ポケ×ぎじ 蒼鋼少女   作:緋枝路 オシエ

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Segment・hepta――【C.S】

「ステルス機能を発動させても住民が眠る深夜帯でもなければ迂闊に捜索も出来ぬ。三ヶ月近くも見つからぬとは何処の馬の骨かは知らぬがトレーナーか、若しくはポケモンセンターに保護されているのは確然であろう……」

 

「………………………………」

 

 灯台から地面に降り立った。マンションの10階よりも高いがつま先から着水時に弾ける電子エフェクトを励起させその場でジャンプしただけと言い張れる、華麗な着地。

 

 サイバネティックな紋様と16進コードを乱立させコートの内側と比較し、外側は人間として〝あってしかるべき〟な鼻や口、目などの感覚器官を全て除外した『のっぺらぼう』が再び!

 

 全身の筋肉が異常に発達、隆起しているバケモノに対して二回りは小さいと明言せざるを得ない右隣には奴の手持ち……? であろうか?

 

 無言のまま100人抜きを制した外界からの使者。

 

 闇のローブで全身を覆い妖しく光る金色単眼を刻印している謎のポケモンは、有機生命体から生じるエビデンスを軒並み推知出来ない。

 

 彼らなのか、彼女らなのか、それとも性別なる概念が存在しないのか……二人組は休み無く跳躍を繰り返し目的地である廃墟に辿り着く。

 

 ゴーストポケモンの住処であったが奇妙な事に残留物の散乱などは確認できた物の、外観も内装も錆びや劣化は見られない。

 

 崩壊仕掛かっているのなら取り壊してしまえばいい、では何らかの理由で今なお放置されている? 

 

 もう誰も利用者など居ないのに……住民達は『ミナモ七不思議』の一つとして数えている。

 

「【Valestein】がどんなポケモンであるか、手がかりが一切無い。見つけ出すのは至難であるが……最悪、私達が【Valestein】の安否を確認出来ればそれで良いのだが」

 

 音声加工機器を口元に仕込んでいるのか仮面の発声は聴く者を不愉快に、行き場の無い怒りを抱かせ振り向いても誰も居らず――だがずっと笑われている――負の感情をありがた迷惑に譲渡される。

 

「…………………………」

 

 仮面が民宿の扉へ両手を突き出せば、スルリ……忍び込めぬ領域へ、肘までを扉と同じ物質に適合させたかの如く滑り込ませ――

 

 

「…………!」

 

「…………っ、ほう、ステルス機能を見破られるのは二回目だよ。デボンが開発したスキャナーと同一の性能、若しくはそれ以上の性能か…………フッ、偶然この場所へハイドロポンプを着弾させた訳ではあるまいよな少年?」

 

 暗闇の中射撃された水爆流は惜しくも金色単眼に回避されたっ!

 

 ナイトビジョンモードにチェンジさせれば赤外線検出すら反射する武装も透過し〝みやぶる〟よりも明瞭な視界を作り上げたヴィヴィが位置を特定、指示に従えば確実に命中する……

 

 であったのに、相手の攻撃感知速度は普通では無い! 

 

 奇襲に不意打ち数で押し切るなどのトレーナー道徳に反する行為なのは承知の上!

 

「エナジーの発生源です! あの方達が…………」

 

「ッ゙! 黒衣の仮面と金色のっ……単眼ローブ!!」

 

 美学や善良たる規則などこの者達と会遇を果たせば無意味っ!

 

「私達の姿を捉えるとは賛辞の言葉を贈ってやろう。こちらからの提案だがお前達が動かず技を放たずであるなら、これでも忙しい身なのでな……見逃してやるぞ?」

 

「………………………………」

 

 警察からは『どの様な手段をも許可する』と本来ならばポケモン法に触れる外道な所業すら、あの黒衣の二人組に対しては躊躇無く実行せよと電話越しから重苦しい言葉で授かった。

 

 ……ハウゼン隊長も本当ならこんな手段を最も嫌うトレーナー。

 

 しかしっ! 惨状を報告され緊急会議を開いた上層部が決断を下したのだ。

 

 仮面と単眼、生命の危機に陥れさえしなければ、バトルのルールは全て無視しろっ! とにかく確保が最優先であるとっ

 

(っ゙…………ぅ゙!? 睨まれてる訳でもないのに身体が動かなくなりそうだっ! この威圧感を味わえば確かに……! ルールは守ってられないなっ!)

 

 家を出る前の短い間で皆と『自分達が成すべき事』を要約した。

 

 100匹ものポケモンを血祭りにしたポケモンが相手だ。

 

 それをたったの5匹でどうやって勝てば良いのか?

 

さらに追言すればあの仮面の所持ポケモンが金色単眼だけとは限らないのだ!

 

 ……もしも、アレと同等の戦闘力を備えた控えが5匹も残っているのだとすれば……一体誰がヤツに勝てる? ジックでも「物量作戦」しか思いつかない気が病みそうな惨憺たる可能性。

 

 諦めたくは無い、勝利出来るのなら抗ってやりたいのだが…………

 

「メタグロスにランターン、そしてトレーナーの目付き、勝てぬと分かっているのに死地に赴いたのか。…………穏便な解決が出来ると思ってくれるな?」

 

 ヴィヴィの言っていた発信源がこの二人組だと確信出来る要素は何一つ無かったので、警察や協力要請を受任した他トレーナーへ連絡するのは迷惑かもしれないが、ジックはヴィヴィを信じて皆で意見を纏める前に予め「奴を見つけた!」と一報しておいた。

 

 警察が各トレーナーや部隊に拡散してくれたのでミナモ民宿跡地に集まってくれる筈だ! 

 

 少しばかり時間が掛かる、だから自分達は援軍の到着まで時間を稼ぐ! バトル中に少しでもいいから漆黒のベールに隠された敵の詳細を明るみにする事!

 

「軽く屠ってやれ、《C.S》よっ!」

 

「ゴメンッ! だけどっ……! いけっ! ヴィヴィとメコン! 俺達の役目を遂行させるんだっ!」

 

「ハイッ! あの方達を止めましょう!」

 

「警戒レベル最大っ、了解ですマスター!」

 

 勝ち目の無いバトル……いやっ、処刑なのに『絶対に勝ってやる!』と自らとマスターの勇気を奮い立たす蒼と青の少女達。

 

 奇しくもハウゼン隊長と同じ動勢となってしまったジック。

 

 パソコンから他の手持ちやインフィスを引き出し、呼び出し、仲間達に協力願いをしたかったけどその時間も無い!

 

 パソコン管理システムを作動させ転送システムから送られてくるまでに、若干のタイムラグがある。

 

 仮にジックが仲間にした全てのポケモンを転送したとしてもヴィヴィのエナジー反応は消えていただろう、足跡一つ残さずミナモから消え失せていたのだから!

 

「メコン、ほうでんっ!」

 

 しかしネリは闇夜のレーンへ既に潜ませている。

 

 モラルやルールを破ってでも奴を倒す――不可能であっても――か奴の足止めをすると皆で決めたのだ! 

 

 まだネリを繰り出している事を仮面とフードには気がつかれていない筈。

 

 相手のタイプは鋼タイプ……確証は無いが、そうである可能性が高いとハウゼン隊長から伺っているので、有効打点がほぼ無い爽羽佳は隙を見つけて繰り出すつもりだ。

 

「殷雷の荊よっ! てやあああっ!」

 

 準備動作を必要としない利点がある物の、敵味方問わずに巻き込んでしまうコストがあるほうでん。

 

 まもると組み合わせたり交代で電気技が無効となるポケモンを繰り出す……被害を抑える方法は幾つかあるが――

 

「戻れヴィヴィ!」

 

正式なバトルであるなら『ジックは反則負け』

 

 ヴィヴィをモンスターボールへ戻す事で、まもるを使わせずほうでんの射程圏内から逃がしたのだから。

 

「〝したたか〟な真似をするな少年よ」

 

 何度も心の中で『手段は選んでられない』と復唱する!

 

 現状では正攻法で馬鹿正直に挑んでも容易く返り討ちに合う、時間稼ぎすらままならない。

 

 寧ろ決めてやったんだ、この一戦だけは自分が嫌う卑怯な戦法をありったけ使い回してやると! 

 

「もう一度いけっ、ヴィヴィ!」

 

 この一戦だけは許してください……全知全能の創造神:アルセウスに懺悔しながらヴィヴィをリリース。

 

 両腕を交差させ振り下げたメイドさんから、華奢ながら地表も空中も夜を上書きする大電流が青く迸る。

 

 確実に先手は貰ったのでダメージは入る、そして高い確率で麻痺を付与させる効果にも期待が――――

 

「ジックさん! お相手のポケモンは無傷ですッ!」

 

「あれだけの本数の電荊に覆われたのにっ! そんな馬鹿なッ!!?」

 

 麻痺……どころかノーダメージ!

 

「……………………」

 

 防御の構えを取った素振りも無い、金色単眼はほうでんの中心地点に立ち尽くしていただけ。

 

 警察に所属するデンリュウがかみなりを連発させても静電気すらローブに付着させる事も叶わなかった。

 

(ハウゼンさんは『もしかしたら電気を無効するタイプか特性を奴は所有している』って言ってたけど…………)

 

 本当に〝地面だけ〟なのだろうか。

 

「私のポケモンは頑丈でね……《C.S》ラスターカノン」

 

 反撃、ローブの内側から虚脱と絶望を与える白銀の閃光砲を2WAYに射出。

 

 ヴィヴィはこうそくいどうで緊急回避、メコンには命中したが半減されるので一撃では倒れない。

 

(だけど凄い威力だ! 場の2匹が鋼タイプ半減で良かった……等倍なら一気に持って行かれるッ!)

 

(軽減しましたが過去に受けてきたどんなラスターカノンよりも発射速度や精度、純粋な破壊力までも凌駕していました!)

 

 あの技だけで警察のポケモンの半数は駆逐されてしまった。

 

 改めて思うのだ、2VS1かつ半減される技をやり過ごせただけ、なのに『お前は勝てない』と過程をすっ飛ばし結論だけを無理強いさせ従う様に押しつけてくる相手……むちゃくちゃだ!

 

「あの金色の瞳が光ったらマインドコントロールされる! なるべく後方や側面から攻めるんだ!」

 

 注意点など指折り挙げてられないが、ハウゼン隊長のポケモンすら傀儡にした精神操作術は残された味方やトレーナーにまで精神的苦痛を与える最悪の技。

 

 繰り出されるまでに多少間があるかもしれないらしい……妖しい動作を先読み指示して自由意志を縛り付ける術を、上手く回避させるしかない!

 

「精神操作はその2匹、メタグロスとランターンには効かないのだがなっ……」

 

 …………? 仮面が浮ついたハイトーンから突拍子なく地表を擦るひねくれた音程に切り替わる、鳥肌が立ちそうなくらい不愉快なボイスで何かを呟いた?

 

 瞳を見るな、我ながら理不尽な命令を出してしまったけど任せて下さいとヴィヴィ、貴方に従いますとメコン。

 

 ナノでもピコでもいいから仮面との交戦時間を可能な限り引き延ばす本質にブレは無し!

 

「ヴィヴィ! アームハンマー!」

 

「…………!!」

 

 安易に弱点……と思われるじしんは撃てない。初戦で警察が検出した数少ない情報ででんじふゆうを使用出来ると聞いたからだ。

 

 心苦しいけどもう放つ際にはメコンをゲットバックし対象認識させないとして……じゅうりょくを発動させればでんじふゆうも使えなくなるが、ヴィヴィの小柄から生み出される機動力を損なわせたり爽羽佳の飛行性能を埋没させたりとリスクが高いので、こちらも迂闊に使わせる事は出来ないのだ。

 

(手応えがっ……全くありませんでしたマスター!?)

 

(なんでッ、鋼タイプなのにアームハンマーが効かないのかッ!?)

 

 後頭部のジェットを全開で拭かし万有引力の次元軸すら超過する加速度を全身に受けたヴィヴィがその一槌の元に粉砕する、巨人の片手を振り捌く!

 

 …………ダメージは……入っていない! 

 

 どういう事だ……いよいよもってジックは困惑しそうだ、電気技に引き続いて格闘技も無力化されてしまったのだから。

 

「きゃンッ!」

 

「くぐぅ! ああっ!」

 

 2秒3秒の思考時間にも、相手は2匹を捻り倒そうと攻めも守りも緩めてくれない!

 

 何かの武器を前方のヴィヴィへ一閃、ダメージを与えた衝撃で飛び移る様にメコンの側面へ侵入し十字型に武器を描かせる。

 

 かなりのダメージを負った、その黒く輝き遺る斬跡は敵ながら霊妙な哭り静け夜の海を光らせる月光の様な美しさ……

 

 鋼タイプ……ではないのかっ?

 

 強敵だからこそ色々試し勝ち筋を探る、だが金色単眼は〝バケモノ〟

 

 色々試すのは逆に敗北を早める近道となってしまうかもしれないが『相手は鋼ではない』の前提で立ち回ってみようと、ジックは念話でヴィヴィへ伝えた。

 

 ヴィヴィがサイコキネシスをぶつけても、メコンがみずでっぽうを確実に命中させても、奴は1の被害も受けてない。

 

 まるで常時〝まもる〟を使われているみたいだ……

 

 自分が知らない新種のポケモン? 特性? アイテム?

 

「お留守の刻か――追撃せよ《C.S》!」

 

 原理は不明だが2匹の技が効かないのなら、奴に通じる技を片っ端から試してタイプだけでも特定しなければ!

 

 メコンを交代させようとダイブボールを掲げリリース…………の瞬間を狙って《C.S》と呼ばれるポケモンがワープした!

 

「きゃう!? アアアアッッ! だい、じょうぶですジックさん……! しかしHPが大幅に…………」

 

 交代間際の無防備となるモーメント、自己防衛も行えない刹那に滑り込んで大ダメージを与えてくるなんて…………!

 

 ジックがボールを取り出してから指示を下すまでの僅かな間での判断力、それを実行させ成功させてしまう敏腕な処理能力。

 

 トレーナーとポケモン、どちらも桁外れな強さ!

 

 めのまえが まっくら になりそう……だけど、まだ全滅してない! やるっきゃないのだ!

 


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