「……」
トン、と。
オレの心臓が、半分は裂けた。
「シオン⁉︎嘘でしょ⁉︎いつ⁉︎」
後ろでソラが叫ぶ。
オレの予知はともかく、ソラの感知さえ効いてなかったらしい。
オレの胸から伸びる腕、その先に繋がっている例のボディスーツ。
そしてその腕に滴る、神威ですり抜けるはずのオレの血。
「……」
キング・クリムゾン。
取り敢えずこの戦闘機人から距離を置く。
神威があるからこの時間中に治療は出来ないが、ソラより後ろに下がればソラを盾に時間が稼げる。
戦力は割と上だろうが、ソラなら問題無い。最終的に競り勝つからな。
「──……あ?」
「シオン!何してるの!早く動いて!」
動いたはずだ。
腕を引き抜いたはずだ。
ソラより後ろに下がったはずだ。
……それが、まだ腕が胸にある。
「何かしたつもりだろう。だが、もう遅い。私が触れた能力は世界に認識されなくなる」
「……何?」
「お前がどんな能力をどれだけ使おうと、もうそれはお前の中だけのものだ。お前がやった気になっただけ。それが現実に起こる事は何も無い」
レクイエム……でも無さそうだが……
「えっ⁉︎えっ?ナンバーズ⁉︎」
ソラが即座に戦闘の姿勢を示す。
コイツの言う通りなら、オレの能力全てがキャンセルされて……発動自体が無効化されたから神威の中にいたのも放り出されたんだろうな。
「外……!シオン!潰して良い⁉︎」
「ダメだ、能力は使うな!」
「……?」
「コイツに触れた能力は全て使えなくなる。姉さんもソラもだ。今は退け。もう目も見えん」
姉さんが全員を即殺す判断をした。正解だが、失敗だ。とりあえず止めておく。姉さんがやれば確実だろうがその後が、困る。重大なのはコイツ『が』ではなくコイツ『に』触れた能力も無効化されることだ。神威を通してオレの能力そのものが無効化されてる……コイツを殺すために能力を使えばそれが使えなくなる……つまり、殺した奴を死後も封じる力……
出血多量……もう生きてられる時間もそう長くないな……追撃は無いようだが……
蒼崎橙子の技術で作った予備も無い……今の体も人形で能力だから、治療しても死ぬ、か。人形の方には瞳術も無い……
「とっ、取り敢えずエリア囲ってればいいかな⁉︎」
「やめろ。能力に触れさせたら負けだ」
「でもそうしないと!」
「いい。ほっとけ。オレがやる」
「えぇ……無理無理。アインス呼んでくる!」
呆れた姉さんがアインスに向かって行った。
ソラはなんとかここで膠着状態を維持しようとしてんだな。
「うーねぇ。案外簡単だったぞ」
「ありがとう」
「ウーノ。なんだソイツは」
ウーノにのみ関心を示す戦闘機人。
ウーノもソイツも触れようとしないって感じだな。無差別に発動してるのか……?
「妹ですよ。私の……ドクターも知らない、13人目……名前は、まだありませんがね。触れた能力を隠匿するIS。私が真にシオンが脅威にならないとしていた理由がこの子。事実、その通りになりました」
「13なら、トレセ?だったか?まぁ知らんが」
「うーねぇ、それで良い」
「じゃあそれにします。シオン、やっと1人、名付け親になれましたね」
「いらねぇ……」
「さて、ドクターのため、全員で貴方たちを殺します。貴方たちは規格外です。この差をアンフェアーとは言いませんね?」
「……オレはいいが。トーレとセッテはいいのか?」
「……?」
「ドクターは降伏を指示された。どうするかは決めかねる」
「同じく」
「……それはドクターが窮地に立たされ貴女達が追い詰められたからであって。できるならしたほうがいいでしょう」
「分かった。責任はお前が持て」
「もちろん。セッテもいいわね?」
「了解しました」
……スカリエッティはプレシアが拘束してるが……あとクアットロとディエチ、セイン、チンク以外が揃ってる……しかも損傷は直しちまったからな……最後まで放っとくんだった。
えげつねぇ。チンクが微動だにしなかったのもえげつねぇ。四象ってマジなんなんだ。
「シオン!もっかい死んで双神詩音を!」
「それができりゃとっくに死んでる。もう起きる気がねぇんだ、アレ。なんとなくだが、そんな感じだ」
「じゃあどうすんの!」
「言ってるだろ、オレがするって。もっと離れてろ」
「無理でしょ⁉︎治療能力も使えてないのに!」
ソラがいると抑止対象になりそうだから死ぬならソラなんだよな。てかアレに頼り過ぎだろ。抑止対象じゃねぇのかよ。
どうでもいいか……だが新顔の戦闘機人は根本から規格外だ。コイツだけは生かしておけんな。
「ふぅ……うるせぇよ。オレの能力は説明したろ」
「え……?」
あと数十秒で、死ぬなぁ……オレ。
♢♢♢
「バスター!」
「く……っ!」
砲撃手と固定砲台のコピーは、コピーのワンサイドで勝負が進んでいた。
「砲撃に関しては、ですが。私の知るナノハより強いかもしれません。なのに何故、そのナノハのコピーである私に勝てないか、分かりますか?」
「……」
「それしかできないからです。ナノハの砲撃があなたの8割しか威力がないとしても、ナノハは空を飛び、堅牢な防御を持ちます。当たらなければ倒せず、防げなければ倒される。完璧であるというのは、仲間がいてこそですか?」
ヒートスーツに傷一つ付けること無くディエチを翻弄、圧倒しているシュテル。
イノーメスカノンを支えにビルの屋上に立つディエチ。
「もういいですか?」
「何……?」
「私たち以外が終わるまで遊んでいようかとも思っていたのですが、夜天とこの世界のイレギュラーが危険なようです。あなたとメガネを拘束して援護に行くのも選択肢です」
「クアットロを……?」
「ああ、気付いていませんでしたか?あの程度の幻術、エグザミアの前では無力も同然です」
「ならなんでまだ戦ってる⁉︎」
「ですから、遊びですよ。レヴィが何処かへ飛んでいったのも、本体を避けようとして加減を間違えたのでしょう。誰が1番潰せるかで競っているようですね」
「舐めてる……」
「ええ。と言うより、あなた方が、ですが。他のイレギュラーは知りませんが、あの管制人格はまだ何かあると思いますよ。私たちの世界に無い出来事を経験して得た、何かが」
「……」
「まぁいいです。見たところナノハもいないようですし。おっと……殺傷設定を解除して置かなければなりません。対人戦があまり無いのでつい忘れがちですね。王も通常武装でしたし……まぁいいです。見たところもう何の面白みもないようですし。おっと……同じセリフになってしまいますね。では、おやすみなさい」
♢♢♢
「……何故、殺さなかった」
「死にたかったのか?」
「管理局を、主を、市民を護るのが私たちの役目だ。例え悪事を働いた上層部であれ……」
レジアスの死体を前に、シグナムがゼストを睨む。
「守りたいものを守る。ただそれだけの、なんと難しいことか……お前はそれで良いのだろう。ゆめゆめその正義を忘れるな。正義に重きを置き過ぎると、こいつや俺の様になる」
「……」
「さて、アギト。お前は行け……俺は、ここまでだ」
「ダンナ……」
「シグナムと言ったか。真に主に忠誠であるなら、シオンを頼む」
「……?コイツや召喚師ではないのか?」
「ルーテシアは生きていれば何とかなるだろう。だが、シオンは……もしかすればヴィーナスの全員は、目的のために手段を選ばない。この世の物理法則さえ塗り替えることを厭わないはずだ」
「……そう、ですね」
今となってはヴィーナスの1人、リインフォース。
それを救うため、ウタネは自身を軽く差し出し、シオンも軽く世界を書き換えた。
それが及ぼした影響は大きいのだろう。だが、夜天の守護騎士はそれを良しとした。良しとしてしまった。本来なら自分たちさえ死んでいなければいけない状況で、全員が生き残ってしまった。その負い目は、時間が経てば経つほどに大きくなるばかりだ。
「そうしないために、お前たちが何も触れてやらないことだ。シオンは……シオンたちはその内、跡形も無く消えるぞ」
「どう言う事だ。死ぬのか?失踪なのか?」
「俺の推測だ。忘れろ」
「……」
「本人たちも自覚しているだろうが、基本的に人類の敵だ。我々のレベルに合わせているのはあくまで気まぐれに過ぎん。シオンはあの戦闘機人全員を片手間に破壊できる力を隠している。戦闘機人の研究過程を見れば分かる。そう考えるなら、他も同じだろう」
「……だとすると?」
「奴らは神と同じだ。きっかけ1つで世界は終わる」
冗談であってほしいがな、と付け加え、ゼストはレジアスの机にもたれて座る。
既に限界なのだろう、息が深くなっている。
「主がそんなことをするとは思えない」
「だからこそだ。神話を調べたことはあるか?神というのは気まぐれなのが常だ。この、俺やスカリエッティが命を賭けた大勝負でさえ、奴らは暇潰しの遊びにしか思っていないだろう」
「なら、何故ここで終わろうとする」
「俺の目的は果たせた。かつての同胞を正す、唯一だ。俺もお前もアギトも、真っ当な人では無いが……人間は、次の世代に託していくものだ。俺にとってお前とアギトがそれになっただけだ」
「ダンナぁ……」
ふぅ、と息を吐くゼストは満足そうだった。
「人は所詮、神の掌に転がる玩具でしかないのかもしれん。その神に、俺たちは巡りあった。ルーテシアとアギトにとっては、お前もまた神だ。罪なら全部、俺に被せてくれ。死人にできるか知らんが、任せる」
「……難しいとは思いますが、事件後の取り調べ次第では、かなり軽くすることは可能でしょう」
「そうか……」
「すみません。言葉を持たず」
「いい……正義を志す者が最後で良かった。それで十分だ。手に入らぬものほど、美しく感じるものだ。アギト、お前やルーテシアと過ごした日々、悪くなかった」
「旦那ぁ!ルールーにも言っとくよ!ダンナとルールーに拾ってもらったこと、スゲェ感謝してる!絶対忘れねぇ!」
「そうか……ふ、お前たちは、後悔するなよ……」
「ダンナァァァァァァァァ!」
♢♢♢
「全面戦争を、しましょうか」
「……」
「シオン!」
「もう遅ぇよ。ソイツは死ぬ」
「いやー、一時はどうなるかと思ったっスけど、流石にこの人数ならねぇ?」
「……いや、私が勝てなくなったのはそこの新顔さんのせいなんだけどね?」
能力が触れる……つまりは私がパーセント上げて対象にするだけで、ってことだよね。まいった……生身でもやれるけど1人が限度だ……
シオンももう持たないだろうし……
「お前も、終わり。私が触れればいい」
『……いいや?終わらないぞ?』
「ッ⁉︎」
13人目が私に近づこうとすると、シオンと同じ声が聞こえ、止まる。
当然、シオンはもう、死にかけている。そんな元気な話し方はできないはずだ。
「……間に合った、か」
『ああ。ギリギリだったな。わり』
「いい」
『……よし、取り敢えず延命はできた。あとは治せるやつだな』
『オレが直そう。オーバーヘブンなら上書きできる』
「ああ……よし、オーケー。治った」
絶句する。私も、戦闘機人も。
シオンの周囲にシオンが現れ、元のシオンも平然と立ち上がってしまった。
シオンは増え続け、既に12人に……
「さぁ、戦争、しようか。同じ13人。お前らは戦闘機人で、この世からすれば規格外だ。卑怯とは言うまいな?」
『さて、取り敢えずもう数人連れてくる』
「ああ。オレが行こうか?」
『お前もだ。オレの並行世界は基本使い捨てだぞ』
「そっちでも良いけどな」
シオンが2人、瓦礫や他のシオンに挟まって消える。
あれは……D4C。並行世界からシオンを連れて来た……?いいや、それならシオン自身が行かなきゃいけない。死にかけだった時、どうやって……?
『お前らが敵か。どうする?負けるか死ぬか、選べ』
「おら、勝手に進めようとすんな」
『早いな』
「2人いりゃあそりゃな」
2人……?
「どうだソラ。これがオレの能力だ。やるのは初めてだが……中々壮観だろ?」
「D4C……だよね?シオン自身が並行世界に行かなかったのに……?」
「ああ、別にオレがさっき行く必要は無かった」
『あらかじめオレのとこに来ておけばタイミングを見てオレが移動できるからな』
「ん……?待って待って、どゆこと?同じ能力はひとつだけじゃないの?」
「あ?並行世界のオレはそれぞれ能力を持ってんだぞ。それを連れて来ただけだ」
『時間遡行、世界再創生、なんでもできる。そんなオレたちを、並行世界からオレが連れて来た』
「全く、健気だよな、オレってよ」
『決して負けない、死なない能力故の無茶だけどな』
「D4Cのオレと会えてて良かったよ。全く。マジで命がけだった……」
『この未来が視えてよかったな』
「全くだ。ふぅ……能力も直った。さぁ、オレが12人。はは、もうタイマンまで増えたぞ。おい」
『ああ』
『まだ増やすぞ。ウタネに手を出すのだけは許せんからな』
「いとも容易く行われるえげつない行為……これで……5対1だ。卑怯とは、言うまいね?」
あっという間に辺りを埋め尽くしたシオン。
そのそれぞれが……別々の能力を備えて連携する……しかも、鏡じゃないから負荷も無く、未来視同様に使える……
「それは……ダメじゃない?大丈夫?」
「『『大丈夫だ』』」
「あぅ……」
圧が凄い。でもね、抑止対象入っちゃったよ?元々入ってるけどね?
ダラダラしたくないから切りたかったのに、2〜4話くらい引きずってる。
許せサスケ……