なので、当作品をご覧になられている画面の向こうの貴方様が一度でも、またはリピーターな方から見たら、ひょっとしたら「流れ」に違和感を与えてしまうかもしれないため、事前にお伝えさせて頂きます。
・・・・あ、猫カフェの話です。行ぎだい。
それでは、どうぞ!
(も、もふっ・・・・・極上のモフみ・・・!!)
彼女は、ただ見ていた。
水が付着した部分から溶けて失くなってしまいそうな、引っ張り出せるものなら今直ぐ画面から引っ張り出して、母性を具現化したような優しさに溢れた抱擁で愛でたくなる綿菓子にも似たその毛並みは、実際に触れなくても視覚と脳がちゃんと再現していた。たったそれだけで広がる
サイトの顔を飾るに相応しいチョイス。撮影者さんありがとう&グッジョブ。
いとも簡単にハートを射止められた少女の目が遂に回り出した。
「・・・・星咲」
「!は、はいっ」
(私ってば先輩の前でなんという醜態を・・・!!)
“デレ”が全面に表れ始めた星咲の意識は、自分の名を呼ぶ声に現実に引き戻された。
妄想に
「・・・あのね。ココア、居たでしょ?前におれ達が遊びに行った一週間後に、病気で亡くなっちゃったんだって」
「!!」
生身の肉体には心臓がある。
それがドクリと強く脈打って止まった。そして、静かに拍動が再開する。
「そう・・なんです・・・?」
「うん・・・・それで、この子は新入りさん。名前はまだ決まっていないらしい」
生命の死。ヒトや動物が必ず迎える避けられぬ運命。そこに至るまで色々な要因が重なったり、鋏で一本の糸を切るみたいに突然であったりと辿る道は様々だが、来る客来る客に可愛がられていたココアという名の一匹の猫は、天寿を全うする前に『病気』という形でこの世を去った。
その訃報を知ったファン達は、店舗を通してココアに花やメッセージカード、好物などを渡したそうだ。
時枝は、画面の猫の頭部にそっと指先を添える。
家庭で二匹の猫を飼っている彼もまた、ココアの死に心を痛めた一人だった。
「ごめんね・・・?伝えなきゃと思ったら、こんなタイミングになっちゃって」
「いえ・・・・猫の寿命は人間より短いですけど、同時にデリケートでもありますからね。野良なら尚更。知らせてくれてありがとうございます」
カップの細かい氷が解け、水と混ざり、味が少しだけ薄まっていた。
「うん。だから、スケジュールが合ったら、ココアにも新入りさんにもご挨拶に行こうね」
「もちろんです!」
時枝からの誘いは一度では無かった。そもそもの切っ掛けは、お互いに好きな物が同じであった事。
隊員であるが故なのか、出掛ける先は猫カフェを第一候補に、ペットショップや喫茶店といった癒し系スポットだった。
好みが同じな者同士として何かアクションの一つや二つ起こせないだろうかと星咲も悩んではいたが、何分、相手は他部隊以上の仕事量を抱える部隊に所属している隊員の一人だ。大して親しくもない間柄なのに、まして後輩が先輩に外出のお誘いなどと出過ぎた生意気な真似が出来る理由も隙も勇気も、当時の星咲には無かった。
今日も、貴重な時間を割きながら、時枝は何度目かの誘いの言葉を少女に掛ける。
スケジュールに不都合が生じる以外に断腸の思いで『NO』は出さない星咲は、感謝の意も込めて、笑顔で大きく頷いた。
「───しまった・・・!」
「・・・・・??」
一瞬、寝ぼけ眼を開かせた時枝は袖の下の腕時計を確認すると、目を点にして頭上に疑問符を浮かべる星咲が突っ込む間も無く腰を上げて背を向けたかと思いきや、動きを止めて振り返った。
頬のあたりで切り揃えられた
「・・・ねえ、星咲。巻き込んでもいい?」
「?・・ああ♪了解っ、お供します!」
「よし。じゃあ、行こう」
「その前に、お茶買っていきます」
「そうだね。半分持つよ」
壁際に複数台設けられている自動販売機で人数分のお茶を買い、それぞれ腕に抱えて目的地を目指した。
「すみません、遅れました」
「戻ったか、充!」
「ええ。頼もしい助っ人も連れて来ました」
「来ました~」
時枝の背中からヒョコっと顔を出すと、入った先に居た何人かが立ち上がった。
「おおっ」
「星咲ちゃーーん!」
「ちょっ、隣で大きい声出さないで下さい佐鳥先輩」
「いらっしゃい、星咲ちゃん」
「ピンクホワイト綾様先ぱーいっ」
「わっ・・!」
嵐山を筆頭に、入室早々のアットホームで和気靄靄とした雰囲気と反応に、星咲は胸の奥で沸き始めた衝動を抑えながら素早い動作で抱えていたお茶をテーブルに置いて。
メンバーへ纏めて応える為か、両腕が千切れんばかりにブンブンブンと一頻り振ったのち、最終的に綾辻へとダイブ(と言っても駆け寄ってギュ、レベル)する形で落ち着いた。
綾辻も綾辻で、抱き留めた拍子にちゃっかり星咲の胴体に腕を回して頭を撫で撫でしてご満悦の様子。
(む───!)
ここで、佐鳥の瞳がキラリと光った。
こちらに背を向ける星咲の身体の下・・・・彼女の一挙一動で素直に揺れるスカート部分を、何らかの使命感に駆られた彼は最早条件反射並みの動きで咄嗟にクリップボードで隠した。「星咲ちゃんのセコム」を自称しているだけあっていちいち目敏い。
だが、そんなことをしなくても全然セーフである。
「ふへへ・・あ!皆さんの分のお茶ですドウゾ!」
「悪いな!」
「ありがと~~!」
「・・って、サトケン先輩は何してるんです?」
「フッフッフ・・・・これは佐鳥にのみ与えられた永遠の密命なのだよ・・!」
「ほ、ほう・・・?」
「気にしなくていいよ」
「はあい」
テーブルに置かれたお茶にそれぞれ手を伸ばす。
時枝も買ってからまだ半分近く残っているオレンジジュースを一口飲んだ。生身でないからとは言え本当に良く出来ているな、と改めて思う。ふぅ、と小さな小さな息を吐いてテーブルの空いたスペースにジュースを置いて自分のロッカーを開ける。しゃがんで鞄の引き手を摘まんだ瞬間、何かがチャラ、と手の中で揺れた。
(あ・・・・・・)
柔く緩めた手の中、キャラクター化された猫のマスコットキーホルダーが時枝を見つめていた。
───互いに初対面をクリアして2週間ほど経過したあの日。
その頃はまだ迅や林藤と一緒に来ることが多かったが、本部で顔を合わせた際に彼女が時枝にと贈った物だった。当時の様子をバッチリ見ていた同じ隊に所属している佐鳥曰く、「星咲ちゃんの片膝ついたあのフォームは、『渡す』じゃなくて確実に『贈呈』とか『献上』とかそう言う類(たぐい)だったよね。いや、まあ、ね?星咲ちゃん後輩だから分からなくもないけど、でもさちょっと端から見たらビックリっていうか理(強制終了)」らしい。
時枝が
「そう言えばあなた、まだ隊は決まっていないらしいわね?」
「そうなんですよー。私は私で意思は伝えたあとに、エライ人達が話し合ってくれてるみたいなんですけどねぇ」
そんな会話が後ろから聞こえた時枝はテキパキと用を済ます。
気付けば室内には普段通りの静寂が訪れていて、ほとんどが紙と紙の擦れる音、電卓を叩く音、書き物をするなどの音だけがこの空間を支配していた。
〔あ、それ。懐かしいなあ、もう1年以上前か~・・・〕
内部通信。佐鳥からのものだ。
横目で後ろを見ると、時枝に背を向けてソファーに座っている佐鳥と目が合った。
嵐山隊でも、隊長である嵐山 准に次ぐほどの明るいキャラクターと茶目っ気のある性格で有名な佐鳥だが、静寂を破らない方法で話し掛けてきた彼に口許が僅かに綻ぶ。
(カバンじゃなくて、もっと内側につけようかな。落としたりして失くしたらすごく嫌だし)
得意気な微笑を浮かべている佐鳥に短い相槌を返してから、いつもと変わらぬ表情で持ち場に就いた。