後2、3話で完結(真)予定。
前話でリア・クレーマーが住んでいたのは1人暮らし用のアパートに変更しました。
『おい! 生きてるか!?』
もう死んだかと思ったとき、その声が聞こえた。
目を開けるとまだぼんやりとした視界で見えたのは機械の腕。その先にあるさらさらとしてそうな銀の髪だった。
足に挟まれた瓦礫を纏ったISで除ける。
まだ覚醒しきっていない頭をどうにか回し、一緒に今日ここに来た妹のことを訊く。
「い、もうとは……?」
「妹がいるのか? 分かった、探してみよう」
ようやく視界がはっきりと見えるようになると、ISを動かしていたのは思ったよりもずっと小柄な少女。
その少女は1人ISで重たい瓦礫を除けていた。
辺りを見渡すと、他にも目を覚ました人たちが自分に出来る範囲で救助活動や、応急処置をしている。
自分も何かしようと立ち上がるが、瓦礫に挟まっていた足が痛み、立つことが出来なかった。
「この子か」
先程のISを纏った少女が、妹を抱えていた。
「あぁ、こいつだ」
「そうか。良かった」
ホッと安堵した表情で息を吐くと丁重に妹を横に下ろす。
妹を抱き寄せると呼吸をしているのが分かり、安心から涙がこぼれそうになった。もし死んでいたらと思うと体が震える。
「ありがとう。助かったよ」
「あぁ」
それだけ返すとまた救助作業に戻る少女。見れば、あっちも誰かを捜しているように必死な表情だった。
「ん……」
腕の中で妹が目を覚ます。
「にい、さん……」
「目が覚めたか? あの子が、お前を助けてくれたんだ」
指をさし、自分達を助けてくれたISの少女を示す。
その姿を、
「兄さん聞いてください! 会ったんです!」
「……もっと分かりやすく説明してくれよ」
入学式から帰って来たアデーレの台詞にクルトは頭を押さえて息を吐いた。
妹はいつも冷静さを心掛けているが、熱くなったり、焦ったりすると途端に要領が悪くなるところがある。兄としては慣れているからいいが、赤の他人からはやや付き合い辛い性格だろうな、と客観的に思う。
「あの時、私たちを助けてくれた方です! 同学年で、主席として挨拶してました!」
聞いて、クルトは以前怪我をした足を押さえた。
あの事件で負った傷は、完全には治らず、日常生活に不便はないが、スポーツなどは出来なくなった。
「そうか。なら、今度家に連れてこい。あの時のお礼くらいはしないとな」
「そ、それなのですが。彼女────ラウラさんはどうやら私たちのことを覚えていないようでして……」
「あ~、そうかもな」
何せ、結構な数を救助していたのだ。その1組だった自分たちなど一々覚えてないだろう。
でもだったら事情を説明すれば良いのではないだろうか?
「だ、だって悔しいじゃないですか! こちらだけ一方的に恩を受けて、認識されてないなんて!」
「いや、それは仕方ないだろ……」
「分かっています! ですから私はあの方に勝負を挑みます!」
「は?」
いったいどういう
「そ、そうすればもしかしたら私たちのことを思い出してくれるかもしれませんし! そ、それにそうすればラウラさんのことも知ることが出来るでしょう」
要は、接点が欲しいのだ。
いきなりお礼がしたい、などと言って混乱させたくない。だから、勝負という形であの少女のことが知りたい。そしてできれば認められたい、という欲の集約された上での案なのだろう。
それに対してくるとの感想は。
(こいつめんどくせぇ。いや、知ってるけど……)
きっとISに乗って自分たちを助けてくれた少女はアデーレにとって憧れ、という感情もあるのだろう。だから、不用意に馴れ馴れしく接することに緊張が走ってしまうという理由もあるのかもしれない。
「ま、がんばれ……」
「はい! もちろん!」
気のない応援に握り拳で力強く頷く妹にクルトはなるべく早くなー、とだけ言ってその場を離れた。
「つまりね。運命の赤い糸なんだよ!」
「いや、まったく分からんのだが……」
鼻がくっ付きそうな程に顔を近づけて力説するモニカにラウラは上半身を後ろに反らしながら困惑していた。
少し前に起こったとある事件からモニカはこうして鼻息を荒くして恋愛話を持ち出してくる。
「アジアの方では一生で結ばれる相手とは赤い糸が小指に繋がってるって言い伝えがあるらしいよ!」
瞳が爛々と星マークでも付きそうな程に輝いている。
その圧に押され気味なラウラは視線を読書しているアデーレに移すが、彼女は苦笑というか、困惑した感じで首を横に振るう。
彼女もモニカのテンションについて行けない様子だ。
ここ最近、モニカはこうした話を良く持ちかけてくる。
それにラウラは辟易しながらも付き合っていた。
「というかだな、モニカ。どうしてそんなに高揚してるんだ?」
「え? だってアデーレのお兄さんに誘われたんでしょ?」
「あぁ、そうだな。しかし、それが何か関係あるのか?」
本当に分からないと言った感じで首を傾げるラウラにモニカはじれったそうに眉間に眉を寄せて頬を膨らませる。
昨日。アデーレの兄であるクルトから今度ちょっと時間作って欲しい。2人で話がしたいという旨を伝えられた。
あの事件で世話になったこともあり、ラウラは用事のない日を教え、予定を合わせた。
「だってそれってデートってことだよ!」
「そうなのか?」
「私に訊かれましても……」
ラウラの問いかけにアデーレは肩をすくめる。
実の妹にそんなことを訊かれても正直どう答えるべきか判断できないのだろう。
「もしかしたら告白とかされるかもしれないよ! ね!!」
「私に言われましても……」
いい加減モニカのテンションを窘め始める。
「まだどういう話かも分からないのに決めつけるのは失礼だろう」
「えー。ならさ、ラウラはお兄さんのことどう思ってるの?」
「善い人だと思ってるさ。実際、あまり面識もない私を妹の友人というだけで助けてくれたわけだしな。だが────」
そもそも、ラウラには恋愛とかその手の話は不得意、というより、未知の分野、という方が適切な表現か。
故に、話題を振られても頭に? が浮かぶだけなのだ。
「ならさ、もしもアデーレのお兄さんが他の女の人と一緒にいたらどう思う?」
「勝手に人の兄でそういう仮定の話をしないで欲しいのですが……」
「……それは、私がどうこう言うことではないだろう」
少しの間と言い淀む声。
その僅かな感情の機微に気づいていたが、これ以上、突っついても何かしら進歩はしないか、とこれ以上続けると言い合いになりかねないこともあってモニカは引くことにした。
「友達がさ、誰かを好きになったら応援してあげたくなるでしょ? お節介かもしれないけど。でも、やっぱり友達には大切だから幸せになって欲しいもん。そうなったらそうなったで寂しいけどね」
それは、モニカの本心だった。
もしも
きっとそれは自分だけではなく────。
「ラウラなら大丈夫だって。こんなにかわいくて性格良しの成績ゆーしゅーなハイスペックな子なんて早々いないんだから!」
「……これでも昔居たところでは落ちこぼれだったんだがな」
「まったまたぁ! それ、どんな超人が募ってたのさ! 謙遜も過ぎると嫌味になるよ!」
背中をバシバシと叩かれてラウラは肩を落とした。
「ラウラちゃん。もしかして好きな子が出来た」
「いえ。何故でしょうか?」
店長に言われてラウラは質問を返す。
「んー? 以前よりもお洋服とかお洒落とかに少しだけ関心が向いたかなって感じたからかしら」
おどけた口調で話すが、視線は真っ直ぐとラウラを捉えていた。
実際、以前はあまり飾りっ気のない服を購入していたが、今は少しだけ可愛らしい服を選ぶようになった。彼女からすればもっと洒落た服でも良いと思うのだが。
「誰かを好きになるって良いことよ。誰かと一緒にいて、幸せだって思えるなら、明日も頑張ろうって思えるし」
「それは……」
店長の言葉はラウラにも理解出来ることだった。
軍という環境から放り出され、失意に落ちたラウラが立ち直れたのは、義祖母や施設の子供たち。そして学校での友人たち。
恋愛とは違うが、大切な人が居るから毎日が充実していて、幸せで頑張ろうと生きていける。
その様子に気付いているのかお腹を擦って話を続ける。
「私も、夫と暮らしていた時は間違いなく幸せだったもの」
「ご結婚の経験が?」
そんな話は今まで聞いたことがなかったラウラは驚いて瞬きした。
「妊娠が発覚した直後に事故に遭ってね。それで子供が望めない身体になっちゃって。それが原因で、ね。離婚を言い渡された時は悔しくて、辛くて泣いちゃったけど、あの人と一緒にいた時間は確かに幸せだったから」
その記憶を慈しむように呟く店長。
きっとそれは今のラウラには共感できない話だった。
「もちろん、今も幸せよ? 自分の店で好きなことに没頭出来て。それにこんなに可愛い店員さんも来てくれたしね」
「きょ、恐縮です……」
照れたように僅かに頬を染める。
きっと店長にとってラウラは、ある意味、生まれてくる子供の代わりだったのかもしれない。だから、親身になってくれている。
「だからラウラちゃん! これを着てキッチリおめかししましょう!」
どこからか取り出した黒を基調とした新作らしいドレスっぽい服。
「そ、そこに行き着くのですか」
「当然!! 私の生きがいだもの!」
詰め寄る店長。
まぁ、たまには店長に素直に付き合うのも良いかもしれないと、ラウラはこの後、彼女のされるがままになった。
「わるい、待たせたか?」
「いや、こちらも来たばかりだ」
クルトが来たのでラウラは読んでいた文庫本を閉じ、鞄にしまう。
呼びつけたクルトは照れたように首を撫でている。
「今日は、時間空けてもらって悪かったな」
「それくらいは構わない。それで、話というのは?」
「それなんだが、ここじゃ何だから、場所を移動しないか。時間的にも丁度いいし、昼飯でも食べながら、な?」
「わかった」
何となくに話題を先延ばしにされているように感じたが、大人しく従うことにした。
移動を始めると、クルトがこっちだ、とラウラの手を握る。
不意に手を握られてバッと離した。
「あ、わるい。嫌だったか?」
「いや……いきなりだったから驚いて」
「あ~。癖でな。
「ほう……」
それを聞いてラウラは腕を組む。
何ともなしにアデーレのことを1つ知れたことに嬉しさを覚える。
それから移動していると、家電店のガラス越しに設置されているテレビからニュースが流れていた。
流れているニュースにラウラとクルトは足を止める。
『1年半前に起こった、軍の敷地内でのテロ事件。多くの女性不審者による犯行で決行されたこの事件で毎年公開されていたISの演習ですが、去年は公開されず、今年はどうするか議論が交わされています。また、この事件を期に我が国での女性優遇の風潮は────』
などとニュースで放送されているとクルトがポツリと呟いた。
「そうか……もうそんなに経つのか」
感情の読めない表情でそう呟いた。
店に入り、2人とも無言で頼んだ料理を食していた。
2人も食事中に会話するタイプでなかったこともそうだが、はっきり言ってお互いのことで知ってることがあまりないのが最大の原因だった。
たまにどちらかが話題を振るも、2、3言葉を交わして会話が切れてしまう。
食事が終わり、クルトが水を飲み干したところで口を開いてきた。
「本当なら、アデーレの奴もこの場に居るべきだったんだが……」
「?」
どうしてここでアデーレのことが出てくるの分からず、ラウラは目を白黒させた。
「さっきニュースでやってた1年半前のテロ事件。覚えてるか?」
「それは……」
質問されてラウラは言い淀んだ。
クルトが何を聞きたがっているのか分からないから。
一度意を決するようにクルトが自分の頭を掻いた。
「……あの事件。俺も、アデーレもその場にいたんだ。それで、お前に助けられてた。覚えてないか?」
「え?」
今度こそ本当に、驚きから目を白黒させた。
「あ、いや……それは……っ!」
そんなラウラの反応にクルトは苦笑した。
「まあ、覚えてないのも仕方ないよな。話したのは少しだけだし。お前、あの時必死な感じだったからな」
覚えてないことに肩身の狭い様子で体を小さくするラウラ。
クルトの話は続く。
「本当は、アデーレと一緒の学校だって分かった時に礼を言いに行くつもりだったんだが、あいつが色々とごねてな。自分たちのことを覚えてないのが悔しかったらしい。前に話しただろ? 妹は昔、IS操縦者を目指してたって。それもあって、ISを使って俺たちを助けてくれたお前に、憧れ、みたいな感情も持ってる。だから、余計に自分を認めてもらうことに躍起になって部分もある。その方法は、兄としてもどうかと思うが……」
あいつ、めんどくさいよなと付け加える。
そこで疑問を持ったラウラが質問した。
「もしかして、その足も、その時に?」
「あぁ。でも、もし自分がもっと上手くやってたらなんて明後日の方向の負い目なんて感じるなよ? 命が助かって、生活に支障があるわけじゃない。お前が気にするようなことは何にもないんだ────ありがとう、助けてくれて。ようやく言えた」
店を出て近くの公園まで碌に何も考えずにクルトの後をついていたラウラだが、何か言おうと声をかける。
「あの、貴方は────」
「クルト。貴方だと誰か分からない時があるし、名前で呼んでくれ。俺も、そうするから。な、ラウラ」
「あ、あぁ、わかったクルト」
名前を呼ばれてクルトが目を細めて笑みを浮かべる。
そして、ラウラの頬に手が触れたが、すぐに離れた。
「またな、ラウラ」
そうして、軽く手を振ってその場を別れた。
その数日後、クルト・フランツは突如として行方が分からなくなった。
とある邸宅で起きた事件。
それを調べながら2人の刑事が話をしている。
「これをやったの。この家の娘さんでしょう? 両親に暴行を加えて逃走って……」
「ここに来る前も事件を起こしていたらしいからな。クソ! 急いで身柄を確保しねぇと!」
幸い、暴行を受けたこの家の夫婦は病院で一命を取り留めているが顔の形が変わるほどに棒などで殴られたらしい夫婦は詳しい話を聞ける状態ではなかった。
舌打ちしたこの場の責任者の刑事が部下たちに指示を送る。
「この家の娘。リア・クレーマーってガキを大至急身柄を確保だ! 念のため、以前住んでた場所もマークして捜査しろ!」
「なぁ、ボーデヴィッヒ……」
「どうした?リットナー」
「どうして、お前は一夏を嫁と呼ぶんだ?普通婿じゃないのか?」
「我が優秀な部下であるクラリッサが教えてくれたのだ!日本では気に入った相手を嫁にする風習があると!」
腕を組んで胸を張るボーデヴィッヒにリットナーは目を細めた。
(ハルフォーフ中尉は何故そんな嘘を吹き込んだんだ?上官イジメか?)
真相は解らないままリットナーは只々首を傾げた。