「──さて、もう終わりかしら?」
紫電の中で、最強の魔導師が最強の騎士たちを挑発する。
人数差はプレシア1人に対しフェイト、シグナム、ヴィータ、ザフィーラ、シャマル、アリシアで6人。
「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「無駄よ」
「ぴゅっ⁉︎」
アリシアが単独で特攻するも即座に上半身が消し炭にされる。
「ア、アリシアちゃん⁉︎まって!私じゃ治療が追いつかないかも⁉︎」
「くそー!勝てる気しない!」
「えっ⁉︎」
「あ、私の治療は大丈夫!母さまの攻撃じゃ死なないから!けど届きもしない!」
ただ焼かれただけであるため穢土転生で即座に再生するが、決してプレシアまで到達することはできない。
だがそれを見ているだけの守護騎士たちに少しむっとした態度を見せるアリシア。
「うがぁ!なんで私だけ行くの!みんなも続いてよ!」
「いや、姉さん?姉さんとヴィーナス以外でそんなに簡単に母さんに近づける人はいないし」
「そーだろーけど!というか私も近づけないよ⁉︎おら盾の守護獣!行け!盾になれ!」
「……1秒と持たず焼き切れるが、それでもいいか?」
「くそー!じゃあフェイト!出番無かった真ソニックで!」
「クロックアップに対応するほどの速度は出ないよ姉さん」
「無理じゃん!」
「まー、近づけないなら遠距離で行くしかねーだろ。アイゼン!」
ヴィータが鉄球を8個出現させ、振り抜くためにアイゼンを構える。
「まって!ソレダメ!」
「……!」
アリシアの静止も間に合わず、ヴィータが動く前に鉄球が蒸発する。
「遠距離攻撃の判断は良いわ。けど、その行動は隙が大き過ぎる。光より速く動かなくちゃ」
「マジかよ……」
蒸発させたのは当然プレシアの電撃。
4個2列の鉄球をそれぞれ紫電が撃ち抜き、その圧倒的熱量で一瞬にして蒸発させた。
「雷……光はこの世で最も速いモノ。速さは熱を帯び光と音を発する。そして私の魔力はSSS+オーバー。鉄だろうとなんだろうと一瞬で蒸発させられる。魔法というこの世界の基準において、いいえ、物理法則の上でなら、私は夜天の書よりも、他の何よりも強いわよ」
通常、カミナリと呼ばれる気象現象は数億V、数十万Aにも及ぶエネルギーが発生している。雷をまともに受けると心停止等による死亡が大半の結果となる。しかしそうならなかった場合、症状は軽い火傷や意識障害等で早期に回復することが多い。これは電流が身体を損傷する前に地面に流れていくためとされている。
だがプレシアの紫電は自然現象ではなく、それに限りなく近い現象を起こす魔法である。それ故に雷の威力、軌道はプレシアのコントロール下に置かれている。先の様に狙った一点のみに集中し鉄球を蒸発させるエネルギーを放出することはもちろん、自身の周囲に展開し続け防御に使用することもできる。
そしてその速度は当然光速であり、抑止力の恩恵でクロックアップやザ・ワールドの時間干渉の能力を無視して動く。停止時間であれば紫電は停止することが無く、クロックアップであればプレシアの認識する時間軸で行動を強制させる。つまり、純粋に光速を超えて次元跳躍しまくってくるプレシアの射程外に出なければプレシアからは逃れられない。
そして、それができる魔導師はいない。
「……フェイト」
「な、なに?姉さん」
「……ウタネ呼んでこよう。VNAにVNA以外が勝つのは無理だよ」
「冷静に認めないで姉さん⁉︎」
「無理無理無理。物理法則で生きてる限り母さまには近づけもしないよ」
「シグナム!どうにか言ってください!」
「そうだな。私もシュランゲやボーゲンを試したが、シュベルトの射程から出た瞬間に蒸発した。シオンにしておけ」
「そうじゃなくてですね⁉︎」
「フェイトちゃん、ここはやっぱりアインスを呼びましょう」
「シャマル先生!私たちだけでどうにかできないかと言っているんですが!」
「無理よ無理。あっち見て?アインスとあの子が張り合ってるじゃない?あの子、闇の書のアインスの攻撃を無力化したんでしょう?私たちは無理よ?それで、あなたのお母さんはアインスと同格な訳だから、ムリ」
『アタシも無理だと思うぜ。シオンとたまにいたけどスカリエッティたち総出でも敵わないんだから』
「もぉ〜!」
♢♢♢
「はぁっ!」
「っっっっ!」
「どうした!全力で来い!」
「だっ!言っておきますけど!コレ真剣ですから!切りますよ⁉︎」
「構わない!」
「構ってください!」
「ああ!切れ!」
スペックで劣る分防戦一方になるのはまぁいいんだけれどもさ。この人私がまだ本気じゃ無いと思ってめっちゃ煽ってくる。死ぬぞ?模擬戦で死ぬぞ?
【止まれ】
「おぉ⁉︎」
「分かりますか?私達のレベルが。あなた方人間がどれだけ天性の才を持ち努力を積み重ねたとしても届かない格。こうやってゆっくり近づいて、ゆっくり胸に刀を突き入れるだけで死んでしまうんです」
「……」
【動け】
「っとと……」
「だから、私を煽るのはやめて下さい。キレるとホントに殺しちゃいますから」
自分で言ってて悲しくなるけど、この能力無制限で使うと次の瞬間には世界無くなってるからね。んでキレて制御効かなくなるのも分かってるし。
そうそうキレるつもりは無いけどツボに入るとあっという間だし。
「まぁ、仕方ないか。なのはの前で人が死ぬのはなぁ」
「……あの、前々からと言えばそうなんですけど、死ぬのは何とも思ってないです?」
「ん?ああ、事故とかは嫌だけどな。自分より強い奴と正面から戦って死ぬならそれは喜ぶことだ。あ、悔しいのは悔しいんだけどな」
「……」
飄々と答えてくれちゃって。
でもこれでやっと認識できた。この人たちは魔術師と同じだ。目的のため、その過程のためなら死は結果としてあるだけでなんとも思ってない。
魔術師は根源へたどり着くためなら命を削るし、たどり着いた瞬間に死ぬがたどり着けるという悪魔がいたなら躊躇いなく契約する。子孫がたどり着けるなら自身の命と魔術回路を全て渡す。それだけ目的のみに執着する。
この人もそれと同じ。剣術を、武術を志す者として正当な戦闘で死ぬなら本望と考えるタイプだ。一瞬でもその道の先が見えるならと命を二の次にする。
「……でも、私にはそれが理解できない。だから、私も全力でやる」
「お?」
「シオン!あなたが呼んだ時はあなたが死んだのよね⁉︎」
『あぁ⁉︎今その話がいるのか⁉︎』
「どうなの!」
『そうだが!死ねってか⁉︎』
「いいや、死ぬのは私!けどもっと言えば、死ぬのは私の能力だ」
『おまえ……っ!』
「おい⁉︎」
刀で左目を刺す。痛い。刀が頭蓋骨に触れるのが分かる。復旧不能部位の損失が明確な焦燥を伴って私に痛みを伝えてくる。流れる血も頬を通してよく分かる。
……残された右眼に見えるのは生物のいない世界。赤みのかかった、桜さえより赤に見える終末の世界。
この世界では2度目か?返すよ、私を。けど後で返せよ、私。
♢♢♢
「……全く。よく予測したものだよ。僕を無理矢理引きずり出すなんて」
「うん?」
「ああ、はじめましてだ。人間。名乗る気も無いしキミを覚える気も無い。けど本気で殺してあげる」
「よくわかんねぇけど、本気ってことだな」
「その前に少し。ソラ、一応0.01%は使う。抑止力の対象外?」
『対象内!0.0003%まで!』
「……そんなに少なかったかな。僕も一応キミと同じはずなんだけど」
『一緒じゃないよ!てゆーかなんで⁉︎シオン生きてるよ⁉︎』
「ああ、けどウタネは死んだからね」
『はい⁉︎』
「別にシオンじゃなくてもどっちかがいなければ僕は出られる。シオンならまだ出るかどうか選ぶけどウタネが死んだらほぼ強制的に引きずり出されるんだ。全く面倒なことを」
『……もー!知らない!』
「よし。じゃあやろうか。キミたちの活力にはウンザリだ。消えてもらう」
「よぉし!なんだか知らないが行くぞ!」
人間にしてはかなりの速度。すぐに回り込まれ背後から刀が振られる。
「お……っ⁉︎」
「遅い。弱い。僕がより上位の存在であるからして、人間に遅れをとるはずがない」
振り向くことさえ必要無く、その切先をつまむ。
「う……動かねぇ……!ホントにフタガミちゃんかよ」
「僕はフタガミだが、ウタネとは違う」
腕を振ってソラの方へ刀ごと投げる。これで死ねばお笑いだ。
「甘いな!」
「甘くないさ。人間にしては中々だ」
着地後、着地した衝撃をそのままバネにしてこちらへ即突撃、一直線に眉間への突きを狙ってくる。
未来予知は正確にそれを捉え、体がオートでそれを躱す。
「っ、よく避けた!」
僕が体を逸らした瞬間にその先を感知したのか、速度にブレーキをかけることなく刀を振るキョウヤ。
「無理だ。どれだけ強かろうが所詮は人間。シオンならともかく僕もウタネも殺せるはずが無い」
「くそっ!」
次々と……本当に人とは思えない程の膂力と速度を持って振り抜かれ、刺突を繰り出し、こちらの次を越えようとする。
人であれば……シオンでさえ、鏡を使わずには戦いにすらならないだろう力を持つ高町の家系には驚きしかない。0%のソラと比べても十分に勝機があるだろう。
とはいえ僕も四象の存在。パワーこそ素のソラには勝てないものの他の全てで上回る。詩と音の名の通り、言葉による能力では陰陽に迫る。
僕の唯一の欠点はその言葉を使わなければ現実に干渉できないということだね。流石に意識の速度で干渉されると太刀打ちできない。いや、なんとかするが。
「はははははははは!この俺が遊ばれているぞ!この日を待っていた!なのはは実に良い友人を得た!」
「自分のライバルを探すために妹の友人を獲物にするかな普通。まぁ、僕はライバルになどならないが。あとこの場の全員殺しておこうか」
『フタガミウタネェェェェェェ!それだけはさせない!』
「うるさいな。僕が自由に引っ張り出されるようになったんだ。ならもう僕の自由も同然だ、神とやらに御相手願おうか」
『だからぁぁぁぁ!みんな!模擬戦相手変更ー!フタガミウタネを潰せぇ!』
ソラが自分の戦いを捨てて役割を果たしに来た……楽しい楽しい模擬戦だろうに。
「娘を殺すと言うなら私の敵ね」
「ふむ。よく分からないがはやてを見殺しにはできないな」
「全開だぁ!覚悟しろ!」
ヴィーナスまでもそれぞれの役割から僕に矛先を向ける。
それに倣って他も僕へ。
「こうなればヴィーナスも不要か。ウタネとシオンの盾になればと思っていたけど。さてこうなると、だ。シオン。君はどうする?」
「……知らねぇよ。アンタとやる気は無い。アンタにつく気も無い。勝手にやってろ」
「そうか。因みに僕に性別は無いわけだが、世界に降りる以上どちらかは要るだろう?どっちがいいかな」
「知らねぇよ!好きに選べ!コレもやるよ!ホラ!」
「そうか。なら人数比からいって女性にしよう。全く、楽しい楽しい模擬戦だったのに。ソラももう少しジョークというのを覚えた方が良い」
「ジョークで済むならね!歴史改変を遊びでするようなジョークには付き合ってらんないよ!」
「やれやれ……じゃあ、やろうか。二の舞になるだけだろうけどね」
「くっそぉ!やっぱり見てたのか!」
「当たり前」
「今回は私も強いからね!」
「この世界程度で僕には勝てないけど、まぁ相手によって加減するよ」
刀と鎌を持ち、切先を地面に触れさせたまま前方に広げるように構える。
たしか……いや、誰か忘れたがこんな構えだったと思う。
この世界は主人公をリンチしたいのか?いや、僕は主人公ではないか。
「能力を使いたくないが故に僕を引っ張り出すのは能力を全面に押し出すわけで。本末転倒だと思うけどね」
我ながら何がしたいんだ。まぁ、楽しくしよう。