「えーと……公式は覚えたね。流石の記憶力だね」
私が作ったテストで64点。中学以上の問題を含むテストでこれは中々だろう。
「まぁそれほどでも?」
むふー、とドヤ顔をする八神さん。
「ならなんで半分くらいしか解けないのか、わかる?」
「……わからへん」
そして一瞬で切り替わる。
「それは式の意味を理解してないから。何故こうしてこうなるのか、という原理を分かってないから、公式を使えない。必要なのは本質の理解。それさえできてれば公式を忘れても問題文から答えに辿り着く事ができる」
「んー、なるほどなぁ。でもなぁ、覚えるんはともかく、理解するのは1日とか短時間じゃなかなか無理やで」
「それでもいいの。必要なのは少しでも覚えようとする意志だから。今日覚えられなくても、何度も覚えるまで繰り返せば、それを理解できるわけだからね」
やろうとする行動と、できないと諦める行動では天地の差だ。俗にプロと呼ばれる人間はその何かに対し一万時間以上は費やしているとされている。つまり本当の、天性の才能でない場合は時間をかけた努力によるものだ。数ある言語の中でも難しい部類に入る日本語を、日本人は何故全員が不自由なく……最近はバカも増えてきたけど……使用できているのか。それは生まれた時から日本語を聞き、日本語を話そうとしていたからだ。1日5時間だとしても2000日、年にして5年と半分くらい。実際には勉強とかしてより時間も密度も高いわけだからもっと早い。
「それにしても小学生のレベルと違くない?」
「まぁ高2くらいの内容かな? 解けてないやつは答えが出ないようにしてるのもあるし」
x=xy×0x/y、とかね。単に0って入れれば良いけど選択肢に0なんてない。
「……ふざけとん?」
「oh……オコル、ヨクナイ」
「じゃあ普通の問題ならどのくらいなん?」
「全問正解だけど」
「じゃあええやん」
「学校で出る問題なんて記憶の問題だしねぇ……出来る出来ないは覚えられるかどうかだし。だから反復法とか流行ってんのよ。社会やら大学やらは記憶じゃなくて思考だってのに……」
「大学行ったことあるん?」
「お? あ、いや? なんか見てたから……」
「バラエティやろか? 大学生が出てるのは見たことあるけど授業風景は見た事あらへんなー」
「まぁいずれ大学くらい行くでしょ。でも寮だけは入っちゃダメだよ、『大学生だから何してもいい』ってゴミが溢れてるから」
「ウタネちゃんって時々口悪なるよな」
「ん? そう?」
《ウタネ、すまないが今来られるか?》
《……なに?》
《とにかく急いでる、取り敢えずきて欲しい》
《……わかった。下らない事だったら殺すから》
面倒なタイミングでユーノから念話。
下らないことでは連絡は取らないだろうし……行くしかない。
「っと、ごめん八神さん、ちょっと用事あるの忘れてた。今日はこれでいいかな?」
「ん? あ、そうでもないつもりやったけど結構おったんやな。うん、ありがとな、勉強教えてくれて」
「また会ったら教えてあげるよ、私でよければね」
「もちろんや、よろしくな、ウタネちゃん」
「うん、家までは送るよ。そのくらいは許される」
その間に高町さんが死んだらそれはそれで。
「ええよ、急いどんやろ? 襲われても叫びまくるからヘーキやって」
「できるだけ人の多い所通ってね。傍観者効果とかで助けを呼んでも来てくれないかもだし」
傍観者効果は『他の誰かが助けるだろう』『問題に関わりたくない』『誰もしないなら自分もしなくていい』みたいな心理で、いじめを見ても何もしないみたいな感じのアレ。自己防衛の類いだろうけど、被害者はたまったもんじゃないよね。まぁ、無差別犯を止めに入って自分が刺されるのは誰だって嫌だよねって話。
「傍観者? ん、ウタネちゃんの言うことやからそうするわ。じゃあまたな」
八神さんからの信頼が痛い。
せっかくの信頼だから答えるけども。能力で車椅子を覆う。
「うん、気をつけて」
犯人が、ね。八神さん以外の何者であろうと一定以上の力で車椅子の能力に触れると能力はその場に固定され、車椅子と分離する。後は積極的に餓死してもらえばいい。
八神さんに手を振って別れる。
さてさて、ユーノから送られた座標は……海か。泳ぐのは嫌いじゃないけど水着が嫌なんだよねぇ……
テスト内容で口論して図書館出禁になるって話もあったけど長ったらしくなったのでやめました、という話