ラウラが軍隊をクビになった場合の話   作:赤いUFO

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中編はリットナーのIS学園での日常編です。

書きたいこと書いてたらある程度短縮した筈なのに一万文字越えた。


かがやく時空が消えぬ間に【中編】

「更識生徒会長。こちらの計算が終了しました」

 

「あら~、仕事が早くて助かるわぁ」

 

 生徒会室でラウラ・リットナーは出された書類の計算を終えて生徒会長である更識楯無に手渡す。

 ラウラ・リットナーがIS学園に現れて10日程の時間が流れた。その間に生徒たちが学園に戻り、人が増えたことで人目が増えた。

 別段厳重に隠している訳ではないが、今のところ大っぴらに存在を示す訳にもいかず。かといって犯罪者でもない彼女を部屋に閉じ込めておくのは気が引ける。

 そこで、楯無が普段誰も来ない生徒会室で本人の希望もあり、雑用を任せているのだ。

 その間に別世界のことについても雑談として聞き出している。

 別世界のことなど聞いて何の意味があるのかと思われるが、有意義な情報もある。

 例えば、この世界では織斑千冬が棄権したことで幻のカードとなってしまったモンド・グロッソの決勝戦。

 それをISの知識と操縦経験のあるリットナーから話されればISに関わる者として興味を示さない筈はない。

 もしもリットナーが映像データを持っていればIS学園は資料として高額で買い取る用意をしただろう。

 まぁ、大半が楯無の興味本意であることは否定しないが。

 

「リットナーさんのおかげで色々と助かるわ。本当に色々と……」

 

「?」

 

 意味ありげな表情を見せる楯無にリットナーは首を傾げた。

 リットナーが一夏を庇ってから、専用機持ちたちが癇癪を起こして建物や機材を破壊する回数が減った。

 少なくともリットナーが一夏の傍に居る間は彼女たちもISに依る攻撃を控えている。

 もしも彼女が一夏を庇って死なせてしまっては大変どころではないからだ。

 

 IS学園の資金は潤沢だが、癇癪を起こして壊した建造物を毎度毎度修復していれば当然出る分が増える。しかも、何の益もない。故に今まで地味に経営陣を悩ませていたのだが、リットナーが専用機持ちたちを抑え込んでくれているおかげで、余計な支出が減った。

 その反動かアリーナでの模擬戦で今まで以上に苛烈に暴れているが、アリーナは元々模擬戦の使用を前提とした施設なので許容範囲内だ。

 

「とにかく、リットナーさんが手伝ってくれて、夏休みに片付けなければいけない仕事が大分早く終わりそうなの。助かるわ」

 

「これくらいなら、誰が手伝ってもそう変わらないでしょう。ましてやここはIS学園なのですから」

 

 IS学園の生徒に凡人はいない。

 倍率一万倍を突破した彼女たちは国家や企業に属さずとも間違いなく世間一般では充分にエリートなのだ。

 以前千冬にボーデヴィッヒがISをファッションと勘違いしていると非難したが、それとて憧れのIS学園に入学して少々浮かれるのは十代女子には仕方のない面もあろう。

 それだけ厳しい受験を勝ち抜いたのだから。もちろん、ずっとそのままでは困るが。

 故にリットナーが処理している仕事は誰がやっても結果の変わらないモノだった。

 

「確かにそうだけど、誰でも出来る仕事が誰でもやってくれる仕事とは限らないでしょう?」

 

 誰でも出来るからこそ誰かがやってくれるだろうと思うのも人間だ。率先して。嫌な顔せずにやってくれる者がどれだけいるか。

 

「本当に。ねぇ、リットナーさん。いっそのことこっちに残らない。貴女さえ良ければ、だけど」

 

「いえ。私は向こうにいずれ帰ります。帰りたいです。まだ、方法は解りませんが」

 

「そう。なら、仕方ないわね」

 

 色好い返事など期待してなかったのか。楯無はフラレちゃったと肩を竦める。

 惜しいと思うのは本心だ。今のところマイナス要素といえば、今も机に顎を乗せている本音のお菓子タイムが増えたくらいだろうか。

 

「とにかく、今日はここまでで良いから。お昼でも食べに行ってらっしゃい」

 

「わーい。リットンーお昼いこー」

 

 楯無にお昼という単語が出て、本音が万歳をする。

 ちなみにリットンは本音がつけたリットナーのあだ名だ。

 上機嫌な本音に手を引かれ、生徒会室を出る。

 廊下を歩きながらリットナーからある提案をした。

 それを聞いた本音は嬉しそうにより強く手を引いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 更識簪は今日も整備室で未完成な自分の専用機に向かっている。

 とある事情から製作を後回しにされたことで自ら完成させると誓った専用機。

 しかし、主の意気込みに反して未だに完成の目処が立っていない。

 同学年の他の専用機持ちたちの活躍を聞くたびに歯を喰い縛り早く完成させてあげたいのだが。

 昼になっていることにも気づかずにシステムを構築していく簪に近づく影があった。

 

「か~ん~ちゃん!」

 

「ひゃあぁああっ!?」

 

 首筋に冷たい缶を当てられた簪は驚いて椅子から立ち上がる。

 

「ほ、本音っ!?」

 

「お昼ご飯買ってきたよー。食べよー」

 

 見ると本音の手には購買で買ってきたと思わしき食べ物やら飲み物の入った袋。

 そして本音の後ろにはリットナーがいた。

 

「また昼を忘れているのかと思ってな。良かったら一緒に食べないか?」

 

 2人の提案に簪は断ろうとしたが、朝から何も口にしていなかったことと目の前に食べ物を見せられて、可愛らしくくぅ、とお腹が鳴った。

 恥ずかしそうにお腹を押さえる簪にリットナーと本音は食事を奨める。

 これが気心しれた本音だけなら強く断る事もでき、リットナーだけならあまり知らない相手と断れたのだが、2人揃ってしまうとどう断るべきか判断が遅くなり、結局休憩を取ることとなった。

 

 サンドイッチや菓子パン惣菜パン。そしておにぎりとペットボトル飲料。要は手で食べられる物をそれぞれが好きに食べながらリットナーが簪に話しかけた。

 

「IS製作はどうだ?」

 

「……貴女には、関係ない」

 

 その言葉が製作の状況を如実に語っていた。

 そこで以前から訊けなかった疑問をリットナーは口にする。

 

「誰かに協力を求めないのか? 例えばそこにいる本音は既にIS製作技術と知識を確りと持っていると聞く」

 

 その質問に簪だけでなく本音も口元をヒクつかせた。

 リットナーと簪の出会いは数日前。整備室に訪れたリットナーが訓練機ではなく、専用機が解体された状態で置かれているISに疑問を持って眺めていたことが始まりだった。

 その後、現れた簪にボーデヴィッヒと勘違いした簪とちょっとした言い合い。本音の登場と説明で半信半疑ながらボーデヴィッヒが他の場所にいたことが証明される。

 それからたまにこうして会いに来ているのだ。

 リットナーの質問に簪は顔を背けながらもポツリポツリと答える。

 

「私は、この子を1人で完成させる。させて見せる。そうじゃなきゃ、意味がないから……」

 

「かんちゃん……」

 

 簪の言葉に本音が淋しそうな目を向けた。

 そんな、どこか無理をしていると感じたリットナーは話を変えた。

 

「私は向こうの世界で軍隊を追い出された人間でな。特に、ISの操縦がダメだったんだ。落ちこぼれだった」

 

 肩を竦めて笑うリットナーに2人の何も言えなくなる。

 この世界でのラウラは学年で最も優れたIS操縦者と認識されている。しかし同一存在である筈の少女は自らを落ちこぼれだと言う。

 

「この世界での私も同じ。ただ彼女は優秀な師を得たことで逆境をはね除けた。私も努力していたつもりだったがそれは所詮、個人の努力に過ぎなかった」

 

 独りの限界を感じながら誰にも頼ろうとしなかった自分。もしあのときなりふり構わず周りに助けを求めていたなら、もっと違う未来もあったのかもしれない。

 

「どれだけ言葉を飾っても、私は競争という崖から転げ落ちた敗北者。負け犬だ。だが、そのおかげで大切なモノを手に出来たとも思っている。だからかつての自分には未練はないんだ」

 

 転げ落ちたこと。かつての自分に未練はないと言う少女。彼女に何があったのか知らない簪には受け入れがたく、また、理解しがたい考えだろう。

 もしかしたら誰にとっても。

 しかし、そこでリットナーは首を振る。

 

「いや、違うな。言いたいことはそういうことじゃない。なんと言えばいいのか……うん。私は転げ落ちたおかげで幸せを手にしたが、転げ落ちることの痛みと辛さも理解しているつもりだ。だからもし、落ちそうな人間がいたら、少しでも手を貸せないかと思ってしまうんだ」

 

 それは、転落した人間だからこその結論。

 落ちる痛苦を理解できるのから、誰かに味合わせたくないと。

 そこでリットナーはフッと笑う。

 

「まぁ、それも言い訳だな。1番の理由はもっと身勝手で単純だ」

 

「身勝手で単純?」

 

 いったい、どんな理由があるのか。

 

「私はいつまでこの世界に居られるか判らない人間だ。だから帰る前にせめて、このISを完成させて飛ぶ簪が見てみたい。それが1番の理由だ。それに求められているのに何も出来ないのは辛いからな」

 

 その言葉に簪の目が大きく開かれる。

 たったそれだけ。しかし彼女は簪が専用機を完成させることを望んでいるのだ。

 そして簪ならそれが出来る能力があるのだと。

 あと一歩を踏み出せば、きっと。

 簪は、ギュッと袖口を掴んだ。

 

「貴女の言っていることは理解できる。それが、正しいことも。でも、私は────」

 

 まだ、誰かの手を借りれる自信はない。

 この短い会話で今まで在り方を覆せるほど簪の心境は単純ではないのだ。

 

「そうか。すまないな。長話に付き合わせて」

 

 リットナーもこれだけで簪が変われるとは思っていなかったので特に責めることもなかった。

 

「また、来よう」

 

 ゴミを袋に積めて整備室を出ていくリットナー。

 それを追いかけた本音が、「リットンー。最後のすごい殺し文句だったよー」と誉めていた。

 

 2人がいなくなって静かになった整備室で作業を再開した。

 独りでやらなければいけない。その固定観念に小さな穴が開く。

 彼女はそれを見ないように心の中で覆い隠し、逃げるように作業に没頭した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 逃げるように、というか実際逃げ回っている織斑一夏と遭遇したのは夕食を終えて与えられた部屋の前まで戻ってきたところだった。

 

「ゴメン、リットナーさん! ちょっと匿ってくれ!」

 

「またか……いいだろう。部屋に入ってくれ」

 

「ありがとう! 恩に着るよ!」

 

 リットナーが部屋を開けると一夏が辺りを見渡して部屋に入る。

 一夏がこうして友人たちから逃げ回り、リットナーの部屋に逃げ込むのも既に慣れたことだった。

 ちなみに一夏がリットナーをさん付け呼ぶのはどうにも彼女と話していると年上(実際歳は1つ上)と話している気分にさせられるからだ。

 

「今回は何があったんだ?」

 

「いや……悪いのは俺なんだけどさ。実は今日、アリーナで模擬戦をやる約束をしてたんだけど、帰省してた娘たちが戻ってきてお土産を配ってたんだ。その娘たちがお土産を渡してくれたついでにちょっと話をしてたんだ。そしたらさ……」

 

「約束をすっぽかしてしまったと」

 

「はい。そうです……」

 

 視線を下に向けて項垂れる一夏。

 そのあと捜しにきた専用機持ちたちに攻撃されたのである。

 具体的に言うと鈴音の飛び蹴り。箒の竹刀突き。セシリアのゴム弾。ボーデヴィッヒの極め技とシャルロットの笑顔での嫌味。

 

 ISを使わずとも彼女らは代表候補生と剣道の全国優勝者。身体能力に関してはそこらの男性など歯牙にもかけない。

 鈴音の飛び蹴りを喰らい、他が武器やら攻撃の動作に移ろうとした段階で逃げたのだ。

 

「まぁ、彼女たちもしばらくすれば頭も冷えるだろう。それまでここで休んでいくといい」

 

「いや、ありがとう。本当に助かるよ」

 

 頭を下げる一夏にリットナーはあることに気付く。

 

「一夏。その上着、切れてないか?」

 

 見ると一夏が着ている上着の半袖の部分が切れていた。

 

「あ! ホントだ! 走ってる間に引っ掻けたかな……」

 

 半袖の上着が破けているのを見て、一夏が気落ちするのを見て、リットナーが手を出す。

 

「貸してみろ。縫い直してやる」

 

「え! いや、これくらい部屋に戻って自分でやるよ。悪いし……」

 

「気にするな。どうせ暇なんだ。それに、誰かに見られる前に直した方がいいだろう?」

 

 ソーイングセットを取り出すリットナーに一夏は戸惑ったが相手の好意を無にするのも気が引け、結局は上着を脱いでお願いした。

 針に糸を通したリットナーは慣れた手つきで切れた部分や、解れた箇所を縫い直していく。

 その手慣れた動きに一夏は感心した。

 

「へぇ。上手いな!」

 

「これでもアルバイト先は服屋だからな。店長に教えてもらったんだ」

 

「アルバイト! 服屋で!?」

 

 あまりにもラウラという少女に対するイメージとかけ離れていたため一夏は声を荒らげた。

 リットナーもその事を自覚していたために苦笑する。

 

「おばあちゃん。今の保護者の方の奨めで紹介してもらったんだ。私は自分で仕事を探すつもりだったんだが。だが、店長も常連の方たちも良い人ばかりだ。たまに困った客も居るが、楽しい職場だよ」

 

「へぇ」

 

 楽しそうに話すリットナーに一夏は声を漏らす。ちょっと気になり、質問した。

 

「もし良かったらさ、そのリットナーのおばあさんのこと、教えてくれないか?」

 

「そうだな。強いていえばおおらかな人だ。私が、あぁなりたいと思える」

 

 過去のことを思い出してリットナーは話す。

 

「軍を除隊した後にどこにも行く宛のなかった私は、騙されて荷物を盗られてしまったんだ。最後の財産も全部失って崩れ落ちた私を拾ってくれたのがおばあちゃんだった。あの人は戦うことしか知らず、世間知らずだった私に1つ1つ丁寧に常識や人との関わり方を教えてくれた。今は学校にも通わせてくれている。いつか、おばあちゃんが誇れる自分になること。そして恩返しができるようになることが私の目標かな」

 

 本当に尊敬しているのだろう。リットナーは針を動かしながら嬉しそうに話している。

 リットナーの話を聞きながら、一夏も頷いた。

 

「恩返しか……その考えは俺にもちょっと分かる」

 

「一夏?」

 

「俺、ずっと千冬姉に育てられてきたんだ。親は俺が小さい頃に居なくなっちゃって。高校受験の時も、就職して少しでも千冬姉に楽させようと思ってたのに、高校くらいは出ろって諭された。

 結局はISを動かしてこの学園に来たけど。だから俺も、今は千冬姉に将来恩返しをするのが目標なんだ」

 

 一夏の話を聞いてリットナーは小さく笑みを浮かべた。

 

「そうか。偉いな、一夏は」

 

 まるで姉が弟にそうするように頭を撫でてくるリットナーに一夏は顔を赤くした。

 

「いや! 俺にとっては当然っていうか……!」

 

 しどろもどろ言葉を重ねる一夏。

 そこでリットナーは縫うのが終わった上着の糸を切る。

 

「終わったぞ。どうだ?」

 

 渡された上着を着る。

 

「あぁ! 元通りだよ。ありがとう、リットナーさん!」

 

「それは良かった」

 

 安心したように息を吐くリットナー。

 

「あぁ。本当に色々ありがとう! 何かお礼が出来ればいいんだけと……」

 

「気にするな、と言いたいが、少し教えて欲しいことがある」

 

「俺に出来ることなら何でも言ってくれ!」

 

「箸の使い方を教えてくれ」

 

「へ?」

 

 意外な申し出に一夏は目を丸くした。

 

「一夏や箒が箸を使って食事をする姿が綺麗だと見惚れてしまってな。自分も出来れば使えるようになりたいと思ったんだ」

 

「いいけど。そんなことでいいのか?」

 

「テーブルマナーというのは、必要がなければ身に付かないものだ。 これを逃したら教わる機会もないだろうしな」

 

「あー、そうかも……」

 

 一夏も、いきなりフォークとナイフで食事をしろと言われたら困る。つまり、そういうことなのだろう。

 

「わかった。それじゃあ、明日の朝、和食の朝定食で練習しよう。それでいいか?」

 

「あぁ。よろしく頼む」

 

 

 翌日、箸を使った食事に四苦八苦しているラウラ・リットナーの姿が確認される。

 朝食が終わる頃には拙いながらも箸で物を持って食事をしていた姿も。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、生徒会での手伝いもなく寮内を見て回っていると、入り口にシャルロットが居るのを発見した。

 こちらから声をかける前に手を振って来たが、すぐに何かに気付いたように手を下ろす。

 

「リットナーさんだよね? ラウラが来たのと勘違いしちゃった」

 

「出かけるのか?」

 

「うん。ちょっと、こっちのラウラがねー」

 

 あははと笑いながら頬を掻くシャルロット。そこでボーデヴィッヒが現れた。

 

「待たせたな。何故貴様がここにいる?」

 

 少しだけ鋭い視線をするボーデヴィッヒにリットナーは受け流すように答えた。

 

「たまたまここで会っただけだ。そっちは町に出るのか。しかしそれにしては────」

 

「どうした。なにか問題があるのか?」

 

 若干不機嫌になったボーデヴィッヒが着ている服。それはドイツ軍で支給される公用の服だった。リットナーも昔数回だが着たことがある。

 

「私はこれと制服を始めとした学園支給の服以外所持していない」

 

「そういえばラウラが私服を着てるの見たことがない……」

 

 なるほど、と思ったリットナーはボーデヴィッヒの手を引いた。

 

「おい! 何をする!?」

 

「その服装で町に出るのは少々問題だろう? IS学園の制服では目立つだろう。私が貰った服を貸すから。それを着ていけ。私たちなら体格もそう違いがないから問題ないだろう」

 

 リットナーの服は生徒会(正確には本音)から貰った服を着ていた。

 今も貰った水色の袖無しワンピースを着ている。

 

「いらん! 私は貴様の施しなど受けん!」

 

 と、抵抗していたが、シャルロットの口添えもあり、渋々了承させた。

 ついでにその流れでリットナーも同伴することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「2人とも。駅前に着いたみたいだから降りよう」

 

「あぁ」

 

「わかった」

 

 双子よりも近い存在である筈の2人は互いに録に会話もせずにここまで来ていた。

 これはボーデヴィッヒがリットナーを敵意を向けており、始めの頃の一夏の時程ではないが、似たような嫌悪感を抱いているからだ。

 

(確かに、別の自分なんてどう接すればいいか分からないよね)

 

 シャルロットも、もし今も母が生きていて、幸せに暮らしている自分なんて存在が突然現れたらどう接していたかは想像もできない。つまり、ボーデヴィッヒの敵意であり、戸惑いはそういうことなのだろう。

 

「今日は、どうするんだ?」

 

「うん。先ずはラウラの服を買おうと思うんだ。それからランチにして、最後に小物や雑貨を見て回ろうかなって」

 

 今回はボーデヴィッヒの寝間着を含めた私服の購入が主である。

 

「しかし。寝るときに服を着ないのは以前の私もそうだったな」

 

「あ、やっぱり?」

 

「おばあちゃんに女の子が体を冷やすなと怒られてな。それからは習慣付けた」

 

 他にも友人たちにそれを話した際に恥ずかしいからやるなと言われた。

 

「ラウラはどういう服が着たいとか要望ある?」

 

「何でもいいだろう。強いて言うならこれと同じような物で良いのではないか?」

 

 今、ボーデヴィッヒが着ているのはネズミ色の半袖パーカーにオレンジの半ズボン。少年のような格好だった。

 

「じゃあ、それを1着と他には────」

 

 シャルロットがぶつぶつとボーデヴィッヒが買う服を考えている。

 

「そんなに買うのか?」

 

「うん。さすがに1着じゃあ足りないし。どうせならラウラも色んな服を着てみたいでしょ?」

 

「いや別に」

 

 即答するボーデヴィッヒ。

 元々衣服に関心があるなら私服がないなんて話にならないだろう。

 ボーデヴィッヒの言葉に深く息を吐くシャルロット。

 そこでリットナーが肩に手を置く。

 

「ボーデヴィッヒ。お前は一夏のことが好きなのだろう? なら、複数の服を買ってみてもいいんじゃないか?」

 

「い、一夏が何の関係がある!?」

 

 突然一夏の名前が出て動揺するボーデヴィッヒ。

 

「私が働いている服屋でこんなことがあった。私たちと同じくらいの恋人が入店してな。女性の方は男性のような格好をしていた。だから少し少女らしい格好の服を勧めてな。それを着たら男の方は照れたような反応をしていたんだ。毎回同じ服より多少違う格好の方が相手も違った反応をしてくれることもある」

 

「む。つまり、別の格好の方が嫁も喜ぶと?」

 

「可能性はあるだろう。媚を売る必要はないが、少しくらいは普段と違う格好を試しても損はないだろう。経験だと思って」

 

 一夏の名前を出したことが効いたのか、さっきより前向きに服の購入に興味が出たようだ。

 この後、ボーデヴィッヒはシャルロットと店の店員に散々着せ替え人形にされ、それを見ていたリットナーは元の世界での自分を思い返していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボーデヴィッヒの服選びを終えて昼食を摂っていた。

 最初の店でボーデヴィッヒが散々着せ替え人形にされたおかげでもう昼過ぎの時間になっていた。

 そこでリットナーがボーデヴィッヒにある質問をした。

 

「そういえば、ずっと疑問だったのだが、どうしてボーデヴィッヒは一夏を嫁と呼ぶんだ? 婿じゃないのか?」

 

「ん? それはだな。我が優秀な副官であるクラリッサが教えてくれだのだ。日本では気に入った異性を自分の嫁とする文化があると!!」

 

 自信満々なボーデヴィッヒの言葉。正確にはクラリッサの名前が出て盛大にリットナーが蒸せた。

 

「クラリッサ! ハルフォーフ中尉殿がそんなことを言ったのか!?」

 

「クラリッサのことを知っているのか?」

 

「知っているも何も……」

 

 リットナーにとってクラリッサ・ハルフォーフ中尉は部下から人望があり、生真面目で、それでいて軍への復隊をリットナーに強要しなかった、謂わば理想の上司だった女性だ。

 彼女がそんなトンチンカンなことを言ったと言う事実がリットナーには信じられなかった。

 

(もしや上官イジメか? しかしあの人がそんなことをするとは思えん。いや、もしやリットナー(わたし)とボーデヴィッヒがここまで違うように中尉も私の世界とはまったくの別人なのかもしれない! そうに違いない!)

 

 リットナーが頭の中で納得させているとシャルロットが視線を別の方へと向けていた。

 向いていた視線の先は、二十代後半のガッチリとしたスーツを着た女性だった。

 なにやら向こうは悩みごとがあるらしく、頼んでいたであろう料理に手をつけずに頭を抱えていた。

 

「ねぇ、ちょっと、いいかな?」

 

「お節介は程々にな」

 

 シャルロットの問いにボーデヴィッヒがそう答える。

 それに、嬉しそうにうん、と、答えたシャルロットが項垂れている女性に声をかけた。

 

「あの……どうかしましたか?」

 

 シャルロットが話しかけると、その女性は数秒硬直した後にガバッとシャルロットの手を掴んだ。

 

「あ、貴女たちっ!?」

 

「は、はい?」

 

「アルバイトに興味ない?」

 

 女性はそんなことを訊いてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 話を要約すると、貴重なアルバイト店員だった2人に駆け落ちされ、人手不足に陥っていたらしい。

 それも今日は本社の視察やらなにやらがある時に。

 だから今日だけでいいからアルバイトをしてくれないかと土下座する勢いで頼まれた。

 ついでに前払いとばかりに3人が食べた昼食も、支払ってくれた。

 そんなわけで相手の勢いに乗せられた3人はそれぞれ渡された制服を着ていた。

 

「それはいいんだけど、なんでボクだけ執事服?」

 

 ボーデヴィッヒとリットナーがオーソドックスなメイド服にも関わらず、シャルロットのだけが執事服だった。

 ちょっと、いいかな? メイド服を着てみたかったシャルロットが不服そうな顔をするが、店長曰く似合うから、らしい。

 リットナーはラウラが2人居ることを不自然に思われないようにボーデヴィッヒとは親戚。そして名前を親友から借りてモニカ・リットナーと名乗った。

 

 こうして1日だけの喫茶店アルバイトが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シャルロットが女性客に接客している傍らで友人であるラウラ・ボーデヴィッヒのことを見ていた。

 

 

「水だ、飲め」

 

 そう言って乱暴にテーブルに水を置くボーデヴィッヒ。

 しかも続く言葉が。

 

「客でないなら出ていけ」

 

「はっ。お前ら凡夫に違いが分かるとでも?」

 

「飲んだら帰れ。邪魔だ」

 

 これである。

 本来ならクレームを入れられても文句の言えない対応だがボーデヴィッヒの優れた容姿と合わさって接客を受けた客たちはむしろその意外な対応に虜になっている。

 

(リ、リットナーさんはどうかな?)

 

 もう1人のラウラはどうしているのか。気になって見てみる。

 

「いらっしゃいませ。ご注文を承って宜しいですか?」

 

「失礼させていただきますね」

 

「こちらが○○のセットです」

 

 非常に無難な接客をしているのだが、微笑を浮かべ、失敗をしないように丁重に接客するリットナーにボーデヴィッヒとの対比となって男性客たちからどちらが良いか論争になるほど人気を取っていた。

 

「眼帯の銀髪メイドさんに罵れたい! あの蔑む、視線が堪らんとです!」

 

「いや! 俺はあの眼帯のない方のメイドさんだ! 甲斐甲斐しく接客してくれる姿がいい!」

 

 などと客たちの間で話題が走っている。

 シャルロットの方も、女性客たちから絶大な人気を誇っていた。

 いつの間にか3人が中心になって店が回り、店長が上手く回すことで店内は活気付いていた。

 誰もが挙って3人の誰かを指名してくる。

 そんな忙しくも平和な店内に突如不埒な客が乱入してきた。

 

「全員動くんじゃねぇ!!」

 

 どこで手に入れたのか、その手には拳銃どころかショットガンやサブマシンガンが握られている。

 夏だというのに安っぽいジャンパーにジーパン。覆面を被って抱えているボストンバッグには大量の紙幣が見える。

 どう見ても銀行強盗です。本当にありがとうございました。

 

 店の外では警察が包囲し、アナログな対応をしている。

 それを見ていたリットナーは息を吐く。

 

(こういう事件に巻き込まれる確率が高過ぎやしないか?)

 

 去年テロ事件に巻き込まれたばかりなのに、と思いつつ敵の装備を確認する。

 

(拳銃ならまだしも、ショットガンとサブマシンガンが厄介だな。下手に撃たれて店内の誰かに当たれば────)

 

 その先は考えるまでもない。

 

 強盗たちは入り口近くに座っていた高校生と小学生の2人で来ている姉妹の小学生の方を人質に取って座っている。

 今にも失禁しそうなほどに体を震わせている女の子。

 それを見たリットナーが動く。

 

「リットナーさん?」

 

「私が何とかして人質を替わってくる。その隙に強盗たちを無力化してくれ」

 

 リットナーも元軍属。運動能力とこういった時の判断力には少なくとも民間人よりは優れている。

 そしてここには他にもISの代表候補生が2人も居るのだ。

 人質が居るために手が出せなかったボーデヴィッヒとシャルロットはそれぞれ頷く。

 低くしていた身を立ち上げ、強盗たちに近づいていく。

 

「なんだぁ! なんか用か、お嬢ちゃん」

 

 拳銃をちらつかせて凄む強盗のリーダーと思われる男にリットナーは自分の胸に手を当てる。

 

「どうか、その()を解放してもらえないだろうか? 人質が必要なら私が替わろう。見ての通り武器も持っていない」

 

 両手を挙げて無抵抗の意志を示す。それに周りの客たちがざわざわと騒ぎ出す。

 

「ふん! 嬢ちゃん。意気込みは買うがな。俺たちは────」

 

「いいじゃないっスか、先輩。こんなガキよりこっちのメイドさんの方がいいっスよ! どうせ人質なら誰がなっても同じだし!」

 

 興奮した様子でサブマシンガンを持った男が近づいたリットナーのスカートに手を入れて太腿を擦ってきた。

 それに不快感を覚えながら表情を変えないリットナー。

 

 ちっ、と舌打ちした後にリーダーが女の子を解放する。

 すれ違う瞬間にリットナーは安心させるように微笑み、よく頑張ったな、とでも言うように女の子の頭を一瞬だけ手を置いた。

 

 店内にいる視線が人質となった少女に注がれる。

 リットナーは強盗に挟まれる形で座らされ、銀の髪やメイド服の上から身体をまさぐられていた。

 

 そうして意識が散漫になって強盗たちが銃を下ろした瞬間に身を潜めながらチャンスを窺っていた2人が動いた。

 

 先ずはシャルロットが持っていたトレイを顔に投げ付けてショットガンの強盗を無力化。

 サブマシンガンを上げようとした男はリットナーが手刀を手首に叩きつけて武器を床に落とさせるとそのまま蹴って遠くに移動させる。

 ついでに男の溝尾に拳を入れて無力化。

 

「このガキ!?」

 

 リットナーの反対にいた男が頭に拳銃を押し当てて来たがそれより速く移動していたボーデヴィッヒが手首を捻って銃を落とさせるとそれを拾うと同時に顎を膝で蹴り上げて意識を奪う。

 ちなみにその時、スカートが捲れて見えた脚のラインを見た男性客たちが歓喜していた。

 

 突然の反撃に対応できずに無力化されていく強盗たち。

 最後にはラウラが奪った拳銃。シャルロットが拾ったサブマシンガンをリーダーに向けてこう宣言した。

 

『チェックメイト!』

 

 これで、強盗たちが無力化されたと思われたが倒され伏していた

 男が立ち上がり、最後の抵抗とばかりにナイフを出して最初に人質になっていた女の子に襲いかかる。

 それにいち早く反応したのはリットナーだった。

 

「やめろっ!?」

 

 女の子を庇うように飛び込んで抱きしめると振るわれた刃がリットナーの左目の下の頬を掠めた。

 もう一度振るわれようとしたナイフはボーデヴィッヒが発砲した

 銃弾がナイフの刃に当たり、衝撃で手から落ちた。

 

「クソッ」

 

「おいアンタ……いい加減にしとけよ?」

 

 手首を押さえて悪態つく男の首を店内にいたガタイの良い男性客がドスの効いた声とともに掴んだ。

 いや、1人だけでなく、店内にいた男性客のほとんどが最後の抵抗をした強盗を取り囲んでいる。

 

「リアル小学生女子を人質に取ってなにしてんだコラァ!!」

 

「つーか銀髪メイドさんのスカートの中触るとか羨ましすぎるんだよ、死ね!!」

 

「服の上からだって金払っても触らしてくれねぇんだぞ、あぁっ!!」

 

 私情を交えながら私刑にされる男をポカンと見ているとシャルロットがリットナーの手を掴む。

 

「ゴメン。さすがに事件解決の為とはいえ警察の厄介になるのはマズイから、このまま裏口から出るよ!」

 

「わ、わかった!」

 

 そのまま3人裏口から逃走した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう! 無茶して! 顔に傷が残ったらどうするのさ!」

 

「すまない。心配をかけた。だが、あの子が襲われるのを黙って見ている訳にはいかなかったんだ」

 

「そうだけどさー」

 

 腰に手を当てて怒ってますというポーズをするシャルロット。

 小さくともリットナーの顔に傷が付いたことをシャルロットは本気で怒っていた。

 逃げる前に自分も一発殴っとけば良かったと思うくらいに。

 今はシャルロットが渡した絆創膏を張って傷を隠している。

 そうだとそこでリットナーはボーデヴィッヒに向く。

 

「さっきは助けてくれてありがとう。助けられてしまったな」

 

 笑みを浮かべて礼を言うリットナーにボーデヴィッヒは顔を背ける。

 

「べ、別に、私は私のすべきことをしただけだ」

 

「あー! ラウラもしかしたら照れてる?」

 

「そうなのか?」

 

「違う! 断じて違う! 貴様も! 私と同じ顔でそんな腑抜けた表情をするな!」

 

 顔を真っ赤にしたボーデヴィッヒがリットナーの頬を引っ張り始めた。

 そこで、先程人質に取られていた女の子とその姉が現れる。

 女の子はあー、いた! とトタトテ駆けてこちらに近づく。

 

「さっきは本当にありがとうございました」

 

「あ、いや! 災難でしたね」

 

 ペコペコと頭を下げる姉の方にシャルロットは気にしないでと告げる。

 女の子が持っていた物を差し出した。

 

「たすけてくれて、ありがとう!」

 

 それは、クッキーが5枚入った包み。それが3袋に分けられている。

 

「ボクたちに?」

 

「この子がどうしてもお礼がしたいって。どうか受け取ってください」

 

 言われてここで拒否するのも悪く、それぞれクッキーの入った包みを受け取った。

 最後に女の子が勘違いを言葉にした。

 

「お兄さんもカッコ良かったよ!」

 

 執事服のままのシャルロットを男性と勘違いした女の子がそう言うと、姉の方がコラ、と嗜めるが、本人は分かってない様子だ。

 シャルロットは盛大に引きつった笑みを張り付かせる。

 それを聞いていた2人のラウラは口元を押さえてプルプルと震えていた。

 

「ちょっ! 2人とも笑わないでよーもお!」

 

 距離ができていた2人のラウラ。

 今日は、そんな2人が少しだけ距離を縮めた。

 そんな、1日だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ひっどいなー、ちーちゃん! 束さんそんなに暇じゃないもん!』

 

 プンプンとでも言いそうな友人の態度に千冬は悪かった悪かったと電話越しで繰り返す。

 

 ラウラ・リットナーに関する調査が依然として進まぬ状況に千冬は最後の手段として本当に仕方なく束に連絡を取った。

 もしかしたら今回の件はこいつの仕業ではないかとも思って。

 とにかく、理解できない不可解なことが起こったら束を疑えという固定観念があったのも事実だ。

 だが、どうやら今回は本当に違ったらしい。

 怒っている束に千冬は今までお前がやらかしてきたことを思い返してみろと言いたいが不毛なのもわかっているために口だけ謝っておく。

 

『でも平行世界かー。ちょっと、どうやってこっちに来たのか気になるね』

 

「お前はどう思う?」

 

『んー。理屈は色々と付けられるけど、直接調べないとちゃんとしたことは解らないなー。でも、私の考えが正しいなら』

 

 世界を震撼させた天災は如何なる理論を並べてその推論に辿り着いたのか。

 

『そう長いことは、こっちの世界には居られないんじゃないかなぁ?』

 

 ただ別れが近いことだけを確信していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




束の出番はここだけです。今回彼女は黒幕じゃないよ!という説明のために出てきただけです。
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