ポケ×ぎじ 蒼鋼少女   作:緋枝路 オシエ

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本編でエッチぃ描写は久しぶりなので気合いいれました。ヴィヴィだし。


Segment・hepta――recovery

メコンの実家からログハウスへ帰還中も、夕食を食べている時も、リビングですれ違っても、ヴィヴィは表情も変えず声も発さず『立ち入り禁止』とプリントアウトした様なデジタル筆跡でも、女の子らしい柔らかい筆跡でもなく入ったら殺す意味を込めて書いたのだと容易く判明できる彼女らしくない非理性的で蛮行で崩れた筆跡の張り紙を、ドアに叩きつける様にバンッ! と貼り付けた音に手持ち全員とジックは肩を竦ませてマジでビビる……

 

 けど、おやとしてヴィヴィをこのまま放置する訳にはいかない!

 

 理由は大方理解している、約束もしていたし入ったらコメットパンチされるかもしれないけど、おやとしての責任と彼女が欲しているであろう心境に物理的アクセスを果たすために道具一式揃えたら張り紙を無視してドアを三回ノック――――

 

▼▼▼▼▼▼

 

「…………張り紙、読めないんですかッ……?」

 

 失禁してもいい年齢であるなら失禁してしまいたかった。それくらい今のヴィヴィは恐ろしい……

 

 旅で強いポケモンと遭遇したり過酷なフィールドに弱音を吐きそうになったり、手持ちメンバーと一緒に立ち直ってきたけれどあの時のジックが現在のヴィヴィを見たら、それだけでトレーナーを引退していたかもしれない。

 

 舌打ちしながら睨まれる、血みどろの濁った赤い瞳は魂を引っこ抜かれそうで精神的外傷を植え付けてくる。

 

 死よりも恐ろしい現実とはこれを表すのだろう……

 

「えっとですね…………」

 

 あんな張り紙があっても何故だか鍵は開いていた。

 

 アニメ風ロリに程よく冷たい音響が融合したのがヴィヴィのボイス。

 

 家主として所有しているスペアキー――なるべく使いたくはないが――をシリンダーに刺す展開になるかと事態を予測していたが、低いケモノの様な唸り声で心の部屋に直接伝達させられた。

 

『命知らずですね、入りたければ入っていいですよ、マスターが無事で部屋から出れる保証はしませんが』

 

 あんな人肉頬張ってそうな低い声も出せるんだ……想いながらも《念話》を成立させてくれて、少しだけだが気分は安堵した。

 

 鍵が開いてる件といい、念話成立といい、彼女だって実は…………

 

「…………ご用があるならさっさとお願いします。わたしは忙しいんですっ」

 

 超難関の12×12構造キューブを秒速で揃え、組み替え、『マ、ス、タ、ー、の、バ、カ』と即席サインボード扱いにしてしま、人間や早解きロボにだって到達出来ない処理能力をこんな形にだって応用してしまう。

 

 体育座りしてるからちょっと目線を動かせばパンツが……など期待も注意もしていい雰囲気ではない。大層お怒りで攻撃力は六段階上昇している。言葉に気をつけなければ何時コメットパンチで人生の幕を閉じるか分かった物では無い……!

 

「約束、ヴィヴィにも平等なコミュニケーションを図る……そうだったでしょ? だからお邪魔させて貰ったよ!」

 

 

「…………うにゅふぇ……?」

 

 

 あんだけツインテールをヒュドラにしていたのに、その発言を聞けばヴィヴィらしくもない状況把握の整理整頓がつかない〝怒りの感情何処行った?〟なロリ声に戻ってしまう。

 

 時間が解決してくれる問題じゃない一刻も早く……少々強引だとしてもヴィヴィの心を修復しなければならない。

 

 そして修復する役割を受け持っているのは、おやである自分なのだ!

 

「バトルを頑張ってくれたヴィヴィにマッサージがしたいんだ? してもいいかな……?」

 

 大小のタオル、ケアローション、天然樹のツボ押し棒など道具一式を収納したボックスを抱えながら、キューブを落としお目々パチクリさせているヴィヴィへ頭を下げるのは懇請と自らの非を...彼女の言うとおりコミュニケーション頻度の足り無さを認めた謝罪のベクトルも含んでいる。

 

「しょ、しょうがないマスター……ですねっ、そんなにお願いされて断ってしまったらわたしが虐めているみたいになってしまうので……少しだけ、ならばっ……ど、何処からするつもりなのですかっ胸とか……触ったら朝日を拝めないと想って下さいねッ……!」

 

 心と心で繋がっていた不可視のケーブルは、切断されてしまったけどキューブを拾うことも忘れて瞳を直視してくれる様になった……! 

 

 女の子は繊細に扱いたいけど、場合によっては男らしくグイグイ大胆に意見を通す事だって必要なケースバイケース。

 

 ジックが政府認定の資格を有しているのは存じているが、自分が施される時が来るなんて。

 

「なぁ、なんですかその瓶に入った液体は……」

 

「ハンドクリームの代わりになるローションだけど?」

 

「ロ゙ッ゙!? エエエエエエエエエ、エッチエッチですっ! 卑猥です! そんなモノをわたしに塗りたくるつもりなんですかッ!?」

 

 テーブルで対面となったジックは承認してくれたヴィヴィに御礼の言葉を述べながら、いくつかの道具を置き並べていく。

 

 小型タオルを丸めて台座代わりに、中型はテーブルを汚さないシート代わりに。

 

 呆気なく崩落したプンプンフェイスを少し取り戻した不機嫌顔のまま説明通りに台座に手を置けば、オリーブオイルや水飴な質感の水溶液が内蔵されたビンを見るや否や、差し出してない左手では額を蜂の巣にする勢いで突っつこうとしてくる。

 

「エッチじゃないって! 摩擦を軽減させて痛まない様に潤滑性のある製品を使って肌への刺激を少なくするの!」

 

 〝ローション〟の言葉と瓶に激憤を演じる事を忘れてしまい、かと言って冷静に質問をする訳でも無くテーブルをひっくり返し兼ねないお笑い芸人も見習った方が良いリアクションで後退ろうとするも、ジックに右手を握られてしまってそれすら出来ずに終わったヴィヴィ。

 

(はきゅ! ンッっ……! わたしの掌と重なって……わたしよりずっと硬くて……おっきい……あったかい……マスターの……手……はぅぅ、わわぁぁ……)

 

 意外や意外にも、寝巻きがミミロップだからなのか脱兎の如く速度で逃げだそうとしたヴィヴィを、グッと両手で掴んで離してくれない。

 

「いっ、ヤぁ……ですっ……! 離してくださいっ……!」

 

「それこそ『イヤ』だよっ、逃げないでヴィヴィ! 話したいこともあるのっ!」

 

(きゅぅ……ふっ……!?)

 

 嫌がれば――フリだけど――見逃してくれる。他人が「嫌だ」と言葉や態度に表せば深追いせず諦めてくれるのが彼のポリシー。

 

 そうやってポケモンをゲットしてきたけど、ヴィヴィだけは特例で『どんな手段を使っても手持ちにしたい』とあの時、フエンで直接伝えた〝自分らしくない自分〟

 

「ヴィヴィの武器は手甲、それを付けているのは両手だからポケモンセンターで回復するのとは違ったハンドマッサージなんかどうだろうって。……先に言うけどセクハラじゃないからね? 例えヴィヴィがそう思ったとしても今日の俺は止めないし引かないよ?」

 

「…………ッ! ひゃくンッ!? ヌッ……メヌメ……ぇ……この感触……エッチ……ですっ……くにゃっ、ふうッ!?」

 

 触りたくて、でも恥ずかしくて言い出せなくて。

 

 何か合法的に触れる手段が無いか模索し、計画通りに触れる機会を作れてもたったの3秒かそこらで「もういいです」だの「セクハラです」だの、手甲出現させて払いのけてしまっていたジックの手。

 

 肌に荒れなどは見られない。女性の自分とは違ってしなやかさよりも骨張った職人を思わせる筋肉感があり、爪垢や汚れはなく誰からも清潔な印象を持たれるだろう左手からは、早鐘を打つ生命の脈動が聴こえてくる……

 

 ヴィヴィは人間ではないけど、彼と同じでドクッドクッ、ドクッドクッ

 

 巨乳に詰まった色香は穢れ知らずな幼き魅力を引き立ててしまうパラドックス。

 

 平常時は一定リズムを刻んでいる左胸のメトロノームは内燃機関が異常に発熱し、メトロノームを木っ端微塵にするフォルテッシモ。

 

(ヴィヴィも緊張してるっ! でも今回は絶対に止めない!)

 

『一緒に居る』

 

 フエンでの一件、彼女が正式の手持ちとなってマスターとして認められた瞬間そう誓った。

 

 彼女が本気で嫌がっているのではないと分かってはいたが折れてしまっていた。

 

 でもそれじゃあヴィヴィは納得が行かない。チーズドッグを買えば許してくれる問題ではなくなっている。嫌と言われてコミュニケーションを止めて、その積み重ねがヴィヴィをこうしてしまったのだとジックにだって反省点がある。

 

「はみゅ、ふぅ…………くちゅくちゅ……エッチな音ぉ……にぁ、くぬっ……にゃにゃ、はぁぁ……」

 

 ヴィヴィの手は飴細工よりも精巧で肌は彼女の動力源である蒼い磁力すら透けてしまう程、極小サイズのクリスタルが集ったイミテーションで。

 

 メコンでも爽羽佳でもネリでもない、最も付き合いが浅いけど『最も深めたい』と思っている女の子の手を握って、やや自分の手は……実はヴィヴィの手も……汗ばんでしまったけどローションを追加して決して賞味期限の切れない生モノ肌を傷つけない様に、甲と甲を合わせて潤滑油を引き延ばす。

 

「んやっ……! ふにゃっ……はぁぁ……ぅぅ……ます……ますたぁ……」

 

(可愛い…………! めちゃくちゃ可愛いッ!! 落ち着け俺……目的を見失うな俺……フッ――うう、スー――はぁぁ…………よっし!)

 

 初めてされるハンドマッサージ。恐らく自分でも弄った事はないのだろうこれが同性であれば何てことはない、どの程度のレベルなのか世に知られるマッサージの施術内容や効果を速やかに脳内検索し、デスソースな判定を下していただろう。

 

 が…………

 

(いっぱいぃぃ……マスターの手が、指が……わたしの手と絡まって……あっ、あんっ……酸素が入ってくちゅくちゅってぇ……弾ける水音がぁ……くにゅんっ!? はふぁ、ぁぁ……! エッチです……! エッチですエッチですエッチですエッん゙ッ゙!? んん! ぁぁひゃきぃ、ふァァ~~!!)

 

 スーパーコンピューターの並列CPUですら、タスク管理が行えずトラブルシューティングも実行されない。

 

 

 ――にゅるっ、くっ、ぬちゅるっ、にちゃりっ、ぬぐちゅっ、ぺたっ、ぺちょりっ、ちゅくちゅくっ――

 

 

「あふっぅ゙!? ああああッ!? ぃヒャひンッ!? くひゃふぅぅ~~!? んニャくぁぁあんッ~~!?」

 

 親指と人差し指の骨が交差した部分、合谷と言うツボを刺激すれば首から上……特に肩こりに対する効果がある。

 

 別に『おっぱい大きいから肩凝ってそう』ないやらし思考はない!

 

「ふニャくぅぅぅッ!!? ますたぁ! そこダメひゃッ!? んくきゃあああぁッ!? きもひぃん……はんグっ!? ふキュッ、はっ……はぅぅぅ…………」

 

 ゆっくりと五秒間隔を目安に掌を揉みほぐしながら根元に向かわせ、するぅ~と押し戻す。

 

 唇を噛んで喘ぎ……いや、フエン以来の一点一画も揺るがない『手から手へのぬくもり』……ずっとコレをされたかった、したかった。

 

「ヴィヴィ…………」

 

「ふぁぁ……なァ、なんでしゅ!? ひゅンッ!? かぁんんぅぅ!?」

 

 じしんで大地の裂け目に突き落とし、コメットパンチでお星様にし、サイコキネシスで遠距離広範囲を散らす。

 

 心を持たぬものだの、キラーマシンだの、そんな渾名をこの少女に付けられるだろうか?

 

 痛気持ちの良い初めての感覚と再来した『ぬくもり』の感覚に悶えヨガって、口では何と言い放っても身体は……ナントヤラ。

 

(きっ…………もち……いい……のっ……ますたぁ……の……ても……まっさーじ……もいっぱいさわって……さわること……できてるのっ……)

 

 今の彼女は弱すぎるメタグロスだ。

 

 人間の少年に反射区を押されただけで身体を捻らせ、捩り、ヌルヌルでくすぐったくて塗りこまれたローションが「ニチュニチュ」音を陳じらせるから、耳から内部へ「ニチュニチュ」が潜り込んで……ぽわぽわした表情は計算尽くとは無縁なとても小さい女の子。

 

 本当に嫌なら鉄槌を振るってしまえばいい、それくらいの力は残っている。

 

 ……けどしない、何と口走ろうと嫌じゃないからしない。

 

「ゴメンね『一緒に居る』って約束したのに。チーズドッグを買いに行く以外でもお出かけとか、こうやってマッサージとかさ、もっと色々ヴィヴィと関わるイベントを増やすべきだったと反省してるよ」

 

〝マスターや皆は全然悪くない〟

 

 ジックと距離が近すぎて八年間も隣に居たメコンに嫉妬していただけ。

 

 ヴィヴィは彼女が羨ましかったのだ。甘えたければ素直に伝える事が出来て彼とたっぷりコミュニケーションを図れる彼女を、自分には無い物を沢山持っている彼女を。

 

「に゙ゃっ、うぅぅ! もっ、もっ、ぅ……手はい、ですっ……! ハァ、ハァ、ハァ……ハァー……や、やるのでした……らっ……」

 

 マッサージがこんなにも気持ちいい……身体に不具合が? セキリティとして蒼い城壁を心に張り巡らせたって今のジックには何の効果も無い。

 

「……そうだね、衝撃を支えている脚もマッサージしないとだねっ! ヴィヴィは『てつあしポケモン』だし!」

 

 見せたくは無い、強いポケモンと世界各国で『Sランク』評価を与えられているメタグロスたる自分の鋼が人肌を感じ、体温を受け取り、ヌメる液体を混ぜ合わせた手技で表情特性がじゅうなんに変異してしまっている自分なんかを。

 

 このままではマズイ気がする……メルトしていく意識の最中でヴィヴィは「手は十分、次は脚をやって」……と言葉にはしたつもりだけど、正直息も絶え絶えな快楽だったからしっかり伝えられた自信が無い。

 

 目尻も眉も8時20分に落とされてしまう、ならば顔だけは見せない体勢にしてしまえばいい。

 

 ……自分がどんな衣服を着用しているのか、そんな簡単な事にまで思考が回っていない。

 

「ハッ、ハァ、ハァァ…………ど、どうぞっ……ハァーハァー……」

 

 枕を抱きかかえながらタオルの敷かれたベッド上でうつ伏せとなる。

 

(そういえばヴィヴィの脚……触るの初めてだよなっ……)

 

 手は何度か握ったりしているけど膝上ニーソかショートソックスかの対立は古来からの伝統であるが、ヴィヴィは後者のスクール制服を優等生ルックに魅せるショートソックスを愛用している。

 

 それすら脱いでくれた生脚……!!

 

 攻撃時は550kgとなる重量を毎度受け止めていながら、むくみや黒ずみなどは皆無である。

 

 高純度の美しさと可愛さをそのままドライフラワーの様に氷に閉じ込めて、永遠に維持出来るヴィヴィは『脳トレしたら18歳だったけどお身体の年齢は(胸を除く)13~14歳』

 

 お化粧もした事の無いすっぴん、ボディケアも必要としない。あまりにも女子が「ズルい!」と羨ましがる要素がつぎ込まれたパーツの一部を完全にジックへ預けてくれているっ!

 

「ひッ!? ンッ……やっぱりその……液体はエッチですっ……!」

 

 肉質はあまり無く健康的とも色っぽいと本能に激震するタイプでも無い、ヴィヴィの生脚はどんな肩書きを与えれば良いのだろうか?

 

 ……手もそうだけど彼女は胸だけが抜きん出て発達していたり普段が感情の起伏が少ないクールガールなので、どうしても大人っぽい印象を持ってしまうけど――

 

「ふひゃあああああああ!! ああああーー! くにぅぅぅ~~!?」

 

 この距離で直に足裏をくにくに刺激させて貰っているクリアランス、観察すればあまりにも……世界で一番柔らかな鉱石。

 

 鋼タイプだから全身が硬い、そんな道理は人化している彼女には適用されない。

 

「にゅあああああんっ! ハッー、ハッー……あうっ……うぁぅぅぅ!? はぁぁぁ、ぁぁぁ……」

 

 ローションの香りとは違う、ペパーミントに似ていながら練乳の様な中毒性のある甘い香りの発生源がヴィヴィ。

 

 こちらも手と同じで第二の心臓とされる足裏をマッサージをされた事が無いので、非常に感受性が豊かになっているのかもしれない。

 

 枕に顔を埋めて少しでも声を抑えようとしながら、土踏まずの上に位置する湧泉に圧を掛けたら反り返る。

 

 この刺激に慣れてきた……ヴィヴィがヘタり込んだ次の瞬間に、甲状線を押されて両脚をバタつかせてしまう。

 

 リミッターも作動できず反応が良すぎるヴィヴィはまるで気がついてないが、両脚が広がっているので『パンツ見えまくり』

 

 少女が着用するにはアダルトな色艶でフリフリのヨーロピアンレースには X の装飾が規則正しく配置されて、側面はほっそい紐と紐だけでデルタを形成している危ない橋。

 

「フッー…………フフッ、ゥ……くゥン! フーーーー! ううううッ! あああぅッ! フウウウーー! うぁああ……ああああ……!」

 

 とうとう枕に埋めるだけではカバーしきれないと悟り、生地を噛む事で刺激に耐えて音量も低下させようと試みるヴィヴィ。

 

 胸以外はロリ体型なのに、大人の下着が簡単に回覧出来てしまえるポジション。見たい気持ちを必死で抑えながらマッサージを続けるジックも頬を慣熟させ気になっている女の子のエッチな声に、あやしいパッチを当てられたみたいにクラックラだ!

 

▼▼▼▼▼▼

 

「ハーー…………ハッーー、あっ…………♪ っあ、ぁぅ…………♪ ハッ、ハ……ましゅ……たぁ……ああーー……あー…………♪」

 

 *枕が汗と唾液でびっしょりだったり、身体全体をピクピク痙攣させてたり、身悶えを繰り返した衝撃でスカートが捲れ上がってますが、事後ではありません。 

 

 同居するのは達成感と少々の罪悪感、念話を使わずにヴィヴィとここまで長く至近距離で意思疎通をしたのは初めてだ。

 

「はふっ、ぁぁぁ…………はぅぅ……♪ ハッー、ハッー、マス、ター…………ハッー、フー、フー…………」

 

『褒めて欲しかったんです……』

 

 パンツが丸見えだとは知らずどんな表情になっているのか想像もしたくない、顔を枕に突っ伏しながら念話で半分息切れが整いつつある口からもう半分。

 

「ヴィヴィ…………!」

 

 張り切って戦うのは強ポケ特有のプライドを守る為だけではない。

 

 ジックを負けさせるのが嫌だから他の手持ちよりずっと頑張って戦っていたつもりだ。

 

「勝ったら……マスターは褒めてくれます……でもっ、わたしはセクハラだとか、もういいとかっ……うれし……かったのに、理由を付けてすぐ拒んだり……ごめんなさい……マスター……」

 

 メコンや皆がされているから自分にも実施するのは当然である。

 

 ……違う、フエン温泉で――無自覚から入ったけど――頭を撫でられたら抱いていた不安が、渦巻いていた迷いが、全身から抜け落ちてしまったあの感覚をもう一度……何度でも――

 

 他の子達みたいに素直に感情を伝えられない、ぶきようなポケモンよりも不器用だから突っぱねて逆に気を惹こうとしていたんだ。

 

「わたしはマスターのポケモンです……た、偶に……いえっ、……こっ、交流……相互の理解と心理的な絆……を深め合う……の、だいじ……おも……ます……ぅあ、あぅ……」

 

 無気力でもなければ無感情でも無い。自己完結させるメタグロスはニックネームを授かった瞬間にヴィヴィと言うオリジナルの存在として自我に芽生えた。

 

「わたしは怒ってないですからっ…………マスターは……わたしとお話したくって……危険を承知で入って来たんですよねっ……?」

 

「…………そうっ、だよっ! ヴィ、ヴィヴィともっと仲良くなりたいって! いっ、いっぱい思ってたの! どうすればいいのかなぁって考えてる内に、ヴィヴィに不満を溜めさせちゃって俺こそ謝らせてよ……もっとヴィヴィを良く見るべきだったって!」

 

「そんっ……な事ない……ですっ! マスターはわたしをいっぱい……気遣ってくれています……嬉しかった……のですが余計な一言でマスターの努力を白紙にしてしまっていた……わたしが悪いんです……子共みたい……んっ、ありがとう……ございます……マスター…………!」

 

〝どうやったらこの子の笑顔が見れる様になるんだろう?〟

 

 ニックネームを授けられる以前はハサミギロチン八回連続で当てる事を要求されるかの、難行苦行な弩級難易度のクエストだったけど今は…………結構簡単に……なってしまった……のではないか?

 

 チーズドッグを買ってあげれば喜んでくれたけど、それは〝笑顔〟とは少し違う。

 

 ジックが明確な形で〝笑顔〟を初めて見れたのは《ヴィヴィ》の名を授け与えたあの瞬間だ。

 

 そしてその〝笑顔〟をいつの間にか自分は眼前に収める機会が増えている。

 

「…………………………マスター…………明日も……お願いして……いい、ですかぁ……?」

 

 

 今ならちょっとだけ素直に気持ちを伝えられる気がしたから。

 

 自分だけ彼と接するチャンスが少ないのでは? 自分は優先順位を最も低く定められているのでは?

 

 ……そんな事は無かったけど理由を色々と考えて彼を疑ってしまった。

 

 疑いは『その人を知りたい』裏返し。

 

 ヴィヴィもジックともっと、もっと仲良しになりたかった。その一言を表現するのに回りくどい策略を駆使したのにそれすらも恥ずかしくなって……

 

 どうやってこの気持ちを表現すればいい、苛立っていたのは自分自身、簡単な筈、なのにとっても難しいその一言を彼に告げるのが。

 

「…………あっ、分かった! 明日もマッサージさせて貰うよ! お話しながら……ね。ヴィヴィの事……もっと詳しくなりたいから……チーズドック以外の好きな食べ物とか、生活用品で欲しい物とか、戦ってみたいポケモンとか、何だっていい……ヴィヴィと……お話出来るんなら俺は…………いっぱいしたい……」

 

 おやとしての努めを果たす理性が一人の男性としての本能に負けた。

 

 後半は己の願望を只管に言葉にしているだけだった。おやだからと建前にしてしまってもいい、ヴィヴィととにかくお話したい一緒に居たいのだと。

 

「……………………うん、わたしも…………マスターと『一緒に』…………二人だけで過ごす時間と空間を…………大事にしたい……ですっ…………ぷしゅっ、ううううううぅ…………」

 

 顔を見られていないから?

 

 あるがまま自分の意見を伝えられた…………

 

 ツインテブースターが誤作動を起こしそうなくらい体内の熱エネルギーがタキオンの速度でエコーし、蒼いグラデーションは瞳と同じ深紅の釉薬を塗布されてしまう。

 

 マッサージは終わったけれど摩訶不思議な壁紙の貼られた自室で彼と一緒に居るだけでも荒神だった自分は、怒りを鎮めて最強の鋼ポケモンなんかじゃない、1匹の少女に成り果ててしまっている…………

 

「ヴィヴィ…………?」

 

「は…………い…………なんですかぁ……♪」

 

 自分だけの名前を呼ばれる、他でもない彼が授けてくれた名前。

 

 それだけで鋼タイプの自分はトロトロになって『自分らしくない』と思うが、彼とお話出来るならそれでもいいやって彼を求めてしまっている。

 

 幸い粘液だらけの枕に顔を突っ伏しているから表情はバレていない。

 

 まるで気になっている彼の部屋に遊びに行けたとか、予定が一致してお出かけの誘いが成功したとか……

 

 一昔前のヴィヴィなら「非現実的な迷夢に等しき自己中心的な空想ビジョン」だと蔑んでいた――恋愛小説のワンシーン――

 

「したぎ……そろそろ隠してください」

 

 ……鎮まった荒神が『やっぱ気が変わったわ』とツインテールを9つに分離させゼンリョクのコメットパンチ!!!

 

 ミナモ美術館の外壁までホームランされアトリエで暮らすパーリェに救出されたジックは、この世の裏側に潜む反骨神の姿が久しぶりに見えてしまったらしい




この二人、もう、なんかもう、あああああ! 見守りたい!

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