そして前編は短い。
「なぁ、みんな。俺たちももう高校3年。来年にはこの学園を卒業して大学入学したり就職する年齢なんだぞ? もう
両手を挙げながらもIS学園生徒会長織斑一夏は目の前に並んでいる女子たちを説得していた。
生徒会室で不機嫌な表情を並べながらこっちを見ている同学年の専用機持ちたちと1学年下で生徒会書記を務める親友の妹である五反田蘭。
少し離れて面白そうにこちらを見ているのほほんさんこと布仏本音にはお茶とおやつ抜きの刑にしてやろうと思う。
というか、以前贈られたクッキー箱の中身半分をパクパク食ったことは未だに忘れてない。
「いい加減に、なによ?」
セカンド幼馴染みである鈴音に凄まれて一瞬だけ萎縮するが、意を決して話す。
「いい加減ちょっとしたことで不機嫌になって詰め寄るの止めろって言ってんだ! 家にお客を招くだけなのになんでそんな機嫌が悪くなるんだよ、おかしいだろ!!」
流石に家に客を呼ぶだけで不機嫌になられたら堪らない。
堪忍袋の緒が切れかかって声を出す一夏にセシリアが上擦った声で反論する。
「し、しかし! その方は女性でしょ! 異性の方をお泊めになるなんて破廉恥ですわ!」
「そ、そうだぞ一夏! 貴様! 誰とも分からぬ女子を泊めるなど、いつからそんなふしだらな男になった!」
「……ズルい。私たちだって一夏の家に泊まったことなんてないのに」
箒と簪も追従してくるのに一夏は頭をガリガリと掻く。
「あのなぁ。あの子は俺の恩人だぞ。休みを利用して日本に旅行に来るって言うから、以前町を案内する約束も果たそうってだけだろ。それに数日とはいえホテル代も大変だろうから家に泊まったらって言っただけだぞ。千冬姉にも許可は取ったんだ。何が問題なんだよ?」
「日本に旅行なら京都とか観光名所が在るでしょう? 何で態々この近くに旅行するんですか?」
蘭まで不愉快そうな声を出す。
その相手が一夏目当てで旅行と称して会いに来るのは明白だった。
少なくも彼女達の中では。
険悪な雰囲気になりかけたところで生徒会室の扉が開く。
「織斑。この書類で少し聞きたいことが────」
現れたのは一夏の姉である織斑千冬だった。
千冬が現れて集まっていた箒たちの身が固くなる。
「ちふ────織斑先生これは……」
「いや、説明はいい。大体察した」
流石に2年と少し教師と生徒の関係が続いていると彼女たちの行動パターンは分かりやすい為、一目見て状況を理解した。
面倒そうに小さく息を吐く千冬。
「で? 人様のプライベートにあーだこーだと口を挟むのは楽しいか?」
目を細めて質問する千冬にたじろいでいるとシャルロットが手を挙げる。
「あの……織斑先生は今回どうしてあの子が泊まるのに許可を?」
「そんな事をいちいち話さなければならない理由があるのか? と、言いたいところだが、お前達が納得しないか」
仕方ないと諦めた様子で話し始める。
「あの少女を家に招くのを許可したのは、去年あちらに訪れた際に結局簡単な礼だけ言って帰ってしまったからだ。家に泊めるくらいの礼は尽くすさ」
「そ、それでもし何らかの間違いが起こったら……」
間違いってなんだよ、と一夏が眉をつり上げるが、黙っている。
「ほう? 貴様は一夏が女を連れ込んでそういうことをする男だと思っていたのか? 随分と私の弟は信用がないんだな」
「いえ! ですが、その……相手の方が……」
「それもあまり心配はいらん。あの娘はそんな行為に及ぶほど余裕はないだろうからな」
「?」
千冬の言葉に誰もが首をかしげる。
去年、件の少女であるラウラ・リットナーの情報は千冬の耳にも卒業した更識楯無から聞き及んでいた。
その経歴や現状から色恋沙汰に及ぶ可能性は朴念人である弟の性格も合わさって低いと判断していた。
少なくとも目の前にいる少女たちよりは。
それに、態々泊めてくれる人間に手を出すほど恥知らずではないだろう。
何か言いたそうにしている小娘たちの言い分にこれ以上付き合う気はなく、パンパンと手を叩く。
「そういう訳だ。私は今から織斑と学園祭について話があるんだ。生徒会と関係のない者は出ていけ」
世界最強の一睨みだけで専用機持ちたちは肩を落として退散を余儀なくされた。
その様子に千冬はやれやれと呆れて息を吐いた。
その日の夜。狭い一部屋に集まった専用機持ちたちは話し合いをしていた。
「去年はあのふざけた契約書の所為で遠巻きに見てるしかなかったけど、今年はそんなの無いからガンガン攻めて行くわよ!」
去年は接触出来なかったが、今年は
もちろん問題を起こさなければ、だが。
想い人に自分が良く知らない女が近づくことに視野が狭まり、ストッパーが居ないことで斜め上に思考が誘導されていく。
未だに一夏との仲が誰も進展しないのも理由かもしれない。
その感情を嫉妬と誰も理解しないまま、的外れな会議は進んでいった。
「ではラウラさん、良い旅を」
「あぁ、ありがとう」
見送りに来たアデーレにラウラが礼を言う。
「お土産楽しみにしてるからね!」
「分かってる。ちゃんと買って帰るさ」
モニカの言葉にラウラは苦笑する。
「ラウラ。体には気を付けてね。向こうのお話、楽しみにしているわ」
「うん。行ってきます、おばあちゃん」
少しの間抱擁を交わして旅行の荷物が入ったキャリーケースの取っ手を掴む。
小さな少女の小さな旅が始まろうとしていた。
マイペースに更新します。