この話も後2~3話で終わる予定。
しかし久しぶりに深夜以外に投稿した気がする。
IS学園に入学して僅かに時間が流れて世界初のIS男性操縦者である織斑一夏は友人たちと昼食を摂っていた。
しかしそこで幼馴染み2人と学園で出会ったセシリアが一夏に弁当を押し付けてきている。
一夏はそれを順々に食べていき、セシリアの作ったサンドイッチを食べて硬直するなどの騒ぎがあったが。
そんな3人の美少女に囲まれた一夏にシャルルがクスクスと笑う。
「一夏はモテモテだね」
「なんだよそれ?」
3人の好意に全く気づいていない一夏は首を傾げたが、その反応にシャルルは困ったように笑みを歪めた。
そこで少しだけイジワルから爆弾を投下することにした。
「でも、この学園には女の子ばっかりだし、一夏はどんな子が好みなの?気になる子とかさ」
シャルルのその質問に一夏がなんだよそれ?と呆れるが周りが喰い付いてきた。
「一夏!せっかくシャルルが訊いてるんだから答えなさい!」
「そうですわ!その質問はここではっきりしておくべきです!」
「一夏!男らしく早く答えろ!」
3人に詰め寄られながらもこれ、答えなきゃダメな時だと理屈ではなく本能的で理解する。
そこで少し考えて思い出したのは昔自分を助けてくれた女の子だった。
「好きな子って訳じゃないけど会いたい女の子ならいるな。うん」
一夏の答えに3人が一斉に目を見開いた。
「だ、誰よ!?あ、もしかして蘭とか?」
「いや、違うよ。昔助けてくれた子でさ。名前も知らないんだけど。会ってちゃんとお礼が言いたいんだ」
なにやら恋愛話とはズレたが一同は黙って一夏の話を聞く。
「前のモンド・グロッソでドイツまで千冬姉の応援に行った際に、誘拐されそうになったんだ」
「誘拐ィ!?」
一夏の言葉に初めて聞いたと鈴音が声を荒らげた。
他の者も声にこそ出さないが同様に驚いている。
「試合が始まるまで観光気分でブラついてたら知らない男たちに囲まれてさ。いやーアレには驚いたな」
懐かしそうに言う一夏に鈴音が憤慨して地面を叩く。
「なに笑ってんのよ!?それで?大丈夫だったの!?」
「あぁ。あの時だってちゃんと予定通り帰ってきただろ?ビビって動けなくなった俺の手を掴んで逃げてくれた子がいたんだよ。長い銀髪で眼帯をつけた10歳くらいの女の子で今なら中学くらいかな?とにかくその子が引っ張ってくれたお陰で助かったんだ。その後は日本政府から派遣された護衛の人たちが来て、より厳重に護衛してくれたよ。もし誘拐されてたら千冬姉にも迷惑がかかってたかも知れない。だからあの子には感謝してる」
一応言えば一夏は何度もその子にお礼を言って頭を下げたのだがドイツの国のドイツ人の少女だ。日本語のお礼が伝わっていたとは思えない。だから今度はちゃんとお礼を伝えたいのだ。
ちなみに言うと千冬は現在も国家代表の地位にあり、その立場の仕事がない時はここ、IS学園で教鞭を振るっている。
本人はもう国家代表を降りて教鞭だけを取っていたいのだが政府が大会二連覇のブリュンヒルデを失うことを恐れて受理せずに、二束草鞋状態を愚痴っていたりする。
話を終えて箒が不機嫌そうにふんと鼻を鳴らした。
「軟弱者め。年下の女子に助けてもらって情けないとは思わんのか!男ならそれくらいの逆境をはね除けてみせろ!」
「無茶言うなよ箒。相手は大人で武器も持ってたんだぞ。素人が簡単にどうにか出来るわけないだろ?」
「馬鹿者!そんなことでどうする!よし!今日は訓練でその弱りきった性根を叩き直してやる!」
箒とて自分が無茶を言っている自覚はあるが、己の好いた男には格好良くあって欲しいと願う彼女はすぐに諦める幼馴染が許容し辛いのだ。
また自分以外の女の話を嬉しそうにすることが気に食わない。
一夏は箒を宥めながらふとあの銀の少女を思い出す。
ドイツに滞在中は何気なく探していたが結局見つからなかった。
(やっぱり、ちゃんとお礼を伝えたかったな)
そう思いながらいつも通り周りの女の子たちに振り回される日常に戻った。
「きょ、今日から宜しく頼――――あ、いや、お願いします!」
「えぇ。先生から聞いてるわ。宜しくね、ラウラちゃん」
ラウラと話しているのは今日から彼女が働く小さな服屋の店長だった。
パッと見て30後半のどこか先生と似た雰囲気の女性。
ラウラは白いYシャツとジーンズに店のエプロンを付けて長い髪をゴムで後ろにまとめてここにいる。
ラウラはこの店で今日からアルバイトを始めることになった。
そうなった経緯は2日程前まで遡る。
「そろそろ、仕事を探そうと思うんだ」
朝食の洗い物を済ませながらラウラは先生にそう言った。
それに先生が一瞬驚いて瞬きしたが、すぐに平静を取り戻す取り戻す。
「それは良いことだと思うわ。だけど、急にどうしたの?」
先生の質問にラウラはうん、と頷きながら答えていった。
「うん。少し前にあの施設に行った時にあの子はちゃんと周りに馴染んでいた」
あの子、というのはラウラが少しばかり関わった顔に傷のある少女だ。
他の子達と明るく話をして笑い、元気に遊ぶ姿はアレが生来の彼女なのだろうと思う。
前に踏み出した結果、あの子は確かに自分の居場所を手にしたのだ、
それに比べて。
「私は、きっとここに来た時から何も成長出来ていないと思うんだ」
先生の後ろについて回り、今の生活に馴染めてきているとは思う。
しかしそれは先生から与えられたモノを無条件に受け取っているだけなのだ。
今の生活は楽だがいつまでもそれに甘え続けてはいけないと感じる。
目の前の人が教えてくれたこと。与えてくれたモノに見合うだけの自分になりたい。
いつか胸を張って地に足をつけた自分を見てほしい。
あの時に助けた小娘は、貴女のお陰で立派になったのだと言えるような。そんな自分になりたいのだ。
「だから、先ずは仕事を探そうと思う。見つかるかどうかは分からないが。自分で自分から周りに関わることが、私に必要なんだと思うんだ」
「……」
ラウラの話を聞いて先生は微笑を浮かべた。
「分かった。ラウラがそう決めたのなら私から反対する理由はないわね。でも、お仕事を探すのを少しだけ手伝わせてくれないかしら?ちょうど何人かの知り合いがアルバイトを募集していた筈だから」
「いやしかしそれは……」
自分で仕事を探そうとしていたラウラは言い淀むが先生は先に制してきた。
「採用されるかはラウラ次第よ?だから紹介くらいはさせてちょうだい」
そこまで言われて断るのも気が引けてすまない、ありがとうと礼を言う。
それに先生は嬉しそうにしている。
「ラウラ。ここに来て自分は成長していないと言ったけど、そう考えられるようになったのも立派な成長だわ。結果を出すだけが成長を示す証ではないもの」
新しいことをしようとする勇気を持つことも立派な成長だという先生にラウラは納得できない様子で呟いた。
「……先生は、私に甘すぎる」
「あら違うわ。今までのラウラの境遇が厳しすぎたのよ」
次の日、面接に行った店の店長にいたく気に入られ、すぐに採用されて唖然としたラウラだった。
「それじゃあラウラちゃん。お客様が試着したあとに乱れた服があったらたたみ直しておいてね」
「は、はい!」
「そんなに緊張しなくていいのよ。常連さんも基本は良い人たちだから。ラウラちゃんもすぐに慣れるわ」
「そう、だといいのだが……」
今まで軍以外の職場というモノに疎いラウラは初めての接客に緊張していた。
この店は個人経営だが大手の服飾会社と縁がありそこから品を卸している。しかしオーダーメイドの依頼があれば店長自ら衣服の作成をすることもあるらしい。
むしろ常連の大半はそちらが目当てという話だ。
「最近オーダーメイドの受注が多くてレジとか清掃に手が回らなくなってきていたから。真面目そうな子が来てくれて助かったわぁ」
そう朗らかに笑う店長はひとつひとつ仕事を教えていく。
一通り説明を終えると店長が奥へと移動し始める。
「それじゃあ奥で作業しているから。何か判らないことや困ったことがあったら遠慮なく呼んでね?」
「は、はい!」
「うん、いい返事」
そうして店長が奥へ行くとレジの近くにいた20代の女性がやってくる。
「あら新人さん?このお店が人を雇うのは初めてかしら」
「はい!よろしくお願いします!」
初々しく頭を下げるラウラの姿に客の女性は微笑ましい気持ちになりながら会計をお願いする。
初めてで拙いながらも仕事をしようとする姿はラウラの見た目が年不相応に幼く見えることも相まってとても応援したくなる。
会計を終えた女性客は頑張ってねと言い残して店を出ていった。
そんな単純な言葉に嬉しさを覚えてラウラは自分を奮起した。
動きは堅いながらも懸命に職務に励もうとするラウラに店長のほうでも評価される。
問題が起こったのはその後日だった。
「ちよっといい?」
「は、はぁ……」
ラウラが試着した服が乱雑に戻されていたので畳んで戻しているとやたらと化粧の濃い客に話しかけられた。相手の高圧的な態度に驚いて気のない返事を返してしまうと相手はそれが気に入らないのか眉を顰める。
「まぁ!不愛想な店員ね!いいわ。それより先日頼んだ服、今日で出来上がってる筈なのだけれど?」
「あ、はい。それでは引換券をお出しください。それと交換になりますので」
「掃除して失くしちゃったのよ。でもこの通り写真は撮ってあるから」
携帯端末に表示されているのは青い子供用のワンピースだった。
それが娘のサイズに合わなかったことで裾直しと追加のアレンジを頼んでいたらしい。
「すみません。引換券がないとお出しできない決まりですので」
しかし、券がないので出せないというラウラにその客は怒りで顔を歪める。
「なによ!お金はもう前払いで払ってるのよ!客が頼んだ商品を出せないっていうの!?」
憤慨した様子で責めてくる客にラウラはどうしたものかとも思ったが、先日に似たように券を紛失してしまった客がいたが、その注文のやり取りを店長が覚えていたために問題なく商品を渡せた。
だが今は所用で店長が店を離れており、ラウラが対処するしかないのだ。
「店長がもう少しで戻りますので確認のためにお時間を頂いてもよろしいですか?」
「だから間違いないって言ってるじゃない!それに私は急いでるの!早くしなさいよ!まったく使えない店員ねっ!!」
使えない。その言葉にラウラの中でビクッと体が震えた。
少し前に居た場所で散々言われ続けた言葉。それを、新しい場所で言われると昔よりも胸に痛みを覚える。
(ここまで断言するのだから大丈夫か?)
そう思って少々お待ちくださいと商品を取りに行くことにした。
「こちらでお間違いないでしょうか?」
「そうよ。素直に早く持ってくればいいのよ!まったく!」
と、ひったくるように商品を受け取ってズカズカと店を出て行った。
ああいう客も居るのかと思いながらすぐに次の仕事に戻った。
「ラウラちゃん。16番の番号で置いてあった青いワンピース知らないかしら?子供用の」
「それならお昼前に客が取りに来ましたが?」
「え?それはおかしいわ!今取りに来るってお電話が入ったもの。ちゃんと相手は券を持ってた?」
言われてラウラの表情がサッと青褪める。
ラウラは正直にその時あったやり取りを説明した。
説明が終わると店長の顔が険しいものに変わっている。
「そう。困ったわね。アレはお客様の娘さんの誕生日にプレゼントするもので。とても楽しみにしてらしたから」
「す、すみませんっ!?」
最早謝る以外のことのことが思いつかずに頭を下げる。
相手の勢いに押されてこんな単純なミスをしてしまったことに情けない気持ちになる。
店長は仕方ないわね、と息を吐いてその客への折り返し電話を入れた。
電話で事情を正直に話す。娘の誕生日は明日ということなので、それまでには同じ物を作って置く。お詫びにいくつかの商品を追加するということで話が纏まった。
「店長……」
「次からは気をつけてね。私、大急ぎで作業に取り掛かるから。お店のほうはよろしくね」
「あ……」
奥に引っ込んでいく店長を見てラウラは取り残されたような気分になった。
ラウラがアルバイトを始めて一カ月が経った。
「ラウラちゃんがここに勤めて今日で一か月ね。始めてのお給料でなにか欲しいものはあるのかしら?」
店を閉める際に言われてラウラは視線を落とした。
「その……私は今回本当に給料をもらっていいのだろうか?あんなミスを犯してしまったし」
ミスと言われて何か思い当たり、店長は苦笑して手をひらひらと動かした。
「ああいうミスは新人さんにはね。何度も繰り返されたら困るけど。初めてだったんだからそう目くじら立てる必要もないわ。その後もちゃんと同じミスをしないように気を使ってたでしょう?だから気にし過ぎないで。ね?」
「しかし……!?」
それでは気が済まないと言うラウラに店長は首を横に振る。
「支払われたお金はね。私がラウラちゃんの働きをちゃんと評価した上で払ってるの。それで受け取れないなんて言われたら哀しいわ。でもそうね。お詫びってわけじゃないけどちょっとこれからいいかしら?」
店長の提案にラウラはキョトンとした。
「キャァアアアア!?かわE!かわEわ!!予想以上の素材だわ!?」
店長がテンションを上げてカメラをあらゆる角度から写真を撮っている。
ラウラは黒を基調とした可愛らしいワンピースドレスを着せられて顔には薄くだが口紅などの化粧が施されている。
「……私なんかを撮って楽しいのか?それに私などを多少化粧したところで大したことはないと思うのだが」
自分の容姿が別段優れていると思ってないラウラは自身の姿に違和感しか覚えない。
彼女にとって優れた女性の容姿というのは大人の女性であり。例えばモンド・グロッソ二連覇を成し遂げた
戸惑っている店長は憤慨するように顔を近づける。
「何を言ってるの!?ラウラちゃんが普通基準なら大抵の雑誌に載るようなモデルも大したことなくなるのよ!?」
「そ、そうなのか?」
店長に押されて怯むラウラを余所に陶酔したように大きな息を吐く。
「ラウラちゃんいっつも動き易くて質素な服ばかりなんですもの。ずっとこうして着飾らせてみたいって思ってたの!だって女の子が着飾るのは義務以上の権利ですもの!!」
「そ、そうなのか?」
店長の理解できない思考に置いてきぼりを喰らいながらもラウラの感想と言えば、この服の手入れが大変そうだ、程度のものだった。
今日はこの服で家に帰るように命じられてラウラは仕方なしにそれに従うことにした。
そこで見たある物に目が入る。
初めての給料の使い方。これなら悪くないと思った。
「店長、ちょっと」
ラウラはそれを手に取った。
「あらあら。本当に天使様みたいになって帰ってきたわねぇ」
「やめてくれ。さすがに恥ずかしい」
帰り途中でも色々な人たちの視線に晒されてうんざりしていたラウラが息を吐いた。
その視線の大半が好意的なモノだったのだが、そういうものに慣れていない彼女は奇異な格好をしている自分を嘲笑していると受け取っていた。
ラウラは抱えていた袋をおずおずと渡す。
「その、今日が初給与で。私がここまでやってこれたのは先生のおかげで。ずっと何かお礼がしたくて。だから、できれば貰って欲しい……」
もし先生に拾われなければ自分はどうなっていただろう。
それを考えると時々怖くなる。違う自分の可能性に。
先生がそれを受け取ると中に入っていたのは茶色の女性用バックだった。
受け取って貰えなかったらどうしようという不安から指をもじもじと動かしながら弁明を重ねる。
「その、私にこうした物を選ぶセンスがあれば良かったのだが……」
そういったモノとは無縁だったラウラには鞄は自分が持てる範囲で多く荷物が入り、頑丈な物が良いというくらいの基準しかない。
先生の趣味に合わなあったらどうしようという不安が募る。
しかし先生は渡された鞄を大事そうに抱えた。
「ありがとう、ラウラ。大切に使わせてもらうわ」
その言葉だけで、安心し、胸を撫で下ろすそこで先生からもある物が渡された。
「もう少し後でも良いのだけれど、決める時間はたくさんあったほうが良いと思って。ラウラにこれを渡しておくわね」
それは、ハイスクールの入学願書だった。
「1年遅れって形になるけど。来年から学校に通う気はない?今すぐに決めなければいけない訳ではないから、じっくりと考えて欲しいの」
「学……こう……?」
「えぇ。貴女が今の生活に馴染もうとしているのは理解しているわ。だからこそ同世代との関わりが必要なんじゃないかって思うの」
ラウラの交流関係は上と下しかない極端なものだ。そろそろ横のつながりを考えなければいけないと先生は思っていた。
ましてや普通に学校へと通える時間には限りがある。ここ最近のラウラの様子からそろそろ勧めても良いのではないかと判断したのだ。
ラウラは願書で顔を隠しながらポツリと呟く。
「私が、同世代の輪に入れるだろうか……?」
「今の貴女ならきっと大丈夫。たくさん悩んで、迷って、戸惑って、迷い、笑いなさい。それがきっと将来、とても大事な宝物になるわ」
ラウラの肩が小刻みに動き始める。
「……ズルいな、先生は。こんなのを渡されたら、私はいつまで経っても先生に恩を返しきれないじゃないか」
「そんな事はないわ。だって私が見たいのは、立派に成長した貴女なのだから。それが見れるだけで満足なのよ?」
もうかつての場所には戻れない自分は普通になるしかないと思った。
でも今は、そうなりたい自分がいる。
それを喜んでくれる人が居るから。
まだ先は分からなくても、真剣に考えよう。
少しずつ増える選択肢をラウラは大切に抱え始めた。
ラウラの千冬と出会うイベントフラグは自分で叩き折っていた模様。
ぶっちゃけラウラに必要なのは恋人とかじゃなくてちゃんとした保護者か面倒見の良い親友とかだと思う。