おくりびやま――
死者の魂が眠る、ホウエンの霊園山。
お盆の時期は過ぎているが、墓参りは季節を問わずに行える。
慰霊スポットだけに、ジュペッタやヨマワルなどが徘徊しているが、基本的に墓を荒らしたりはせず、マナーの悪い者達へこっそり制裁を加えてくれたり、掃除を受け持ってくれたり最早スタッフと変わりない野生の、ゴーストタイプが住居している。
「…………………………」
霧の発生している山頂、全てのお墓が見下ろせるこの場所で、手を合わせている眼鏡の女性。同じく頭を下げているのはポリゴン2。
(あの人ってデボンの社員さんだよな? あの人が来てから業績が爆上げしたって噂の……)
(そそ、レオネって人だな。頻繁にテレビ出演しているけど、ポリゴン2以外の手持ちって見たことないんだよな。わざわざ頂上でお参りするって、何でだろな)
正式な霊園管理員の二人が、草むしりをしていたら足音もなく、レオネが出現していたので、ゴーストタイプと接するのに慣れきってしまっている二人でも、女の子のような悲鳴を上げてしまうところだった。
唯一の手持ちであるポリゴン2……トロメインへ何かを話しているが、距離が開いているので内容は聞き取れない。
もしかして、過去の手持ちへの墓参りだろうか?
人間の寿命はどんなに長くても100年、対してポケモンは人間よりも長寿な種族が多い。
事故があり失ってしまったのならば、ポケモンとトレーナーの為に、死力を尽くして商品開発に精を出しているのかもしれない。男達の憶測に過ぎないが。
「行きましょうかトロメイン、あまり彼を待たせてしまったら悪いわね」
コクンッ、頷いたトロメインが霧の中を先導し、彼女らはおくりびやまを下って行った。
同時刻、おくりびやまの4Fでは――
「マナちゃーーん! 返事をしてーー!」
「マナァーー! かくれんぼはいいから出てきておくれーー!」
夫婦が命よりも大事な、娘を墓石の隙間さえ逃さぬ勢いで探し回っていた。
祖母の墓参りに来ていたが、まだ物心があいまいな幼児だ、退屈になって両親が花を添えているホンの数秒間、目を離してしまいマナと呼ぶ一人娘が消えてしまっていた。
係員に連絡し捜索を続けて貰っているが、30分経過しても見つからない。
一つの階層が広めであり、墓石の数も多いので小さな女の子が、もしも倒れていたりすれば完全に姿は隠れてしまう。
他のトレーナーにも声を掛け、一人娘の捜索に協力して貰う。両親は気が気でなく、どんな理由があっても目を離してしまった件を酷く後悔している。
そこへ――
「…………マナッ!!」
ズシンッ、ズシンッ……
巨人のような体躯の男が、夫婦の前に現れたのだ。
ゴーレムポケモンのゴルーグは、二足歩行の中でも最長のポケモン。人化すれば多少は縮むがそれでも一般成人男性よりも、遥かに巨大でこのゴルーグも2メートルは軽く越えているだろう……
身体の右側のみを隠すボロ布マント、向かって右眼に縫い跡のような傷があり、頭部はスキンヘッド。
建造物がそのまま動き出した巨体に、フランケンシュタインを彷彿とさせる強面。
4Fフロアの人間もポケモンも、ゴルーグの迫力に思わず背を向けて逃げ出してしまいそうになった。
「あーー! おじちゃん、このひとたちがマナのおとーさんとおかーさんだよ! みつかったみつかった!」
「……………………ソうカ、ハハ……よかっタな」
夫婦も立ち尽くしたまま悲鳴すら凍り付いてしまったが、右肩には愛しの――
「あのね! おじちゃんがたすけてくれたの! だからマナはこわくなかったよ!」
「…………おマエ、このコのりょうしンなら、めをハナすナ……」
言語を覚えたばかりな、カタコトな日本語でも彼の視線でも敵を倒せる眼力があれば、恐怖と紙一重。
手のひらにマナを座らせ、両親の元へそっと送り返すゴルーグへ、恩人と知らずに外見だけで偏見を持ってしまった。
両親は鼻声で謝罪するも、ゴルーグの彼は何も発しなかった。
「おじちゃん、ありがとーね!」
「コラッ、おじちゃんは失礼でしょう!」
「あっ、そーだね! ごめんね、おじちゃんのおなまえおしえて? あっ、またおじちゃんっていっちゃった!」
「…………なまえ、なまエか……なまえはダイジ……ダよな……ハ、ハ、は……おレは『おじちゃん』だ、おじちゃんでいイぞ。ハ、ハ、は……! まスターがおレをまってイるから、ここでサヨナラだ」
心優しき巨人は、小指だけでマナの右手と握手を交わしたら、次に会ったらまた肩に乗せてやると約束し、ボロマントを翻しながら下層へと立ち去っていった。足音を極力抑えながら……