『……しょ、こ……!』
日も傾いてきた頃の図書館、やけに気合の入った声が聞こえる。
目的とは違う場所だけど、気になったから対象に気付かれない様近付く。
声を出していたのは車椅子に乗った少女で、少し高い……私なら簡単に届く位置にある本を取ろうと必死に腕を伸ばしていた。
「ねぇ、これでいいの?」
「へっ?」
足音を立てず、気配を消して目的と思われる本を手に取る。タイトルは見ない。それが礼儀だと思うから。
相手は本当に私に気付いていなかったのだろう、静寂な空間においてとても目立つ、素っ頓狂な声を上げる。
「だから、本。取りたかったのはこれでいいのって」
「あ、うん。ありがとう……ございます」
澄んだ目をした少女は呆けた顔のまま本を受け取り、頭を下げる。
「敬語はやめてほしいです。見たところ同年代の様なので敬語を使われるととても違和感があります」
「そっちが敬語やん⁉︎」
「あら、関西弁?この地域では初めて聞いた。まぁいいや、目的の本がそれなら、私はこれで」
「ちょっ、ちょお待ちや!」
「……?まだ何か取る?後大声出すと怒られるよ」
目的は果たしたので私の目的を探しにいこうとすると、手を掴まれた。
「そーやなくて……時間あるん?良かったらちょっと話さへん?」
「……時間はあるけど、なんで?」
「私、脚がこんなやから学校にも行けへんくて、同年代の友達もおらへんねん。この出会いを哀れみでもええから繋がりとして欲しいんや」
「……そうだね、その脚で普通の学校に通うのは無理がある」
車椅子なのは車椅子だ。しかしだからといって学校に通えない訳ではない。知識は無くとも理解ある人間がいれば車椅子というだけで学校に通えない訳ではない。ただ、理解ある人間が希少種なのが問題なのだけども。
この少女は違う。気付いているのだろうか……その脚は、普通じゃないと。
「いいよ、別に哀れむつもりもないから、友人として接してくれれば」
「ほんま⁉︎ありがとう!」
「ただしマナー違反は禁止。私が嫌いだ」
「あ……ごめん……」
少女がハッとしたように謝る。ようやく通じたようだ。
「じゃ、テーブルがあるところに行こうか」
立ち話は疲れるし迷惑なので落ち着ける場所まで行こうと車椅子に手をかける。
「えっ、いや、自分で行けるって」
「車椅子は自分で押すと疲れるでしょ。頼れる人がいるなら頼っていいんだよ」
「あ……うん、ありがとう……」
「はいはーい」
車椅子を押しながら浅く笑う。
私の目的である本は諦める。少しの辛抱だ。
「私は八神はやて。あなたは?」
「フタガミウタネ。ウタネでいいよ。最近から私立せい……しょうがく?ってとこに通い始めた」
テーブルに対面するように座り、取り敢えずの自己紹介をする。
「やっぱりおんなじくらいやなー。何年生?」
「確か……三年?」
「なんで曖昧なん?でも三年やったら私とおんなじやな!」
疑問符を浮かべながらも笑ってくれる八神さん。
何故と言われても私自身がロクに確認してないからに決まってる。
「そーなんだ?まぁでも学校行けないならあんまり関係ないねー」
「まぁ……せやな……」
明るかった顔と声が沈む。む、傷つけた?
「あーごめん、嫌味のつもりじゃないんだ。なんなら学校休んで教えてあげようか?私は教える専門じゃないんだけども」
「学校行かんと教えれるん?」
「小学校くらいのなら別になんとも」
「へー……!頭ええんやねー。でも学校休んだらマズくない?」
「んー、それはそれでいいよ。そーゆー人生もアリでしょ」
「やっぱり変わってるなー、車椅子の私に対等に話しかけてきてくれたんもそやけど」
「そう?車椅子以外におかしなトコは見えなかったから、手助けしようと思っただけ」
「車椅子のとこが十分敬遠する理由になると思うんやけど」
「ちゃんと話せるなら問題無いよ。話せないのは問題だけども」
念話の存在を知らないままだったら完全に匙を投げる対象、それが言語障害や精神障害。というか二人以上の介護を必要とする場合は完全に個人を尊重してる場合じゃないと私は思う。技術があるからと全てを救う事が正しいとは私は思わない。
「ほんでなー、今では病院が第二の家みたいになってるんや」
初めは話し方とかで大人びてるなと思ってたけど話してみると多分年相応の感性を持ってると思う……気がする。ぶっちゃけその辺分かんないけども。
「いい先生に会えてよかったね」
「うん!感謝してもしきれへん……あ、ごめん、結構時間経ってしもたな」
「あ……もう暗くなってきてるね」
しばらく雑談していると、日が傾き影が差してきた。小学生の出歩く時間としては限界だろう。
「ごめんな?時間大丈夫やった?」
「ん、いいよ、大した予定は無いし。良かったら家まで押して行こうか?」
「へっ⁉︎いやええよ!そこまで迷惑かけれへんって」
車椅子の後ろから問いかけると、驚いたのか振り返って拒否する八神さん。
「家バレしたくない?」
「そーゆー訳やないけど……」
「じゃあいいじゃない。今度私の家も教えるから」
たまに自分の情報を出すから……つまり同じだけモノを出すからという理由を押し通すのを見るけど、その情報の価値は人によって変わるから本当に同じとは限らない。それは押し売りや値切りに等しい行為だ。私は私に甘いからこの場合は信頼を得る為と言い訳するけど、本来は好きじゃない。
「んー……じゃあお願い!」
「はいはーい。じゃあ行くよー」
「おーっ!」
八神さんは八神さん側の理由ではなく本当にこちらの迷惑を思っていたようで、行くとなれば乗り気になった。
ぶっちゃけ人の家とか知ってもすぐ忘れるしこっちから行く事ないからね。どうでもいい。
次に会うことがあれば、普通の友人として振る舞おう。
Q:無印時代に八神さんは海鳴にいます?→いる前提で考えてます。
Q:この時期から《ネタバレ》の《規制済み》で足が動かない?→この時期以前から着実に、という事にしてください。詩音が普通じゃないと確信したのは能力を通して魔力を視たからです。詩音に医療的知識はないです。