無気力転生者で暇つぶし   作:もやし

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ーー今日は楽しかったね!
「そうだね」
ーー〇〇くんとか、すごかったねー
「そうだね」
ーーあなたは楽しくなかった?
「楽しかったよ?」
ーーでも、楽しそうじゃないよ


A's編
第27話 解放


 ──これまでの一連の出来事はプレシア・テスタロッサ事件……PT事件という安直なネーミングで処理された。

 プレシア・テスタロッサとアリシア・テスタロッサはプレシアの起こした次元震に時の庭園ごと飲み込まれて死んだ事になった。フェイトとアルフは持っていたジュエルシードを全て管理局へ渡し、素直に拘束された。主犯がプレシアであったこと、フェイトの体から虐待の痕が見つかったこと、本人たちの態度などから、事件が事件だから裁判はするにしても実刑はほとんど無いようなものらしい。時間は取るが無罪放免に近い形で解放になるそうだ。

「じゃあ、私から言うことはもう全部だよ。バルディッシュ、ありがとう」

 フェイトには管理局と別に地球の海鳴でプレシアの事を話す事にした。それでも真実は話せないけど。バルディッシュにも真実は黙って貰う様に協力してもらってる。何があっても話したらプレシアを即殺すという条件付きで。

「……ううん。私こそ、ありがとう。私とアルフを助けてくれて」

「違うでしょ」

「え?」

「貴女は私に、母を殺したのはお前だって殴りかからなきゃいけない。プレシアと会いたかった気持ちは殺しちゃいけない」

 プレシアの事を考える余裕は無かったのか、少し笑っていた顔が歪む。

「うぅ……ウタネぇ……母さんは……私を……」

「嫌ってないよ、プレシアはあなたも大切に思ってた。あなたが望むなら、またどんな形かわからないけどきっと会えるよ」

 フェイトの裁判は手を回しに回して半年くらい。プレシアから聞いた症状具合と本人の予想寿命は2年。フェイトと会うことももしかしたらできるかもしれない。問題は、あれだけ進行した病気をどうやって治すかだ。

「うん……うん……! ありがとう……!」

 高町さんを圧倒する程強い少女も、今ではその辺の人と同じ様に感じる。

 これから裁判の手続きやらがあるのに大丈夫だろうか。

「裁判、頑張ってね。終わったらまた会おう」

「うん……頑張ってくる」

「それじゃあ……」

「さよなら、とはいかないぞ。ウタネ」

 踵を返し自宅へ向かおうとするとガッシリ肩を掴まれた。軋むほど。

「……やぁ執務官どの。なんの御用でございましょうか」

「いいや何、君にもまだ返してもらう物と話してもらう事があるだけだ」

「あー! あれね! はい! ジュエルシード! ゴメンゴメン! 忘れてたよ! それじゃあね!」

 ジュエルシードをポケットから出し、クロノに渡す。それでもクロノは離してくれない。

「だから待てと言うに。別に急がないだろう? 尋問部屋でゆっくりしていくといい。手錠と水くらいは出すぞ?」

 爽やかに最低の待遇を言い渡された。

「何故に水⁉︎お茶とか! 尋問ならカツ丼とか!」

「わかった。出すから来い」

「ちがーう! 出しても行かないよ!」

「事件が終われば話すと言っていただろう。忘れたと言っても録画してるからな」

 ピッと空間にモニターを映すクロノ。そこにはクロノ、エイミィと話す私が映されている。裁判の話も。

「く……」

「エイミィ! フェイトを保護、ウタネを拘束だ」

「えっ! ちょっ⁉︎マジ⁉︎」

「話せばすぐ解放するさ。嘱託でもなくただの協力者だしな」

「むー……」

 というか、プレシアと最期の話の時、フェイトは戻って来たんじゃなかったの……? 

 

 ♢♢♢

 

「そら、話せ。エイミィはフェイトと裁判の手続きでいない。なのはもそっちについてる。記録も撮ってない」

 二人で机を挟んで椅子に座る。

 クロノは踏ん反り返って腕を組み、私は机に突っ伏している。

「……切った?」

 あえて必要な事だけを聞く。顔は上げない。ギロチンを落とされようとしても受け入れる事にした。

「ん? あぁ……切れなかったがな」

「私の能力はそれだ。触れた部分を硬質化できる。内臓まで接合してるから、その部分に限ればナイフが刺さっても平気だよ」

「とんでもない能力を隠してたな。効果はいつまでなんだ? しばらく経ってるが。切れた瞬間にまた千切れるのは嫌だぞ」

 衣類が擦れる音。自分の体を触って確認しているのだろう。

「……大丈夫。私が解除しない限り私が死んでもそのままだ」

「お前が消えても能力は残る……か。魔法で無いことは確定的だな。あと……魔術、だったか? それとも違うのか?」

「ん。魔術も魔法も似た様なものだよ。二つに共通点があっても、私の能力とは別物。おっけー?」

「分かった。今僕の体が繋がってるのはお前の能力のおかげで、お前の能力は物質の硬化。お前の言う魔術と魔法は共通点があり、能力とは別物。以上で合ってるか?」

「うん」

 はーあめんどー……無駄な話きらーい。だるーい。

「じゃあ追加だ」

「へ?」

「お前はプレシアが次元跳躍で飛ばした攻撃を触れる事なく防いでいるのが記録されている。今の説明と食い違っているな。どう言う事だ?」

「……あの時のか」

 管理局の監視下だと……記憶に無い。猫の時、フェイトを殺す寸前で入ったプレシアの邪魔と考えておこう。

「納得いく話でなければ裁判だ。偶然だとか触っただとかは無効だからな」

「……話さない、という選択肢は?」

「言ったはずだ、僕は君を信用したい。だから話せ」

「……話せば管理局は私を追跡しようとする。今あなただけが知ったとして、それを秘密にできる? 私と対立せずにいられる?」

「内容は。僕から見て君は管理局と対立したそうに見えない。リンディ艦長も含めみんな君の事についてはあまり興味を示さないからな。僕だけで秘密にすると約束する」

「対立するのは私じゃない。管理局だ。私を恐れるあまり私に牙を剥く。私は能力をそう使う気は無いし、できれば使わずに過ごしたいんだ。管理局は私に不干渉を貫けるのかと聞いている」

「……どう言う事だ? お前はどれだけ強大なものを隠している?」

「いいから答えろ。質問はこっちだ。お前はただイエスと誓うだけ。ほら、約束しろよ。お前らはフタガミウタネに、フタガミウタネの自由を妨げる様な干渉はしない、とな」

「……っ、分かった。この話は僕と君だけのもので、何があっても他言しない。僕自身が命を握られている以上、僕が裏切る事は無い」

「ふぅー……わかった。私の生活を守る事に関しては私も必死だ。その時は容赦無く管理局を潰す」

「……ああ」

 話した所で管理局には手のつけられないものだし、話してしまっても構わないのだけど……勝手に情報や顔が歩くのは面倒だから隠しては起きたい。まぁ、クロノなら大丈夫だろう……

「私の能力は、生きているものを除く全ての物質を自由に扱えるというものだ。プレシアの攻撃を防いだのはその周りの空気を圧縮して消滅させた」

「……僕の体も空気で?」

「そうだね。空気を固定して繋げてる。ナイフや包丁じゃ通らないくらいの硬度はあるはずだ」

「……正直、言葉が出ない。一般人がそんな能力を持つだなんて……」

「だろうね。世界から見ればイレギュラーなわけだし」

「能力の届く距離は?」

「私のいる世界ならどこでも」

「というと……」

「地球なら地球全体。北極にいても南極に干渉できるし、ミッドなら時の庭園があった場所にも可能だ」

「なるほど。確かにそれが露見すれば管理局は君の捕獲、無力化を急ぐだろう。正直な話、僕も一瞬考えてしまうほど」

「でもしなかった、って事は信用してくれた?」

「ああ、言っただろう、秘密にすると。その代わりと言ってはなんだが、この場で見せてくれないか? その能力を」

「どうしたらいい?」

「魔法を消した様にこのペンを消してみてもらいたい」

「まぁいいけど……」

 言われた通り、机に置かれたペンを触れずに、周りの空気を圧縮して消滅させる。

「ふむ……圧縮過程もゆっくり見せて貰って済まないが……最大速度と、発動条件を」

「ねぇ……信用する、と言ったよね? 情報収集と対策に入ってない?」

「……あ」

「……いいよ、嘘はついてなさそうだ。そうね、最大速度は……多分私の考える限り最速じゃない? 見えないくらい。で、発動条件は……今ので分からなかったなら分かんないよ」

「今ので? ペンを消した時になにかしたのか?」

「うん。多分だけどこの能力、誰にでも使えるんだよね。ただ人からは分かんないみたいだしそうなると教えられないし……」

「そんな話をしていいのか? 管理局が拘束して徹底的に調べ上げるかもしれない」

「やりたければやればいいよ。私に殺される前に私の能力を暴けるつもりなら。それに……管理局に不干渉を願うのは身の危険じゃない。生活の平穏のためだ。往来でバカに会いたくないアレと似た感情。わかる?」

「……ああ。すまなかった。気を悪くしないでくれ」

 知らない人間から逃げなきゃいけないなんて想像しただけで面倒だ。相手が最高機関であれば目的の為に人員は惜しまないだろう。面倒。あ、でも管理局って人不足だったような……

『クロノ。お喋りはどうかしら』

「リンディ提督。まぁ、それなりに」

『区切りがついたらこっちに来て貰えますか。フェイトさんの書類の件で色々と』

「分かりました。すぐ向かいます」

『ありがとう』

 モニターから緑砂糖がクロノと少し話をしてすぐに切れた。

 というかさ……この二人、親子なんじゃなかったっけ? 

「すまないがそういう事だ。無駄に話させて悪かった。ここでの会話は秘密にするし、これから君はもう関係の無い一般人だ。君が何かしなければこちらから干渉しない事も約束しよう」

「そう……わかった。こっちも口を出すのはやめとくわ。それじゃあね」

「ああ」

 クロノが部屋を出ると、しばらくして局員が私を地球に解放してくれた。

 それからしばらく、魔法について触れる事は無かった。




プレシアの寿命?進行具合については完全に末期状態であるとします。どのくらいだったかよく分からないので……

一応これで無印編完結とさせて頂きます。
描写が解りにくかったり不足していたりなどあったかと思いますが、ここまで読んで下さりありがとうございます。

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