はい。数行書いては止まるのを繰り返してたら遅れましたすみません。
誰も覚えてないかもしれませんが、取り敢えず日本旅行編も終わりです。
「ねぇ! これってどう思う!?」
「そうだなぁ……」
鼻がくっ付けそうなくらい近づいた鈴音の憤りにラウラは麦茶の入ったコップを溢れない程度に揺らしながら考える。
現在女子達の話題は一夏の異性に対する鈍感っぷりだった。
鈴音以外にも一夏との間にこういう事があったと話してくれる。
ちなみに一夏本人はじゃんけんの結果、シャルロットを連れて買い出し中。
出されていた麦茶を口を付けてからテーブルに置く。
一夏の鈍さにも驚かされるが、まぁそんなものか、とも思う。
「私が一夏の立場でも気付かなそうだが……」
「何故ですの! 普通気付きますわよ!」
ラウラの呟きにセシリアが腰に手を当ててぷりぷりする。
自分が深く語れる事では無いが、と前置きして話す。
「結局、相手の気持ちなんて見えたり触れたりする訳じゃないからな。いや、もっと単純に怖いのか」
「怖い?」
簪の反芻にラウラは頷く。
「自分が
「それはどういう────」
箒が話を進めさせようとすると一夏とシャルロットが戻ってきた。
買い物袋を1袋ずつ持つ2人。何やらホクホクとした表情をしているシャルロット。これでは罰ゲームではなくご褒美の様だった。
「何の話をしてたんだ?」
買ってきたお菓子やジュースの入った袋を置いて話題に入ってくる。
すると鈴音が少し意地の悪い笑みを浮かべる。
「ラウラを好きな人が居るっていう話よ」
「……へぇ」
興味ない様子を見せながらも知りたさを隠しきれない様子の一夏。
しかもその反応が気に食わなかった様子で女性陣が反応する。
「ちょっと一夏! なによその反応はっ!」
「いや。なんで怒ってるんだよ」
突然不機嫌になった鈴音達に一夏は困った顔をする。
「それで、ラウラはその……その人と付き合ってるのか?」
「まさか。そんな人が居れば、ここに泊まりに来ないさ。私にだってそれくらいは分かる」
流石にラウラも恋人が居て、異性の家に泊まるのが非常識という常識はある。
いや、他に頼るアテが無かったとはいえこの状況も中々にグレーゾーンな気がするが。
一度女性陣を見回して話してみるのも良いかもしれないと思った。
「その人は、私にとってはただの先輩だった。顔を合わせれば挨拶はするし、時折親切に接してくれる。その程度の関係だった。私にとってはな」
「だったとはどういうことだ? 今は違うのか?」
引っ掛かる言い方に箒が問うとラウラは少しだけあの時の事を思い出して陰鬱な気持ちになった。
「あれは、去年の暮れ頃だな。アルバイトを終えて帰宅しようとした私にその先輩が話しかけて来てな。内容はただの世間話だったのだが──―」
「だが?」
不穏な様子に全員の表情が険しくなる。
「少しだけ会話した後に、私はあの人に薬で意識を混濁化させられて誘拐されてしまったのだ」
「ハァッ!?」
ラウラの証言に鈴音が驚きから立ち上がる。
他の少女達も驚きから動きを止め、一夏はジュースを溢して大慌てで拭いた。
「あれには驚いたな。意識がはっきりしてきたら先輩の部屋で、私の盗撮写真が壁びっしりに貼られていたのだから」
困ったように息を吐くラウラに周囲は顔をしかめて話を聞く。
「私はそれまで、好意というのはとても素晴らしく嬉しいモノだと思っていた。しかし、あの時は流石に怖かった。肝を冷やした、と言うべきか。あの人の口に乗せた好意の言葉1つ1つに嫌悪感を覚える程だ」
それはそうだろう。
どんなに強い好意でも自分の盗撮写真を壁に貼り付け、誘拐する人間の想いなど受け入れられる訳がない。
「それで、その後はどうなったんだ……?」
今こうして無事なのだから大事にはならなかったのだと思うが、実際にはどうだったのかなど一夏達には分からない。
「ん。異常に気付いた友人やその兄が助けてくれたぞ。後の話し合いで先輩には接近禁止令が出された」
その後も先輩とは色々とあったが、余談になるので黙っている。
「誰かを好きになるのは良い事だ。だが、相手の迷惑を考えない言動はその人にとって苦痛になってしまう。この国で言う思いやり、というやつだ。それを忘れて自分の感情ばかり押し付けると相手を傷つけてしまう。自分が好きなのだからその人を好きにして良いなんて話は、絶対に間違っているのだから」
どうにも一夏の周囲にいる女達はそこら辺の感情のコントロールが下手なように思える。
自分の言葉にどれだけの力があるかは分からないが、険悪にならない程度に釘を刺しても良いだろう。
ラウラの話を聞いて彼女らは神妙な表情で視線を逸らした。
「これでいいぞ」
「あぁ。ありがとう、箒」
神社の祭に行く約束の日。
ラウラは箒に着付けを手伝ってもらった。
立ち上がって動けるかどうか確認する。
「うん。思ったよりずっと動きやすいな」
慣れない衣装にもっと動きづらい印象を持ったが、激しい動きをしなければ大丈夫そうだ。
くるりと回るラウラに箒は微笑む。
なんというか、こうしてラウラの着付けを手伝うと、ちょっとだけ妹が出来たような気分になる。
そこで着付けをしていた部屋の襖が開く。
「準備は終わったかしらー?」
入ってきたのは元IS学園生徒会長の更識楯無。
ここは更識の実家なのだ。
ラウラの浴衣姿を見て、楯無は満足そうに頷く。
「うんうん。似合う似合う! あぁ、でも動きやすくするなら後ろの髪はアップにして纏めた方が良いんじゃないかしら?」
「あぁ。そうですね。でも彼女の髪はサラサラで。傷まないように結ぶのが難しくて」
「どれどれ。うわホントだわ。私はほら、髪が跳ねちゃうから。なにか特別なケアしてるの?」
「いえ。特に特別なことは。昔からこうですし」
「羨ましいわね〜」
別に自分の髪質にコンプレックスがある訳ではないが、それはそれでラウラの真っ直ぐな髪が羨ましく思う。
ラウラの髪が傷まないように編んでいく。
「はい完成。いやー触ってて気持ち良いわ」
後ろ髪をアップにして纏められた。
「どうかしら?」
「あぁ。ありがとうございます。後ろ髪を気にしなくていいので動きやすいですね」
「気に入ったなら、自分でもやってみてね。それじゃあ行きましょうか」
楯無に促されて3人は部屋を出ると、別の部屋では既に着替えを終えていた面々が揃っていた。
「遅かったな────」
テレビのニュースを見ながら待っていた一同。
一夏が振り向いてラウラ達を見ると、驚いた様子で言葉が止まる。
体を身じろぎさせてラウラが問いかける。
「どう、だろうか? こういう格好は初めてだから……」
「あ、あぁ……とて────」
「わぁ! Lさん素敵だよ〜。ねーかんちゃん!」
「うん。とっても似合ってる……」
一夏が反応する前に、本音が近づいてラウラの手を取って賞賛する。
話しを振られた簪もうん、と頷いた。
それに続いて他のメンバーもラウラの浴衣を褒める。
「それじゃあ行きましょうか」
篠ノ之神社で行われている縁日。
それは小規模ながら愛されてきたのだろう。
近所の住民達により賑わいを見せている。
一夏達は人数がかなり多いし、纏まって行動していたら、周囲の邪魔になるだろうと、3組に分かれて行動する事になった。
それで、花火の時間になったら合流する流れだ。
「それじゃあ〜Lさん、かんちゃん、いこ〜か〜!」
「あ、おい! 引っ張らないでくれ……!」
本音に引っ張られて、ラウラは祭の雑踏の中に飛び込んでいく。
少し離れてところで本音が苦笑する。
「おりむ〜としてはぁ、Lさんを自分で案内してあげたかったろうけど〜。絶対荒れるからね〜」
あのメンツで一夏を独占させたら肉を奪われた猛獣が如く暴れる姿がありありと想像出来てしまう。
だから、ある程度時間が経って頭を冷やしてから合流した方が周囲にとって安全なのだ。
一夏には、みんなが落ち着いた頃合いに合流してもらうつもり。
そんな訳で、本音と簪に引っ張られる形でラウラはお祭りを回る。
先ずは食べ物から寄るのが本音らしい。
焼きそばを3つ抱えて戻ってくる。
「お祭りの屋台で食べる焼きそばって特別感があって美味しいんだよ〜」
「美味しそう、だな……」
「どうしたの? 焼きそばは嫌いだった?」
簪の質問にラウラは申し訳無さそうに答える。
「いや、正直味には興味があるのだが、その……汚してしまいそうでな」
更識の家で借りた浴衣。
浴衣の相場などの知識はないが、今着ている物がそれなりに良い品なのは分かる。
箸などは扱えるが、ソースたっぷりの焼きそばで浴衣を汚さずに食べられる自信はない。
その心配に簪が苦笑いを浮かべる。
「う〜ん。そこまで気にする必要はないと思うよ? お姉ちゃんもそれは予想の範囲だろうし。どうせ返した後は全部クリーニングに出しちゃうし」
流石に破いたりするのはマズいが、縁日で初めての浴衣だ。多少の汚れは仕方ないと楯無も思うだろう。
「しかしなぁ……」
それでも借りている衣服を汚しかねない行為に難色を示す。
「ならさ〜」
そう言ってキョロキョロと周囲を見回すと、備え付けのベンチがあった。
こっちこっちと手招きされ、ベンチに座るとゴムで閉じられた焼きそばの容器を開ける。
「はい。あ〜ん♪」
これなら汚れないよ、と言わんばかりに箸で摘んで食べさせようとしてくる。
「本音……」
まるで小さな子に食べさせるような行動に簪が注意しようとするが、ラウラは髪を汚さないように掻き分けて、身を乗り出して本音が差し出す焼きそばを食べる。
数回噛んだ後に飲み込む。
「美味しい?」
「あぁ、美味いな」
「じゃ〜もうひと口〜」
そう言ってまた焼きそばの麺を食べさせる本音。
普通なら恥ずかしさから断りそうだが、本音に悪意が無い為、ラウラは純粹に彼女の好意に甘える事にしたのだ。
そんな感じに焼きそばが半分程減った辺りで本音の視線が簪に向く。
「かんちゃ〜ん。ちょっと代わって〜」
突然交代を申し出る本音にラウラが申し訳なさそうにする。
ちなみに簪はもう自分の焼きそばを食べ終えていた。
「すまない。私ばかり食べて」
「う〜ん。それもあるけど〜」
ちょっと困った感じに簪に焼きそばをバトンタッチする。
本音がやったように簪もラウラに食べさせる。
(あ……)
その瞬間、本音の言いたかった事を理解する。
小学生くらい小柄で人形のような美少女に焼きそばを食べさせる。
なんと言うか、ちょっとだけ特殊な癖に目覚めそうになった。
「これはこれでおりむ〜が一緒じゃなくて良かったかも〜?」
にへらと笑いながら言う本音。
面倒見の良い一夏の事だ。今と同じようにするに違いない。
焼きそばを食べ終えると、一緒に付いていたペーパータオルで口を拭くと。
「ありがとう」
そう微笑んでお礼を言われた。
一旦食べ物は離れて遊戯系に切り替える。
「む。当たっても落ちないな」
「固定が頑丈……」
「重さもあるしね〜」
射的ゲームに興じると大きな景品の大きなぬいぐるみはおそらく客寄せ用なのだろう。
コルクの弾が当たってもまったく微動だにしない。
なので、普通に小さな景品を落とす事にした。
「お〜全弾命中〜」
パチパチと本音が手を叩く。
辞めたとはいえ、元軍人。
最初に大きなぬいぐるみを落とす為に撃った1発で銃の癖を理解し、2発目から撃った弾は全弾小さな景品を落としていた。
射的屋のおじさんが落ちた景品を渡す。
「あ〜。スゴイねお嬢ちゃん。さっきも金髪の女の子2人がガンガン景品を落として行ったんだよ。外国の子ってみんなそうなのかねぇ」
なんでも、金髪の女の子2人が景品を落としまくったせいで、大きなぬいぐるみを除いて景品が総入れ替えになったらしい。
「セシリアとシャルロット?」
「だね〜」
それから、金魚すくいやかき氷、縁日の一般的な遊びや食べ物は堪能した。
その最中に、当然他のメンバーともかち合う事もあった。
そこそこ時間になると、本音が時計を気にする。
目玉である花火の打ち上げ時間が迫っていた。
「じゃ〜そろそろだね〜」
「そろそろ?」
首をかしげるラウラだが、本音は簪を背中から押す。
「ちょっ! 本音!?」
「Lさんはここで待ってて〜。お迎えが来るから〜」
「お、おいっ!?」
止める間もなく去っていく本音と簪。
1人取り残されて茫然としていると、入れ代わる形で一夏がやって来た。
「ラウラッ!」
「一夏……」
少し走ったのだろう。夜とはいえ夏の気温もあり、汗を掻いている。
彼はラウラの側に来るや、頭を下げる。
「ごめん! 本当なら、俺が案内しなきゃいけなかったのに、のほほんさんや簪に丸投げするみたいになっちゃって」
一夏からすれば、客人を放っておいて、他の女の子と遊んでたようなものだ。
合わせる顔がない。
深く頭を下げる一夏に、ラウラが困ったように話す。
「いや。私も本音達と祭りを楽しく回っていたからな。そう気落ちしないでほしい」
ラウラ側としても、一夏の事を放ったらかしていたようなものだ。
お互い様な面もある。
それでも謝り倒そうとする一夏だが、そこで花火が打ち上がり、夜の空にバァン、と弾けた。
炸裂音と共に散っていく光の花びらにラウラは一瞬呼吸を止めた。
「綺麗、だな……」
1度上がった花火は次々と空へと上がっては散っていく。
火薬で生み出された花びらに、その光景を見ていた誰もが魅せられていた。
火薬など、銃弾や爆弾の材料くらいにしか思ってなかったのに、その認識が書き換えられる。
「これを見れただけでも、この国に来て良かったと、そう思う」
ラウラは一夏の方へと振り向く。
「ありがとう、一夏」
そう微笑むラウラを、織斑一夏は心の底から綺麗だと思った。
ラウラ・リットナーの滞在期間はあっという間に過ぎて行った。
空港まで千冬が送ってくれる手筈になっており、一夏達学生は織斑家で別れる事となる。
集まった面々はラウラと握手や抱擁、そして言葉を交わして別れを惜しんでいる。
車の準備を終えた千冬がやって来た。
「そろそろ出るぞ。今から出れば、搭乗手続きも余裕で間に合う筈だ」
「はい。ありがとうございます」
車に乗ろうとすると、一夏は呼び止める。
「どうした、一夏?」
「いや、その……なんて言うか、さ……」
なにを言いたいのか言葉が出ない。
首を撫でて未練がましく足留めする形になっている。
そんな一夏に、ラウラは手を差し出した。
「また、会おう。次はどっちの国なるかは分からないが」
「あぁ。ラウラも、またな」
手を離して車に乗るラウラ。
それを見送った後、握手した手の平を見つめる。
「い〜ち〜か〜!」
「おわっ!?」
背中に乗り、両頬を引っ張る鈴音。
「ひはいはほーはっ!?」
「うっさい! あんたあたしと別れた時はそんな顔しなかったでしょーがっ!!」
「そうだぞ一夏! なんだその顔はっ!!」
「その顔ってどんな顔だよ!」
「自覚してないならなお悪いですわ!」
そんな風に4人がギャーギャー騒いでいると、シャルロットが、んーっと困った様子で悩む。
「新しいライバル出現、なのかなぁ? でも向こうはそういう感じじゃないと思うし」
「……油断はできない」
本人の知らないところでラウラ・リットナーは少女達の要注意人物として記憶されたのだった。
帰国し、ラウラは在るべき家へと帰ったきた。
ドアを潜ると彼女の家族が出迎える。
「おかえりなさい、ラウラ。旅行はどうだった?」
「とても有意義な旅だったよ、おばあちゃん。向こうで出会ったのは皆とても良い人達で────」
そうしてラウラは旅の思い出を話し始めた。
おまけ
その日の織斑一夏は本当に何の用事もなかったので、アテもなく近所を運動がてらに散歩していた。
すると、突然メールの着信が鳴る。
確認すると、差出人は布仏本音からだった。
「のほほんさん?」
何かあったのかとメールを開くと、そこには1枚の画像データだけが送られていた。
「なっ!? のほほんさん!」
それはあのお祭りでのラウラの写真だった。
浴衣で簪に焼きそばを食べさせて貰っている画像。
一生懸命に差し出されている焼きそばを食べようとするラウラ。
肌がほんのりと赤くなっているその顔は、そういう画像でもないのに艶かしく映った。
それはもしかしたら、一夏自身に何らかの
「どうすんだよコレ……」
友人としてすぐに消すべきなのは理解しているが、どうにもそんな気にならない。
5分程悩んだ後に一夏は────。
「ラウラ、ごめん……」
そっと画像データを自分の携帯にコピーした。