「逃がして、くれる?」
「わけないだろっ!」
「ウタネ!」
獣がその能力を使って飛びかかってくる。
文明の発達に頼った人間には決して使えない運動能力。文明を良しとする人間には決して勝てない能力だ。
「っ⁉︎」
「縮地法、箭疾歩なんて呼ばれる技術。正確には違うけどそんなもの。いくらあなたが速くても、この動きには対応できない」
「くっ、このっ!」
「何度でもいいけど、体力の無駄だよ。あなたがフェイトの使い魔である限り」
数度の突進を全て背後に回り込む事で回避する。
ユーノを抱えたままでも十分。ただ、ユーノはついてこれてないみたいだけども。
「……」
「ユーノ?生きてる?」
「……」
「オーケー、死んでるね」
「ふざけやがって……!」
「そう怒んないでよ。逃がしてくれなかったのはあなただし、別に苦しめたりしないか……少し黙ってて貰おうか。あの二人を止めよう。続けるとあの……なんだっけ、あれが暴発する」
あの……宝石みたいなあれ……なんか名前長いやつ。あれが二人の魔力に押されて暴発しかかってる。雰囲気的にマズい案件でしょ?
【空間固定、縛れ】
犬の固定って前後両脚だけでいいのかな。首輪もしとく?……いやいいか。
【空間固定、飛べ】
空中に複数の足場を作る。流石に激しい撃ち合いになってるけど、干渉不可能ではない。
「二人ともストップ!そのままだとマズい事になる!」
「バスタァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
「シュートッ!」
「……」
以前変わる事のないピンクと黄色の閃光。さて。
「抉り斬るか。次の衝突に合わせて二人まとめて。ふぅ……」
皇帝特権、湖の騎士ランスロットの剣術を習得。刀を能力で強化。前回を活かし、魔法を上回る威力と速さでもって二人を斬る。
フェイトが高速で斬りかかる。それを迎撃する為に砲撃を構える高町さん。衝突は4秒後。私もそれに合わせて足場を蹴り、加速する。
3、2、1……
覚悟……繋げてあげるから一度我慢しろ……
「時空管り"ッ……!」
「あ……」
突如二人の間に現れた謎の黒少年を、真っ二つにしてしまった。あらら……
「えっ、なっ⁉︎」
「ちょっ⁉︎どっ、え⁉︎」
「あー……やべ……落ちちゃった……」
多分肋骨の下あたりで斬ったんだけど、上半分が落下して海へ……
「フェイト!悪いけどアレ、拾ってきて!」
「えっ⁉︎えっ、うん!」
私も高町さんも間に合わないし、一応敵だけど人命かかってるからフェイトに頼む。放心状態だったけど叫んだら反応してくれた。
「きゃぁ!なっ、中身が!」
「いいから早く!適当に乗せて!」
「こ、こうでいい?」
無事海水にされる事なく上半分を拾ってきてくれたフェイトが恐る恐る上を下に乗せる。中身とか言ってるけど能力で保持はしてるから落ちたりはしないと思う。そういえば能力で引っ張り上げれば良かったね。もう終わったからどうでもいいね。
「うん、えーと……」
接続箇所と内臓位置が変わってないか確認しつつ調整する。
「ウ、ウタネちゃん?何してるの?」
「男のカラダを堪能してる」
「ちょっ⁉︎そんな事してる場合じゃないの!」
「嘘よ嘘。そんな赤くならないの……はい、繋がった。ごめんなさいね、意識、あります?」
「……え?」
フェイトが素っ頓狂な声を上げる。
あ、そう言えば直したのフェイトが離脱してからだったっけ。
「ほら、私の腕みたいに繋げたの」
問題は多分死んだからショタロリコンが手を貸してくれるか否か。多分大丈夫。もしかしたら死んでないかもだし。
「あ、そういえば……腕……」
「うん、ちゃんと動いてるよ。気にしないで。こっちこそごめんね?」
「いや……その、あそこまでなるなんて思ってなくて……ごめんなさい」
こっちが調子に乗った結果だし謝られても困るんだけど……
「……はっ⁉︎」
「あ、良かった。ごめんなさいね。この二人を止めようとしたのだけれど、余りに突然現れたものですから……二人の代わりになってしまって」
よし、意識は戻った。次の問題に行こうか。
「「えっ⁉︎」」
「あ……ああ……」
「完全に治ったわけではありませんので、意識がある内に病院へ行かれた方がよろしいかと。内臓などの接続はしましたが、流れた血まで戻したわけではないので、貧血など頻繁にあるかと……」
確かにこの男の子は時空管理局と言いかけた。管理下にある世界の全てを司るらしいその組織の人間だ。それを事故とは言え問答無用の真っ二つ。死刑か無期懲役あたりは免れないだろう。魔法如きで死にはしないけど、普通の生活は送れない。
ならばここは事故を装い、かつ治療した事実を叩きつける事で少しでも温情を……
「って!そうじゃない!キミ達はロストロギアをなんだと思ってるんだ!三人とも戦闘行動を中止してついてきて貰おうか!」
はっと思い直してしまった男の子が迫力ある声と共に私達全員を拘束する。ヤバい、止めようとしたのに対象に入ってる。
「ウタネちゃん……」
高町さんが私に抵抗するか否かを求めてくる。けどこの状況で取る選択は一つだ。
「いいよ、こうなったら仕方ない。時空管理局ってそれだけ大きい組織なんでしょ?下手に逆らわない方がいい」
「賢明な判断だ」
黒い少年は少しだけ雰囲気を緩める。
「……ごめん」
「いくよっ!フェイト!」
「なっ⁉︎逃す……うっ」
狼が叫ぶと拘束をものともせず消えてしまった。フェイトの方は解除したんだろうけど、狼の方、つまり私のは残ったままだ。あの瞬間移動だか転移みたいな魔法には私の能力は効かないのか……困ったな。
「く……貧血……か。どういうつもりだ?彼女らを逃がすつもりだったのか?」
「まさか。さっきまで争ってたのを覚えてない?えっと……なんだっけ、あ、ジュエルシードを持つ彼女たちが敵対してることを危険視して乗り込んできたんでしょ?」
そうだジュエルシードだ。名前長い。
「……まぁいい、向こうの判断だと思ってやる。だが、君たちには来てもらうぞ」
「はい。ただ、彼女は家族連れなので今晩で解放、ないし仮釈放してあげてください。面倒だ」
「それを頼める立場だと思うな。だが、そちらの態度次第だな」
「そう……高町さん。いい?」
「うん。お話は大事なの」
相互理解の話では無いと思うけどね。
さて……ユーノがいるからある程度は話せるけども。私はどこまで聞かれるかな……?
クロノ君って一人称「僕」でよかった……はずです……よね?