ポケ×ぎじ 蒼鋼少女   作:緋枝路 オシエ

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Segment・hepta――蒼と冥

「何なの……あのポケモン……ありゃヤバいって出会った中でも最強じゃん! 私がボールから完全に出てくる前にでんじふゆう……指示するとか頭イッてるよあのトレーナーも…………」

 

 爽羽佳が出現と同時にドリルライナーを、ヴィヴィはじしんを!

 

 これが鋼タイプならば効果は抜群となり希望が持てるダメージになるかもしれない。

 

《C.S》を鋼と仮解釈しての最後の立ち回りは、成果を出すまでもなく空振りに終わる。

 

(読まれていた、わたしと爽羽佳さんの並びでじしんを使うと察して……)

 

(勘が冴え過ぎちゃってリアルエスパーなんじゃない、あのトレーナー……)

 

 どちらも隙を最小限に留めながらラスターカノンを四方へ散乱し、躱したけどトレーナーとしてポケモンとして、力量差を直接見せ示されただけだ。

 

 ジックは一つの仮説を立てた。

 

『ラスターカノンを連発させているのは自身のタイプを鋼と思わせる手段なのでは? 本当の弱点から遠ざける誤認識法なのかもしれない』

 

(だけどあの威力……タイプ一致しているとしか考えられない……どっちだ、タイプすら不明の相手とあの子達はやり合っているんだぞっ!)

 

 迷っている時間はないっ、その仮説を信じてくれたヴィヴィへラスターカノンを指示する!

 

 毒を持って毒を制す、そんな諺に図るのなら〝相手は鋼が逆に苦手〟かもしれない。

 

 判断材料があまりに少ないのでどうしても当て推量に任せてしまう!

 

「ラスターカノンッ!」

 

「《C.S》にその技を撃つとは面白い、同じ技でねじ伏せてやれ!」

 

 仮面の裏側で笑っている、白銀と白銀のビームが激突するが集中させ注げられたエネルギー量は明らかに《C.S》が上回っているからだ。

 

「ぅ゙ぁ、ああ! くぅ゙ぐ゙ッッ!!」

 

「………………………………」

 

 押し負けるっ! 宿す質量はこれ以上増やせないのにっ!

 

 同じ技なのだからベースとなる威力も同じ。

 

 なのに一方的にエネルギー波が飲まれているのは相手の方が格段とレベルが高く、純然たる戦闘力差を再び魅せられてしまっている。

 

 耐える事は出来るかもしれない、けど、体勢を立て直すまで棒立ちしてくれる優しい相手じゃない! このビームが切れ飛んだ瞬間に急接近され再起不能にさせられる!

 

「ヴィヴィーー!」

 

「ふんっ、愚かだな……」

 

 仮面達も長々と遊んでやる義理はないので、高装甲の少女を葬ったら残りのオニドリルと――こちらの隙を伺っている屋根の裏に隠れたマニューラ――も見逃さず倒して逃走するつもりだ。

 

「ヴィヴィちゃんっ!」

 

 叫んでも祈っても現状は変えられない。

 

 微細量でもいいから敵の詳細を得る目的すら果たせられなかったら……

 

 タイプは不明のまま逃走を許してしまったら〝やられ損〟

 

 ヴィヴィは気概してこの一戦の基盤を揺るがさず、自分が金色単眼を引きつけている間に爽羽佳に攻撃させて欲しいと、アクセス中の彼の心境が伝わる中で――――――

  

「……色がっ!? ラスターカノンの色が変化し――!?」

 

「…………………………!?」

 

 衝突していた白銀と白銀が

 

蒼色のラスターカノンに!

 

「黒っ……いや! 冥色のラスターだとっ!?

 

 ヴィヴィとジック、仮面と金色単眼は、何が起こったのか理解が出来なかった。

 

 頭が理解を拒む内容であったからだ。

 

 技の色彩や形状は使い手によって様々な種類を得るとは判明されているが――

 

(途中で変わるなんて聞いたこと無いッ! 強いラスターカノン同士だから? 爆発するっ、ヴィヴィ!?)

 

(むっ…………――――!!)

 

 押し切られる直前での色彩変異。

 

 白銀から蒼に、白銀から冥に。

 

 時が止まったかに思えた数秒間、急所への命中を覚悟していたヴィヴィはダメージを受けてないどころかラスター同士が拮抗を起こす。

 

 

 ッ!…………ッ――

 

 

 蒼と冥が照射した光束が民宿近辺を焦土させ兼ねないまでの爆発。重なり合った衝撃波で上空の爽羽佳も、屋根の裏側に潜んでいたネリも、身を投げ出されて地面に落下するが――

 

「…………仮面がっ…………!」

 

(ヴィヴィの瞳が…………蒼色になってる…………??)

 

 当事者のトレーナー2人とラスターカノンを放ち終わった2匹は無傷で膠着――無傷でないのは1人だけであった!

 

「反作用かっ……それとも共鳴かっ…………! そうかっ、そうリプレイスするのならばっ…………」

 

 のっぺらぼうだった仮面は蒼と冥の煙が収まれば左側面のみ、口元を晒す全体の1/4が砕けており辛うじて声帯変更機器の効力は失っていないが、先程よりも機械的な精神を逆なでる異界な音調は途切れつつあった…………

 

「お前、メタグロス…………お前は【Valestein】なのか…………?

 

 欠けた仮面を掌で覆いながらもう片腕で爆発を引き起こし仮面――あらゆる攻撃をシャットダウンさせ人間もポケモンも触れる事すら許されない、異空間の技術を解析し設計――を半壊させたメタグロスを指刺す。

 

 数的不利だろうが余裕の態度を動かさなかった仮面が、変声機を使用していてもハッキリ分かる……

 

 変わらず仮面は抑えたままだが、指先から振るえており相当な驚倒で何歩か無自覚のまま後ずさりしてしまっている。

 

 別の人格と入れ替わってしまったのか、あれだけの余裕を途端に失ってしまった理由は仮面が砕けただけではない。

 

(待てっ、なんであの仮面()()()()()()()()()()()()()V()a()l()e()s()t()e()i()n()()()()()()()()()()()!?)

 

 分からない事だらけだが深紅から蒼の瞳に変化しているヴィヴィを見るのは、あの刻――ザムヤードとトラヴィスへ明確な〝怒り〟の感情をぶつけた――以来で初めてではない。

 

 あの刻は「蒼いシルエットが彼女の表情に重なったから」と、視覚の錯覚に近いと自己完結させてしまったが今回は違うッ!

 

「…………【Valestein】…………その名称をわたしは知っています。何故貴女達がご存じなのか、気になりますが今のわたしはメタグロスでもなければ【Valestein】でもありませんっ、マスターが付けてくださった《ヴィヴィ》というニックネームがありますっ……!」

 

 アルカイックな古代文明の遺物の様で、無限の動力機関となり得る粛然と、されど命を与えられた彼女は――海の中で息をする。

 

 コーンフラワーよりもずっと美しい、密度の濃く凝縮された〝蒼〟はジックも驚く程の光彩を放ち、星屑一つ無かった夜空から流れ落ちた蒼き恒星にはまたしても目を奪い離さない。

 

「ヴィヴィ…………!」

 

(…………ボーッとしニャはいでっ……動きがとまっひゃ、今の内にしじをくらニャはィ…………まふひゃー)

 

 信じられない程の輝きを持つ蒼い瞳で黒衣の二人組を射竦める様にしているヴィヴィが、念話で噛みまくりながら『今がチャンス』と瞳に気を取られているのを良い事に、頬を少し早めの紅葉狩りの告知と主張させんばかりに昂揚させている。

 

 ジックにだけはバレバレなのだけど……自分が与えた『ニックネーム』を心から大事にしているヴィヴィのセリフに彼は交戦中だと言うのに感動していた!

 

「………………………………」

 

「そうかっ、お前が【Valestein】なのかっ……! そこの少年を〝おや〟としてIDも登録しているのかっ…………」

 

 情緒が不安定になったのか、またしても突然ケタケタ笑い出し爆発に巻き込まれてもノーダメージだった金色単眼へ視線を送る。

 

 すると…………

 

「戦う理由が無くなった、お前達は見逃してやろう…………いいマスターを持ったのだな――」

 

「はっ…………!?」

 

「…………ッ! 待ちなさッ――!」

 

 事態が急展開過ぎてヴィヴィもジックもついて行けてない。

 

 圧倒的な力を見せて不利な戦況をも簡単に払い倒していた金色単眼は、ラスターカノンを激突させてからヴィヴィへ攻撃を仕掛けなくなった。

 

 爆発が止むまでの間でも、あの戦闘力を考えたらそのまま突っ込んでヴィヴィを倒してしまう事は出来た筈。

 

「けむりだまかッ! げほえほッ! くぅアァ! 目が霞む! 爽羽佳、きりばらいを頼むゴホッ!」

 

「ッ…………! 逃走を……許してしまいましたっ…………! もう半径1㎞圏内にあの2人組は存在しません、信号が消滅しました…………!」

 

 如何なる状況下でもクリアな視界を確保するヴィヴィが、けむりだまを発動させた仮面達へ蒼いラスターカノンを発射するも、少しばかり隙を作れる手段があれば相手はそれで良かった。

 

 きりばらいは終了したが煙を散らす事が手品成立の条件だったとでも、奴らは遠くでせせら笑っているかもしれない。

 

 全滅はしなかったけど警察や協力者達が集うまで、ジック達は奴らを食い止める事は出来なかった!

 

 結局金色単眼のタイプも、他に所有している技も、何も分からないまま取り逃した…………

 

「…………~~ ~~!!」

 

 ジックや爽羽佳よりも悔しがっているのはヴィヴィだった。

 

 装備した手甲で無言のまま地面を殴りつける! 地面があの二人だと言い張ってしまいたいくらいにもう一発地砕きを起こす!

 

(フッーー! うううううッ~~~~!…………凶悪なポケモンとトレーナーを……くぅ! フッ、うううう……! マスターを勝たせてあげる……出来なかった……! そっ、そっちの方が…………わたしにとっては…………)

 

ヴィヴィがどれだけ無感情で強さを得る事とチーズドッグの事だけを考えて稼働していたのか、爽羽佳は近くで見てきたから語れるだけの思い出が在る。

 

 少女ではなく「只のロボット」だった彼女が、マスターの役に立てなかったから悔しがっている。

 

 出会った当初から何事にも動じないクールな子……かと思えば、バトルで負けたら――クールな姿こそ偽りなのかと疑う――感情を露わにする事もあったが、それは『強さへのプロセスを構築できず目標達成指標が満たせない』のだと筋の通った解釈出来たが今は絶対に違う……

 

「ヴィヴィ、その瞳…………あっ、アレ……? 深紅に戻ってる…………?」

 

「…………んっ、わたしにも分かりましたよマスター、瞳が蒼く染まっていたと」

 

 ジックが駆け寄ってきて両肩を持ちながら大丈夫だったと瞳を覗きながら言ってくれているが…………距離が近すぎてヴィヴィは、自分が開けてしまった穴ボコに顔を向けてしまう。

 

 マッサージで心の距離は確実に縮まったけど、多分爽羽佳が居たから『ひじょ~~に残念そうな想いになりながら』の決断だったのかもしれない!

 

「瞳の色が変わる現象……調べてみるかっ……条件があるのかな……? んっーー…………そうだっ、ヴィヴィも爽羽佳も聞こえたかもしれないけど…………」

 

「あっ! あのローブの奴の事だよね! 意外だったよ……てか、アイツ喋れたんだね……」

 

「ハイッ、確かに聞こえましたね、仮面が割れる直前――――結構可愛らしい声質でした。()()()()()()()()()()()()()()()()()なのかもしれません……」

 

 

 ッ!…………ッ――

 

 

 何かを叫ぼうとした、呼吸をしているのかも不明瞭なローブのバケモノ。

 

 あの状況から推測するに主人である仮面が爆発に巻き込まれてしまった不測の事態に、取り繕うことを忘れて『仮面の名』を叫ぼうとしてしまった……のかもしれない。

 

 何も得られる物が無かった、いや、あれこそ〝かなり有益な示唆〟なのでは!?

 

(主人なのか、単なる目的の為に手を組んだ仲間なのか、それは不明だけどあの金色単眼にも〝心〟があったんだ)

 

 発語しようとしただけじゃない主人か――それか仲間――へヴィヴィに背を向けるなど知った事かと、猛烈な速度で仮面の隣まで向かっていた。

 

 仮面は砕けるわ、危うく名を発する瞬間だったわで、戦闘とは別の面でピンチになっていたのかもしれない。

 

(取り逃してしまいましたが…………あの方達とはまた対峙する……わたしの中の何かがそう告げるのです…………っ)

 

 光を遮る暗幕の現し世、あの二人組は姿を溶け込ませてしまったけど再び相見える。

 

 蒼色となったラスターカノンを新しい武器としたヴィヴィは、握る拳を緩めながら変色に至ったルーツを検索し始めた。

 

 

 

 

 

(…………あー、そろそろネリちゃん出て来てもいいのかニャ? 空気読んで出てきてニャいけど、今回全然活躍してニャーね…………次回こそネリちゃんが主役に返り咲いてやるニャ! マニュハハハッ…………)

 

 シリアスなムードだからその場に居るだけでコミカルコメディを作り上げてしまう黒猫娘は、結び目が解けても『何故か落ちないビキニ』のズレを直しながらジックらの元へ戻るタイミングを狙っている。

 

 一応突っ込んでおくとネリは主役ではない。しかし盗賊らしく出番も盗んでやろうと積載量よりも少しオーバーな〝たわわ〟を腕に載っけながら、次のバトルは絶対出陣&先発予約のツバを付ける為にご主人を誘惑してやろうと悪知恵を発揮させている!

 

 あのローブが鋼タイプでも自分が出れば倒せたのに……相変わらず身体はチビでも口先はおっぱいよりもデカいネリの、無駄に強靱な自信は時として見習うべき物だったりする。

 


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