無気力転生者で暇つぶし   作:もやし

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第22話 取引

「いいか! 相手はただの次元犯罪者ではない! 管理局を知り尽くしている上、こちらの総戦力を単独で上回る相手だ! 連携を乱さず、やる事だけに集中しろ!」

「「「はい!」」」

「はい!」

「はーい……」

 アースラにて作戦の確認と発破をかけるクロノに対し、勢いよく返事をする私以外の人たち。

 なんやかんやあって『その時』が来たようで、プレシア・テスタロッサの目的を探る突撃作戦が決定した。ジュエルシードはもう両陣営と私が持ってるので揃ってるらしい。

 フェイトとの交戦はあの海以来無く、互いに不明のままこの調査に至るそうだ。

「ウタネちゃん、頑張ろう!」

「うん……」

「断ったら犯罪者確定の状況で連れてこられても乗り気じゃないだろうけど……僕からもお願いする」

「うん……」

 ジュエルシードを興味本位で借りる代わりに、それを発動、損失などの他、管理局の招集に応じない場合はこの件の全責任を負い裁判に負ける事が確定している。そんな状況で乗り気な奴の気が知れない。

「では現場班はこちらへ、各職員は配置へ。これよりプレシア・テスタロッサの本拠地、時の庭園へ転移、作戦を開始する」

「時の庭園?」

 なにそれ。初めて聞いた。

「説明し……てないな。君を呼んだのはその後だった。元々はミッドチルダにあった遺跡のようなもので、現在は移動要塞のようなものになっている」

「ようなもののようなものね」

 はっきりしろ。

「厳密に話すと長くなるからな。そんな感じのものと思ってくれ。もういいな? 目的の調査と言ったが、プレシアとフェイトを確保できるならそのまましてくれて構わない」

「一応小手調べで、倒せるならそれも有り。なるほど、負けそうな気もする」

「正面から勝とうとは思ってない。できればの話だ」

「おっけー」

 戦力差はアースラ<プレシア。フェイトは高町さんと同じくらいだからそれらを除いたとしても……プレシア本人が出てきた方が圧倒的なはずだ。こちらの策を上回れなかったとしても力押しできるだけの能力はあるらしいのに……

「行くぞ。転移術式は渡したプログラムしてある。このアースラの魔力室のみという限定的な魔法の為、微かでも魔力があれば発動は可能であり、例え結界であろうと阻害されない。絶対に、死ぬな。少しでもマズイと思えば退け。一撃で帰還しても我々は決して咎めないし、否定しない。恥や義務感を感じるな」

「「はい」」

「目的を見つけるって作戦で即撤退も許可か……お人好しは違うねぇ」

「ウタネちゃん!」

「分かってるよ。君たちが死んだらフェイトやプレシアへの決定打が無くなる。ジュエルシードがあるうちは機会があるから、時間をかけても成功させたい……そんなとこでしょ」

「……何が言いたい」

 何度目かわからない黒いのからの視線。

「別に。目的は達成する。安全も考慮する。両方やらなくちゃいけないのは大変だなと思って」

 私なら安全を度外視して確実に突破する。根本的に今回は戦力差が戦力差だからしょうがないんだけども。

「更に安全な策があればそうするさ……現状、これが最善だ」

「ごめんって。ところで、撤退魔法なんだけど、私は」

「君は誰かと一緒にするしかないな。取り残された場合は可能であれば回収に向かうが、無理だったらすまない」

「安全ってなんだろうね」

「なら正式に協力すると言葉にすればいい」

「なんとかしようか。仕方ない」

 局員にしか優しくない正義機関だ。しかも庇護を受けたければ入れとか宗教に近いものを感じる。

「文句は終わりか?」

「うん」

「じゃあ行くぞ。上手くいけば最終決戦だ」

「……へぇ」

 まさか考えを変えるなんてね。

 薄い青の魔力陣の光に呑まれ、景色が一変する。

「たしかに遺跡……のようなものだね。遺跡丸々切り取ってるのか……」

「取り敢えず動力室に向か……ウタネ! 上だ!」

「っ!」

 黒いのに言われる前に察知して、回避可能ギリギリ、相手の軌道修正不可ギリギリまで引きつけ、カンで安全と思った方へ飛ぶ。

「ふ、魔法が使えないとはいえ私に不意打ちは通用しないんだなぁ」

「作戦には引っかかってるけどね」

「そーなんだよねぇ……私だけだとなんとも」

 飛んで起き上がるとフェイトの呆れた声と共に首筋にバルディッシュが置かれていた。フェイトの使い魔……アルフ? の突撃を囮に私を囮に取る作戦だったらしい。

「ウタネちゃん!」

「おっと! 動くとあの子の首が飛ぶよ!」

「っ……」

 アルフが3人を牽制する。

「さ、あの子を解放したければジュエルシードを全部出しな。他は受け付けないよ」

「く……」

「なのは、絶対に出すな。これは命令だ」

「クロノくん⁉︎」

「ジュエルシードを渡してウタネが助かるとは限らない……」

「でも!」

 黒いのは判断に迷い、高町さんはすぐにでもジュエルシードを渡そうと、ユーノは……よくわからない。

「おっと、あの子を犠牲に私たちと戦っても無駄だよ。もうあの鬼婆が支度を終えてるだろうからね。結局助かりはしないさ」

 〈黒いの、聞こえてる? 〉

 圧倒的有利を持ってもアルフに油断は無い。ただ、こちらが撤退するかジュエルシードを渡すだろうと考えていそうでもある。

 〈クロノだ。どうする? 〉

 〈1つだけ策がある。成功するかはあなた達の力によるけど〉

 〈聞かせてくれ〉

 〈………………で、…………に…………を……〉

 〈っ! バカを言うな! できるわけないだろう! 〉

 無茶は承知。しかしこの状況、突破しなければ勝ちはない。


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