「一夏く~ん、お茶淹れてー」
「はい、いま淹れまーす」
「おりむー、私もー」
「はいはい」
一夏がIS学園に入学して1学年上がり、既に夏休み目前へと迫っていた。
最上級生の布仏虚が卒業し、専らお茶汲みは一夏の仕事となっていた。
そして、飲むのが紅茶から緑茶になった。
「簪も飲むだろ?」
「うん、貰うね」
もう1つの変化としては簪が生徒会所属となったことだ。
去年の虚のポジションに就いてアクティブに動く
お茶を配り終えてお茶請けに羊羮を出すと仕事を終えた本音がだらしない姿勢で座り、羊羮を食べながら端末を眺めている。
「お~。ドイツのLさんが載ってる~」
「Lさん?」
本音の呟きに隣に居た簪が首を傾げる。
「うんー。そうだよー。ファッション誌でたまーに写真が載ってる娘なんだよー」
「のほほんさんはドイツのファッション誌見てたのか……」
一夏の呟きに本音は、んーと首を傾げる。
「これはドイツのファッション誌ってわけじゃないよー。世界中のおっきな服飾会社から新作の服とか着て発表する本なんだよー。これは電子書籍版だけどねー」
間延びした言い方をする本音に一夏はへぇーと感心する。
あまりそういう雑誌に関心のない一夏も本音の楽しそうな姿にちょっとだけ興味が向く。
簪も気になったのか質問した。
「それで、そのLさんって?」
「んー。ドイツの服飾会社から発表されてる服を着てる娘でねー。すっごくカワイイ娘なんだよー。ただ、
本当に気に入っているのだろう。本音は楽しそうに操作していた端末を一夏に見せてきた。
「おりむー。おりむーはこういう娘どう思うー?学園にはいないタイプだと思うんだけどー」
「どう思うって言われてもなー」
一夏とてもう2年の男子高校生だ。可愛い女の子と聞けば多少興味は湧く。
ただ、それを知った同学年の友人たちの反応が怖いが。
画面を覗き込むと一夏は目を丸くした。
「こっちのねぇー。銀髪オッドアイさんがLさんだよー。後ろの娘は友達みたいー」
画面の中には小柄で銀髪の
「このLさん、結構人気なんだけど本人の希望で写真だけ提供してるみたいー。んー?おりむー、どうしたのー?そんなに強く握ったら私の端末壊れちゃうんだけどー?」
「一夏君?」
画面を凝視してプルプル震える一夏に楯無が呼びかける。
そして覚醒したように一夏は声を上げた。
「見つけたぁああああああっ!?」
生徒会室に一夏の叫び声が響いた。
「ふぅ」
ようやく終わった書類整理に織斑千冬は軽く息を吐いた。
そして数分前に山田先生が淹れてくれたコーヒーを飲み干す。
あと十数分もすれば今日の業務は終わり。後は部屋に戻るだけである。
ここ最近、弟関連の専用機持ちの少女たちとの日頃の騒動を除けば大きな事件もなく、実に平和だった。
(これで、国家代表の地位も降りられれば当面の不満はないのだがな……)
次のモンド・グロッソも優勝間違いなしと目される千冬に国家代表の地位を降りることを国が許可しない。それこそ大怪我でも負うか、彼女を超えるIS操縦者でも現れない限り。
本人としてはIS学園の教職に専念したいのだが。
なら態と代表を誰かに引き継がせるように動けばいいのだが他人の期待を自分の都合だけで裏切れないのが千冬という女性だった。それに、なんだかんだで政府にも借りがある。
結局は全力を尽くしてこのまま
そんなことを考えていると職員室に彼女の肉親が駆け込んできた。
「千冬姉っ!俺、夏休みにドイツ行きたいん、だっ!?」
最後の方に千冬の出席簿による攻撃を受けて一夏は頭を押さえる。
「織斑先生だ!それと、職員室に来てなんだいきなり!順序立てて説明しろ!」
ダメージから復活した一夏が珍しく興奮した様子で自分の携帯端末の画像を見せてきた。
「この娘だよ!俺、ドイツに行ってこの娘に会いたいんだ!!」
画像の中に映り、指さされているいっそ、神秘的とさえ見える銀髪の少女。
一夏はこういう娘が好みなのか、と姉としての思考と突然その娘に会いたいと言い出す非常識さに頭を痛める。
「その娘がアイドルかなにかかは知らないが、画像の中の相手にいきなり外国まで行きたいという台詞には姉としても教師としても賛同しかねるのだが……」
「なに言ってんだよ千冬姉!この娘だよこの娘!前ドイツで俺を助けてくれた娘はっ!?」
「なに?」
一夏から話を聞くと数年前のモンド・グロッソで誘拐されそうになった自分の手を引いて助けてくれたのは画像の中に居る銀髪の少女らしい。
だから会って今度こそちゃんとお礼を言いたいと言う一夏。
我が弟ながら律儀というかなんというか。
その愚直さが可笑しく、また誇らしく思いながら問題点を指摘する。
「で?この娘の連絡先は知っているのか?まさかドイツに行けば勝手に会えるなどと思っていまいな?」
「そ、それは……」
どうやらそこら辺は考えていなかったらしい。ここ1年で少しは落ち着いたかと思ったが、根本的な部分は変わっていない。
「そ、そうだ!この出版社とか!この写真を乗せた服飾会社とかに連絡して――――」
「個人情報などそう簡単に曝せるわけないだろう、馬鹿め。親族ならともかく、お前とこの娘にはなんの接点もないんだぞ」
「な、なら――――」
考えながらどうにか意見を出そうとするがどんどん弱腰になっていく弟に千冬は苦笑した。
「だが、弟の恩人ともなれば私も無関係ではない。礼を言いたいのは私も同じだ。幸い、ドイツにはちょっとした伝手もある。そこから調べてみるから。お前は大人しくしていろ」
「千冬姉……」
一夏から以前話を聞いた時、千冬自身その少女に礼を言いたいと思っていた。
しかし結局身元が分からず、日本の帰国の際にもう会うこともないだろうと考えていた。
こうして礼を言える機会が来たなら見逃す手もない。
「こちらで何とか調べてみよう。向こうの予定次第だが、何とか会えるように話してみる。だからお前は大人しく待っていろ」
「あ、ありがとう、千冬姉!!」
「織斑先生だ」
もう一度出席簿を喰らわせて痛がる、真っ直ぐ育ってくれた弟を千冬は誇らしげな眼で見ていた。
後日、生徒会長から一夏がドイツまで初恋の少女に逢いに行くという誤情報を流され、同学年の専用機持ち4人にISを起動した状態で問い詰められることになったのはまぁ、
「ラウラ~!今回のテスト、アタシ、ばっちりだったよー!」
「そうか。それは良かった。あれだけ教えて身にならなかったとなったらさすがに私も落ち込んでいたぞ、モニカ」
「お世話になりました!ラウラ・
ラウラに後ろから抱きついてきた長身の少女、モニカにはいはいと身体を離す。
モニカはラウラがこの学校に通い始めてからの初めての、そして1番仲の良い友人だった。
長身でスタイルが良く、明るく社交的なモニカだが学業成績はお世辞にも良いとは言えず、こうしてラウラが勉強を見ている。
対してラウラは小柄で成績はトップだが人との輪に入るのを苦手としており、モニカが間に入って人間関係を構築していったと言えるため、ラウラ自身、助かっていた。
この正反対だからこそ歯車が噛み合った凸凹コンビは1年の名物コンビになりつつある。
去年のあの事件後、ラウラは正式に世話になった恩師の養子となり、ボーデヴィッヒの姓を捨てた。
これは彼女なりに軍時代の自分との決別を意味してもいた。
最初は恩師である先生と同じ姓になったことに戸惑い、むず痒い思いもしたが、1年近く経てば慣れる。
今ではこっちが自分の姓だと胸を張れるくらいに。
軍人だった自分を忘れたわけではないが、もう
15年以上、名乗っていた姓を捨てることへの寂しさはあったが未練はなかったから。
モニカと歩きながら途端に先日起こった話題に触れてくる。
「そういえばさ。ラウラ、この前先輩に告白されてたよね?どうしたの?」
「あぁ、その件なら断ったさ。碌に話したことのない相手だったしな」
「あーやっぱりなー」
ラウラは学校内で人気があった。
小柄だが神秘的で整った容姿に成績優秀。自分から話しかけることは少ないが、面倒見も良い。
噂では非公式のファンクラブがあるとかないとか。
そんなラウラにもちろん好感を抱いている者ばかりではないが、今のところ実害はない。
「でももったいないじゃない?試しに付き合ってあげたら?」
「そういうのは性に合わないさ」
相手に好意を抱かれるのはラウラ自身嬉しいが、告白されるときのあの情欲に満ちた眼光が怖ろしくて警戒してしまう。力づくで来られても捻じ伏せられる自信はあるが、それとこれとは話は別である。
「そっか。でもわかるなぁ。アタシも以前、告白されてさー。相手が胸ばかり見るから断ったんだけど、そしたら家までついて来られて、窓の外見たら壁に隠れてアタシの部屋をジーッと見てるの。アレは怖かったなぁ」
「……それは流石に危ないんじゃないか?」
「うん、だから警察に引き取ってもらったよ。それでさー」
目まぐるしく変わっていく会話の流れに最初はついて行けなかったラウラはここのところだいぶ何とかなっていた。
それも横で歩く少女のおかげである。
「この間、撮って載った写真。すっごく良かったって皆言ってたよ!」
「あれか……」
たまに服を着てファッションモデルのように写真を撮られる。
これはラウラがアルバイトをしている服屋が下ろしている服飾会社の社員にラウラの存在が留まり、写真を撮って雑誌に載せたいという話が持ち上がった。
店長は断って良いと言ってくれたが、話を受けると店の方にお金が支払われる上に学校に通い始めて、労働時間が最初の契約より大幅に短くなったことへの後ろめたさもあり、渋々引き受けることにした。
前回、モニカもついでで参加して一緒に撮ったのだ。
その写真が遥か海を越えてIS学園の男性操縦者の目に留まっているとは露とも知らずに。
「あの店長さん、すごく喜んでたよね。最後の方なんて鼻血まで流しちゃって」
「……アレには驚いたなぁ」
遠い目をしながらラウラはどうして服飾会社の社員や店長がラウラの写真を撮って喜んでいたのか理解できずに首を傾げる。
自分の容姿が醜いとは思わないが、やはり喜ぶのは隣で歩く少女のようなスタイルの良い女性ではないのか。
自らの魅力に気付いていないラウラは結局答えを出すことが出来ず、早々に思考を打ち切る。
「ちょっとしたお小遣いも貰ったし、貴重な経験が出来てアタシは楽しかったなぁ。ラウラは、これからアルバイト?」
「あぁ。そうだ」
「今度の休みさ、また遊びに行こうね!」
「楽しみにしている」
ラウラは笑って友人と別れた。
「ただいま、おばあちゃん」
「おかえりなさい、ラウラ」
かつて先生と呼んでいた今は血の繋がらない祖母となった女性。
正確な関係は義理の母娘だが、母と呼ばれるのは照れくさいと義母が言うので、おばあちゃんで定着した。
「夕飯も用意してあるから、手を洗って食事にしましょう。今日もラウラの話が楽しみだわ」
「うん」
ちなみに義祖母と友人のモニカは面識があり、ラウラのことを楽しそうに話すモニカに義祖母も嬉しそうに話を聞いていた。そして店長を含めた3人でラウラにもう少しオシャレに気を使わせようと動くことがラウラ自身の小さな悩みだったりする。
そこで思い出したように義祖母が話題を振った。
「そうだ、ラウラ。今日のお昼頃に電話が入ったのだけれど。それがIS学園からだったの。知っている?」
「まぁ、名前くらいは」
IS学園の名前を聞いてラウラの体が僅かに強張った。
1年前にラウラがIS学園に向かう話が古巣から持ち上がったが、きっぱりと断っている。
接点と言えばそれくらいでわざわざこの家に電話をかけてくるような理由がラウラには見当が付かなかった。
「それでなんだけど。ラウラ、もしかして
「は?」
義祖母の質問にラウラは只々目を丸くした。
本来繋がる筈だった縁はかつて結ばれず。
しかしこうして違う形で繋がろうとしていた。
後編も出来る限り早く書けたらいいなぁ。
他の専用機持ちは出番どうしようとか。原作とは違うラウラと千冬の関係とか。一夏とどんな会話するのかとか考えながら後半も構想中です。
出来れば月曜日までにはなんとか書きたい。
ご指摘があったため、RさんのところをLさんに変更しました。