ポケ×ぎじ 蒼鋼少女   作:緋枝路 オシエ

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Segment・ennea―― たましい

「あのゴルーグは……」

 

 おくりびやまを下って行く、一際目立つ外観。

 沈黙を貫き直した巨大なゴルーグとすれ違い、インフィスは只ならぬオーラ染みた物を彼から感じていた。

 

 主人の下へ戻っているのか、おくりびやまに生息しているポケモンとは思えない。

 彼女が出会ってきたどんな地面、ゴーストポケモンよりも恐ろしい戦闘力。手練れとやり合いたいが生憎インフィスとは相性が最悪だ。

 

「んっ……?」

 

 本日はおくりびやまで、とある行事が行われるのだ。

 

 安らぐ魂、生と死の狭間。弔いの光で山が埋め尽くされ、死者へ舞を捧げる。

 

 最近忙しかったがこの日は休暇を取らせて貰った、インフィスも舞に参加する予定だ。

 

 ……かつての主が眠る墓に、両手を合わせながら、蒼の気配を察知し振り向く。

 

「インフィスさん、この辺りに異様な雰囲気を持つポケモン、居ませんでしたか?」

 

「ヴィヴィか。……そのポケモンはゴルーグだと思うぞ、すれ違ったが私には分かる、どのような育成をされているのだろうな」

 

「ゴルーグ、ですか」

 

「どうした?」

 

「いえっ、『似たような何か』エナジー反応がありましたので……このお墓はインフィスさんの元マスターの物ですよね」

 

 紅い瞳に蒼い髪、いつだって変わりの無かった出生不明な少女。

 そんなヴィヴィの瞳はとある二戦、いや、謎の仮面との戦闘で三回目となる、蒼く深い輝きを放つ色へ変化していた。

 

 どんな原理なのか、謎は解析されず仕舞いだが、ヴィヴィが大事な仲間である事実に変わりは無い。

 

「ああ、老衰だった。思い残すことは無いと逝ってしまったよ」

 

 まるで『ゴルーグに惹かれる形で辿り着いた』

 

 残念ながら一歩遅く、すれ違ってしまったが、そんなにゴルーグと因縁めいた物は無かった筈。

 

 妙に突っ掛かるが、インフィスは線香の香りで涙腺がやや緩む。

 

 それは言い訳、親とも師とも認定していた――――ゲット時から決して若くは無かった彼を想いだしてしまうから。

 

「人は死ぬ、長生きしても百年、それでも何時かは死んでしまう生き物だ。私達ポケモンだって何時かは死ぬ、人間よりも寿命が長い種は多いのだがな、それが悲しみの要因にもなり得る」

 

 もし、永遠の命を与えられる立場にインフィスがなったとしても、彼の寿命を継ぎ足す行為をしていただろうか?

 

 自然の摂理で死を求めている彼に、インフィスが「死んで欲しくないから」10年、20年、寿命を殖やして行く、なんと恐ろしいエゴなのだろうか。

 

 誰だって死にたくは無い。

 だが死が訪れるから、人間は必死に生きられる。

 

 ポケモンだって同じ事、ゴーストポケモンは既に1度は死んだ存在。

 永遠の命を持つだなんて、それこそ一握りの伝説と謳われる存在しか許されない。

 

 虹色の翼、輪廻の大樹、そして開闢の千腕神。

 

「私達はどれでもない、何もせずとも、何かをしていても、平等にその刻が訪れる」

 

「人間も、わたし達も……何かを残そうとするのは生きた証になるから、でしょうか?」

 

 有名になりたい。

 お金が欲しいから? 声援を浴びたいから? 

 無意識の動力源、承認欲求、命ある限り命を燃やし、生き様を刻む。

 

「寿命じゃ無くてもだ。難病に冒されるかもしれない、不幸な事故に巻き込まれるかもしれない。明日は我が身、1秒先に何があるのかなど分からない。生きるのは怖いさ、でも――――」

 

 夕日が麓へ沈んでいく。

 精一杯に、自らの輝きを眼に焼き付けさんとする、火の玉のような見事な紅は、ヴィヴィの瞳にも眼を向けてしまう酷似であった。

 

(わたしは、何の為に生まれて来たんだろう、何処へ行くの?)

 

 電脳空間で発見され、ジック一味に保護され、ゲットの道を選んだ。

 

 もしも、発見したのがジックでなければ……?

 そんな事、想像もしたくは無い。彼で無ければ起動しない方がいい、今なら言い切ってしまえるから。

 

「時間は永遠だが、寿命は有限だ。止まる事は出来ない、流れる時間は変えられない。ヴィヴィ、私は後悔しているのだ、主と『もっとああしたい』『明日にはこれをしよう』、出来なかったよ、明日じゃ無くて今しておけ、かつての私に忠告したいくらいだ……」

 

 1度でも時間を巻き戻せるなら、メコンは、ネリは、爽羽佳は、インフィスは――――ジックだって、「あそこでああすればよかったな」

 

 それが出来ないのが人生。その道筋は自慢出来る名誉も無ければ、後世に語り継がれる逸話でも無い。

 

(でも、それが、その人の人生。本当はインフィスさんの元主さんだって、後悔が無い訳……でも最期は幸せだったと)

 

 看取っている最中も、彼はネガティブな発言を1つもしなかった。

 心臓が縮こまっていく、血流がせき止められていく、辛い、痛い、でも口にはせず笑顔のまま、冥界へと旅立っていった。

 

「ヴィヴィ、後悔だけはしないでくれ。伝えたい気持ちは伝えられる刻に。な?」

 

「わたしはそんなっ……マスターに伝えたい言葉などありません」

 

「誰も主の事だと言ってはいないのだがな……素直じゃないのもヴィヴィの魅力か」

 

 カマを掛けられた気分、ヴィヴィは焦って後退るわ視線を下げるわ、随分とリアクションが大きくなった。一昔前では絶対に見られない姿も、彼女の変化は強さと共に脆さも紙一重であると、ヴィヴィ自身が理解はしている。

 

「怖いか? 現状でも居心地がいいだろう」

 

「…………」

 

「それでヴィヴィは満足なのか? 想像してみるんだ、『明日自分が消える』と。後悔してしまわないか?」

 

 おくりびやまに蝋燭の灯りが、点々と浮かび上がり儀式が始まろうとしている。

 線香の香りもすっかり無くなっていた。

 

 

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