にとっては好ましくない。
上空60メートル地点で交戦している、ネレグの表情がやや曇った。
得意技のエアスラを爽羽佳に当てたところでダメージには期待が出来なくなった。それを分かっていて爽羽佳はドリルくちばしで猛撃!
最低でも半減はされるから一撃離脱よりも押せ押せ、イケイケな姿勢で突き蹴りを入れてくる。
攻撃は取り止めて回避動作に専念、それでも右翼に一発命中させれた!
リフレクターが貼ってあるので仰け反ったりはしないが爽羽佳は「どっちの場にも壁があるんだから、イーブンでしょ!」と言いたげな、避けや防御へ回していたパラメーターを全て攻撃に注ぐ強気な責め立て。
一撃命中だけで済ませたネレグへアイコンタクトで『ありがとう』と贈る貴婦人は、手持ちへの感謝を常に忘れていない。
指示をするのは自分だが、戦って傷つくのは彼らだからだ!
「俺が何をするか――――」
「私が何をするか――――」
マスターが宙を駆ける自分らに『止まって』とハンドジェスチャー。従ってネレグと爽羽佳は対面しながらも、空中で静止する。
……次にお互いが繰り出す技は同じ、この硬直して隙だらけでありながら邪魔されない状況を作りたいが為に、ジックはひかりのかべを発動させたのだから!
――き り ば ら い ッ!――
効果発揮までに5、6秒と結構な時間が要求されてしまいながら、シングルでは使いどころが非常に限定されてしまう、きりばらい。
視界を狭める迷霧や時間帯や季節によって発生する朝靄や霞を除去する効力がある。
場のポケモンのコンビネーションによっては、時間や季節に左右されず〝もや〟を作り出す事も可能であるが、その為だけに覚えさせるのはちょっと……なのが正直な感想だ。
ダブルバトルでは使い道が増える、相手の場に展開された――フィールド設置技――がどれだけ貼られても一手で取り除けるからだ。
ダブルは壁張り系の技が強い。オマケと言っては可愛そうだけど……回避率を少しダウンさせる効力も備えているので、編成や相手によっては面倒な技に変貌する。
同時に巻き起こった突風、これで互いの場に展開されていた壁は消滅した!
「攻撃対象変更! 爽羽佳はドリルライナー! ヴィヴィはかみなりパンチ!」
「おっまかせぇー!」
「了解ですっ!」
バーベットがリフレクターを使って来た段階で本当はきりばらいを命じたかったのだが、宙(そら)のフィールドには相手の白執事が割って入って来る。
同じ隙が作られる技を誘発させる必要があった。
ネレグがきりばらいを覚えている。彼の戦闘履歴など知らないから保証は無かったけど『オーヴェルなら用意させている』と交戦の最中に直感し、彼女の高等戦術から分析したジックは読みに勝てた!
「……足っ……っ!?」
「あんま攻撃出来なかったけどッ、さぁぁッ! ここで晴らしておっくべきだァァッーー! そォいそォォいっ! すォらああああ!」
「ぁ゙ン! んやぁ゙っ! い゙ンッ……!」
足下から抉る様なスライディング、十八番のリフトアップが決まり右、左、右、左!
よんかいあたった、ごかいあたった、にかいあたった!
メガホーンヨーヨーは切っ先を阻むように交差させるも虫属性の召喚武器なので飛行タイプの爽羽佳とは相性が悪く、一突き一突きは薄っぺらくても腹部へ集中狙いされたら〝雨垂れ石を穿つ〟
「バーベット! あのオニドリルか――」
「……かみなりッ――!」
「チッ、門前払いだ!」
きりばらいを狼煙に、ジックチームへ流れは揺らぎ始めたか。
チクリチクリと空中での連続回し突きを受け続ける相方を救出する指示を出されたネレグは、ツインテブースターを使用し後方から――――宇宙センターで打ち上げられるロケットに匹敵する引力脱出速度で――――鋼鉄ガールの襲撃!
しかも四倍弱点の鉄拳、リフレクターがあれば耐えていたが壁を構成していた物質が館外へと散乱した今は、絶対に当たってはならない!
「わぷ゙ッ!? ンきゃぅ! むぅ、惜しかったです……っ」
激しく吹き荒れる風の渦を『自分が戦っているフィールドのみ作り上げる』おいかぜ。
持続時間は長くないが味方全員の素早さが二倍となる! 有利な風向きとなったオーヴェル側は自軍にバフを掛けつつ爽羽佳の一度ハマったら抜け出すのが難しい『ずっと私のターン』のルートを、ズラされた事によって攻撃は打ち止めとなった。
「ほぉう!? 分かっては居ましたがハラハラしてしまいますなぁ!」
ネレグにはまもるを覚えさせてないので、かみなりパンチが命中すれば羽の一枚も残すこと無く白から真っ黒焦げになっていた。
執事仲間であるクライドは、観戦しているギャラリー……と言っても身内だけ……では最もリアクションが多い。
ヴィヴィの初手バレパンをバーベットが受けた時も、爽羽佳の連続突き蹴りを食らい続けている時も、何らかのリアクションを……心配性とは言えちょっと大げさなのでは?
これもオーヴェル側の緻密な戦術の一つなのかと勘ぐってしまうトレーナーもいるが、そんなしみったれた事をしてくる方ではない。
バトルが終わったらローテンション鹿娘に『クライド……うるさかった……』とズバリ言われてしまうのはテンプレである。偶にバトル中でも言われる……
「あら、組み体操みたいですね」
トルネードに追い払われたヴィヴィと、HPの半分を削ることが出来たが中断されこのルートでは上昇が難しいと判断した爽羽佳は同時に地上へと降り立つ。
その時の姿勢がヴィヴィは右手を、爽羽佳は左手を前にした三点着地だったので、こてまりの視点からだと〝扇〟に見えたのであった! 狙ってないけど仲良しなんだと裏付けるタイミングで、おやの膝元でぴょんぴょこ跳ねるおプチと一緒に拍手をしてしまう!
「そこからいけっ、ヴィヴィ! コメットパンチッ!」
対象変更しオーヴェルが指示を与える隙を見て、炸裂させた連続攻撃で爽羽佳がHPを削ってくれた!
あのHPなら確定で倒せる! 向かい風となっているがヴィヴィの素早さが減少している訳では無いので、こうそくいどうで突っ切って貰い落下の衝撃で内股になりながら頭を眩ませているバーベットへ……キメる!
「幕下げですっ……ッ!」
「…………ポリンッ……」
腹ぺこキャラには夢のアイテム、それこそ『ずっと戦闘が続いて欲しい』と思ってしまう人智を超えた永久機関たべのこし。
目をしぱしぱさせながらも鹿煎餅は口に含む。だが回復量は1/16なので倒しきれる。
自らを蒼に煌めく核とし、昼空へ尾をたなびかせる帚星鉄拳が――
「ヴィヴィさんの最強の技、その攻撃は貰うわけにはいきませんっ」
ジックは――――念話を通じて完全にシンクロしているヴィヴィも――――少しばかり勝負を急いでしまっていた。
推進剤である蒼い粒子が二筋空を裂きながら殴りつける!…………が、振りかぶった瞬間に二人は思い出したのだ、ヴィヴィを縛る鎖の出所を――――
「守……から、印、『縛』」
(あッ……マスターすみませっ……!)
彼女が気がつくべきだった『あのオドシシはまもるを覚えている、ここで使われる可能性がある』と
指で描いたり準備動作も必要としない即時発動。
彩色は白と黒、彗星拳を振りかざされた前方へ『守』の漢字一文字がドーム状に広がって器に水滴を落とされた様な波紋が、『守』の字を揺らめかせるも破壊することは出来ない!
バーベットさえ倒せば二対一に持ち込める。往年のトレーナーを相手に良い流れを掴めたので、攻めの姿勢を保ち過ぎてしまった!
岩や山の様に動じない平静さ、戦いにくいオーヴェル相手に手堅くなんて通じないからと。
気がついた時にはもう、遅い――――
「や……!? ン! あ、新たなる呪詛ですっ!」
完全防御とのコンボ発動、バーベットが『縛』と印を切れば紫紺の呪札が出現し掌をヴィヴィへ打ち付ける形に伸ばす。
「……その札、貼られてる間は……さっきの技使えない……」
「…………っ、ぅ……!」
幻覚を操り実体化させる彼女はエスパーやゴーストタイプではないが、極めて酷似している演出だ。宛ら霊的素質を秘めて精霊との契約を結ぶ幼き巫(かんなぎ)
最初の案にオーヴェルさんはエフィブラorサーナイト辺りを使わせたいと思っていましたが、最終的にキリンリキかオドシシになりまして『メガホーンを格好良く魅せたい』のと『ふういんが使えるから』の理由でバベ子になりました。