ーー最近、記憶が曖昧だ。
というより、ズレている。授業を全て終えたと思ったら昼休みだったり、買い物に出かけたと思ったらベッドに横になっていたり。特に学校でのズレ方は異常だ。回数が自覚できるほど多い。何かフェイトの攻撃を受けているのか……単に、私の学校への興味が失せて寝てしまっているのか……
「頭が無いから考えても仕方ないけどねー」
そう、ただのカン。直感。
何かされている、でもフェイトではおそらく無い、高町さんというのも否定できる、しかし確実に記憶がズレている。それだけ。でもそれを確信に変える頭は無い。なら、害が無い限り踊っておくのがいい。面倒だから。
「イキナリ何言うてはるん?本読み過ぎちゃう?」
座っている机の対面から、素直に呆れてる声がする。
「違うから。そもそも本じゃなくて地図だし」
「その方がもっと変やで。なんでわざわざ図書館来て地図やねん」
「地図は持ってないしわざわざ買うのも嫌だから。荷物増える」
「ウタネちゃんパソコンとか持ってへんの?最近は携帯でも正確で見やすい地図出せるで?」
「パソコンかぁ……私はそういうのダメだねぇ。多分使えるけど疲れるから」
パソコンどころかベッドと冷蔵庫、タンスしかない。十分か。
「そりゃ最初はなぁ。かなり難しい単語並んどるしな……んん?ちょい待ち、使える?持ってへんのに?」
「うん。多分ミス無く使える。カンで」
「カン⁉︎使える訳ないやろ!」
「この地図だって私はカンで見てる。説明できないけど、こうだろうなってのがあるんだよ」
「……ふーん?じゃあここに私が借りていた3冊の本があります。この中の1冊に私の栞がまだ入ってます。どれでしょう」
はやてが鞄から本を3冊取り出す。当然、その本の存在は今知った。
「それ」
「……アタリ。なんで分かったん?うっすいから厚みとか分からへんと思てんけど」
「さぁ?カンだし」
「うー……納得いかへん……」
「いいじゃん別に」
「ダメやっ!納得は全てに優先するで!ウタネちゃん、五分くらいトイレ籠っときな!準備するから!」
「なんの……まぁいいや、五分ね」
何かしてると一瞬だけど何もしてないと無限に感じる五分という区切り。天才だと思う。
とりあえず万一に備えて能力で八神さんの車椅子の数ヶ所をセンサー代わりにする。はやて以外の誰かが触れればそうと私に分かる。
まぁ特に何もなく五分過ぎたんだけども。
「はい、五分経ったけど」
「オッケーや。15冊!」
「タイトルすら隠してんじゃん」
机の上には非常用に持っていたと思われる小さめのタオルが被せられた本が並んでいた。
「せやで。ウタネちゃんのカンってやつがどこまでのもんか試したいからな。ウタネちゃんにはこれから「じゃあこれ」……あたり……まだ何するかすら言ってへんのに……」
「ごっ、ごめん、そんなヘコむと思わなくて」
「いや……」
「どんな内容だったの?」
「この本の中の1冊から数行抜き出したメモ……これな、これを見て、どの本のか当てて、ってしようと思てたんやけど」
「私がメモを見る前に当ててしまったと」
「せや……なんかアレやな、漫画とかに出てくる『才能』レベルの精度やな」
「カンが?」
「普通そんな当たらへんで。一回くらいはあるかもやけどそう連続するもんちゃうもん」
「そんなもんでしょ。コレが普通なんて有り得ないし」
「よなぁ。でもなんかコツとか無いん?抽象的でええから」
「カンにコツ……?強いて言うなら観察?私は普通の人は普段見てない部分も見てるらしいから。そのせいかもしれない」
「例えば?」
「カシューナッツって、縦線っていうか割れ目?入ってるじゃん。知らなかったって人結構いたのよね。そんなのすら見えてなかったのは信じられなかったけど。あと10円玉の方が100円玉より大きかったり」
カシューナッツに限らずアーモンドとかナッツ系は大抵あるんだけど……普通見てるよね?小銭の大小すら分かってない人間がいた時はびっくりしたね、何見て生活してんだか。
「へぇ……ホンマや。ナッツも今度見てみるわ」
「あとは人の動作かな。これは私も教わったんだけど、人の動作は当然始点から終点があるよね。その始点を見ながら生活してる」
「……わからへん」
「うーん……じゃああそこに、立ち読みしてる人いるでしょ?」
私の左側の本棚にいる女の人を指す。
「緑のモヒカンの人やな?……なんであんな人おるん?」
緑のモヒカンに青のストライプの入った黒スーツ、膝下数センチの同色スカート、あまり高くないヒールを履いた女の人に驚愕している八神さん。スク水で光る鎌振り回してる子もいるし私の感覚ズレてたけどおかしいね。
「さぁ……?で、あの人は本を途中で閉じて左手で本棚にちゃんと戻して、右足から向こうに歩いていく」
「はい?」
直後、私の言った通りに歩いていった。
「……いやいやいや、それカンやないやろ。未来予知やで」
「あー……そっか、そうなるか」
未来予知ってほどでは無いと思うけど……普通の人から見ればこれも一緒か。
「未来予知ならかなりの精度の人がいるんだけどなぁ……数秒か十秒だか忘れたけど」
「ホンマ?ガセちゃうの?」
「違うよー、今いないけど今度紹介してあげる。私のカンより正確だから」
「知り合いなん?」
「んまぁ、そんな感じ」
「やっぱ凄い人らは自然と集まるんかな?私なんてなんもないで」
「そう?車椅子で一人生活するなんて、中々精神力と体力が必要じゃない?私には無理だよ」
「そんな事あらへんよ……こんなもん、誰だってできる」
「私のカンだって誰かはできる。結局さ、得意不得意なんてその個人だけなんだから。あなたのサポートは私がしてあげる」
「うん……ありがとな。私も何かできるようになってみせるよ」
「……うん。それがいいよ」
人ができる限界なんて……そんなもの。一人でできることなんて……限界があるんだ……
「まず勉強追い付かんとな。よろしく、ウタネ先生!」
「教えるのはあんまり得意じゃないけどね……まぁできるだけ」
「まず数学からやー」
張り切って参考書を開く八神さん。
数学なら私もまだ教えやすい……かな?
内容は無いようです。
モヒカンの人はモブなので恐らく二度と出てきません。