ポケ×ぎじ 蒼鋼少女   作:緋枝路 オシエ

8 / 73
お待たせしました、第三章の開幕です

これが盗賊仕込みのバトル――だ
同じ技でも使い手によって、個性が出たりとか好きです


Segment・tri――VSネリ

爽やかな汗が男女平等に、薄らと滲むミナモシティは、百二十四番水道からベタつく潮風ではなく、船を気持ちよく動かしてくれる、サラッとした日方が七月の気温を和らげてくれるだろう。

 

「いけっ、ネリ!」

 

「ぴょい~んっと! ボールの中は快適だけど退屈ニャんね! さぁ来いニャ、メタグロス娘! ネリちゃんに自慢のパワーを振るって見せろニャ~~!」

 

 帰るあての無い生まれたばかりのメタグロス、無機質無感情の戦闘メカかと思えば、メコンに完敗し「強くなりたいです」と明らかに悔しさの感情を露わにしていた。

 

 それはポケモンとしての本能か、自我を確立しきっていない使命感からの訴えなのか。

 

「じゃあ行くぞ、ネリとメタグロス?」

 

 強くなる為のプロセスとして、ジックの下に身を置いて修行をさせて貰う。納得の行く強さが手に入るまではログハウスに、居候扱いとして世話になる。

 

 ジックも不安定な少女を放っておけず「強くなる為の努力をさせて欲しい」と、約束したので最善を尽くさせて貰う。手持ちの皆も概ねジックと同じ意見だ。

 

「では…………っ」

 

 小柄だけど胸部だけは大人顔負けの蒼、情欲を刺激させてしまう衣装を好む黒、それぞれの右耳にはワイヤレスの超小型ハイテクイヤホンが取り付けられている。

 

 デボンコーポレーションがお手頃価格で、看板商品の一つであるポケナビとセット販売しており、自分の手持ち同士を戦わせバトルや技の練習をする時に、指示が入り辛かったり互いに戦略が筒抜け前提で動くしかなかったりと、中々難しいご意見を解決させたのがデボンイヤホン。

 

 ポケナビの機能は日々アップデートされており、ユーザーからの意見を反映し、欠点を克服したり、他企業では真似できないデボンならではの、ハイエンドでコアコンピタンスな技術が、すし詰めされたアイテム。

 

 既にポケナビを購入しているユーザーにはサービスとして、ポケナビ付属のシリアルナンバーをメールに送れば、送料無料の即日配送でゲットが出来る!

 

(そこでコメットパンチ! ネリもわざと受ける必要はないぞっ、不利にならない距離を保つために右に跳ねろっ!)

 

 携帯電話を早撃ちする要領で、ポケナビに後付けしたキーボードを叩き、打ち込まれた二つの電子信号がメタグロス、そしてネリのイヤホンへと音の壁を超過する速度で到達するので、ポケモン達は反応に遅れることは無いが、トレーナーは相応しい速度で指示を打ち込まないといけないので、コツを掴むまでは練習あるのみ。

 

 初心者よりもバトルを極めたい上級者~本格的に上を目指したくなった中級者向け。万人向けのシステムにするにはまだ改良が必要だが、初心者は「自分の手持ちと戦わせる」よりも、他トレーナーや野生ポケモンに相手して貰った方が、力を付けられるので別に問題ないという意見もある。

 

「了解ですっ、コメット……パンチッ!」

 

 メコンとも戦った障害物などは配置されず、プレーンでフラットな五十メートル四方のバトルフィールド。

 

 始めッ! の、合図と共に何故だかジャンプした魚類系メイドさんは、ズッシリたっぷり、第三と第四の突起物が盛大に持ち上がってはバウンドを数回行い、鎮まったおっぱいよりもゴーグルがズレてしまった事を気にしている。

 

「うわ~~おッ!? あぶねーニャ! 当たれば確かに木っ端微塵ニャ~ね……」

 

「えぇッ!? このフィールドすっごく頑丈で、ドサイドンやカビゴンが落下しても少し傷が付くくらいなのに……」

 

 メコンとのバトルでは、相性の関係により繰り出さず仕舞いだったが、ジックの指示によりメタグロスの代名詞、彗星のエネルギーを拳に集中させ、数多の帚星が流れ落ちる勢いで殴りつける問答無用の主力技。

 

「避けられ……ました……」

 

 一世を風靡し続けるメタグロスの一致技は、一定確率で自らの攻撃力を上昇させる効果を持つ。

 

 ただでさえ攻撃力の高いメタグロス……高威力のタイプ一致技をぶつけられるだけでも脅威なのに、攻撃にバフが掛かってしまえば誰も耐えられない……そこで投了してしまったバトルが全国中継され、あれだけのトレーナーと手持ちでも、そんな判断を下さざるを得なくなるのだと、中継を見ていた者達はメタグロスの超スペックに打ち震えながら、子供達には憧れのヒーローポケとして不変なる人気が右肩上がりとなった。

 

(ドンだけの破壊力ニャ……当たらなければどうとでもニャいけど、一発でも掠ったらそのままネリちゃんは落ちるニャ!)

 

(避け重視で行くぞ! お前はメタグロスとの相性がかなり悪い、けど経験値不足が祟ってまだ攻撃を当てるのは難しい、その隙を突こう)

 

 頑丈な床材にクレーターを作るパワー。

 

 恐らく直撃を許せばネリを纏めて四~五匹分は仕留められるだろう…………

 

(メタグロス、キミの次の手は…………)

 

 二匹同時に指示を送りながら、ステータスチェッカーを確認。

 

 これもポケナビに内蔵されている機能、無料アップデートを重ねて刻一刻と、変化を遂げる対戦状況が一目瞭然な優れもの。

 

 コメットパンチのPPが少しずつ減っている、ファッションと機動性能を重視した結果衣装まで薄くしているネリは、どーせ種族柄防御力は紙っぺらなので、ヤられる前にヤれを地で行く速攻型。

 

で、あるが

 

「ん゙ニ゙ャッ!?」

 

(また避けられましたか……マニューラ種はこんなにも速い……なるほど、戦ってみなければ本当の力は分からない、物差しや電卓だけでは判断が出来ないのですね……)

 

 攻撃動作に移っていたメタグロスの拳は、余裕を持って首を横に倒したが、拳圧によってパーカーが吹っ飛びそうだった!

 

「ひェ……当たったら死んじゃうかもしれニャいなぁ~~……おっけ~ニャご主人、ネリちゃんも攻撃開始開始ぃ~!」

 

「…………チッ」

 

「そこで舌打ちは洒落にならんニャ!? こおりのつぶて!」

 

 当たっていれば倒せたのに、無表情のまま指示通り彗星拳を繰り出す少女は演出なのか、無自覚なのか、獲物を仕留め損なった捕食者のように、深紅の瞳とリボンに埋め込まれた深紅の宝玉を点滅させながら、遠く離れた位置に跳躍したネリを睨んでいた。

 

 反撃に転じるネリは、小さな氷塊を一瞬で生成し、さも懐から取り出したようにメタグロスへ投げつける。

 

「…………!」

 

 形状はネリの好みで手裏剣を象っているが、低威力・高スピードの技としての性質には何ら影響しない。

 

 指示に従い、とりあえず防御姿勢を取ったけど低威力の氷技、こんな物ガードするまでも無い――が、メコンのみずでっぽうで痛い目を見たので油断はせず。

 

「避けるだけでは勝てませんよ」

 

「当てなきゃ勝てないニャ」

 

 かたや一発でも命中すれば勝ちは確定するが、その一発が当てられない鋼超タイプ。

 

 かたや動作の素早い技でチクチクと、ダメージを稼ぎながら圧倒的な回避性能を魅せる悪氷タイプ。

 

 実は戦況で不利なのはメタグロス側。少量だが蓄積されたら大きな傷となる……塵も積もればナントヤラ。

 

 ジックとメタグロスの少女も分かっている、だからこそ避ける位置を計算させて撃たせているのだが、そう易々と読まれてやる程ネリも優しくない。

 

「んニャァァ!! 脚を挫いたニャしぃぃ~~!?」

 

「討ち取りますっ、コメット――」

 

 身体を捻ってからの右脚軸ダッシュ――

 

 グキッ、コメディチックな擬音が響いた瞬間、蒼白く右手を煌めかせるメタグロスは、待ったのポーズを掲げるも聞き入れられず容赦なく、両膝を重ねながら涙目で許しを請うネリへと着弾させる。

 

 が――

 

「…………マニュハッハッハッ! ネリちゃんは攻撃一辺倒じゃニャいのニャ! チミは今通るはずだった攻撃が通らなくて〝不機嫌〟な想いを微かに、でも確実に抱いているのニャ♪」

 

「……………………ッ」

 

 転んだのはジックが命じた演技。欺くのは盗賊として生きてきたネリの得意技。

 

 メタグロス相手に真っ向からぶつかり合う気など、ハナっから無い! 利用できる物は何だって利用する! それがネリの流儀!

 

 まもるという単純極まりない名称を与えられた技は、効果も単純極まりないが非常に強力だ。

 

 あらゆる攻撃をシャットアウト、即座に繰り出せるので時間稼ぎの耐久型から、ネリのように一撃が致命傷に繋がる速攻型まで、幅広く愛用されているが欠点は連続使用が出来ない点である。

 

 自分だけを覆うドーム状の結界を即時張る為に、多量な防衛エネルギーを消耗するので、ある程度時間を置かなければ拒絶反応が起こってしまう。

 

 それでも一回使えただけで十分、二回目を使うまでに勝つ!

 

 ドームが消える間際に内側を蹴り込んで、いつ破れるか本人以外はハラハラ物な黒ビキニに守られているDカップが弛み、バク転しながらまたしてもメタグロスから三十メートル距離を取って着地する。

 

 更生してからは投げ銭で暮らしていた事もあるネリは、アクロバティックな全身運動や、ジャグリングを始めとした曲芸も得意なのだ。暇を持て余していると氷の手裏剣をお手玉しながら、わるだくみしているぞ!

 

「あ・て・て・み・ろ・ニャ~~!」

 

「…………!」

 

 精神的な揺さぶりを掛ければ、段々と真一文字に結んだ口を横方面へ開いていき、冷静な顔つきも次第に眉間に皺を寄らせ険しくなっていく。

 

(彼女はまだ精神面も幼い、性格はれいせいでも場数が足りていないから崩れるのも早いんだ)

 

 不思議な女の子だ。

 

 機械的な言動に動作、ポケモンではなく本当に自我を持たないロボットと遜色なかった五分前。模擬練習の詳細を聞いている間も、深紅の瞳は何を見据えているのかも分からず、言葉を感知したら反応するだけ、感情を封じ込められたマネキンのようであったのに。

 

(メタグロスッ、ネリからちょうはつされているのは分かるだろ? 焦らなくてもいい、平常心をしっかり持って!)

 

(わたしは……至って平静ですっ、早く攻撃の指示をください)

 

 紫に桃色に毒々しいまでのモスグリーンなどのマニキュアで、カラフルに彩色されたツメを数度折り曲げながら、嘲笑の眼差しを向けられたメタグロスは、ジックが指示をするも苛立つ感情をコントロール出来ず、〝とある補助技〟を実行出来ずに終わった。

 

 ジックが与えた指示を即座に反映させていれば、補助系統の技を封ずるちょうはつの前に――を初使用だが出来ていたかもしれないのに……

 

 イヤホンからの伝達は一方通行だ。

 

 トレーナーからポケモンへはキーを媒体に言葉が通るも、ポケモンからトレーナーへはそれが出来ない。

 

 彼女らがどんな気持ちになっているのかは直に判断するしか無い。

 

 デボンの技術を持ってしても、心を見通すのは難しいのかプライベートを考慮したのか悪用を防ぐ為にわざと備えなかったのか……エスパータイプならば【念話】という特殊能力でコミュニケーション出来るのだが、生まれたてのメタグロスがそんな高等能力を扱えるはずも無く……

 

「つぶてぇ! つぶてぇ! どーしたニャーメタ娘? 勢い任せじゃ勝てるバトルにも勝てないニャ~よ? このバトルはネリちゃんのもんニャけど♪」

 

「くっ…………! 防ぎきれませんっ……」

 

 一発、一発当たれば勝てるのに!

 

 その想いが先行して、ジックが打開する案を伝えても、彼女は命令を無視して小馬鹿にしながら氷の手裏剣をあらゆる方向から投げてくる、マニューラを追い続ける。

 

(やっぱこうなってしまった……!)

 

 もう技とも呼べない、何の効果も伴わない鋼の手甲による打撃。

 

「ほ~れニャ!」

 

「あゥ゙!?…………」

 

 ネリが持っていたのは古代の民の者が、国を治める王へ忠義の証として作らせたとされる――――けど真相は謎のままなおうじゃのしるし。

 

 つむじへと正確に投球されてしまい少女の動きが停止する。

 

 アイテムによって様々な効力を得る、扱いの難しいわざ、なげつける。

 

 おうじゃのしるしは、結構手に入りづらいアイテムだが、ネリの自前である。特性がせいしんりょくでない限り、あらゆるポケモンを怯ませてその隙にやりたい放題、盗み放題、これもネリのお芸当。

 

「マニュハハァ! 岩石も霊魂もバラバラに引き裂くネリちゃんスラッシュ!」

 

 バトル初心者相手にだって容赦はしない、そういう約束なのだしジックも二匹を勝たせる為に指示をしているのだから。

 

「――うァァッ゙!!~~ッ゙!!」

 

 

きゅうしょに あたった!

 

 

 怯みから覚める前に切り払われたメタグロスは、何が起こったか理解出来ず反射的に斜め上へ、爪痕を刻まれたブレザーベストを押さえ込む。

 

 血液の代わりに磁力が身体を巡る少女の脇腹から、雷雲を連想させる物質がバチバチと吹き出すも、グロテスクな代物では無くサファイアよりも綺麗な蒼に染まる粒子であった。

 

 彼女達が人の身体を手にしながら、人では無い明示的なまでの立証である。

 

 彼女の身体中に滾り、構成しているであろう蒼が付着した爪を舐めながら、一撃でキメる予定で無防備に突っ立っている少女の脇腹を狙わせて貰ったが、体力ゲージを黄色に留めているじゃないか。

 

「ネリちゃんのつじぎりを急所に受けても、倒れこまニャいとは。まぁ予想の範囲内だけどニャ、あっ! この蒼いの結構美味しいニャし! ペロペロ♪」

 

「くァ……つぅ……!」

 

 鋼タイプなので防御力には自信がある。

 

 その性能を完全に引き出せてはいないが、未成熟な状態でもコレだ。

 

 秘められたポテンシャルの解放が待ち遠しい、そうなったらネリは勝てるだろうか?

 

 彼女の事だから誰が相手でも「負ける気は無い」と言い切るか、ヘタれるフリをして油断を誘うか……どちらにせよ、このバトルはネリが支配した。

 

(深追いするな!)

 

(で、ですが……ッ!)

 

 聞こえるわけ無いのに抗議してしまう。

 

 指示を素直に聞かず、途中から完全にオート戦闘となってしまい、少女の判断に任せるしかなくなってしまった。

 

 ジックのトレーナーレベルが低いのではない、シンオウやイッシュなどの各地を旅して、政府に貢献しながら大きな事件の解決にも一役買った少年だ。

 

 物静かで感情に左右されない印象を与える容姿と心を持っているが、戦いとなれば負けん気が強く素直に従わないのは、精神面も未成熟だからだろう。

 

 それか彼女の性格の問題か……

 

「覚えとけニャ、メタグロス娘? 感情を剥き出しにしてもいいんニャけど、百で染まるのはダメニャ。一でもいいから冷静な自分が居ニャければ――」

 

「い゙っ!!」

 

「敵対心が警戒心を薄れさせちまうのニャ! つじぎり! 五芒星ver!」

 

「ああああああああっ!」

 

「……う~~ん、ネリちゃんカッコイイ~!」

 

 脱兎する勢いで逃げ回るネリが、柵に衝突寸前でターンし向かい合う形で交差、メタグロスは攻撃のチャンスだと捉えるが、ここは防御態勢に入るべきであった。

 

 ジックはそのようにイヤホン越しに指示を、思わず口で叫んでしまいそうな程に身を乗り出していたのだが遅い!

 

 黒い紐下着、三角形の幅やV字がショーパンからはみ出していてもお構いなし、足払いと言う名のローキックを受けて、すってんころりん、メタグロスのミニスカートが……翻らない!

 

 まさに「鉄壁ガードの女の子」

 

 ……まぁ、人化した現状なら、パンチラ対策も大事なのかもしれないが。

 

 ちなみに下着は練習が一段落してお昼ご飯を食べてから、ミナモデパートに購入する予定だ。ていうか今の彼女穿いてないし!

 

扇情的なロリボイスで喘ぎ……いや、喉が締め付けられる悲痛に帯びた叫びと共に、悪魔崇拝の象徴である逆向きになった五芒星型の刻印が制服に切り刻まれる。

 

 刻印パターンは何個か持っているが、どれを食らってもダメージには影響しない。元盗賊なのに目立ちたがりな彼女らしい遊び心だ。

 

「ハァ…………ハァ、ハァ……まだ……です……っ!?」

 

「もうお~しまいニャ! そーいうルールニャし♪」

 

 ギリギリで堪えている、ステータスチェッカーで表せば赤ゲージ耐え。

 

 バトルはまだ終わっていない……と言いたいが、どちらかの体力が赤になったら止めるルールなので、メタグロスの首に鉤爪を当てながら、降参を催すネリ。

 

「…………わかりましたっ、わたしの負け……ですっ……」

 

「あーー、後もう一個教えとくニャ。チミは一時的とは言えマスターを得た訳だニャ、自分だけではどうにもならないのを助けてくれるのがマスターニャ、ご主人はどっちも勝たせるつもりで指示を与えていたんニャから、しっかりと指示は聞くものニャ♪ 命令無視してたら本当に勝てる物だって零しちまうニャし」

 

「…………真摯に……受け止めます……」

 

 反論の余地は無かった。ジックの命令に背いていなければ結果は同じでも、後悔はしなくて済んだ試合であっただろう。

 

 卵のツルッとした質感を持つ肌、お腹周りを逆五芒星型に露出させながら、蒼い手甲を地面に力無く打ち付ける。

 

 機械人形では無い、幼い少女らしい一面を見られて、実はここに居る誰よりも起伏が激しく豊かな感情を持っているのかもしれないと、すごいきずぐすりとPP回復系のアイテムで処置をしながら推測するジック。

 

 メコンの料理を食べても無反応だった少女が、バトルでは呆気なく乏しかったハズの感情が露わとなる。彼女と仲良しになるには、バトルが鍵を握っているのかもしれない。

 

 そう、彼女はまだ不安定なんだ。

 

(…………まだ彼女が俺のポケモンになると決まってないけどな……)

 

 ジックに手当をして貰う間、悔しさが収まったのか再びふぶきで氷漬けになった表情に戻ってしまった。

 

 ペコッと、ツインテールと一緒に可愛らしく頭を下げたが、形だけであの時と同じく誠意が欠片も無い。彼女はこういう子だと分かったので、気にはしないが。

 

「少し休憩するかい?」

 

「いえ……大丈夫です、戦えます」

 

 ジックと目線を合わせているけど合わせてない。

 

 まだまだ心の距離感は遠い、命令を無視されたのだって彼女のせいだけではない、自分の努力不足が原因でもあると分析している。

 

 彼女が暮らすようになって、まだ二十四時間も経過してないので仕方は無いが、少しずつでもいいから縮めないと頭打ちになってしまうだろう。

 

「これは俺が指示した訳じゃないけどさ、肌が見える形になっちゃってごめんな!」

 

「…………?」

 

 指摘されて気がついた少女は、視線を落とし胸以外は幼児体型に近い彼女の、若干山になったお腹ライン……所謂「イカ腹」を一目しただけで無言のまま立ち上がる。

 

 女性への配慮として目を逸らしただけ、ジックは損をしてしまった。実はもうちょっとだけ眺めていたかった……健全な少年である。

 

 例えスカートの中身が見えようが(穿いてないけど)、ご立派な胸を晒されようがノーリアクションである可能性……無きにしも非ず。あの叫びは痛みが走ったからであり……

 

 

(一見するとネリちゃんはノーダメ勝利ニャ……けど、最後にあのメタグロス、防衛本能からか反射的に技を繰り出していたんニャ!)

 

 ギャル友である爽羽佳とバトンタッチ、立て続けにメタグロスとの相性が不利だが、何とかやってくれるはず。

 

 肝心のメタグロスは気がついてない、ネリの爪がボロボロである事を。

 

 ブ厚い装甲に攻撃を入れる度に、マニキュアが剥がれていき最終的には、爪自体がポロッ……すぐに生えてくるけど物哀しい……塗り直さなければ……

 

(ダメージ自体は受けてニャいけど……なんだかニャあ、ノーダメとは言えないニャ)

 

 お尻から転倒したメタグロスに接近する際に、彼女の瞳が一段と輝きを増し、鋼の他にもう一つ備わっているエスパーの主力技、強力な念力を能動的に巻き起こし地形や射程を選ばず攻撃できる、サイコキネシスを無意識の内に使用していたのだ。

 

 悪タイプにエスパー技は効果無し。

 

入門トレーナー以外は誰だって知っているこの世の摂理。ネリを止める事だけを考え、脳内に警報がけたたましく鳴り響いていた彼女は、タイプ相性などすっかり忘れ反射的にサイコキネシスを浴びせた。

 

 ダメージは無い……が、真の目的はネリの腕部を制御しつじぎりを反らす事。

 

 皮膚に覆われない部分、掻っ捌く為に伸び行く鉤爪のみに食らわせたが、初めて使った影響からかパワーは軟弱で反らす事は失敗。

 

 原色からパステルまで不規則に塗るのも魅せテクらしい、マニキュアを施した爪が砕けたら人間であれば、痛いの一言では済まされない。激痛のあまりそのまま死ぬだろう。

 

 それを「痛いニャ♪」で済ませちゃうんだから、やはり彼女達は人間ではない、れっきとしたポケモンだ。

 

(もしかしてメタグロス娘、戦闘を重ねれば段々と覚醒して、技が使えるようになるのかニャ?)




仲間とのバトルって、指示がどっちにも伝わったりバレたりするので、その辺りをどうしたもんかと思いまして、イヤホン案が浮かびました。こうするしか無かった!

イカ腹...メタ子に盛られた属性がどんどん判明していきますね!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。