偶然から~凹凸までが2章
ここからが3章で完結編のイメージです。
本編よりアフターストーリーの方が長くなるから不思議。
それは何気ない会話から始まった。
「2人はさー。将来どんな仕事に就いてみたい?」
モニカの質問に一緒に居たラウラとアデーレが頭に?マークを浮かべる。
「どうしました、突然に」
「いやーさー。たまーに不安になるんだよね。アタシって将来どうなるんだろうとか。そういうモヤモヤとした気持ちがときどき湧いてくるっていうか。アタシって2人と違って頭も良くないし」
つまりは自身の将来に対するビジョンがあやふやで心許ないのだろう。
今まで庇護してくれていた親の下から巣立っていく。
その不安は社会に出ることを求められる年齢に近づくにつれて思い悩むことだろう。
まだ先のこと、と問題を先送りにすることは出来るがいつまでもそう言って逃げてはいられない。
モニカの言う悩みとはそういうことなのだろう。
質問に対して先の答えたのはラウラだった。
「そうだな。それを職にするかはともかく、私は看護師の資格は取りたいと思っている」
「え!ラウラは看護師になるの!」
「だから分からないさ。ただ、資格は欲しいと思っている」
過去の職場とは決別した身だが、そこで学んだこと全てを否定するつもりはない。
軍では人体の構造や機能について学んだし、人命救助の訓練も受けていた。
(なにより、もしまたおばあちゃんが倒れた場合、そうした知識や技術。資格を持っていた方がいいしな)
以前倒れた時はあまりにも気が動転してしまい、救急車を呼ぶくらいしか出来なかったが、もっと出来ることがあったはずだと思う。
このことを義祖母に言えば、自分を中心に進路を決めたことに微妙な表情をするかもしれないが。
それでも義祖母はラウラにとって最も大切な存在だった。
ラウラの話を聞いてアデーレが話を返す。
「ラウラさんが医療関係の職に就くなら実家とも縁が出来るかもしれませんね」
「アデーレの?」
「えぇ。私の父は医療機器を開発する会社の
「えーと……」
「医療機器会社の大手だな。数年前、ISの技術を応用して視覚や聴覚に異常のある者に、音や映像の情報を脳に直接送る補助具を開発したことで話題となった。まだ、高額過ぎて一般には出回ってないが」
ISがもたらした技術はそれ単体では収まらず、各技術に影響を与えている。
ラウラが言った補助具もそうだし、量子化の研究を進めて大型宅配物をもっと手軽に出来ないか研究されていたり、通信技術やその他諸々にISの技術が活用され始めている。
もっとも、未知の部分が多いISだ。開発者である篠ノ之束が技術を全て公開しない限り、開発には後10年以上の時間がかかるかもしれないが。
スラスラと答えるラウラにアデーレがビックリした表情になる。
「よ、よくご存じですね」
「これでも、新聞やニュースには目を通すからな」
「でもそれじゃあ、アデーレって社長令嬢ってやつだったんだ」
「それ、やめてください。そういう風に認識されるの好きじゃないんです!それに、確かに父の会社は大きいですが、家は豪奢な生活をしているわけではありません!」
本当に嫌なのだろう不愉快そうに唇を尖らせるアデーレにモニカは軽く謝罪した。
「ならアデーレは将来実家の会社に?」
「選択肢の1つとして、ですね。以前父は兄共々に会社へ来ることを望んでいましたが、色々あって今は強要するようなこともありませんし」
アデーレの言葉に2人が少し驚く。
「アデーレってお兄ちゃんが居るの!」
「えぇ。兄がひとり。今は医大生です」
「そうなんだー。アタシは兄弟いないからちょっと羨ましいかも!」
「そうですか?ところでモニカさん。少しは参考になりました?」
質問を返されるとモニカは少し考える仕草で目を閉じた。
「うん、アタシは将来お嫁さんになる!」
「それは素敵ですねー」
「一気に冷めた眼を向けられた!?」
呆れたアデーレの態度にモニカは軽く机を叩く。
そんな2人を眺めながらラウラが意外な言葉を呟いた。それは、2人に聞かせるモノではなく、自問によるものだったが。
「人を好きになるとはどういうモノなのだろうか……?」
その呟きがあまりにも意外でモニカとアデーレの目が点になった。
ラウラが考えるのは数カ月前に自分にお礼を言いに来た少年、織斑一夏。その後ろに居た少女たちだった。
不機嫌そうに。不安そうに一夏に目を向けていた少女たち。
彼女たちと話す機会は設けられなかったが、一夏に好意を抱いているのはなんとなく分かる。
しかし、彼女たちはわざわざひとりの男を見守るために付いてきたように思える。
異性を好きになるとはそこまでの行動力を持たせるモノなのだろうか?
そんなことをぼんやりと考えていると唖然とした表情で自分を見る2人に気付く。
「なんだその表情は……」
「いや、だってラウラからそんな疑問が飛び出るなんて思わなくて」
「そうか?まぁ、そういうことを考えることもあるさ。そもそもこれはモニカが押しつけてきた小説の影響でもあるんだぞ?」
「あ~、はいはい。でも面白かったでしょ?」
「ああいうのは読んだことはなかったが中々に興味深かった」
「何の本ですか?」
ひとり話の内容についていけてないアデーレにモニカが答える。
「ラウラって専門書とかそういう難しそうな本ばかり読んでるでしょ?だからたまにはもっと肩の力を抜いて読める恋愛小説を貸したの。ほら、少し前に映画化された――――」
「あぁ、あの……」
タイトルを言うとアデーレも知っていたらしく納得する。
そしてラウラが話を戻した。
「その本を読んで思ったんだ。他者に好意を持つとはどういうことなのか。正確に言うなら、それは友人に好意を抱くのとは違うモノなのかと」
ラウラは義祖母のことは好きだ。それと異性を好きになるのとは違うのだろうか?
小説の文でその違いが説明されていたが、ラウラにはどうにもピンとこない。
「私はモニカやアデーレのことは好きだ。だが、異性――――恋愛というモノの好きとはそこまで違うモノなのかと……どうした?」
ラウラの疑問を口にしているとちょっとだけ赤みの強くなった顔で2人がラウラを見ていた。
「どうしたって……」
恥ずかしそうに顔を背けるアデーレ。
反対にモニカは嬉しそうに抱きついて頭を撫でてきた。
「ヤバいよマズいよ!?ねぇ、この子持ち帰って妹にしたい!!」
「何を言ってるんだ……それに姉、妹で言うなら私のほうが1つ年上だろうに」
「だってラウラ小さくてかわいいから」
いつも通りモニカの密着を離させるラウラ。
2人の会話にアデーレが首を傾げた。
「年上……それはどういう……」
「あれ?アデーレは知らなかったっけ?ラウラ、事情があって1年遅れて受験したんだよ」
「は、初耳です!?」
驚いて立ち上がるアデーレ。
ラウラが1つ年上なことは彼女とモニカを始め、仲の良い友人たちは知っている。
だからラウラとモニカはアデーレも知っているものだと思っていた。
「そう気にすることもないんじゃない?年上だからっていきなり態度とか変えられても困るし」
「そんなつもりはありませんが。正直、驚きました」
ラウラの容姿から年上と判断するのは難しい。
アデーレ自身、今更知ったからと言って態度をどうこう変えるつもりもない。
「ま、これまで通りってことよね!」
「そうですね」
どこか納得いかない表情をしながらアデーレはモニカの言葉に頷く。
彼女はきっとこれからも1番になるために度々ラウラに勝負を挑むだろう。
それを思うとラウラは自然と口元を吊り上げた。
「ところで、ホントにラウラが看護師さんになったらナース服姿を写真に撮って店長さんに見せに行っていい?」
「おいやめろ。本当にやめろ。店長が暴走するだろう」
「ラウラちゃん。今日もお疲れ様!」
「お疲れ様です、店長」
「ここ最近ですっかり気温も下がってきちゃって。外を歩くの辛いわね。ラウラちゃんは大丈夫?」
「はい。私は体が丈夫ですから」
「でも気をつけないとダメよ?体調なんていつ崩れるか分からないんだから」
「そうですね」
閉店の準備をしながら同意する。
店を閉じると店長に挨拶をして店を出た。
「将来か……」
モニカが言った将来の不安。
彼女はラウラたちは頭がいいから大丈夫だと言ってくれたが、それが確かな自信となるわけではない。
1年後、2年後。もっと先の未来。自分がどうなっているかなど預言者でもないラウラには見当もつかない。
自分で自分のことを決めるという恐怖はいつだって付きまとってくる。
「それでも、頑張らなければな……」
悩み、迷うことは大事だが、だからと言ってそれを理由にただ立ち止まるのは嫌だ。
少しずつでも前に進まないと。
そんな思考に耽っていた時に聞き覚えのある声が聞こえた。
学校でも聞いたことのない嫌がるような声音。
「アデーレ?」
聞き間違いかもしれないが、気になって声の方角に足を進めていると、2人の男性に絡まれているアデーレを見つけた。
アデーレは男性のひとりに腕を掴まれている。
「だから、嫌ですって言ってるじゃないですか!?」
拒絶しているアデーレに対して腕を掴んでいる男は苛立たし気にどこかに連れて行こうとし、もうひとりの男は困ったような笑みを浮かべている。
(もしかして、モニカの時と似たような感じか?)
思い出されるのはラウラとモニカが仲が良くなった事件のこと。
アレと同じようなことに巻き込まれているのか?
(それにしてもまだ人の多い通りでよくやる)
見れば周りにいる者たちに視線を向けられて悪立ちしている。
アデーレが無理矢理男の手を引き剥がしたことでバランスを崩し、体が後ろに倒れそうになった。
しかし、そうなる前にラウラがアデーレを支えた。
「大丈夫か?アデーレ」
「ラ、ラウラさん!?」
アデーレから手を離すと絡んでいた男たちを一瞥する。
「嫌がっている私の友人をどこかに連れて行こうとするのはやめて欲しいのだが」
一応は事を起こさないように丁重に対応し、何があっても良い様にアデーレの前に出る。
しかし男性2人はキョトンと目を丸くしている。
何かを察したのかアデーレがラウラに話しかけた。
「ち、違うんですラウラさん!?この人たちは!」
「アデーレ、お前の知り合いか?」
「……学校の友達です、兄さん」
「ん?兄さん」
「はい。この人は私の兄でクルト・フランツです」
「クルトの友達のルーベルト・レーゼルだよ」
静観していた男もにこやかに名前を名乗る
その時に、冷たい風がラウラの長い銀髪を撫で、揺らしていた。