「……話せ」
「……」
数秒、沈黙。
「……早く話せ」
「……」
更に、数秒。
たった二人しかいない空間で、話しているのは一人だけ。
「おい、至って真面目な、そして重要な話だ。話せ。素直に話せば今でも遅くない」
耐えられなくなったのか、無駄な時間を過ごしたくないのか、ついに説得に来たクロノ。それでも私の
「……全てを牛耳る絶対機関だ。執務官との一対一ならなおのこと、あげ足だなんだを気にするのは普通だと思う」
警察のみを相手にしても一般人は無力なのに管理局相手にどう弁論しても無駄だ。黙秘しか道は無い。
「はぁ……くそ、やめだ。エイミィ」
「はい。ウタネちゃんも飲む? コーヒーだけど」
クロノが声をかけるとエイミィが颯爽と現れる。
「……毒は」
「ぷっ! 入ってないよ! この尋問だってクロノくんが申し出たんだよ? ウタネは味方だって」
エイミィはこの空気が見世物であるかのように笑いながら椅子に座り、コーヒーを飲む。
「おい!」
「怒らないの。クロノが正直に話さないとウタネちゃんも正直に話してくれないよ?」
「……クロノ、どういうつもり?」
クロノとエイミィの態度が正反対で要領を得ない。どうも私を罪に問わない為だとかなんとか。
「ウタネちゃんがプレシア・テスタロッサと二人だけで残った後、音声は拾えなかったけどモニターで映像だけは記録はできてたんだ。で、しばらく話した後モニターが潰されて、ウタネちゃんが使えない筈の転移魔法で戻ってきた……普通に考えたら、ウタネちゃんがプレシア・テスタロッサと手を組んでスパイとして戻してもらったってとこじゃない?」
「ふーん……なるほど」
「だからさ、裁判っていう絶対的な脅しを持つクロノなら真実を暴けるって艦長達を説得したの」
「それはどうも……? 脅し?」
「あ、そうだよー。裁判なんてしないよ。破損とかしたら謹慎とかにはなるけどちゃんとした許可なんだから裁判で負けとか重い罰にはならないよ」
「へぇ……クロノ……良い度胸だ……」
「ま、待て! そうしないとお前は何するかわかったもんじゃないから……!」
「初見の時みたいに真っ二つに割いてやろうか……」
「……!」
クロノの顔から目に見えて血の気が引く。まぁ普通はそうだよね。
「あ、それなんだけど。あの時は当然こっちでも見てたんだけど、どうやってくっつけたの? ユーノ君の治癒魔法にしては距離が離れ過ぎてたけど。というより手遅れだったけど」
「……それは、正直なところ答えかねる」
私の能力……と言いたいけど、これは説明に時間がかかる上面倒だし、私自身実態が分かってない。使えるから使える、分かるから分かる、という次元だ。魔法みたいに理解して運用できるから使えるなんてものじゃない。
「いいやダメだ、話せ。自分の身に起きた事は知っておきたいし、管理局へのアンチテーゼなら考えを改める必要がある」
「味方なんじゃなかったの?」
ダメか……こういう時にどうすればいいか……私は知らない。
「信用したいんだ。信じてるから聞かない、というヌルい話の通る世界じゃない。実際に見たら信用する世界だ。おままごとじゃない……しかし、正直な話、お前が言ったとはいえお前だけ残して撤退というのも、したくなかった」
「理想論だけじゃないのね。すこし見直した」
「そうかい。じゃあ話せ。そうすればプレシアといた間の事は何も無かったと処理してやる」
「……自分の命が助かった理由で管理局が崩壊するかもしれない謎を放置するの? ヌルいんじゃない?」
「じゃあどうされたいんだ! 僕は君が何もしてないと信じている! 君の能力も教えてくれれば信用できる! 管理局は、マイナスを全て潰していくだけの組織じゃないんだぞ!」
む、その時その時の受け答えは矛盾してたみたいだ。話の組み立てって苦手なんだよね。いろんなの並行してやるタイプだから。
「……わかった」
「じゃあ」
「この件が終われば話す。これは正直ブッとんでる話だ。プレシアに集中した方がいい」
「……エイミィ、どう思う」
「さぁ? 話してくれるって言ってるんだし、それこそ話さなかったら裁判?」
「……はぁ、まあいいだろう。プレシアとは何もなく、魔法も僕の使った魔法陣に魔力を流してたまたま発動した事にしておいてやる。ただしこの事件が終わったら必ず話せ」
「わかった。覚悟しとく。あとヒントだけあげる。集中できなくなるかもだけど前金代わりにはなるでしょ」
「……言ってみろ」
「前切れたところ、もう一度誰かに切ってもらうといいよ」
今は事件を収めるのが優先だ。社会的に死ぬ訳にはいかない。
「なら少し休んでおけ。二時間後、プレシアに再度襲撃を仕掛ける。フェイトとアルフを失ったプレシア相手なら時間稼ぎも可能なはずだ」
「そんなにすぐ?」
「フェイトもアルフも消耗して動けない。余計な邪魔が無くこちらの消耗も無いのは今しかない」
「フェイトは説得できる。管理局がプレシアの拘束を目的にするなら、プレシアを殺さないなら協力できるはずだ。その方が戦力は高い」
さっきのまま、私が足止めしてなければ全員やられていた。プレシアを相手にするにはまだ戦力不足だ。
「ダメだ。その辺の犯罪者相手ならそうなるかもしれないが、もし協力したとしても無駄だ。もうフェイトはプレシアに向き合う事すら出来ないだろう」
……そこまで精神的にきてたのか。
人の心の底にある恐怖は拭えない。我が家であろうと暗闇を嫌うように、刺青の強面を避けるように染み付いた恐怖はその行動を制限する。
「……わかった。フェイトはどこ? 会って話すくらいはいいでしょ?」
「会うのはいいが……話せる状況ではないと思う。なのはも手を焼いている」
「わかった。エイミィ、案内お願いできる?」
「おっけー」
♢♢♢
「失礼」
案内された医務室には、ベッドに寝たままのフェイトと椅子に腰かけた高町さん。アルフは別の部屋にいるようだ。動物の衛生面? まさかね?
「ウタネちゃん……」
「高町さん、後少しでまたプレシアに挑むらしい。少し外を歩いてくるといい」
「嫌なの。フェイトちゃんといる」
……人の説得は苦手なようだ。
「じゃあ直接的に言うけど。私もフェイトと話がしたい。時間ギリギリになるかもしれないから言いたい事言って出てって」
「でも」
「いいから出ろ。クロノにも話はつけてる」
「う……わかったの。あんまり上手く言葉に出来ないけど……フェイトちゃん。私は何があってもフェイトちゃんの味方だよ」
「……」
フェイトの返事は無く、それに困ったような顔をして部屋を出る高町さん。
さぁ、ラストチャンスだ。
「フェイト」
「……」
変わらず返事はない。どころか、呼吸以外動きがない。
「聞こえてないのか、聞く気がないのか、答える気がないのかはどうでもいい。とりあえず、あなたの母親はあなたに対し、娘を殺した原因を見てるに過ぎない。娘が生き返れば対応はまた変わる。それはほぼ確かだ。それで、あなたにはいくつか選択肢がある。まず、私や管理局に協力してプレシアを拘束する。その結果どうなるかは分からないけど、命までは取られないはずだ。それか、このまま寝ててプレシアが私に殺されるのを待つ。そうすればプレシアは次元犯罪者として死に、あなたは強制されていたという事でほぼ無罪。どっちがいい?」
「……」
「なんにせよ、私のお願いはバルディッシュを貸して欲しい。バルディッシュ、聞こえてる?」
《……》
「聞こえてるね。あなたはどうしたい? このままだとフェイトも高町さん達も殺される。私に協力すればフェイトに仇なすプレシアだけを殺せる」
《……》
「選ぶ選択肢なんて無いはずだ。プレシアを殺すにせよ拘束するにせよ、高町さんやクロノじゃ戦力にもならない。あなたが必要だ」
《……》
「あなたに力をあげる。この一戦だけだけど、世界全てを相手にできる力を。あなたの主を守るなら……プレシアには消えてもらわないといけない」
こっちもこっちで返事が無い……時間が解決してくれるものではない事くらいわかってるだろうに。
「わかった、一応連れて行く。協力するかしないかは任せる……この決定は拒否させない」
フェイトの枕元に置いてあるバルディッシュを取り、医務室を出る。
最後の最後まで、フェイトが動くことは無かった。