「あー……やっぱりいい雰囲気」
結局最後まで名乗らなかった女性の事を高町さん達に話し、それでもなお戦う意思を二人は見せた。そんな事はどうでもいいけど、今日からすぐ私に魔法を教える事は出来ないそうだった、と言うのが残念だ。なにぶん環境が悪い、旅行が終わってからにしてくれ、だそうだ。
それはそうだと納得した私は、取り敢えず関わらない旨を伝えて普通に旅行を楽しみ、深夜に散歩している。夜眠れない時は散歩に行くのだけれども、アスファルトと違い土を歩くのは負荷が少なくて助かる。
「ーーー!」
「ーーー………」
「…………!」
ーー平和な夜を過ごせそうだったのに。
不幸にも高町さん達らしき話し声が聞こえる場所に来てしまった。
語気からするに言い争いをしている様子。しかし逆に言えばそれだけで済んでいる。
ないだろうけどもしかしてを期待して聞き耳を立てる。幸いにも草木が生い茂り気配を消すには十分な環境だ。
「誰だっ!」
「っ⁉︎」
可能な限り近付いて動きを止めた瞬間、明らかにこちらに向かって声が発せられた。
バカな、距離は十分あったはずなのに。魔法で周囲を警戒していたのか……?
「隠れてないで出てきなっ!」
「くっそ……!」
茂みの中からではよく見えなかったけど、飛びかかってきた何かを避ける様に話していた方へ転がり出る。
「ウタネちゃん⁉︎」
「あなたは……」
高町さん達に当然バレる。更に、さっき飛びかかってきた何かと合わせて、三角形に囲まれる様な形になってしまった。絶対的な経路が無い。そして距離が二メートル前後と近すぎる。
「……分かった。観念する。でも話は聞こえてなかったから状況は分からない。ユーノ、説明お願い」
「あ、ああ」
「昼間私が言った通りさね。ジュエルシードを渡せって事さ」
「昼間……?あの時の女の人か……じゃないね。いや、どこからか状況を俯瞰している……?にしては気配が無さすぎる。魔法ってのはつくづく厄介だ……」
「あん?何言ってんだい?」
俯瞰の際、必ず出るはずの俯瞰視点特有の気配。それが上空のどこにも存在しない。この場には私を除いて四つの視点。昼間の女性は見えないから、数が合わない。
「ユーノ、発言者の位置は特定できる?私じゃ視点を見つけられない」
「いや……ウタネ、彼女がそうだよ?」
「はえ?」
「まあ認識されてなかったのかい⁉︎なんなんだアンタ!」
「うぇ⁉︎犬が喋ってる⁉︎」
「ユーノくんも喋ってるの……」
「あ、そっか。何がどうなってもおかしくないもんね。ごめんなさい。知らない人とか完全にシャットアウトしてるから……わかんなくって……」
「そうかいそうかい……フェイト!そっちはそっちで思う存分やりな!私はこの生意気なのぶっ叩く!」
「わかった」
「ウタネちゃん、ユーノ君をお願い!」
二人が頷いて飛んでいく。
それを黙って見送る私とユーノ、それと女の人らしい動物。
「……」
「何黙ってるんだい?」
「いやぁ……人生楽しそうだなぁって」
「あん?」
「目標があるって事は人生に意味を持たせるって事だ。それを達成するまでとはいえ意味に変わりはない。人はそれを肯定するだけで人なんだ。あの二人、私と違って人を満喫してるよ」
自分の思うままに行動し、他の全てを後回しにできる。幼さとはそういうものだ。けどそれは決して弱みじゃない。全身全霊って言葉は、責任や評価に引っ張られている大人には使えない言葉だ。どれだけ本気でやってるつもりでも、心の何処かで必ずリミッターがある。人間の若者にだけ使える、強みだ。
「……!へぇ、アンタは違うのかい?」
「勿論違う。私はそんな考え方をしない。ただ、言った筈だけどもう一度言うよ、盗み聞きしようとした事は悪かったと思ってる。だけど私を素直に帰せ。後悔しないように」
勿論違う。私は見た目こそ小学生だけど、中身は半ば大人だ。責任を取りたくない思いもあるし、他人からの目や評価も気になる。迂闊な行動は取れない。謝って許される世界にもいないし、許される気もない。だから私は関わらない。無関係こそ最大の防御だ。関係ない人間を突然殴ったりするやつは私も殺すが、大抵の悪人でも無関係の人間に何かするにはハードルがある。けど知り合いなら。挨拶代わりにナイフを突き立てる事もあり得るし、脅迫強姦なんてこともある。だから無関係が一番だ。
ここで逃がしてくれるなら、ユーノだって別に庇ったりしない。勝手にやってもらう。関係無いんだから。ユーノが死ねば高町さんもいずれ同じ。不慮の事故。仕方がない。
しかし逃がしてくれないなら、それはそれで仕方がない。目撃者を無くすには、目撃者を全て殺すしかない。
「さぁ、どうする?逃がして、くれる?」
夜中に散歩するのは好きです。