「直撃させるっ! ねっとう!」
(スワンナが来た! こうそくい――――)
滑走路を助走する白い攻撃機。
羽ばたきの瞬間は翼の先が地表を叩き火花が僅かに散ったら高速上昇の速度到達サイン。
「逃がさないよ…………」
ネレグは両手に水エネルギーを溜め込み、彼の体温を分け与えるかの様に熱を加えていく。
すると球体がやかんをイメージした形状へ変化するっ……!
真上から脳天目掛けて投げつけてくるのだとヴィヴィには視えていたし、ジックもこうそくいどうで三時の方向へと回避動作を伝えた……のだが……
「しまぁ……っ! あづッ、あ゙あ゙ぁッ!!」
「ヴィヴィちゃーーん!!」
ツインテブースターを起動、跳躍するヴィヴィの右足首へ過ったソレ。
バランスを崩されたヴィヴィはそのまま前方へ倒れ込んでしまい、起き上がるよりも先に頭から熱湯を被ってしまった……!
(…………! ヒートシンク機構が゙っ……追いつかなくな……っ……身体中の磁力がっ゙……! 外側へ飛び出ようとしているみたいに熱い……)
爽羽佳がネレグを相手取ろうとしても、おいかぜは続いているので速度差がより顕著となっていたから妨害できなかった。
妨害されたのはヴィヴィ側。敵対心を潜ませられなかった相手には神出鬼没な召喚角が猛威を振るう!
足首へ撃ち据えたふいうちはねっとうが破裂する前には、消えて持ち主の手元へと引き戻されていた。
(申し訳ありませんマスター……火傷状態に……)
(ヴィヴィは悪くない! アレは避けられないよっ! また物理技の通りが極端に悪くなったから特殊で…………)
このバトル中に彼女は何度も謝罪してきている。
ヴィヴィに似合わないその言葉をもう口にさせたくはないっ……
小さな子共が両親と腕相撲している、念話で更新中の二人は寸分違わず勝てそうで勝てない、プラン通りに進めたと思えば後一歩で地に付かせられない感覚に陥りそうであったが、爽羽佳に励まされた先刻を思い出して劣勢をはね除けようと手甲をぶつけて活を入れる!
…………が彼らと裏腹にオーヴェルは優勢と言う名のおいかぜが切れる前に、二の矢にして三の矢とアドバンテージ獲得の為……勝負へ出たッ!
「バーベットの特性が『いかくではない』……開戦直後にそう思い察したかもしれませんね『オーヴェルは特性を行使する何らかの戦術を企んでいる』……と」
「っ!! 仰る通り! ですっ……!」
限りなく確定に近い判断材料がある。
『ヴィヴィさんが何らかの木の実を持っているだろうと、私の勘が教えてくれた』
バーベットの特性が〝おみとおし〟ならば勘に頼る必要性は皆無。ヴィヴィはオボンを持っていると見透かされているのだから。
……だとすれば、残った特性は一つしかない。
「……印、『交』!」
止めるっ、いやっ、間に合わないっ!……からっ……
左人差し指で印を描くのは四度目、そしてこれが最後。
(…………んっ……)
ポンチョの上から掌を胸へ触れさせぬぷりっ……と体内へ沈み込ませ取り出せたのは蛍光グリーンのケーブル。
角を敵へ仕向けるのと同じ身振りで接続されたのはネレグの胸。
(ん゙……っ! ぁ、はんっ……まだ……この技の感触……慣れない……)
接続端子となった互いの胸を往復した、ブラックライトに酷似する発光を示す物体こそ彼女らの可視化された〝特性〟
「スキルスワップ!」
「正解ですよマスター・ジック。俺の特性はそうしょくに、交換してくれたアイツの特性はするどいめとなりました」
…………?
お辞儀をしながら答酬してくれた、ネレグのモノクルが消えているっ……?
と思えば、何故だかバーベットが――少しの間眼鏡属性が追加?――モノクルを左眼に装着していた??
ただのお洒落アイテムでも視力矯正が目的の器具でもなかった! あのモノクルこそが〝するどいめ〟であったのだ!
「さらにっ――バーベット『味方へ』エナジーボールを撃って下さい!」
「な゙ッ!!? そっ、そういう事かッ゙!!」
感服したっ、角オブジェから大自然の力を凝縮した緑球を発射するバーベットへ、攻撃を受け緑色のオーラを取り巻かせるネレグへ、予想を裏切り続ける戦術を思いついてしまうオーヴェルへ。
「assalto……stile!」
こんな手段を使って攻撃力をアップさせてくるなんて!
特性に感化されて本人もヘルシーなメニューを好む草食系女子な雰囲気が宿っている鹿娘。スワップケーブル接続時に胸から抜け出す感覚に未だ慣れていないので眉を落とし込んだ彼女はそこはかと無く、艶がある条件を満たした強者へのご褒美になっている。
草タイプの攻撃を無効化し攻撃力へと変換、疑似的に抵抗タイプを一つ増やすそうしょく。
バーベットへ〝偶然〟草タイプの技を打ち込み、そうしょくであると発覚したケースは以前にある。
……だからと言って何が狙いなのか? オーヴェルの対戦相手は謎が解けぬ仕舞いでまさか特性を交換し味方の攻撃力を上げる為だとは思いもしないのだ。
さらにっ、後ろ髪の一房を握り――本来の姿である嘴と同じ黄色の色彩――を前髪へと戻し込めば……!
「……ブレイブバード、……持ち物は〝ひこうのジュエル〟だから……もう一段階攻撃力……上がるよ……」
オーヴェルがこの奇策を繰り出すことは稀である。
物理攻撃が薄ければ素のブレイブバードか、そうでなくともジュエルを使用すれば相手のHPの大半は消滅する。
この奇策により攻撃力を二段階上昇させるのは、極めて物理防御力に優れているポケモン相手だ。
持久戦とは正反対に獣性剥き出し、力と力を重ね合わせた攻め立てすら行えてしまえる! それだけのスワンナへ育てられるのは恐らくオーヴェルだけであろう……!
「……………………!」
おいかぜが切れてしまう直前の低空フライト。
戦闘機の機首を思わせるまでに硬化された前髪を軸に、リリースされたダーツの如く空気を蹴散らしボード代わりの目標物! ヴィヴィへ突っ込む!
ブレイブバード自体は飛行タイプ、鋼には半減されてしまうが攻撃力は二段階上昇済みなので相性法則は覆される。
さらに言えばオーヴェルは『火傷のダメージ込みでヴィヴィを倒す』算段である。
耐えられてしまっても攻撃力を大幅に落とされているので、火傷のダメージが回るのを待てばいい。
ヴィヴィを倒し終えたら一旦はねやすめを使い盤石の布陣を作り上げてから、かなしばりで技を縛ってから爽羽佳を倒す……!
(やだっ…………マスターを勝たせたいっ……)
大ダメージは免れないっ、あのスピードではこうそくいどうを発動させても振り切れない、躱しきれない。
かと言って迎撃姿勢を作れば――やはりバーベットがふいうちの準備をしていた――体勢を崩されてしまう。
大人しく防御するしかないっ……パルス波が乱れているヴィヴィは念話も切断させてしまっており、4つのブレインコンピューターをフル活動させるまでもなく残された選択肢はそれしかないのだと――――
「悪いけどさーーッ! 風を味方に付けられなくってもォー! 今アンタより上を飛んでいるのは私やァァァッらァァァシュッ!!」
――――!?
ホウエンに流れ落ちた一筋の流れ星!
鳥だ!
飛行機じゃなくて鳥だ!
やっぱ……鳥だぁぁぁッ!!
「ッッーー!!」
「ヌヌ~~~~!! ァあああああ!! う゛ぐぇ!」
急速落下のライダーキック(ドリくち)を急所に当てて打ち勝つ事こそ叶わずだったが、ヴィヴィへ到達するまでに相殺。ネレグと爽羽佳が反動ダメージを負うも瀕死にはならず。
「……あの時、爽羽佳さんへは〝きあいだめ〟のサインを送っていたのですね。バーベットが警戒させる相手を誤ってしまいました……ごめんなさいね」
「…………マスター…………」
スキルスワップ後、突撃体勢へ以降するネレグと今か今かとヴィヴィの胴体へ角を投げ込もうと待機中のバーベットを尻目に、一瞬だけ爽羽佳の方へ視線を移しガッツポーズの様な腹に何かを溜め込むポーズをジックはしたのだが、オーヴェルの洞察力を持ってしても動揺してその様なポーズを反射的に取ってしまったのかと非常に判断が下し難かった。
「私の特性はスナイパー! 持ってるのはピントレンズー! きあいだめと組み合わせて急所率激アゲなんですー! 運ゲーって言われたらそれまでだけど昔っから強い人は言ってるっしょ?」
『バトルには運も重要! 運も実力!』
「俺の最高打点と相打ちになるとはっ……! だが逆転ムードとはなり得ないメタグロスのSignorinaは火傷、何も手は出さずとも体力は削られる」
かなり屈辱的! 反動ダメージ何かよりも内側に電撃を流されたに近しい衝撃に、走り回られてしまった。
前髪に一房だけ黄色を混じらせる様になったネレグは、おいかぜが消滅したと同時に後退する。
風を味方に付けたのは自分であったが向かい風だろうが関係なく――リアル道連れも覚悟の上で――何が何でもブレバを無力化させてやる、そんな気迫が今なをフィールドに残り続けベージュとアイボリーの双羽が頬を切りつけた。
「ありがとうございます、爽羽佳さん……!」
「お礼はいいって! それよりもご主人、ヴィヴィちゃんはもう少しで火傷ダメージが……! 私一匹になったら流石に無理だよっ! その間に勝つ方法、何か考えてっ!」
ビックリな一撃で敵サイドの最強打点をやり過ごす事に成功はしたが、ネレグの言葉通りヤバいのはジックサイドだ。
ヴィヴィは脱落寸前のHPしか残されておらず、爽羽佳ははねやすめを使えるけどヴィヴィが倒されてしまえば、どうあっても隙を補いきれず集中攻撃で倒れる。
ライフラインとなっているのはヴィヴィ、もう一回行動すれば内側燃焼に耐えきれずバトルへ注がれたエネルギーの全てはシャットダウンされる……
(一撃で相手二匹を倒せるっても……いわなだれの威力は下がってるし……サイコキネシスは封印されているし………………そうだッ! もうそれしかないねッ! ヴィヴィ!)
不気味に蠢いている『封』の字は勿論だが胸元に貼られている『縛』の札はまだ外れない。レベルが高いから持続時間も相応になっている。
(精神力を多量に使いますが生命活動維持に支障はありませんっ……後が無いんです、やってみますっ!)
(頼むっ……! それとさっ、ありがとね『俺を勝たせたい』って…………すごい……伝わってきた……でも俺だけの為じゃない、爽羽佳やヴィヴィ自身の為にも添付してっ! オーヴェルさんは強敵だけど勝って笑顔になるヴィヴィ……素敵で何度だって見たくなっちゃうからさっ……!)
――……っ!?
絶対成功させろと脅す訳でも、もし失敗したら……とプレッシャーを押しつける訳でも無かった。彼のポカポカとつま先から髪先まで神経が通っていないハズの部位すら暖かくなる声色は。
確かにヴィヴィ最後の攻撃が失敗、もしくはどちらも倒せない状況となれば爽羽佳だけであのオドシシとスワンナは倒すことが出来ないだろう。二匹でもやっと相手取れるだけの強さと戦略でこちら側を確実に追い詰めているのだから。
「爽羽佳! ヴィヴィのサポートをお願い!」
「お任せあれーー! 私の……ご主人ッ! アンタ達ィーー! ぜぇぇぇっったいッ! こっ か ら 先 に は 行 か せ な い ィ ィ!!」
広範囲、かつ二匹同時攻撃。
出力を最低まで抑えたバージョンは成功させているが。
「エネルギーチャージ、開始っ…………」
窮地に陥った自分の起死回生となり得る、試す価値は実戦であるからこそだ。
失敗してしまったら爽羽佳にも黒星を付けてしまう、ジックの敗北回数を増やしてしまう、自分が原因となって。
「…………充填完了時間……残り19秒……18……」
バトル中戦闘不能ではないのに自ら手甲を外す。ヴィヴィが戦闘力をフルに発揮させるのは絶対に必要な武装であるのに初めての事態。
印の交ってあなたちょっと......エッチ
実際の対戦ではこんな面倒なコンボしないほうがいいと思います!