「ここは……」
目を覚ますと、そこは白い世界でした。
という冗談のような現状に理解が少し遅れる。
壁があるのかすらわからない程真っ白な空間に、ただ立っていた。過程も原因もはっきりしない。
『お前は死んだ』
突然何処からともなく、何かボヤけた……聞こえているけど聞いていないような……中性的だが恐らく男性と思われる声が聞こえてきた。
「死んだ……うん、確かに死んだね」
今一度言葉に出すと実感する。私は確かに、死んでいる。
『本来なら……いや、お前には転生してもらおうと思う』
「転生?っていうか何を言いかけた?」
本来ならどうなる筈だったのか。
『そーだなぁ……何かやるか。特典?なんか能力みたいなの。欲しいのあるか?一つだけなら付けといてやろう。あ、三つにしてくれ、みたいなゴミ思考すんなよ、シュレッダーかけるぞ』
厳かな雰囲気は即座に崩れ、飲み会のノリみたいになってしまった。
「ナニソレこっわ。ナマ?生きたままするの?いや、私は死んでるんだろうけども」
『生きたままじゃないと罰にならんだろ。で?何がいい?』
「んー……なんでもいい、っていうのはナシ?」
一瞬考えるが、あまりに意味の無い事だった。超能力等を知っていても、名前が思い出せないのだから知らないに等しい。つまりこちらから望めるものは無い。
『ならこのカードの中から一枚引け。それがお前の運命だ』
私の前に十枚程度の真っ白なカードが並ぶ。恐らく私が手に取れば絵柄なり能力名なりが浮かび上がったりするのだろう。
「じゃあ……これ」
IQ2を下回る程の無思考でカードを手にする。
因みにIQ2とは男性の絶頂時とほぼ同じらしい……まじ?
『よかろう……お前の運命は【皇帝特権】だ』
カードには赤い衣装の女性が浮かび上がる。
「こーてー?」
どっかで聞いた事あるような。
『ま、知ってる、または体験した技術を使いこなす能力だな。マジックを見ればマジシャンに、野球を見ればメジャーリーガーになれる』
「バケモノ認識でよろしい?」
『そうだな。時間の制限はあるが貧弱一般人には丁度いいだろう』
「はーいはい。で?いい加減姿を見せて欲しいんだけど」
『ずっとお前の後ろにいるぞ』
「なっ⁉︎へんたっ……?子供?」
後ろを振り返ると、おしゃぶりを咥えた子供が一人。他には何も見当たらない。
「後ろ……後ろ。視認できませんねー」
念の為左右の確認もするけど、一面真っ白なだけ。
とりあえず子供を抱き抱え揺らしてみる。その顔は恐ろしいほど死んでいて、愉悦に満ちていた。
『うむ……やはり良い。が、無駄な脂肪はいらんな』
「あん?」
凄くバカにされた。何がとは言わないけどバカにされた。
『おい、上を向くと顔が見えんだろ。ちゃんとこっち向け』
「こっち?」
『そうだ、うむ、割と好みだ。若干老けてるが』
「ひいっ⁉︎」
抱えている子供から観察されている視線を感じ、思わず子供を投げ捨てる。
「しまった……え?」
仮にも160センチはある私が投げた子供は、空中で姿勢を整え、ハイハイのポーズで着地した。
「はぁ⁉︎」
あまりに理解が及ばない。幼稚園児でも体操してる人はいる。鬼才の持ち主で着地が上手い可能性だってあるだろう。だが決して、オリンピック選手だろうとバネの効かない四つん這いでの着地などしようとすら思わない筈だ。
『全く……これだから年寄りは……』
やれやれ、と言った口調で吐き捨てる声。
「おいおいおい?まさかそれか?幼稚園児さんですか?で年寄りとは誰の事よ⁉︎」
『神を投げるとは全く不敬よな。そしてこの場には俺とお前しかいないぞ』
「はぁぁぁぁ⁉︎神ィ⁉︎そして私が年寄りィ⁉︎」
『うるさいな……老害が騒ぐな。小学生以上はキョーミねーよバーカ』
「……ッ!アナタ……世界に勝てる?」
『あん?』
【縛れ】
神を名乗る幼稚園児を空中で固定する。まだ私は学生だ、まだ若いし、まだいけるし。
『……お前、自前で能力持ちか』
「知らない。ここに来てから使えるようになってた。でもコレについては良く知ってる。私だけが、コレに触れてきたんだから」
『自信アリか。それも結構だが』
神を名乗る幼稚園児は私の能力を無視して床に降りる。
この空間にある大気を固定してたのに……
「ナニソレ」
『ここは俺の世界だ。俺を超える支配者はいない。さぁ、もういいだろ。さっさとそこの門くぐって行ってこい年増』
「門?」
幼稚園児が顎で示した先、私の後ろに少し大きめの、協会の門の様なものがあった。
もう年増発言には耳を貸さない。無視だ無視。ロリコンめ。
「ふーん。で、どこに繋がってるとかは教えてくれないの?」
『ん?言ってなかったか?お前が行くのは……いやいいか。教えない方がお前は楽しむだろ?』
「分かってるじゃない」
『向こうでの住居と金は用意してある。生活用品は自分で買え。女の生活は良くわからんからな』
まー確かに男性からすると馴染み無いものが多いかも知れない。慣れればなんとも無いのだけども。
「おっけーおっけー。至れり尽くせりってやつだね。あ、アレはもちろんあるよね?」
『……』
「おい?」
『刀だけくれてやる』
「なんで私に刀」
『じゃあ無し』
「おっけー刀やったー」
嬉しいけど嬉しくないよ。違う方だよ欲しいのは。
『棒読みすげぇな』
「どーでもいーでしょショタロリコン」
ゆっくり門に向かう。
『ショタロリコン?』
「お前の事だバーカ」
そして走る。見えてるより近そうだけど、念の為。
『けっ、今から殺しとくか』
「もう遅いですよーだ。じゃーね!」
門に手が触れた。一気に押し開け、飛び込む。
振り返って精一杯の皮肉を込めて笑ってやると、振り返ったせいかとても聞きたくない言葉が聞こえた。
『あぁ頑張れよ……俺の暇つぶしの為に』
「……は?」
IQ2に関しては本当に気になって夜しか眠れない。