ポケ×ぎじ 蒼鋼少女   作:緋枝路 オシエ

6 / 73
怖いくらい順調に書けてます!


Segment・di――実力

「初めましてニャッ! キュートでセクシーでファッショナブルなマニューラの、ネリちゃんニャッ~! よろしゅうにゃし~!」

 

「ハロハロ~! 私はオニドリルの爽羽佳だよ~♪ 仲良くやってこーねグロスちゃん♪」

 

「ミノノミノ、ミノノノノ!」

 

 温暖な気候が特徴なホウエン地方だからって、秋も冬もビキニにローライズのショーパン。

 

 痴女って言われても致し方ない衣装を好むギャルと、素肌にライダースーツとマッチョ漢よりも、漢らしくジッパーは胸元まで下げられ、慎ましくも北半球を形作り、やっぱ痴女スタイルだわ……

 

 唯一、本来の姿を頑固なに崩さない蓑虫は以下略。同類でもほぼ解読出来ないので、フィーリングで察するしかないのだ。

 

「ネリさん、爽羽佳さん、かたくりこさん、よろしく、です……」

 

 ブーバーンの装飾が成された、パーティクラッカー「はじけるほのお!」がバンバカ弾け、赤、黄、青の模様替えグッズ風船までも、何時もより多めに割って歓迎しております。

 

「ハァ……」

 

紙吹雪や紙テープがツインテールに落ちようが、まるで喜怒哀楽の変化を見せない。

 

 もしかして感情を抑制する装置でも付けられているのか?

 

 そんな物は検査結果取り付けられてないと分かってるけど、ポケモンではなく感情がインプットされてないロボットみたいで……

 

(メタグロスはメカチックだけど、ロボットではない、ポケモンだ。だけどこの子は言動も思考も機械じみている……見た目は女の子なんだけどな……)

 

 少しくらい反応があっても良い物だが、ツインテールを弄った程度に終わってしまった新人(?)歓迎会。

 

 掃除や片付けはされているが、インテリアが何も置かれてないし、替えの衣類なども持ち合わせていないので、明日購入して貰うまでは他の子から貸して貰い、部屋もメコンと今晩限り同室となった。

 

 設計も建築費も手間の掛かった南国風ログハウス。家賃は0円で三食の食事付きとは、破格の待遇だ!

 

「では、わたしはこれで……」

 

「ちょっ~~と待つニャッ! 新入りメタグロス娘~~!」

 

 最も、彼女は安堵やら感謝ではなく、安全を確保出来たからリビングに居る必要は無いと、さも当然のようにメコンの部屋で引きこもる気であった。

 

 愛想が無く、敬語は使っているが皆の気遣いを知らず、少女も気を遣おうとは思っても無い。

 

 〝宿をお借りします〟拝謝の心も言葉も、圧倒的に足りていないが、少女はそういう性格なのかもと決めつけるには、違和感があった。

 

「……なんでしょうか?」

 

「ここに住むからには新人~~? お手並み拝見ニャッ、メタグロスとバトルする機会なんて滅多にニャイし、お前の実力を知らしめてみろニャッ! 夕飯前の運動にもニャるよぉ~?」

 

 負ける気はこれっぽっちもニャいけどニャ♪

 

 少女の襟首に爪を引っかけ制止させ、ジックらは予想出来ていたがバトルの申し込みであった。

 

 ポケモンと言えばバトル、古来からの命題でポケモン同士の争いから始まり、何時しか人間と共存する世界となってからは、人間がポケモンを巧みに操って勝利を掴むスポーツであり職業であり、権力でありコミュニケーションの一種でもある。

 

 戦う事はポケモン側からしても密接な間柄、戦いたい、強くなりたい……という気持ちは本能からの叫び声でどんなポケモンにも多かれ少なかれ備わる。

 

「バトル……わたし達ポケモンを人間が操り、戦わせる行為……わたしはマスターに値する人間がいませんが……ネリさん、貴女の種族はマニューラ、氷タイプです。わたしは鋼タイプを所持してますので、貴女の氷技は半減です。さらに加えますと貴女は防御力が低く、わたしは攻撃力に優れた種族です。一撃で貴女は戦闘不能になってしまいます……戦わずして勝敗が決まっているので、行う必要がありません」

 

 突然饒舌になったと思いきや、ネリ個人だけじゃなく〝マニューラ〟とされる種族を根底から蔑んだ言動。

 

 確かにメタグロスとマニューラ。タイマンバトルすれば大方の予想通り、勝利するのは九割前者であるのはジックにも異論は無い。

 

 生まれ持った属性や能力の差は大きく、簡単に覆せないがそれを補い、利用し、運も味方として引きずり込めばマニューラにもチャンスが巡るのがポケモンバトル。

 

 絶対に勝てるだなんて、勝敗が見えているバトルなど一つとして無いのだ。その一手が勝利へと繋がるかもしれない、その一手で大逆転を許してしまうかもしれない。理屈以上に奥深いのだ。

 

(なぁ~にこの子! メタグロスだからって王者気分なのかな!? 感じ悪いぞ~~お説教したげるんだから~!)

 

(あ~らニャ、れいせいな性格らしいのになまいきニャ~ね。ちょうはつされたのかと思ったけど、グロスはちょうはつ使えないニャ、リアルで貶されたんニャね~! マニュハハハ!)

 

 オニドリルである自分は、どれだけ鍛錬して努力しても、メタグロスとの相性と地力の差を埋めるのは至難の技。

 

 だからって~、ダチが馬鹿にされて黙っていられる大人しい子じゃ無い! 少女は居候の身なのに態度がデカすぎるし!

 

 羽を広げ始めてつつき掛かろうとする爽羽佳を、意外にもせき止めたのはネリだった。

 

 こっちも外観だけで判断すれば、頭に血を上らせて一緒に飛びかかっても可笑しくない、ちょっとオツムが弱い子なのに(凄く失礼)土壇場や、然るべきシーンでは大人の対応ができてしまえる。 ダテに元盗賊としてキャリアを積んではいない、嫌われて当たり前、耐え忍ばなくては即座に死ぬと直感する事は何度もあった、獣道で生き抜いてきたんだ、それくらい慣れている。

 

「わたしは事実を述べただけですので」

 

「怒ってニャーよ? そっかぁ、ネリや爽羽佳じゃ相手にニャらんかぁ~、んじゃ、メコンなんてどうかニャ?」

 

「えっ!? 私ですかっ!? ど、どうでしょうか? メタグロスさん……?」

 

 どうでしょうかって……雰囲気と流れに誘因されて、メコンがメタグロスに評価される番に以降されてしまう。 

 

後は任せた、この場は譲ると、端から見ればネリはとんずらしたとしか思えないが、ジックと一番付き合いが長いメコンこそ、適任だとご主人とのアイコンタクトでやり取りしていたのだ。

 

 メタグロスにはトレーナーが居ないから、ネリもジックに指示を貰わず自己判断で勝負するつもりだったけど……

 

「…………タイプ相性では可も無く、不可も無くですが総合能力では私の圧勝です。わたしはメコンさんの弱点を突く技も所持しております、ネリさんよりは多少試合時間は長引くかもしれませんが、残念ながら結果は変わりません」

 

 よくもまぁ、ここまで慇懃無礼な態度を取れるモンだ。

 

 耐久力がちょっと高いだけ、負ける気がしないとズバリ言われたメコンは、コミカルチックな表情で「ガーーンッ!」と涙目だが、トラウマになる程のダメージじゃない。心と胸の鷹揚がデカい子なので、寝て起きれば忘れている。

 

「本当にキミは、メコンと戦って自分は万に一つの負けは無い、そう言い切れるんだね?」

 

「ハイ、わたしの負けはありえません」

 

「そーか、じゃあ試してみないか? 俺もキミの、メタグロスの実力を見せて欲しいと思うしね」

 

「実行する必要性が感じられません」

 

「公式認定のバトルじゃないから。キミがメコンに稽古付けてあげる感覚でいいからさ、な?」

 

 今度はメコンとアイコンタクトをするジック。

 

 ご主人様の意図は把握した!

 

 唯一にして最高のトレーナーであり、命の恩人のジックをひたむきに慕いご奉仕する青いメイドさんは、数多くの男性トレーナー理想の手持ちポケかもしれない。おっぱい おおきいし!

 

「お願いします、メタグロスさん!」

 

「メコンもこう言ってるしさ、一戦だけでいいから」

 

 この家の主人とハウスキーパーが、二人揃って居候ごときに頭を下げているシュールな光景。

 

 かたくりこが吹き出したが、直ぐさまネリにイアのみを 3 な口の奥に突っ込まれた。

 

 このきのみはとってもすっぱいぞ~~……ミノごと悶えてるから砂が剥がれかかってイヤーン♪

 

 「…………了解しました、一戦だけ……」

 

 誰得なミノムシはほっといて、少女には理解が出来ない、負けると確定しているのに視線を合わせ頷くランターンとそのトレーナーの脳内アルゴリズムが。

 

 実力を見せればいいらしいが、負けたくても負けないので普通に戦えばいいはずだ。

 

「それじゃ、模擬練習スペースでもある庭に移動しようか」

 

 一軒家だけでなく集合住宅に住まうポケモンの為にも、自由に使用可能なバトル練習用スペースが確保されている。

 

 ちょっとした運動や技の調整、鉢合わせした者とそのまま非公認の試合が始まる、なんて展開はしょっちゅうらしい。

 

 

▼▼▼▼▼▼

 

 四方に目隠しフェンスを設置した、奥行き五十メートルほどの面積、障害物は無く真っ正面からのバトルに向いたフィールドとして製作して貰った、ジック家専用スペースだ。

 

 インテリアなどは一切省かれているので、練習時以外は基本的に立ち入られていないが、定期的に異常が無いかチェックを入れているので、今回のように突発バトルが行われても不備は無い。

 

「公式認定じゃない、あくまで実力の確認、後は手ほどきって事で……いいよねメタグロス?」

 

「異論ありません」

 

 努めて機械的にフィールド中心ラインに立ち、無意味な体力と時間の消耗だと、品性に欠けた小さな独語の後に両手が蒼白い光に包まれる。

 

 刹那、本来の姿である四肢とツメを模した手甲を具現化させた。戦闘態勢となった彼女の武器である。

 

「いけっ、メコン!」

 

 ダイブボールを彼女と対峙させる距離を計算して投げ、水しぶきのエフェクトと共に全身に区間少女は礼儀正しくペコリ。

 

「わたしにはトレーナーが居ません。メコンさん、貴女にはトレーナーが付いてますが、結果は覆せません。わたしにトレーナーなど必要ありません……ではっ……」

 

 バトルスタート! 指示をする者と指示を受ける者、そんな事をせずとも己の判断のみで戦った方が手っ取り早いし合理的。

 

 ポケモンバトルにおいてのトレーナーの必要性、メタグロスの少女には理解が出来ない、一緒に戦ったから何だと言うのだ?  

 

「一撃で終わりです」

 

冷徹に言い放つ少女は開始早々、ワンターンキルを狙っているらしい。

 

 先手を取った少女は左腕の手甲を地面に接触させ、小範囲の地脈を乱し周りの全てをズレ動かす。

 

「いきなり良い技繰り出すニャ~!」

 

 あの技はじしん。自分以外を攻撃するので命中範囲が広く、威力も安定している抜群の汎用性を持つメジャー技。

 

 本来は望まれない自然現象なのに、アッチでグラグラ、コッチでグラグラさせているこの世界の住民はなんというか……凄い。

 

「あらっ?」

 

 ランターン種であるメコンは、電気と水の複合と珍しいタイプ。弱点が少ないので数値以上の打たれ強さも特徴となる。

 

 その数少ない弱点が、地面と草タイプの技。

 

 少女が無表情で選んだじしんは、メコンを倒すのに最も最適な回答である。

 

 攻撃力がとても高いメタグロスが、弱点となる物理に属した地面技を放てば、地を揺さぶられた衝撃で空へと逃げた爽羽佳以外、指示をするジックや観戦しているネリにまで影響を及ぼし、身体が立って入れなくなり、咄嗟に身を屈めてやり過ごす。

 

「ミノッ……?」

 

 かたくりこは爽羽佳の前開きされた、ライダースーツの胸元へ埋め込まれているので、鼻ちょうちんとフーセンガムを同時に膨らませるくらい、余裕で無駄に器用な特技を見せていた。

 

 ちなみに、爽羽佳のお胸は「ムニュッ」より「ふにゅっ」な気取らない大きさだが、ジッパーに挟みこまれているから落下は免れている。

 

(私以外、あの子も含めて皆大きいんだよね~! それはそれとして、ご主人の推測が正しければ――――ばかりなのに、じしんを覚えてるってどういう事になるんだろ……)

 

 自分には胸以外の武器もあるし、あんま気にしてないけど。

 

 この場にそぐわぬ女性特有器官の話題で、脱線したが蒼と青、二人の対峙は終わってなどいなかった。

 

「ダメージを……受けていない……」

 

 震源地であるバストへのパラメーターが偏り過ぎた少女は揺れず、各部に盛り込まれているが一部分のみ天元突破して、「ズシタプーンッ、ムキュッ、ムチッ」なスリーサイズの少女は、地震が起きたら色々な意味で大変な姿になってしまう。

 

「とびはねる、です! 地面タイプの技を無効化しちゃいますよ」

 

「……………………」

 

 ポケモンバトルの基本は、相手の弱点を突くことだが弱点技を繰り出せば、必ず勝てる底の浅さだとすれば世界が熱狂する、ワールドチャンピオンシップなど開催されないだろう。

 

 弱点を突かれるのは当たり前、じゃあ繰り出されたらどうするのか? を、考えるのがトレーナーの役割。

 

 耐えるのか、避けるのか、無効化するのか。

 

 繰り出される前に先手必勝、それもまた作戦。ポケモンだけでは思いつかなかったり、技のタイミングを見切れなかったり、アシストするトレーナーの存在がポケモンを強くするので、野生よりも手持ちになった方が一般的に強力なポケモンに育つ。

 

 プライドが高い種族でも「強くなれるのなら」という理由で、トレーナーの元を選ぶ野生の存在も確認されているのだ。

 

(あの子がじしんを使うのは分かってた、〝弱点を付く技〟って、サラッと漏らしてたしな……)

 

 無意識に言葉にしていたのか、メコンより序列の上に居座っていると見下したからなのか、情報を明るみにしてしまった致命的なミス。

 

 スーパーコンピューター並の知性を持つ、メタグロスなので抜け目の無い罠の可能性もあったが、身構えていた初手で放ってくれたお陰で、指示の余裕は十分に出来ていた。

 

 地面技対策としてでんじふゆうが候補だったが、残念ながらランターンは覚えない技なので、他の技で代用した「擬似的なでんじふゆう」状態。

 

 でんじふゆうよりタイミングはシビア、衝撃が収まるまで浮かび漂う形になるので持続力も強化させなければ、途中で墜落してしまうし半浮遊状態では、その他の技を使えない為使い勝手はあまり宜しくない。

 

 それでも手痛い一撃を避けられるので、重宝しておりこの技を習得させて、一緒に鍛錬したからこそ得られた勝利の味は別格だ。

 

 とびはねるというマイナー気味の技も、ランターンが野生として暮らしていては決して修得出来ない。トレーナーの元で暮らしている利点の一つ、思いも寄らぬ技を授かり欠点を補強すれば、本来不利な相手でも逆転は夢じゃ無い。

 

じゃあ何故、『野生のハズであるメタグロスが、じしんを修得しているのか』新たな疑問が湧き上がった。今は熟考している暇は無い。

 

「ならば……」

 

 着地時は九十を容易にオーバーしている、女性ホルモン分泌を抑えられないHな球体が縦方面へ、おはじきみたいに弾かれる。

 

 副産物……真面目に鍛錬しているのにおっぱいがおっぱいが……いやらし目的じゃないのに、ラッキースケベ的なトレーナー特権。慣れたはずだけで若干紅潮させてしまうジックは、女の子に一番興味のあるお年頃だから許してやってください。

 

 同じ手は通じない。で、あれば接近戦でカタを付ける。

 

 青へ駆け出した蒼は、手甲をさらに硬化させ助走とウエイト代わりになった右腕の勢いに任せて、あらん限りの力で前方へ叩きつけた。

 

 格闘タイプのアームハンマー。メコンの弱点を突ける技では無いが、じしんが通用しない、得意の鋼技も水タイプを含んでいるので半減される、最もダメージソースとなり得るのがアームハンマーだと、彼女は判断したらしい。

 

(あたら……ないっ……)

 

 一撃目は後退、二撃目は顎を引き、三撃目は地を蹴って逃れられた。

 

 そのポケモンが生まれ持って備える、種族的な能力ではランターンは大した早さを持たないハズだ。

 

 だけど苦労した様子も無く先読み……いや、見てから余裕な反応で三発も意味の無い技を振るってしまい

 

(反動で自分の素早さが下がってるニャ、一発目を避けられた時点でそれ以降は命中率が低下してんのと同じニャね。おっぱい大きいからニャのか、あの子の速力予想よりも遅かったニャ)

 

 ――負ける気はこれっぽっちもない――

 

 ネリの発言は強がりでもなければホラでも無かった。

 

 相性はかなり絶望的だが、マニュアル通り首尾良く進まないのもポケモンバトル。

 

(…………ッ!)

 

 自分の攻撃が掠りもしない。演算的で合理性の塊の少女が、陰りを見せ動揺していると後先考えず、大振りになっていく鉄拳から表情こそ見繕っているも、隠し通せていないに等しい。

 

(やっぱりな、彼女は地力こそ素晴らしい、流石はメタグロス。だが経験の差は如何ともしがたいな、技を使うだけで全く使いこなせていない)

 

失礼ながら彼女のセリフを引用すると「負ける要素は無い」

 

 メタグロスと対戦、この一言だけで初心者はビビるか胸を借りる気持ちで突撃するか。

 

 しかしジックはホウエン以外の地方を、仲間達と冒険し政府への貢献もそれなりに行っている、実績のあるトレーナー。メタグロスだろうが怖気づく対戦素人じゃない。

 

 彼女が繰り出す技は、そんじょそこらのポケモンは一撃粉砕可能なパワー。共に修羅場を超えてきたメコンだって、当たってしまえば一大事だろう、〝当たれば〟の話だが……

 

(このランターンの戦闘力は分析完了済み……回避動作も予測完了しています……当たらない理由が無い……にも関わらずノーダメージ……?)

 

(凄い威力だけど動作が直線的過ぎだ。よっぽどじゃない限り当たらないよ、冷静沈着と思いきやブレが生じるまで早かったな)

 

 エスパータイプでもないメコンに、未来を見透かされているかの反応でスルー。

 

 メコンは能力柄、攻め込むよりも攻撃を耐えてから反撃に転じ、おっぱいのように豊富な耐久力を活かした持久戦の方が得意。

 

 何回も相手の攻撃を避ける素早さは持ち得ていないのに、それが実行出来てしまうのは……そういう事だ、受けなくたっていいと。

 

「みずでっぽう」

 

 後退と共にメタグロスとの距離が開いたので、始めてこのバトルでメコンが攻撃技をぶつける。

 

「…………っ?」

 

 掌から真っ直ぐ噴射されたのは、水タイプの基本技で威力も低い技。

 

 彼女こそ避けるまでもない、高い装甲を備えた手甲でのガードを――正確には避けも防御姿勢にも入れなかったのだが――行わず肩関節に当たったが痒い、所詮タイプが一致しても低威力。

 

 しかし……

 

「みずでっぽう」

 

「く! あッ……!?」

 

 みずでっぽうは低威力と引き換えに、攻撃までの動作が素早い利点がある。

 

 ダイナミックな怪力と理詰めな頭脳が合わさる、メタグロス種にしては大雑把で隙だらけ。

 

 感情にも幾つものブレが発生し、勝利への方程式など崩れ落ちた彼女は、低威力技のダメージを身体へ蓄積させていく。

 

 それどころか攻撃しようとすればキャンセルされ、常に射程外へ逃げられている。さらに付け加えればアームハンマーの代償、素早さの低下が嬉しくない形でアンチシナジー。

 

「ハァ、ハァ……ハァ……」

 

「今だ、でんじは」

 

 本人は気がついていないが、数少ない攻撃チャンス後も蹌踉めいてしまっている。

 

 パワー以外はからっきし、基礎能力だけに頼っている、そんな言葉が浮かびつつも、搦め手を使用するメコン。ちなみにメタグロスの少女はこのバトルで、攻撃技しか使用していない。

 

 最初の内はこちら側が舐められているから、攻撃だけで倒すつもりかもしれないと予測するも、念の為にどの補助系統を実行されても慌てない気構えはしていた。

 

 が、目の前の相手を攻撃する以外の手段を忘れてしまったのか、実行してくる様子が……いや、思考する余裕も無いのかもしれない。

 

 射程距離は短いが、当たってしまえば確定で麻痺状態を付与させるでんじは。

 

 蹌踉めいた隙に浴びせるなど、メコンにとっては簡単な物だった。

 

(……゙っ……! ま、ひ……゙に……゙っ)

 

 膝が折れる、股関節が上手く動かない、戦いの最中ペタンと可愛らしく、M字開脚を強いられ後少し、角度が右側に数度ズレていたらミニスカートの中身、エデンの園を無修正のままジックに晒すハメになっていた。

 

 人化したポケモン同士のバトルは、このような嬉し恥ずかし赤裸々な自体が多発する。

 

この点だけでポケモンを集め出したトレーナーも存在する。不純な動機だがジックは男なので、表だって言わないけれど理解はある……

 

「危ねっ、際どいなもうっ……手を緩めずにあやしいひかりだ」

 

 ロングの三つ編みを結う、誘引突起を模した球体アクセサリから妖しげな光彩が、円環状に構成されメタグロスに命中した際には、一瞬全身がモノクロへ退色、GBカラーを連想させ懐かしい。

 

「…………??…………?」

 

「あ~らニャ、キマっちゃったニャ」

 

 例えあやしいひかりが失敗しても、最初から勝敗は決していたのだが。

 

 身体の重心が分からなくなる感覚。

 

 立ち上がろうとしたら重くなり、またしても盛大にM字を作ってしまうが、手甲を地に叩きつけながら跳躍し、脳震盪を引き起こされたように額を支えたら、視界が反転。

 

「――#Σ? Ω……οπ、λ?――γοπ??」

 

 翻訳不可能な異世界の言語、もしくは何らかを訴える暗号として変換したのか、無表情ながら焦りを醸し出す行動を連発していた彼女の吐露なのか、深紅の瞳が渦巻き状なコミカルな形になって、正面にアームハンマーを食らわせるが、メコンは彼女の背面でジッとしている。

 

 幻覚を見せられ正面にターゲットが居ると、誤認識している。効果時間は短いが命中すれば殆どのポケモンは確率で、イメージにそぐわない混乱した描写を露呈されてしまう、恐ろしい技だ。

 

「…………ハッ、゙あ、の゙ラ゙ン……タ、ン゙は……」

 

 脚を伝わせている地面には、突起物など皆無で動きやすいフラット。ドジっ子だって転ばないのに方向感覚も狂ったメタグロスは、棒が倒れるように自らの両脚を支点に、受け身もなく倒れ込んだ。

 

 この衝撃で混乱状態が解けたのだが、もう遅い。

 

「こ、゙攻……゙撃゙が……ッ……!」

 

 顔を上げたメタグロスの視界には、両手に水のエネルギーを溜め込んでいるメコンの姿、発動までに時間の掛かる大技、ハイドロポンプの作動ポーズ。

 

無防備な自分に対して、魅せ付けるように構えており妨害も防御も、何も出来ず食らうしかないので、目を鋭利に細めて睨むのが精一杯の抵抗か。

 

 大技だがランターンの攻撃性能は高くは無い、自分の装甲なら一発耐えると、高速で演算したのだが……

 

 技が繰り出される直前に、その手が一層青色に染まるっ!

 

 持たせていた「みずのジュエル」は一度だけの使い捨てになるが、好きなタイミングで水タイプ技の威力を大幅に増強させる効果を持つ。

 

「ああああッ! ゙ッ! ゙ぁ゙ぁ゙ぁ ゙ぁッ!!」

 

 計算を絶対に外さない、複雑な戦略を瞬時に練り上げ冷静に実行する戦闘マシン、それが強者メタグロスの謳い文句として、雑誌では紹介されている。

 

 いとも簡単に、こうもあっさりと計算が外れて最後の望みも絶たれた清らかな水爆流。

 

「ごめんなさいね!」

 

 ゴーグル越しの優しげな瞳、しかしマスターの指示により水の力を封じ込めた宝石を砕き、最大火力でフェンスまですっ飛ばした。

 

 戦闘意欲と共に体力ゲージはゼロにしたメコンの勝利である。

 

 それはもう観戦してる爽羽佳やネリが、同情しちゃうくらい完膚なきまでに、圧倒的に圧勝、メコンは一ダメージも受けてないのだから……

 

「ゴボッゴボッ! ガハッ……ケフッ、ケフッ……ハァーハァー……゙ま、け……た……?」

 

 ジュエルハイポンを食らい、二、三十メートルは吹き飛ばされ体内に水が混入しても、現実を受け止めきれず思考回路が理解を拒否してる。

 

 ランターンとメタグロス、種族的数値では自分が勝っていたのに、負ける要素は無かったのに負けた? 

 

 いや……あのランターンと、指示をするトレーナーは足りてない物を暗喩する戦闘の仕方であった。

 

「俺達の勝ちだね、気がついてると思うけど、俺達は見抜けたよ」

 




600族だって扱いようですよね

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。