「なぁアンタ」
一度部屋に戻って温泉に入った後、館内の見学ついでにこの三日のことを考える。
取り敢えず高町さん達と鉢合わせてしまったのは仕方がないとしよう。流石に想定できる事態ではなかった。
「なぁちょっと」
単に知り合いと出会っただけならただの旅行。しかしその知り合いがトンデモ一家とお嬢様二人。しかもお嬢様の片方は違和感あるし……
「なぁ……ちょっと……」
とはいえ三日。魔法関係での面倒事をわざわざ持ち出すほどヤボじゃない……と信じたい。高町さんは普通に話しそうで怖い。
「ねぇってば!」
「うぇっ⁉︎」
正面から突然大声で叫ばれた。しかも知らない人。
「な、なんですか……?すみません、あの、余所見してて……あの、すみません、本当にごめんなさい……」
青い目をした、どことなく野性的なオーラを放つ女性だった。
良い目をしている……と言いたいけど、ヤンキーなら別だ。面倒なく許して欲しい……
「あの、ちょっと用事あるんで……ごめんなさい」
「待ちな」
「……ーー」
掴まれた肩を落とし、下がった相手の顎を横から殴る。怯んだ所に鳩尾を膝で抉る。更にーー
「ーー……っ!」
しまった、ダメだ。暴力は問題になる。
魔法がダメだと意識してたし高町家がいるからつい敏感になってる。
「あん?どうしたんだい?」
「いや……」
「あぁごめん、触られるのがダメだった?」
「そういうんじゃ……」
「……なぁ、いい加減猫被んのやめなよ。わかんだろ?」
突然探るような表情を浮かべる女性。なんの話……?
「……?」
「フェイト、って言えば分かるかい?」
「……っ⁉︎」
「動揺したね?特徴も一致してるし、やっぱアンタだ。こっちの要求は一つ。ジュエルシード全部渡しな。後悔しないうちに」
我が意を得たり、とばかりに踏ん反り返る女性。ニヤリと笑い開いた手を出し、さっさと寄越せと言う態度だ。
「……私はその件に関与してない」
「あん?じゃあなんでフェイトはアンタなんかに追い詰められてたんだい?」
「事の成り行きだし、あそこまでする気もなかった」
「そんな話信じられると思うかい?」
「……じゃあ私からの要求だ。これ以上私に関わるな。後悔しないために」
信じる信じないは人の自由。だから、警告を受け取るかどうかも自由。
「っ!いい加減にしなよっ!」
「っ……!」
服を掴まれ持ち上げられる。身長差もあって完全に宙に浮いている。
「こっちだって別に力づくで奪ってもいいんだ。出来るだけそっちに譲歩してやってんのにさぁ!」
「……だから」
「いいよ、もう喋んなくて。アンタからは魔力も殆ど感じないし、デバイスも持ってるわけじゃなさそうだ。剣術は凄いらしいけど攻撃力は無いって言ってたし……やっぱ関係ないのかねぇ。おし、今んとこは見逃してやるよ。だけど次邪魔したら容赦しないからね」
「そうしますよ、そうするはずだから」
「ふん」
睨まれながらもゆっくりと降ろされる。
そして恐らくだけど。この人はフェイトより上じゃない。そもそも上が下の為に動かないだろうというのもあるけど、フェイトに対する敬愛みたいのを感じる。まぁどうせ戦ったところで魔法使えるだろうし勝ち目は無いんだけども。
「だけど一言、アイツらに言っときな。ジュエルシードを渡せって」
「……わかった。それは伝えておく」
「聞き分け良くて助かるよ。じゃあね」
女性は軽く飛んで何処かへ消えてしまった。
正直、ヤバかった……人前で戦うには強すぎる。まぐれうんぬんを装えるレベルじゃない。いや、というより……あれは人なの?
魔法……ジュエルシードの件が終わればユーノに頼んでどうこうするつもりだけど……敵が私に接触してくるなら近いうちにした方が良いかもしれないな……