「その……本当にすまない。まさかアデーレの家族とは思わなくて」
「いいんだよ。あんな場面見たら誰だって勘違いするって」
「なんでお前がフォローしてんだよ……」
近くの公園に備え付けてるベンチにラウラとアデーレが腰掛けて四人で話していた
アデーレの兄でおるクルトがムスッとして首を撫でているのに対して友人のルーベルトはにこやかに場を取り成しつつ、クルトを小突いていい加減機嫌を直せとアイコンタクトする。
一度息を吐いてラウラに視線を向ける。
「コイツの言ったように騒いでた俺たちが悪いんだ。そっちが気にすることじゃない。むしろ、騒ぎを止める切っ掛けになってくれて助かったよ。ありがとな」
「あ、あぁ。しかしいったい何故あんなところで喧嘩を?」
ラウラの質問にアデーレがビクッと肩を跳ねさせた。
それにルーベルトはクスクスと笑って答える。
「ちょっと僕たち3人で食事に行こうって話だったんだけど、入ろうとした店をアデーレが嫌がってね」
「だ、だってあのお店、露骨に女性客へ媚びを売ってくるじゃないですか! この間だってウェイターの方が馴れ馴れしい態度で連絡先を聞き出そうとしますし!」
「あそこ、女性客を連れて行くと割引になって良いんだよな。味も悪くないし」
「それは、そうですけど……」
不貞腐れて顔を逸らすアデーレにクルトが小さく息を吐いて話題を変える。
「確か、ラウラ・リットナー、だよな? お前のことはアデーレから少し聞いてる。悪いな。妹が面倒をかけてるみたいで」
「兄さん!」
クルトは普段からアデーレが突っかかっていることを言っているのだが、ラウラは不思議そうに首をかしげた。
「? いや、むしろこちらが世話になっているくらいだ。アデーレには感謝している」
「ラウラさん!?」
まさかそんな返しをされるとは思っていなかったアデーレは戸惑いの声を上げた。
それにクルトは目を瞬きさせるがすぐに安堵した表情を見せた。
「そっか。そう言ってくれると兄として安心できる」
柔らかい笑みを浮かべるクルトにルーベルトは茶化してくる。
「よ! さすがお兄ちゃん!」
「はったおすぞお前……」
ルーベルトの首を軽く絞めるクルト。しかしすぐに止めて話を切り替えた。
「じゃあ、騒がせて悪かったな。俺らはもう行くわ」
「えー。ごはんはー?」
「こんなになって行く雰囲気でもねぇだろ。また今度だ。行くぞ、アデーレ」
「あ、はい」
「仕方ないね」
そうして解散にしようとするとクルトの動きに先程から違和感を覚えていたラウラが質問する。
「あの……不躾な質問かも知れないが、もしかして貴方は左足が悪いのか?」
ラウラの質問に少し驚いたような顔をした後にクルトはあぁ、と左足を軽く上げて爪先で地面をトントンとした。
「少し前に、事故でな。歩くのには支障ないんだが、走るのが、少しキツイな」
説明を終えると何故かクルトはラウラに対して優しげな、何とも言えない笑みを浮かべた。
その表情の意味が読めず、ラウラが首を傾げていると顔を背けてアデーレの手を引っ張った。
「あ──そ、それではラウラさん! また明日!」
「それじゃあ、またね!」
「あ、あぁ」
去っていく3人を見送りながらラウラは最後にクルトが見せた笑みがやけに頭に残った。
「いいなー。私も会ってみたかった。アデーレのお兄ちゃん」
「そうですか?」
「うん。だって友達の兄弟姉妹って会ってみたくなるでしょ?」
「そんなものか?」
そうだよーと言いながらモニカは頷く。
「それで、どんな感じの人なの? アデーレのお兄ちゃんって」
「どんな感じと言われてもな。少し会話したくらいで相手のことなんて何も知らないんだぞ?」
「カッコよかったとか優しそうとかさ」
「容姿に関しては整った顔立ちだとは思うが、人と成りに関してはどうとも言えない」
それほど話し込んだわけでもない相手なのでラウラは正直な感想を述べた。
強いて言うなら少々ぶっきらぼうな印象はあったが。
そこでアデーレの方から苦笑しながらも補足が入る。
「まぁ、確かに誰これ愛想を振り撒けるタイプではないですね、兄さんは」
ふーんと反応した後にモニカが笑みを浮かべてパンと軽く手を叩いた。
「ま、そのうち会わせてよ! 楽しみにしてる!」
「え? それ決定事項なんですか?」
いいからいいからーとアデーレの肩に手を置くモニカ。そうして次の話題へと移って行った。
ラウラ・リットナーとクルト・フランツが再び会ったのはそれから数日してのことだった。
「ん?」
「あ……」
互いに連れも居らず、書店でバッタリ再会した。
「どうも……」
「あ、あぁ……」
軽く挨拶するも、どちらかが話題を出す訳でもなく、本棚に視線を向けていた。
少しそうしていると互いに無言のままなのに堪えかねたのか、クルトから話を振ってきた。
「ウチはさ……」
「?」
「昔から、上昇志向っていうか、とにかく優秀じゃなきゃいけないってプレッシャーをかけてくる人達でな。俺もアデーレもガキの頃から結構厳しく躾られてきたんだ。まぁ、今は色々あって大分軟化してるんだけど」
どうしてクルトが今、そんな話をするのか分からなかったが黙って訊いて置くことにした。
「アイツさ、ガキの頃は、IS操縦者に成りたかったんだよ」
「それは、初耳だ」
学校でISの話題が上がることも稀なため、ラウラはアデーレがISに興味があったこと自体が初耳だった。
「適性が低くて検査段階で落とされたけどな。結構本気でISに関する勉強とか頑張ってたから、その時の落胆ぶりが凄くてな。それはアデーレだけじゃなくて両親も。IS操縦者が身内に居るってだけでウチの会社としても色々と箔が付くし。そんなんだから、検査で落とされた後はこれ以上、両親を失望させちゃいけないって自分を追い込んでた時期があってな。その所為で周りとの関係が上手くいかなくなっていってトラブルになることもあったんだ」
要は真面目で愚直過ぎたのだ。
肩の力を抜くことを知らずにただひたすら優秀であろうとしていた。
そんなアデーレに周りが疎ましく思い、邪見に扱われることが増えていった。
「アデーレがハイスクールに上がった頃には両親も過度に俺たちに干渉したり、期待を寄せることも少なくなったけど、長いこと染み付いた習慣ってのは中々抜けなくてな。そんな時にお前が現れてくれた」
クルトがアデーレからどう聞いた時は喧嘩腰に突っかかっているようにしか感じない妹を邪険にせずに相手をしてくれる少女。
決して愛想の良い相手ではなかった筈なのに、いつも正面から顔を合わせて話してくれるラウラの存在によってアデーレは肩の力の抜き方を学んでいった。
学年で1位になれないアデーレに両親も必要以上に干渉してこなくなったことで必要以上に肩肘を張る必要はないんだと学びつつあった。
そのおかげで学校生活もだいぶ落ち着いたものになりつつある。
「だから、ありがとう。あいつも、やっと親の重い期待から解放される。なにより、友人も出来て兄貴として安心してる」
「いや、それは……」
クルトの話を聞いてラウラは戸惑い、どう答えるべきか悩んだ。
が、ありのままを打ち明けることにした。
「私は、その……人と、特に同世代の者と話すのが得意ではなくて。そんな中で最初に話しかけてくれたのがアデーレだったんだ」
決して友好的な態度ではなかったが、それでも対抗心というか、敵意は有っても悪意はなかった彼女だけがラウラにとっての話し相手と言えた入学当初。
周りにどう接したらいいのか悩んでいた当初、アデーレが関わってきた時だけが周りと繋がっている時間だった。
「だからきっと助かっていたのは私の方だったんだと、思う……」
孤立していた自分に唯一近付いてくれた少女。そして今は仲の良い友人として過ごせることに本当に感謝していた。
それを聞いて少し驚いた顔をしたクルトだが、柔らかい、ホッとしたような笑みを浮かべる。
「そうか。それは良かった」
「あぁ。私にとってアデーレは大切な友人だ。どんな理由であっても彼女と関われて良かった」
「まぁ、アデーレがお前に突っかかってたのは対抗心だけじゃないけどな。アイツにとってお前は────」
一度首を振って言葉を切り、クルトが時間を確認する。
「それじゃあ、俺はもう行くわ。それと、もし良かったら、時間がある時にでも一緒に食事をしよう。妹の学園生活を、本人以外から聞いて見たいし」
「いや、それならたぶん私より、モニカ────もう1人の友人の方が……」
「じゃあ、その子も一緒に。またな、ラウラ」
言われて差し出された手を反射的に握手を交わす。
手を離して去って行く相手を見送り終えるとラウラは自分の手の平を見た。
大きくて、温かったな、という感想を抱いてラウラもその場を後にした。
かなりスローペースになるでしょうが、こちらもチマチマと投稿していきます。