無気力転生者で暇つぶし   作:プラスマイナス裏表

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第101話 聖王

 決して鋭くない切先が、余裕を持って眼前に置かれる。

 

「く……ぅ!」

「諦めて。もう武装を解きなさい」

 

 決してこちらを傷つける事は無いが、退く。退いてしまう。

 古代ベルカの頂点とも言える聖王の攻撃は、その悉くが無力だった。

 どんな打撃も、どんな蹴撃も、どこに撃ってもまるで通用しない。

 

「これが……ただの人間……⁉︎」

 

 既に3分が経過している。

 その間絶え間なく攻撃を続けたはずなのに、何一つ状況が変わっていない。

 

「う……」

「……!そこっ!」

「無駄。自分の怯みが分からないはずが無い」

 

 一瞬顔を歪め怯んだなのはに隙を見出した魔力弾も対処され、より感じる壁を高くする。

 

「私が……!こんな奴なんかに……ッ!」

 

 魔力も、身体能力も、全てが圧倒的なはずだった。

 自分は常に全開だった。相手は装甲も機動力も大幅に抑えている。

 怯んだ隙を逃さず狙った。それを軽く対処された。

 

「〜〜〜〜〜〜〜ッ⁉︎」

 

 追撃の打撃を放とうと構えた右腕が糸が切れたように垂れる。当然、意識した行動では無い。

 焦点もブレる。上ずった意識が離れようとするのをなんとか引き留める。

 

「もう終わり。それ以上続けると、もう戦えなくなるよ」

「っ、黙れ!」

 

 肩で息をしている。相手は汗ひとつかいていない。

 時折見せる奇妙な隙は、死ぬと言って使ったブラスターとやらのダメージだろう。選択を、誤った、かもしれない。

 長時間維持できないなら……初めに言った5分ほどしか持たないのであれば、倒さなくとも勝手に死ぬ。聖王の鎧を直接抜くことはできないのだから、ただこちらから仕掛けなければ……倒せたのか?見たところブラスターと銘打ってはいるものの、体に流す魔力はブラスター2とやらより遥かに少ない。もし、その5分が攻撃を受け続けた場合の時間であるなら……やはり、こちらから仕掛けなければならない。

 

「はぁ……はぁ……」

「なら続けて。殺しはしないから」

 

 息が上がる。ただ歩いて向かってくるだけの存在に焦りが、怯えが止められない。ヴィーナスが全員健在であり、それら全員を相手にするのは不可能だ。迅速に個別撃破しなければ……

 個別であったとしても……できるのか?

 呼吸が不規則に乱れる。筋肉が異常な痙攣を起こし、気を抜くと吐きそうな悪寒が背筋を刺す。

 こんな、なんでもないはずの局員相手に対してさえ、ただの一度も攻撃が掠りもしなかった。なんとしても攻撃し続けられるであろう5分で倒し切らなければ……倒せる……のか?

 ゆりかごの聖王は……その力を持つ私は、本当に、強いのか?

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉︎」

 

 考えたくない。ただがむしゃらに殴り込み、魔力弾を撃ち、蹴る。

 その全てに手応えが無い。ただ当たっていないだけではなく、力がほとんど入っていない。もはや空気を殴っているようだ。水を掴もうとしているようだ。全てが徒労とすら感じている。おそらくずっと同じ力で防ぎ受け流しているであろう相手の力が段々と増しているように感じられる。

 

「ぁ……」

 

 あまりの気持ちの悪さに一度退いた。痙攣する横隔膜に押し出された声とも言えない声だけが漏れる。

 手が震えている。力が入らない。拳の形を維持するのすら難しい。

 全身が、精神が、自分を見る冷たい眼に恐怖している。ただの俗物に、低俗な侵入者に。

 何度退いても、同じ歩みで迫ってくる。何度攻撃を仕掛けても、同じように防がれてしまう。ほとんど生身の女に……聖王が……恐怖し震えている……!

 何をしても通じない恐怖と……無力感が……心身の全てを奪っていく……!

 感情の無いその眼が、少しでも殺意を持とうものなら、私は……!

 

「おやすみ」

「……ぁぅ……ぁ……」

 

 ♢♢♢

 

「おおおおおおおお!」

「はぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 ぶつかり続ける2つの拳。

 その威力はこれまでのどれより力強く、その回数はいままでのどれより多く。

 妹という存在が、ライバルと呼べるまでに成長した喜びが。

 姉という存在が、より近くに感じられる幸せが。

 姉妹それぞれに複雑な感情はあれど、2人の時間は最高と呼べる時間となっている。

 

「いいわよスバル!まだいける⁉︎」

「もちろん!」

「よぉし!シオンに暇ができるまでやるわよ!」

「応!」

「……と、させてあげたいのですが!時間切れです!」

「「⁉︎」」

 

 2つの拳がぶつかる直前、その四肢が凍り動きが止められる。

 驚く2人の上には、リインフォースツヴァイ。

 

「ツヴァイ……喋れたんだ?」

「そーですよー。シオンが死ぬまで喋らないよう言われてたです。ギンガのコントロールもシオンに直してもらいますから、スバルもフォワードで合流してください」

「……あ!ティア達どうなって⁉︎」

「ガリューの確保には成功してますが、ルーテシアの挙動がおかしいです。半ば暴走状態で使い魔たちが混乱しています!」

「じゃあすぐ行きます!ギン姉をお願い!」

「はいです!」

 

 ツヴァイが示した先にはキャロとルーテシアの使い魔たち。

 スバルはそれを目指し、ツヴァイとギンガはツヴァイが拘束しながらシオンやアインスの元へ向かう。

 

「……ん?シオンが死んだのにシオンのところへ?」

「はいです。シオンは人形師の能力で予備の身体をずっと隠してたです」

「いつの間にそんな……」

「なんでも10年は放っておいたので少し鈍い、らしいですよ?」

「10年……そんな前からこの状況を⁉︎」

「それはどうでしょう?闇の書用と言ってましたし」

「そ、そうですか……」

「どうかしました?」

「そこまで読めてたならもっと早くとか、カッコ良いなーって」

「そうですね。伝えておきますっ」

「やめてよ⁉︎」

「冗談です。心配しないでください」

「寿命が縮む……」

 

 はー、とため息をついてギンガがが辺りを見回す。

 ガジェットの密度はともかく、他の戦場はおおよそ収束しかけているようだった。

 

「ああ、来たか」

 

 超範囲の魔法をデタラメに投げまくっているアインスが片手間にツヴァイを迎える。

 

「はいです。お願いしますっ!」

「ありがとう、ツヴァイ」

「はいです」

「なんだ、喋れたのか」

「です!シオンに禁止されてたです!色々漏らすからって!」

「それほど信用されてない曹長も中々だな」

「曹長です?」

「ああ、気にするな。ホントはそうだというだけの話だ。お前は一般人と差はない」

「わかりませんっ」

「素直で良い。さて……ギンガ、体はどうだ?」

「えっと……そうですね、多少は自意識で干渉できる、くらいです」

 

 ギンガが軽く体を動かして自由意志を確認する。縛られたままだから面白い動きをしている。

 

「そうか。あまり縛っているのも時間の無駄だ。荒いが許せ」

「はい!」

「万華鏡『別天神』……よし、ツヴァイ、外して良いぞ」

「はいです!」

「あ……すごい、なんともないです」

 

 縛りが外れ、初手のバスターでガジェットの数体を破壊する。

 その動きは好調のそれと同じだった。

 

「じゃあギンガはガジェットに回ってくれ。AMFに対応できない局員が多いからな」

「いえ!私の部隊は大丈夫です!」

「多い、から、な。全部とは言ってないし決めつけてもない」

「あ、すみません!じゃあ部隊と合流します!」

「自分の部隊が大丈夫だと言ったのは誰だ。防御が弱いところに……いや、はやて」

「ん?」

「アレしていいぞ」

「アレ?」

「さっきソラのアレがしたいと言っていただろう、1人確保だ」

「おぉ⁉︎うぇへへへへぇ!ええやんええやん!」

「えっえっ?なんですか⁉︎」

「お前はもう待機だ。はやての肩に胸を押し付けるだけの仕事だぞ。喜べ」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 ♢♢♢

 

「おほほほほー……まぁ、ね?ほら、誰も殺してないんだから……仲良くしよう?」

 

 カムイ、としか聞かされてない空間でたくさんの戦闘機人と一緒にいる。

 ……なんで?

 

「ウタネさん、我々のことはご存知と思いますが」

 

 他の人が警戒している中、紫の人が私に話しかけてくる。

 

「うん。戦闘機人……ナンバーズ」

「はい。我々はドクターの命で管理局を襲撃しました」

「うん」

「現在のこの状況、自業自得であり、こちらに100%非があることを認めます」

「うん……」

 

 淡々と自身の非を述べる。

 なんだ?そんな殊勝な感じの集団だったりするのか?

 

「ドクターもこの結果には納得していると聞いています。ですが、一つだけ、お願いをさせていただけませんか」

「……さぁ?別に、叶えられるかは知らないけど。言っていいのなら聞くよ。誰かに言わないでってなら喋らないし」

「いいえ。話して貰わなくてはなりません。ルーテシアお嬢様はご存知ですか?」

「召喚師だっけ」

 

 ほとんど知らないけど。

 

「はい。彼女たちが我々に協力しているのは、母親を救うためです」

「だから罪は無いと?」

 

 私は別に罪とかどうでもいいけど……管理局やソラがどう取るかな……

 

「……そうしていただけるなら、それが一番ですが……」

「どーだろね。事件後のことは私達関与できないだろうし」

「……はい。ですので……母親を、助けてあげてほしいのです」

「……?」

「彼女の母親は私たちが殺したようなものです。彼女も、シオンもその復活方法をレリックの11番だと信じ込んでいます」

「違うんスか⁉︎」

「……?戦闘機人でも情報に齟齬があるの?」

「このことは私とドクターしか知りません」

 

 情報共有みたいなので戦闘能力向上を……みたいな話だったのに。戦闘だけってこと?

 

「ふーん。で?」

「彼女の母親は事実上死亡しています。それをどうか蘇らせて欲しいのです」

「……難しい、と言ったら?」

「それはそれで諦めます。ドクターの命でもなく、私個人の頼み事です。ルーテシアお嬢様はある種、私たちの被害者です。被害者が他にいない、とは言いませんが……」

「それはシオンに相談するよ。管理局じゃ治せないんでしょ」

「はい」

「シオンとソラの、ルーテシア?も合わせた合意が得られたらそれをする。3人のうち誰かが拒否したらしない。させない。いい?」

「……はい」

 

 難しいなぁ……結局母親の死亡?原因も聞かずだしなぁ……

 どうあれシオンなら軽く解決するだろうけど……

 

「あのさぁ?え?あなた、え?何?それだけ?」

「はい?それだけですが」

「えっ、何それ。話長引かせて延命しようとかじゃなくて?マジな頼み?」

「はい。殺されても仕方ありません」

「えぇ⁉︎ナニソレ⁉︎他の子も⁉︎」

「いやー、生かしてくれるならそれもアリっスけどね〜」

「ドクターは降伏を選択なされた。私たちが決めることはもう何も無い」

 

 他の子も特に異論無し……まじで?

 

「え……えっと……じゃあなに?私、何したら良いの?」

「一応まだ敵の私に聞かれても……外に出るので、逃走の準備でもしておくのはどうでしょう」

「え……出るの?」

「はい。出なければ何もできませんよね?」

「ん……確かにね?」

 

 ……ん?




シオンがルーテシアの約束忘れてたのはルーテシアが管理局の敵判定だから……っての書いたか覚えてませんが。そんな感じです。
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