※この作品はIS〈インフィニット・ストラトス〉の二次創作です(今更)。
朝日が昇り、窓から明かりが差し込んできた光にシャルロット・デュノアは目を覚ました。
臨海学校で軍事用ISである銀の福音との壮絶な戦闘を終え、皆が無事にIS学園で初めての夏休みを迎えて既に1週間が経過していた。
「ん……」
外は強い陽射しが降っているものの室内には冷房が効いており、快適な温度が保たれている。
まだ微睡んでいたい誘惑を押し退け、ゆったりと体を起こし、寝癖で跳ねた髪に触れる。
寝惚け眼を擦り、隣で眠っている同室のラウラ・ボーデヴィッヒのベッドに目を向けた。
出会い頭でのイザコザから良い印象を持ってなかった彼女だが、こうして同室となって暮らしてみると意外と気の合う隣人としてシャルロットはラウラを好いていた。
ラウラの方を見ると背中にパジャマが見えたことにシャルロットはあれ? と首を傾げる。
同室のラウラは睡眠時にパジャマを着ない。
シャルロットが何度か勧めて見たが、あんなのは邪魔だと結局裸で眠る。
(もしかして、冷房が効きすぎてたのかな?)
シャルロットはそう感じないが、裸で寝ていたラウラにはちょっと寒かったのかもしれない。
そう思いながらラウラを起こそうと近寄るとある違和感に気付く。
何故かシーツの膨らみが2人分。
ラウラのベッドで誰かが一緒に寝ていた記憶はない。
誰だろうとベッドの全体に視界を広げる。
「え……?」
眠っていたのは、2人ともラウラ・ボーデヴィッヒ。
互いに向き合うように眠っている2人のラウラだった。
「え、え? え? えぇえええええええええっ!?」
混乱の極みから奇っ怪な声がシャルロットの口から吐き出された。
織斑千冬は目の前の事態に眉間に皺を寄せて額を軽く押さえていた。
突然朝早く寮長室にやって来たシャルロット・デュノアが混乱した様子で『織斑先生! ラウラが分裂して2人になりました!?』などと意味不明なことを言う彼女に出席簿で落ち着かせ、彼女に急かされるままに部屋へと行くと本当にラウラが2人になっている。
この場に居るのはシャルロットを含めて4人。今は2人を椅子に座らせて観察しているところだった。
片方のラウラは睨み付けるようにもう1人の自分を見ており。もう1人は困惑しているように視線を下に向けて肩を小さくしている。
強いて見た目の違いを挙げるなら、片方はいつも通り眼帯を。もう片方はそれを付けていないところか。
流石にこの状況には千冬もどうしたものかと頭を悩ませている。
すると眼帯を付けたラウラが激しい口調で主張する。
「教官! 私が本物です! 偽物はこいつです!」
信じてください! と言わんばかりのラウラ(眼帯付き)のほうに千冬は顎に指を当てた。
言われるまでもなく千冬はこちらが自分たちの知るラウラだと気付いていた。
互いを見比べてみても容姿の違いはないが、纏う雰囲気が違いすぎる。
不安気に迷子の子供のように縮こまっているラウラ(眼帯無し)。
そこには軍人として毅然とした強さのない、まるでそこらにいる普通の女子学生だった。
どうしたものかと悩ませていると、おずおずとラウラ(眼帯無し)が小さく手を挙げた。
「申し訳ない。質問を良いだろうか?」
「なんだ?」
警戒を解かぬままに千冬は質問を許可する。
「ここは、どこでしょうか? 日本、なのですか?」
「……」
間の抜けた質問に一瞬面食らったが、小さく咳をする動作をして答える。
「ここは、IS学園だ。此方も聞きたい。貴様は何者だ? そこにいるボーデヴィッヒと双子の姉妹ということはあるまい」
鋭い視線で詰問されて息の詰まるよう顔をしたラウラ(眼帯無し)が緊張した様子で自身の名前を口にした。
「私、は……ラウラ・リットナー。少し前まで、ラウラ・ボーデヴィッヒだった者です……」
もう1人のラウラ。
ラウラ・リットナーへの質問を終えた千冬は頭を抱えたい衝動を抑え込み、眉間の皺をいつもより深く刻んで大きく息を吐いた。
「平行世界。違う可能性のボーデヴィッヒ、か……」
馬鹿馬鹿しいと一蹴するにはあの容姿は似すぎているし、纏う雰囲気は違いすぎる。これなら、生き別れた双子の姉妹とでも言われた方がまだマシだった。
どうすればいいんだと朝から途方に暮れている千冬に山田真耶が机にコーヒーを置いてくれた。
「お疲れ様です、織斑先生」
「あぁ。ありがとう、山田先生」
気付けにブラックでコーヒーを一口飲むと先程より落ち着いた息が漏れる。
先程の話を部屋の外から聞いていた真耶が困惑を隠しきれない様子で訊いてきた。
「あの、もう1人のボーデ──いえ、リットナーさんの言葉は本当なんでしょうか、織斑先生」
「それはまだ、なんとも言えないでしょう。彼女の言葉が本当ならあまりにも荒唐無稽過ぎます。それにこうなってしまった原因も解らないとなると」
「そう、ですよね」
視線を落とす真耶に千冬がしかし、と、続ける。
「私には、彼女が嘘をついているようには見えませんでした」
不安気な表情で揺れる瞳。
現状に戸惑いながら話す姿。
それら全てが演技だとするなら大した役者だと思う。
千冬の印象が自分たちの知るラウラが感情を表に出しやすいというフィルターがかかっていることは否定しないが。
「もし本当なら、早く帰してあげられたらいいんですけど……」
「そうですね」
生徒との精神的な距離の近い真耶だからこそラウラ・リットナーに対しても同情的だ。
やや生徒に対して畏れられている千冬と親しまれている真耶とでバランスが取れているのだ。
「それで、リットナーさんのことはどうすれば?」
「学園内にいる更識姉に監視を含めて対応を任せようと思います。1生徒に負担をかけるのは気が引けますが、奴なら私たちより上手く対処出来ると思いますので」
IS学園唯一の国家代表。
そして世の裏にも通じている更識の人間である彼女ならば、滅多なことにはならないだろうとの判断だ。
「そ、そうですね。更識さんなら上手く対応してくれますよね」
「その間に、私たちは今回の原因を調べましょう。もっともどう調べるべきかは皆目見当も付きませんが」
椅子の背に体重を預けて千冬は今日何度目かの溜め息を吐く。
思ったのは今が夏休みで多くの生徒が帰省してて良かった、だ。
これが一学期なら、大騒ぎになっていただろう。
なんとか、多くの生徒が学園に戻る前に片を着けたいところだった。
そこで千冬はあることが頭に過る。
(まさか、今回の事件もあの
用意された部屋でラウラ・リットナーは着ていたパジャマではなく用意されたジャージを着ていた。
「ここは、あのときの世界なのか……」
1年と少し前に迷い混んだ。夢だと思っていた世界。
しかも今度はもう1人の自分だけでなく周りにも認識され、触れることもできる。
「私は……どうしてまたここに……?」
寝て起きたらIS学園に。
いや、学校に居たんだったか?
起きる前の記憶が大分あやふやなのが気になるが、それよりもどうしたら向こうに戻れるのかと不安になる。
以前も戻れたのだから今回も戻れるだろうと考えるのは楽観的過ぎるだろう。
しかし、どうすればいいのかは全く分からない。
ベッドに座り、天井を見上げていると、部屋のインターフォンが鳴る。
『さっき一緒だったデュノアだけど。少し、いいかな?』
「あぁ。今開けよう」
ラウラ・リットナーが扉を開くとそこにはシャルロットとボーデヴィッヒ。他数名の生徒がいた。
「わっ! ホントにラウラのニセモノが居るのね!」
「鈴。その言い方は失礼だろ。ごめんな、急に大人数で押しかけて。違う世界のラウラが現れたって聞いて。気になっちゃってさ」
一夏に窘められ、鈴音も言葉が悪かったと気付いたのかゴメン、と謝罪する。
鈴音は思ったことを悪気なく口にしてしまうことはあるが、悪いと思えばしっかりと謝れる娘なのだ。
ビックリして瞬きしているリットナーに後ろにいた箒が納得できないように腕を組んでボーデヴィッヒに問う。
「しかし、別世界のラウラなどと。本当に血縁者ではないのか?」
「私に血の繋がった姉妹などいない」
仏頂面で箒の質問に答えるボーデヴィッヒ。
どうやらあちらは
ラウラ・リットナーの存在はラウラとシャルロットの2人にバレているなら他の専用機持ちに知られるのも時間の問題だろうと千冬から説明を受けたのだ。そして何か気付いたことがあったら自分に報告するようにとも言い含めている。
この場にセシリア・オルコットが不在なのは彼女だけ現在帰国中だからだ。
そんな中でんー、と鈴音がリットナーを左右から観察している。
「それにしても本当にラウラとは雰囲気が違うわねー。本当に軍人?」
「元、さ。私は落ちこぼれで既に軍を除隊した身だし。リットナーも今の保護者の姓だ」
元軍人ということを知らなかった一夏と箒と鈴音は悪いことを訊いたかと視線を游がせる。
ボーデヴィッヒとシャルロットは千冬と一緒に聞いていたので知っている。
場の雰囲気が少し重くなったのを感じてリットナーは気にしなくていい、と困った笑みで告げる。
だから、疑問を口にしたのは一夏だった。
「でも、千冬姉がドイツで教官をしていたのに成績が伸びなかったのか?」
ラウラ・ボーデヴィッヒがかつて移植された左目のせいで成績が落ちていったことと、それを逆行を跳ね退けさせたのが姉の千冬だと知っている一夏は質問にリットナーは首を傾げた。
「? 何故、日本の国家代表である
訳が分からないと戸惑うリットナー。
噛み合っていない会話に一夏は考える。
千冬がドイツの教官をしていない? そもそも、姉がドイツに出向した理由は────。
「あ……」
「どうした、一夏?」
何かに気付いた一夏に箒が気にかけるが、答えずに質問を続けた。
「もしかしてさ、俺が誘拐される事件が、そっちでは起きてないのか?」
一夏の質問に全員があっ、となる。
弟が誘拐され、その情報提供をしたドイツに借りを返すために千冬は1年間ドイツで教官をしていた。
しかし、その事件自体が起きていないなら。
「……あぁ。そんな事件は起きていない。織斑千冬の身内は何事もなく帰国した」
自分が助けた、とは敢えて言わない。
元の世界で織斑姉弟に会い、あのときの出来事に折り合いを着けたとはいえ、気恥ずかしさや、無関係であるこの世界の彼に恩を売っているようだと感じたからだ。
だから大衆が知る事実だけを口にした、
「そっかぁ。あ、ならもしかしてそっちでは織斑先生が国家代表だったりするのかな」
「そうだな。彼女は
リットナーの話を聞いて一夏は嬉しいような、恥じ入るような複雑な表情でそっか、と息を吐いた。
自分が誘拐されたことで姉の顔に泥を塗る結果になってしまった。
そうでない可能性を聞き、嬉しい気持ちは当然あるが、同時に自分に対して情けない気持ちも沸き上がってくるのだ。
そして周りはやはり2人のラウラが別人だと再認識する。
ボーデヴィッヒは織斑千冬を崇拝に等しい感情を持っているのは誰もが知るところだが、このリットナーという少女が、千冬のことを話す際にはまるで新聞や雑誌に書かれていることをそのまま伝えているような声音で、そこにはボーデヴィッヒのような強い感情は見られない。
一夏の様子に周りが何も言えないでいると、ボーデヴィッヒが唐突に彼の手を握った。
「ラウラ?」
「今日は私との訓練だろう。そろそろ行くぞ」
「おい! 引っ張るなって!」
力ずくでアリーナに向かわせようとボーデヴィッヒに一夏は抗議するが聞く耳持たずで引っ張って行った。
部屋を出る瞬間にボーデヴィッヒがリットナーを睨むように見ていたのが気になるが。
それにシャルロットがリットナーに声をかける。
「もし良かったら君も見学しない? 先生たちには許可は取ってあるんだ。モニター室で、だけど」
「良いのか?」
「ずっとこの部屋に閉じ込めて置くわけにもいかないからね。で、どうかな?」
柔らかな笑顔と態度で接してくるシャルロット。
リットナーはどうせやることもないしな、とその申し出を有り難く承諾させてもらった。
モニター室に移動したラウラは千冬の隣で一夏たちのいるアリーナを観ていた。
ISの動きを目で追っていたラウラに千冬が話しかける。
「どうだ? この世界のボーデヴィッヒの動きは」
「とても素晴らしいと思います。もし同じ機体で私があの場に居ても、彼女たちには勝てないでしょう」
この世界の自分に嫉妬する訳でもなく、ただ淡々と思ったことを口にするラウラ・リットナー。
その様子にかつてのどん底にいたラウラを知る千冬だからこそそのリットナーの態度に違和感を覚える。
「悔しくはないのか?」
IS操縦者として成功を収めた自分を見て、思うところはないのか、という少しだけ意地の悪い質問。しかしリットナーは、あくまでも平静だった。
「羨望が無いと言えば嘘になりますが、私はIS操縦者だった自分との折り合いは既に着いていますので」
だからこそかつて復隊を勧めてきた上官に告げたことをもう一度言葉にする。
「私はもう、ISに乗るのは懲り懲りなんです。まだ、具体的なビジョンはありませんが、これからは軍ともISとも交わらない道を行こうと思っています」
だからこの世界の自分に負の感情を抱くことは無いと告げる。
その予想外過ぎる言葉に千冬は心のそこから面食らった。
世界が違うとはいえ、まさかラウラの口からISに乗るのは懲り懲りなどという言葉を聞くとは思わなかったのだ。
「お前は、良い人に巡り会えたのだな」
「はい。あの人は私の人生の師であり、目標であり、こんな人になりたいと思わせてくれる人です」
心の底から尊敬を滲ませる声音。しかし、ボーデヴィッヒが自分を崇拝していたときとは僅かに違うように思えた。
「そうか。会って見たいものだな。お前を育てたその人に」
一拍置いて千冬が話を変える。
「私は、数年前にボーデヴィッヒをIS操縦者として育て上げた」
千冬の話を黙って聞く。
「今でこそ多少マシになったが、この学園にきた時のボーデヴィッヒは純粋ではあったがお世辞にも良い人間とは言えなくてな」
弱い存在を見下し、自分の価値観を絶対視する。
それが軍の専用機持ちともなれば冗談では済まない。
「そしてその責任の一端は私にもあった」
千冬の仕事は教官としてISの操縦技術を向上させること。その意味では確りと仕事を果たしたと言える。
だが、それが結果的にラウラ・ボーデヴィッヒという少女に力を絶対視させ、傲慢な性格へと育ってしまった。
当時、ボーデヴィッヒは千冬に心を開いていたのだから、彼女の心の歪みに気付き、矯正することができた筈なのだ。
しかし、当時の千冬も今よりずっと精神的にも若く、ラウラの心の歪みを気付き、正せる程に大人ではなかった。
それが結局、VTシステムを起動させる結果になってしまった。
そのことに罪悪感と後ろめたさを覚えないほど千冬は無責任ではない。
話を聞き終えたリットナーは少し考えてから自分の意見を口にした。
「しかし、それは貴女だけの責任ではないでしょう」
それは、軍隊という組織に切られたラウラ・リットナーだからこその意見。
「もし貴女に出会わずにいたら、この世界の私も軍から除隊していた。そしてこの世界でも私のように育つとは限らない」
むしろ、そうならない可能性の方が高いように思う。
あの出会いは、まさしく奇跡だった。
「ブリュンヒルデ。貴女はこの世界の私を育てることで軍という組織に留まらせ、守ったのだと思います。それで彼女の心が歪んだとしたのなら、矯正しなかった軍の周りと、変わろうとしなかった彼女自身の責任かと」
何せ、たった1年半で自分はここまで変われたのだ。もっと時間のあったボーデヴィッヒが変われない道理はない。
そして確信する。かつて夢だと思っていた相手のISを蹂躙し、虐げる自分は、この世界のラウラなのだと。
リットナーの言葉を聞いて今日何度目かの驚きの後にふっと笑みを浮かべた。
「生意気を言う。しかし、そうだな。そういう考えもあるのか。あぁ、まったく。本当に会って見たかったよ。お前をそう育てた、その人に」
一旦会話を切ると、何やらアリーナにいる一夏たちの方が騒がしかった。声は聴こえないが、揉めてるように見えた。
その光景に呆れながら千冬が説明した。
「いつものことだ。誰が率先して素人の一夏に教えるか揉めているのだろう」
仕方のない連中だと千冬は頭を押さえた。
しかも言葉で解決しなかったのか、模擬戦というより、喧嘩を始めてしまった
「それは……大丈夫なのですか?」
その心配は世界唯一の男性操縦者である織斑一夏の技術向上のことでもあるし、専用機同士の喧嘩についても、だ。
「もう少ししたらアイツには専用のコーチを付ける予定だ。そうなれば小娘どもも少しは落ち着くだろう」
それはもう盛大な投げ槍の言葉だった。
訓練を終えた一夏たちはリットナーを迎えにモニター室に訪れていた。
千冬は真耶に呼ばれて一時的に退室している。
訓練の感想を訊かれたリットナーは喧嘩の件以外の無難な答えだけを口にした。
会話をそれなりに弾ませながらまとまった人数で階段を上がっていると、ちょうど降ろうとしていた生徒と遭遇する。向こうも会話しながら歩いていた為にこちらに気付くのが遅れ、曲がり角の1番近くにいたリットナーにぶつかろうとする。
しかし、相手に気付いたリットナーは避けようとするが、向こうもギリギリのタイミングでこちらに気付き、反射的に避けようとしたのが仇となり、結局はぶつかってしまう。
上にいた女生徒は少しよろける程度で済んだが、下にいたリットナーはそのままバランスを崩して階段から落ちた。
「おっと!」
幸い、後ろにいた一夏が受け止める形で怪我もなく収まる。
「すまない。助かった」
リットナーが怪我をしなかったことに安堵する一夏。
しかし、そこでリットナー自身が言いづらそうに話す。
「ところで織斑一夏。そろそろ、手を離して欲しいのだが。確かに私は女性としての魅力が乏しい身体をしている自覚はあるが、そんなところを異性に鷲掴みにされるのはさすがに恥ずかしいのだが……」
「そんなところ?」
一夏は視線を自分の手に移す。すると、自身の右手がリットナーの慎ましい胸を鷲掴みにしていた。
「ご、ゴメンッ!?」
リットナーから急いで手を離し、階段を2つ降りる。
本人も落ちそうなところを助けてもらったので気にしていない。
それで当人同士たちで納得して終わる。
だが、それで済まないのが専用機持ちたちだった。
「い、いいい一夏ぁ!? 貴様、女性の身体に妄りに触れるとは何事だ!!」
「なんで後ろから支えて胸なんて掴むのよ!?」
「毎回毎回さぁ。ちょっと学習するべきじゃないかなぁ」
「嫁ぇ! いくら別世界の私といえど、他の女に触れるなど!」
さっきまでの和気藹々とした雰囲気はどこへやら。
彼女たちはISを部分展開し、手にした武器を一夏に向けていた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 確かに胸を触ったのは悪かったけどわざとじゃ! それに俺はその子を助けようと……」
『問答無よ────』
専用機持ちたちが一斉に一夏を攻撃しようとする。いつもならここで一夏もISを展開するか、避けるなどして対処するのだが、この場には彼を庇う人間が1人だけいた。
「ま、待ってくれ!?」
専用機持ちたちと一夏の間に入ったリットナーが両手を広げて一夏を庇う。
「織斑一夏は私を助けてくれただけだ。それなのに、暴力を、それもISを使って攻撃などさすがに理不尽だろう?」
『うっ!?』
緊張した表情で一夏を庇うリットナーを見て専用機持ちたちも言葉を詰まらす。
いつもの調子で攻撃しそうになったが、セクハラを受けた本人がこう言っている以上、自分たちがとやかく行動するのは筋違いだと理解する。
部分展開を解くのを見てリットナーは大きく息を吐くと後ろの一夏に話しかける。
「大丈夫か?」
「あ、あぁ。助かったよ。ありがとう」
緊張が解け、力無く笑う一夏。その表情には見覚えがあった。
それは元の世界で再会した一夏が、後ろについてきた彼女たちを疲れた様子で見ていた表情だった。
もしかしたら、向こうの一夏もコレと同じ目に遇っていたのかもしれない。だとすれば。
(あまりにも不憫だな。向こうに戻れたら一夏に甘い菓子でも送ってみるか……)
そんなことを思った。