一帯を柔らかく撫でて去った穏やかで心地の良い微風に、少女は目蓋を伏せていた。
《──トリオン兵出現の第三波から四時間半が経過。空間安定、依然として
「こちら白縫衣。現況の報知、ありがとう御座います」
平穏なのは実に良い事だが、音沙汰が無いというのもなかなかに酷である。
戦いの衝撃に巻き込まれないよう距離を取って様子を見ていた見物客─米屋 陽介─は、「なーんだ、立ち寝してんのかと思った」とストローを咥えながら呟いたが、さすがに少女へは届いていないようだった。
戦闘体に伝わったマニュアルのような通信へ返答してから程無くして聴こえた、本部オペレーター、沢村 響子の溜め息に少女の眉が複雑そうに寄った。
「・・・すみません、沢村さん。お忙しい中わざわざ任務のサポートまでして頂いて・・・」
《ん?いいのよ、全然。あなたのサポートは別にこれが初めてじゃないんだし。それこそ、“わざわざ”気にすることじゃないわ?》
「ふぐっ・・・・」
沢村自身、自らが吐いた溜め息の理由の大半は他に有った。星咲本人も薄々自覚はしている反面、それに気が付いた自分に気が付きたくなくて、何処かに奥深い場所に仕舞っている骨の髄まで染み込んだある種の『悪癖』。
しかし、直面する現実は誰にだって等しく純粋なまでに残酷である。
《・・
「うぅぅ・・・・・」
長時間、一挺の散弾銃を手に携えた兵士の鑑とも言える直立不動を保っていた少女─白縫衣 星咲─の小柄な体躯は、ついに膝から崩れ落ちた。
「え。な、なんだ。どうした?」
適当に景色を見渡しつつパックのフルーツジュースで喉を潤していた米屋は、再び目にした星咲の様子の─分かりやすい間違い探しもビックリな─大きな違いに思わず二度見をしたのも束の間、緊急性は感じなかったのか、やり取りを知らない彼は呑気に胡座をかいて独り言を口にしただけだった。
─────一方。
《動きを鈍らせたり弱らせたりするのにも攻撃はもちろん必要だけど、弱点部位はハナから明確なんだから、“ある程度”弱らせてそこを重点的に狙えば過剰な攻撃もしないで済むし、武器の破損やチップが悲鳴を挙げたりなんて事も起きないで済むでしょう?あなたが、ストレス発散も兼ねたつい
「ず、ずびばぜぇん・・・・」
美人オペレーター、沢村 響子の指摘は、更地のど真ん中で
何を隠そうこのオペレーター、かつては現地で剣を振るっていた元戦闘隊員───中でも、前衛を張る
その血を騒がせた彼女の前では、10代半ばとは言え組織で有名な戦闘狂もただの隊員となってしまうらしい。
《それで、任務のことだけどどうする?というのも、切り上げるにはまだちょっと余裕があるのよね。》
「・・・いえ、このまま時間まで警戒態勢を継続します」
膝に付いた汚れを払い除け、若干よろけながらも立ち上がった星咲のその
部隊に配属していない以上、有り合わせの混成部隊を除いた防衛任務は基本単独での出動。
だが、本部に異動をしてからずっっとそのスタイルで任務に臨んでいた星咲はもう慣れっこだった。
モニター越しから見た真っ直ぐ前を見据える少女の姿に、我が子を心から想う母親のような面持ちで沢村は微笑みを浮かべた。
《・・・・・そう、分かったわ。近くの暇そうにしてる米屋君には、いざという時の星咲ちゃんの戦闘への加勢の許可を本部長がすでに下したから、お互い協力し合って戦うのよ?一人で突っ走り過ぎないこと!》
「はあい」
《返事はしっかり》
「はいっ!」
《よろしい》
星咲のオペレーターに就いているとは言え付きっきりは難しい。当然ながら他にも仕事を受け持っている沢村との通信は、一旦中断となった。
「その歳にしては
頭にポン、と乗った手の平。特段拒むような素振りはせず米屋を見上げる。
「まだいらしたんですね?よっぽどお暇と見た」
「ひっでーなぁ、いざって時はこの槍弧月のお兄さんも加わってやるってのに」
「あはっ、それはそれは頼もしいですねぇ♪その時になったら是非よろしくお願いします」
「おう、任せとけ!」
まあ暇なのは認めるけどよ、と顔を逸らして口を“3”の形にしながら誤魔化すようにぼそぼそ付け加えられた言葉に、星咲は目を細めて面白そうに笑った。
(1話目よりちょっと前くらいのお話でした。
あ。今更ですが、主人公の性格上、機嫌や調子が良い時などにセリフの語尾に『♪』マークが付く事があるのでご一報までに。
・・・・ソロで活動していた頃の主人公の隊服のデザインがまるで思い浮かばぬぇ・・・・・)