ラウラが軍隊をクビになった場合の話   作:赤いUFO

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赤い糸

 心のどこかで、英雄視していた銀の少女。

 だが、何度か会って話をしているうちに身近な存在として認識できるようになった。

 

 例えば、予想外なことに遭遇した時のキョトンとした顔とか。

 何か食べてる時の微妙な表情の変化とか。

 妹のことを話した時の、嬉しそうな表情とか。

 拐われて、助けに入った時の安堵した姿とか。

 

 まだまだ、知らないことの方が多い相手だけど、あの子の知らなかった部分に触れて知れた時、俺自身が嬉しいと思えた。

 

 もう少し、もう少しだけ距離を縮めて、傍に居たいと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イッテェ……」

 

 ガンガンする頭と吐き気に眉間に皺を寄せて大きく息を吐く。

 体を動かそうとするが手足が縛られて埃まみれの床に転がされていた。

 

(なんで、こんなトコに……)

 

 靄のかかった思考が徐々に元に戻っていく。

 すると意識を失う直前の記憶が蘇った。

 

 講義を終えて寄り道しながらも時間をかけて帰っていた。

 その帰路の途中で帽子を被った女が地面に縮こまって座っていたので声をかけたのだ。

 もしかしたら具合が悪いのかもしれないと思って。

 すると、突然バチッという音と共に腹に何かが押し当てられる

 スタンガンだと分かったのは体が痺れて倒れる瞬間だった。

 一時的な麻痺で呻くと頭を横から蹴られ、意識を奪われた。

 その一瞬に見えた相手の顔は────。

 

「あぁ、目が覚めたのね」

 

 澄ました声の中に隠しようもない敵意を滲ませた女。

 その相手を視線だけ動かして見上げるとクルトは鼻で笑ってやった。

 

「ラウラの時といい。お前大概人を縛るのが好き────っ!?」

 

 言葉をいい終えるより先にクルトを誘拐した女。リア・クレーマーはその顔を蹴りつけた。

 

「男なんかが気安くラウラの名前を呼ばないで」

 

「キレるとこそこかよ……」

 

 相も変わらずのぶっとんだ思考に息を吐き出すとクルトは問いかけた。

 

「お前、確か両親に連行されてどっか引っ越したんじゃなかったか?」

 

「あぁ……あんな穢いのは要らないから捨ててきたわ」

 

 まるで今思い出したとばかりに発言するリア。

 クルトはその言葉と仕草に以前よりも深い狂気を宿していることを察する。

 その様子にリアが不思議そうに首を傾げる。

 

「こんな状況なのに、随分と落ち着いてるのね。もっと恐怖に怯えると思ってたのに。助けを期待しているなら無駄よ。貴方の携帯は、念入りに壊して棄てておいたから」

 

「……なんてことしてくれんだテメェ。あれまだ買い替えたばっかなんだぞ」

 

「それは御愁傷様。でもすぐにそんな心配は必要なくなるわ」

 

 軽口に軽口を返される。

 クルトがこの状況に必要以上に取り乱さずに済んでいるのは、以前テロに巻き込まれた経験が原因だろう。

 

(2回目ともなれば多少は度胸も付くか……嬉しくはねぇけど)

 

 なんでこんなバイオレンスなことがこうも短い期間で起こるのか。

 そんな理不尽への苛立ちが沸き起こってくるがどうすればこの状況を打開できるか解らないので少し話を伸ばす。

 

「で? 俺なんかを転がしてどうする気だよ? お前の目的はラ────あいつじゃねぇのか?」

 

 また蹴られたら堪らないためにラウラの名前をボカす。

 それにリアが陶酔するような表情で自分の身体を抱く。

 

「そうね。でも、その前にあの子の周りにいる邪魔なモノを取り除かないと。今度こそ、ラウラを手に入れる為に。その第一歩。盛大に幕開けないと」

 

 未来を想像する姿は一見して眩しいモノに見えるがその思考は禍々しい。

 どうやら、クルトを手始めにラウラの親しい人間を排除する気のようだ。

 それを観察しながらクルトはドン引きする。

 

(本物だ本物の変態だ。その上行動力だけはずば抜けてやがる)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラウラは2日前に姿を消した友人の兄であるクルトを捜索していた。

 突如行方不明になった彼。

 それと、昨日訪れた警察からの情報から嫌な予感しかしない。

 

 ────リア・クレーマーが両親に暴行を加えて逃走。

 

 もしかしたら此方に接触してくるかもしれないので気を付けるようにと知らせがあった。

 その次の日にクルトの行方不明。

 偶然と片付けられる程ラウラは楽観的ではなかった。

 

(アデーレとも、揉めてしまったな……)

 

 それは、アデーレが兄のことで何か知らないかと訊かれた際にリア・クレーマーのことを話してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは、兄さんがあの方に連れ去られたということですか?」

 

「確証はないが……」

 

「他に考えられないじゃないですかっ!!」

 

 バンッと音を立てて机を叩くアデーレ。

 家族の危機にやや興奮気味のようだった。

 睨むような視線にラウラは居たたまれなくなり視線を外す。

 その仕草に苛立ちが募り、肩を掴んだ。

 

「ラウラさん。本当に彼女の居そうな場所に心得たりはないんですか?」

 

「すまない。私もあの人について詳しいわけじゃないんだ」

 

 ラウラからすればリア・クレーマーという女性は本当にただの先輩後輩という間柄であり、あの事件からは軽度のトラウマ対象である。

 しかし、そんな謝罪も今のアデーレには逆効果だった。

 

「ならどうすれば……! そもそも、ラウラさんがあの人に目をつけられたから────」

 

「はいストーップ」

 

 間の抜けた声でモニカが制止に入った。

 手を2人の間に挟み、アデーレにニコッと笑いかける。

 

「アデーレ。少し付き合って」

 

「え? ちょっと……!」

 

 そのまま腕を引いて教室から出ていった。

 人気のない場所まで歩くとモニカが問う。

 

「落ち着いた?」

 

 その言葉に目を覚ますように先程の醜態から顔が赤くなり、膝を折って顔を隠す。

 

「……なんて、馬鹿なことを……死んでしまいたいです……」

 

 感情のままに罵詈雑言を友人に叩きつけようとか救いようがない。今すぐに先程の自分の頬を張ってやりたかった。

 そんなアデーレにモニカは苦笑する。

 

「それだけ余裕がなかったってことでしょ? ラウラも気にはしても怒ってはいないと思うよ?」

 

「だからこそ、自分の軽率さが許せないんじゃないですか」

 

 このまま教室を出て謝罪すればラウラも気にしてないと笑ってくれるだろう。

 アデーレ自身、その事を理解していた上での八つ当たりだったのだと気がつき穴があったら入りたい気分だった。

 やや完璧主義のきらいがあるアデーレには今回の件は耐え難い恥辱だった。

「ま、とにかく戻ったらラウラに謝りなよ? そうしたらアデーレのお兄さんを探すの、手伝うからさ」

 

「……はい。ありがとうございます」

 

 立ち上がって教室に戻る。

 するとそこにラウラの姿はなく、早退していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(とにかく、ここら辺で人を監禁できそうな場所は……)

 

 廃ビルや閉鎖された工場。それに精算のやり取りが機械任せのホテル等をピックアップして探す。

 しかし、如何せん数が多くラウラ1人では調べきれない。

 モニカやアデーレと分散して探そうにも危険が高い。自分1人なら対処も出来るだろうが。

 だが、このまま時間をかければかけるほどクルトの危険性が高まる。

 焦りが募る中でラウラの携帯が鳴った。

 手に取って見るとそこには知らない番号が表示されている。

 もしかしたらリア・クレーマーからかもしれないと応答する。

 こちらが何か言う前に聞こえてきたのは盛大な溜め息だった。

 

『3回もコール待ちなんて何様かなお前。クーちゃんが君のことを気にしてるからせっかくこの私が情報提供してあげようっていうのに。ちょっとは自分の現状を弁えなよ凡人』

 

「は?」

 

 電話に相手は日本語で話す。しかし、以前会った織斑千冬とは違う。女性の声だった。

 だが、どこかで聞いたことのある声で。

 

『ま、いいや。束さんもいつまでも君に構ってられるほど暇じゃないし手っ取り早く言うことだけ言うから。1回しか言わないから確りと覚えなよ』

 

 その名前を聞いた時、ラウラは心臓が一瞬止まった気がした。

 

「篠ノ之、束……っ!?」

 

 そうだ。以前のISの発表説明の資料映像で観たことがある。その時聞いた声だった。

 何故、彼女がラウラの携帯に電話をしてきたのか? 

 相手は名前を呼ばれたのにも関わらず、気にした様子もなく自分の話を続ける。

 

『とにかく、君の彼氏? それが捕まってる場所は────』

 

 ラウラの混乱など意に介さず、次々と住所を口にする篠ノ之束。

 

『じゃ、教えたから。後は自分でなんとかすれば。急がないとかなり危ないと思うけど』

 

 言い終えると彼女は一方的に通話を切った。

 

「な、なんだったんだ……」

 

 突然の通信に疑問が尽きないまま、ラウラはもたらされた情報の整理を始める。

 束が言った場所は近いうちに取り壊しが始まる廃ビルだった。

 ラウラも調べようと思っていた場所でもある。

 目を閉じてクルトのことを考える。

 

 最後に触れた手。近づいてきた顔。

 あんなにも中途半端なままに、繋いでいた何かが終わってしまうのは────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リア・クレーマーが初めて心の底から穢いと認識した存在は自身の両親だった。

 年齢がいくつの時だったか。両親が共に浮気をしており、家族3人が揃った時だけは上辺だけの理想の家族を演じる。

 父が次々と新しい女を連れ込む。

 母は若い男に夢中で金を貢ぐ。

 特に母の愛人から向けられる舐め回すような視線が気持ち悪くて仕方がない。

 そんな両親に育てられた自分もきっととても穢い存在に違いないと思うようになるには時間がかからなかった。

 ハイスクールに進学する際にも1人暮らしを引き留めなかったのは、その分だけ愛人との時間が取れるからだと理解していた。

 でももう、あの両親の下で生活するのが限界だったリアは、1人暮らしの許可が下りただけで充分だった。

 1人での新しい生活。新しい人間関係。

 でも、長いことあの両親と暮らし、ようやく手にした僅かな自由で私は他者の穢れに敏感になっていた。

 他者から見れば何でもないことでも嫌悪感が拭えなくなり、特に異性に関しては完全に心を開かなくなった。

 それでも愛想を良くして無難に生きていければ問題は起きなかった。

 そんな生活が続く中でようやく出会えたのだ。本当にキレイな理想の存在(しょうじょ)に。

 あのオッドアイの瞳に見つめられる時間だけが、自分の穢れも祓われているような気がした。

 だから欲しくて堪らないために。

 あの子を自分の腕の中に閉じ込め、リア・クレーマーという存在だけを映すようになったとき、ようやくこの穢れも祓われるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、これでいいかしら」

 

「なんでこんなもんまで用意してんだよ!」

 

「作ったからに決まってるでしょう?」

 

 椅子に座らされたクルトが座る椅子の背には時限式の爆弾が設置されていた。

 冷や汗を流しながらこいつ絶対頭のネジが外れてると再認識する。

 スイッチを押すと残り時間十分のタイマーが起動した。

 

「それでは、人生最後の十分を」

 

 それだけを告げるとドアに近づいてこの部屋から出ようとする。

 しかし、ベランダの窓からトントンとノックするような音が聞こえた。

 

「ん?」

 

 それに気づいたリアが窓の方へ振り向くと同時に派手に硝子が砕かれた。

 そして、その奥から現れたのは────。

 

「ラウラ……?」

 

 手にした警棒で窓硝子を壊し、ラウラが部屋の中へと侵入する。

 

「どうして、ここに……」

 

 訳が分からず茫然としているリアを無視してラウラはクルトの側に寄る。

 

「無事か?」

 

「なんとかって言いたいが、背もたれに面倒なモンが付けられてな。ちょっと動けねぇんだ」

 

 ラウラが後ろに回ると設置されている爆弾を見て顔をしかめた。

 

「一度タイマーが動いたら、下手に動かすとボカンらしい。しかもあいつ、俺の腕もくっ付けてあるから力ずくで外すわけにもいかねぇ」

 

 クルトの説明にラウラの眉間に皺が寄る。

 タイマーは既に8分を切っている。スイッチを押してみたが止まらず、一度作動したら爆発するまで止まらない仕組みらしい。

 顔をしかめてラウラはリアと向き合う。

 

「先輩、この爆弾を解除してほしい」

 

 それは、ラウラからの説得だったが、リアの耳には届かなかった。

 

「どうして。どうしてこのタイミングでラウラが現れるの?」

 

 その疑問だけがリアの心を占めていた。

 警察ならばともかく、ここにラウラが来るなんてあり得ない。

 どういう経緯でこの場所に辿り着いたのか知らないリアの内心は、その疑問だけで他のことに頭が回っていなかった。

 ある結論に至ってギリッと歯を鳴らしてポケットに手を入れて鋭い視線を向けた。

 

「その男がそんなに大事なの……?」

 

「彼は私の友人の家族だ。危険が迫っているなら、行動しない訳がないだろう」

 

 ラウラにとってはそれが1番の理由だった。

 彼に他の感情が有ったとしても、それはまだ自覚のない想いに過ぎない。

 ラウラの返答に。何かが爆発するようにリアの飛び出す。

 ポケットから出した手には、ナイフが握られていた。

 

「どうしてぇ!?」

 

 癇癪を起こし、振るわれるナイフをラウラは警棒で受け止める。

 リアの目には涙が溢れていた。

 

「私は、貴女がほしいだけなのに……」

 

 ようやく見つけたキレイな存在。

 それを手にするために邪魔な存在を排除しようとしただけなのだ。

 私を見て。

 そんな険しい顔じゃなく、微笑んで。

 私にはラウラが必要だから、貴方も私を必要として。

 その願いが暴走し、今は手に入れようとしている存在を傷つきようとしている。

 

「ありがとう。リア・クレーマー」

 

 ラウラはその叫びに穏やかな声で礼を言った。

 リアが何故そこまでラウラに執着するのか。それはまったく理解できない。

 正直、気持ち悪いという感覚も拭えない。

 それでも目の前の女性は犯罪を犯してまで自分を求めてくれているのだということは解った。

 もしもおばあちゃんではなく、この人に拾われていたら、彼女に依存していたかもしれない。

 でも、ラウラにはもう帰る場所があり、彼女なりに望んでいる世界があった。

 大切な友人たちとの騒がしくも楽しい日々。

 そして自分の帰りを暖かく迎えてくれる家族(ひと)

 きっとリアの望みとそれらは交わらない。

 だから────。

 

「さようなら、先輩」

 

 警棒で正確に急所へと打ち付け、その意識を狩った。

 自分に倒れてくるリアの体を受け止めると、入れ替わるようにドアが開いた。

 

「ラウラッ!?」

 

「兄さん、ご無事ですか!?」

 

 入ってきたのはモニカとアデーレだった。

 ここに来る前にラウラがメールでこの場所を報せておいたのだ。

 時間が無いため、ラウラは手を後ろに縛ってモニカに投げ、手短に説明する。

 

「すまない、2人共。時間がない。この人を連れて念のためここから出てくれ。私はクルトに仕掛けられた爆弾を解除する」

 

 リアが持っていたナイフを拾って言うラウラに2人は顔を青くした。

 

「ば、爆弾!?」

 

「は、早く警察に!!」

 

「ダメだ。もう時間がない」

 

 見ると、既にタイマーは3分を切っていた。

 

「昔、爆弾解体の技術を習ったことがある。専門ではないが、素人が作った爆弾なら解体出来る筈だ」

 

 言いながら解体作業を始めるラウラ。

 

「うわーホントにラウラって昔何してたの?」

 

「な、なら何かお手伝いを!?」

 

「1人で大丈夫だ。それよりも、先輩を警察に届けてくれ。私たちもすぐに追いつく」

 

「ですがっ!」

 

 尚もここに残ろうとするアデーレにモニカが手を引っ張った。

 

「わかった。すぐに来てね? この人が目を覚ましたら怖いから」

 

「モニカさん!?」

 

 この場を離れるのを拒否するアデーレにクルトが諌める。

 

「解ってるだろ、お前も」

 

 ここに居ても邪魔なだけで、むしろラウラの集中力を削ぐ形になることを。

 言い返せずに固まるアデーレ。

 モニカが思い出したように話す。

 

「そういえばさ……学校近くのカフェに新商品でスッゴく大きなパフェが出たの。器に4人分くらい入ってる」

 

「それは、スゴいな……」

 

「うん。だから、コレが終わったら食べに行こ! みんなで」

 

「あぁ。必ず行こう」

 

 まるでテストが終わったから遊びにいくような口調でモニカは話す。ラウラもいつもの調子で答えた。

 続いてアデーレも。

 

「先程は、申し訳ありませんでした。その、感情的になってしまい」

 

「気にしていないさ」

 

「後程、しっかりと謝罪いたしますので無事に出て来て下さいね、2人で」

 

「わかってる」

 

 一礼してからリアを連れて出ていく友人たち。

 それからクルトがくちを開く。

 

「よくあの女を一撃で昏倒させられたな」

 

「先輩は寝不足のようだったからな。化粧で隠していたが、目に隈が出来ていた。恐らくは、ここ数日眠ってなかったのだろう。そこに強い衝撃を受けて意識を失っただけだ」

 

 ラウラの返答にクルトはそっか、と返す。

 解体が進んでいくと手を止めて険しい表情を作った。

 

「どうした?」

 

「……マズイことになった。最後の配線だが、赤と青に分かれていて、どっちかを切れば止まるのだが、その判別が出来ん」

 

 設計図でもあれば別かも知れないが、どちらの線を切るのが正解なのか、ラウラには判断材料がなかった。

 息を飲み、荒くなった呼吸が聞こえ、状況の危険度を察する。

 

 もう時間は、15秒を切っていた。

 

「切れよ……」

 

「え……?」

 

「好きな方を切れって。態々ここに残ってここまでしてくれたんだ。どうなったって恨まねぇから」

 

 むしろ、ここから逃げろと言えない辺り、自分が取り残されることを恐がっており、その小心ぶりが情けなかった。

 

「わかった」

 

 覚悟を決めたように顔つきを引き締め、ラウラは片方の配線を、切断した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 廃ビルを出たあとに携帯で警察に連絡を入れ終えると、中からラウラとクルトが出てきた。

 それを見たアデーレが力の抜けたようにその場に座り込む。

 モニカはラウラに抱きついてきた。

 

「良かったー。ラウラなら何とかすると思ったけど! 万が一があったらどうしようって!」

 

 目尻に涙が浮かんでいるモニカ。

 

「実際、最後は危なかったがな。赤と青の配線があって青を切ったお陰で爆発しなかった」

 

「青? ラウラって赤好きだっけ?」

 

 首を傾げるモニカにラウラは苦笑した。

 

「何を言ってるんだ。ヒントをくれたのはモニカだぞ」

 

「え? アタシ? いつ?」

 

 解らないと疑問を表情に出すモニカにラウラは小指を立てる。

 

「言っていたじゃないか。赤い糸だ」

 

 その視線が一瞬だけクルトを捉える。

 もしかしたら、この小指に繋がっている見えない赤い糸の先は────。

 

「繋がっていると思ったらどうしても切れなくなってしまった」

 

 そう、照れたように微笑んだラウラの顔に3人は信じられないモノを見たとばかりに口を半開きにしてしばらく動けなかった。

 

 

 

 

 

 

 




次回で最後です。

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