「よし……」
「管理局もしつこいのね」
「うぉあ⁉︎」
管理局、リンディの予定した時間、現場を見たクロノが指定した場所に転移したクロノ達。
時の庭園、プレシア。その目の前に立つ。
「きっ、貴様⁉︎なんのつもりだ⁉︎」
目の前に危なげな雰囲気を放つ危なげな美人が突然いれば当然、いくら年頃の男の子であろうと驚きが勝ち、数歩を跳び退く。
「あら、ラストチャンスをあげたのよ。今この体を貫けば……バリアジャケットを使用していない私に致命傷を与えられた……残念ね。所詮あなた達はそんなものよ。あなた達の好きなガジェットに押しつぶされて死になさい」
紫電と共に姿を消したプレシア。その代わりとばかりに至るところから同じ型に思われるガジェットが無数に現れる。
「こんな数……」
「戦力分析が甘かった……ここまでとはな……なのは! ユーノ! 協力して少し持ちこたえてくれ! やはりもう一度撤退する!」
クロノがB+程度の魔力球を試しにと撃ち込むがピクリともしない。最低でもAAクラスは必要と見たクロノは即撤退の判断を下す。
「了解!」
「ウタネもだ! 今度は僕から離れるな! 数体飛ばしてから撤退するぞ!」
「いいや、そんな時間は無い」
「諦めるな、この数でも発動する時間くらいは稼げるはずだ……」
「違う。今回でプレシアを殺す。撤退してる時間は無い」
「バカを言うな! この状況は計算外だ! 突破どころか耐久もできない!」
「バルディッシュ……お願いね」
《了解》
「なっ……」
「それ……フェイトちゃんの……」
「バルディッシュの許可は得た。コイツらを殺す」
バルディッシュを持ち、ガジェットに肉薄、無造作に振り切るだけで数体が切断された。
元の性能に加え、私の能力で固定してある。魔力刃以外には何があろうと傷すら付かない。
「……時間がない。プレシアは何か奥の手を持ってる。動機探しなんてやってる間に殺される」
さっきプレシアはラストチャンスと言った。ガジェットを突破してプレシアへ辿り着く可能性は低いながら考えていたはずだ。なのになぜラストチャンスと言い切ったのか。魔法についてほとんど知らない私が考えても無駄だけど、ほっとけば多分全員死ぬってのは分かる。
「全部潰す」
刀では足りない大きさと重さ。バルディッシュは私の理想に近い性能を提供してくれた。
体に近いガジェットを順に切っていけば、数体が巻き込まれ振った数の数倍が爆発していく。私の体力が切れる頃には、爆発した機械の残骸が山を作っていた。
「さて……いこうか」
「ああ……因みに、今のも録画しているからな。後で話を聞かせてもらう」
「今それ言わなくていいよね。疲れたから帰っていい?」
「術式はガジェットがほぼ消し飛んだ時に解除した。前のように再起動もできないぞ」
「高町さん、撤退しよう」
「ダメなの」
活躍したのに自由を縛られてる。プレシアもこんな感じだったんだろうな……
クロノ誘導で遺跡の深部へ歩いていく。先程のガジェットで全てだったのか、道中で妨害が入ることはなかった。
「プレシア・テスタロッサ。もういいだろう」
「本当にしつこいのね。モテないわよ?」
「犯罪者と遊ぶ気は無い! 素直に投降すればまだ刑は軽くなる!」
「お断りよ。もう話す事は無いわ」
プレシアがデバイスを起動させる。
「クロノ! 高町さん! 防御だ!」
「遅いわ」
前と同様、瞬く間に広がった紫電は辺り一面を破壊しながらクロノ達を巻き込み、瓦礫に埋めてしまった。
それにしては気配が無い……死んだ?
「……私だけ残した理由は?」
「あなただけにはまだ聞いておきたい事があるのよ。やっぱり、手を組まないかしら?」
「しつこいのは貴女じゃない? もうその話は終わったんだよ」
「まだあなたはジュエルシードを持ってる。管理局のモニターも局員も潰した。それでも答えは変わらないかしら? ……あら、心配されてるのかしら。あの子、広場に戻って来てるわよ」
……フェイト? しかし広場からここまでは少し遠い。確認などしている暇はない。
「変わらない。貴女はここで殺す」
土煙の中をゆっくり、瓦礫に躓かないように近づく。
「そう……あなたも終わりよ」
全方位から紫電が発生する。
……それを私は、土煙を硬化して止めた。
「な……」
「終わらない。魔法なんて私に効かないの。本気の私には魔法も物理も無駄……⁉︎」
突然大きな揺れが起こる。私とプレシアの距離は後三メートル。
動揺する私に対しプレシアは笑っている。
「……元々、行き詰まっていた試みだったの。ジュエルシードもダメ、可能性のあるあなたもダメ。アリシアのいない世界では、私が生きている意味も無いわ。この時の庭園ごと虚数空間に落とすわ」
「道連れか……」
今ならまだ殺せる……どうするか……
『許してあげてください。殺すなら、私だけ……』
フェイト……の様な声が直接聞こえた。念話だろうか……プレシアには聞こえてない様だ。そうだ、フェイトの望みはプレシアと暮らすこと。叶えられるなら叶えよう。
「まさか。死ぬのは私とアリシアだけよ。他はあなた達の転移術式で送ってあげてるわ」
と思っていたら意外な返事が返ってきた。悪人ヅラも少し抜けて優しさすら見える。
「……使えるんだ」
「私は天才よ? そこらのガキの技術なんて見たらできるわ」
ふん、とクロノをバカにする。私と同年代の様な仕草がとてもおかしく思えた。
「ならあなたも逃げればいいのに」
「言ったでしょう。もう生きてる意味も無いの。ほら、術式は開いたわ。早く行きなさい」
プレシアが部屋の中央にある……ポッド? に手を這わせる。あの中にいるのがアリシアなのだろう。
私の背後に魔法陣が出現したのが分かる。クロノ達はあれでアースラに戻されたのか……
そんな事を気にする余裕は無い。プレシアの足元に歪みが出来ている。あれが虚数空間というのだろう。まだ行かせるわけにはいかない。
「プレシア!」
落ちかけたプレシアとポッドを能力で固定する。空気と触れている間は私の自由だ。
「これは……あなたの」
「それが私の能力だ。あらゆる物質を自由にできる。あなたは死なせない。それがフェイトの望みだ。バルディッシュもね」
「離しなさい」
「だからあなたとアリシアは生かしておく。しかし虚数空間にも落ちてもらう。私の能力は虚数空間でもおそらく分解されない……いや、虚数空間の虚数すら能力範囲みたいだ。これで殺さずに済む」
「……とんでもないのを相手にしてたのね。私は」
「いい? 私にパスを繋げて。私が開けるモニターみたいのでいい」
「魔力があって助かったわ……魔力すら無かったら無理な願いね。少し寄って……はい、これなら魔力を少し流せば開くはずよ。分かるわね?」
「うん、ありがとう」
「これから虚数に落とされる相手に感謝されても嬉しくないわ」
「いずれ私が必要な時に引き上げる。それまではアリシアと死んだ気でいる事だ。それが、貴女への罰と、フェイトとバルディッシュの望みを叶える事だ」
「引き上げるなら早めがいいわね。私はもう助からない……不治の病ってやつよ」
「……急いでたのはそれが理由か。分かった。すぐにとは言えないけど、死ぬまでには必ず治す。生きてフェイトともう一度会うんだ」
「……その資格があるかしら」
「あるさ。互いがそうしたいと思う限りは必ず。今は互いが平和を望んでる」
「ありがとう。とても救われた気分よ。あなたにはお礼をしなくちゃね」
「なら、フェイトを可愛がってあげる事だ。彼女の澄んだ目が汚れないように」
「……さよならね」
「うん、さよならだ」
プレシアとポッドを能力で保護したまま虚数空間へ落とす。
私の能力の支えを失った
『ウタネちゃん!』
「……高町さん?」
「早く避難して! 虚数空間に落ちたら上がってこれないよ!」
「それなら高町さんも早く! こっちまで飛んで!」
自分の事を後回しに私に警告なんて、余裕だなーと思う。
術式を起動しながら高町さんを待つ。範囲に入った瞬間転移だ。
「プレシア・テスタロッサは⁉︎」
「もう虚数空間に落ちた! 証拠は無い!」