子供が喜ぶよう作られた遊具、子供が喜ぶように計画されたイベント、子供が喜ぶよう味付け、盛り付けられた料理。それらを1日かけて貪っていく子供たち。
「楽しかったよ。とても楽しかった」
ーーでも、全然笑ってない。
「……そうだね」
「眼が……」
おかしい。能力を見るのは右目だけ、その右目が数日おかしかった。それが突然元に戻った。
買い物帰りに独り言を堂々と呟く様はまさに精神異常のそれだろう。気にしないしその通りだろうけども。
最後に能力を使ったのはほぼ半年前……プレシアの事件だ。それ以降ほとんど意識すらしてなかった。
「んー、でもあれか、能力の不調なんて……ほら」
世界が暗く広がっていく。まるで魔法の結界の様な世界に一人取り残される。
「っと……」
そしてつま先を地面に喰われる。バランスを取るなど望むべくもなく、顔がアスファルトに吸い込まれた。
「はぁっ!」
「……」
その直後、風が吹いた。ついでに地面についたおでこも喰われた。そのついでに誰か来た。能力の世界で人がいたのは幸運か。
「あー……その、距離や構えから剣士とお見受けしますが……私の両足首、落として下さいませんかね」
能力の副作用……というより、この能力の元々。この能力は誰かを殺す能力じゃなくて、私自身を殺す能力だった。能力というより今みたいに突発的に起こる発作。世界の物質……包丁からベッドまであらゆる物が私を喰らう。発作が終われば元に戻るけど……完全に喰われるとどうなるか分からない。
「足首に興味は無い。魔力だけが目的だ」
「魔力を渡せば足首お願いできるんですかね」
早く切れ。
「……気が削がれるな。何故自傷行為を望む?」
「あー……その、今こんな感じで動けなくて……足首から下が邪魔なんですよね……」
能力で足首が沈んでるなんて見えてすら無いだろうけど、相手の反応を私が見る事も出来ない。アスファルト以外見えなくなった。
「命を狙われ、自身の自由すら効かぬというのに呑気な……貴様、死にたがりか?」
話してる内に発作が治まってきた……目線とアスファルトとも距離を置き、足もなんとか引き抜ける。
「ふぅ……いやぁ、失礼しました。えっと……なんでしたっけ、魔力? でもあれですよ、私魔法使えませんよ?」
「……魔法文化の無い世界だ、致し方あるまい。しかしそれとは無関係。魔力は持っているだろう。どうせ使えないのならその魔力、大人しく渡せ」
「ん……渡したいけど、タダではあげたくないし……何か理由が出来るまでお引き取り願えますか」
「では予定通り、力づくだ」
「やめたほうがいいと思うけどなぁ」
「私が勝てば、勿論魔力は貰うが命までは取らん。抵抗は痛みを大きくするだけだ」
「ん〜……どうしても?」
「どうしても、だ」
「はぁ……」
刀を左手に持ち、右手人差し指を曲げて首に当てる。7回叩く。手を添え、目を閉じて元へ戻す。
「ふぅ……」
それだけで俺は、対人戦闘へ切り替えていた。
「五分だ。それだけ遊んでやる。満足したら帰れ」
♢♢♢
「ディバイン──バスター!」
「ラケーテン……シュラーク!」
「っ!」
小さなハンマーの攻撃をギリギリで防ぐ。
「ブチ抜けぇぇぇぇぇ!」
魔力を編んで作ったシールドも軋みを上げて、今にも突破されそうだ。
この距離では決定打となる大きい砲撃も使えない。以前の私なら、この時点で詰みだった。だけど。
「最果てに至れ、彼方の世界に、その幻想を現実に!」
ハンマーの攻撃をレイジングハートで流して避ける。
「なっ⁉︎」
私はフェイトちゃんとウタネちゃんに助けてもらって! 変わった!
箭疾歩で背後に回り込み、砲撃時の様に溜めた魔力を、相手のシールド越しに槍の様に突き刺して解放する。
「レイジングハート・オーバーロード!」
「ぐ……っ!」
フェイトちゃんの時には速すぎて使えなかったけど、ウタネちゃんに教えてもらった接近戦。ウチでの練習もあってそれなりには戦える!
「てめぇ、覚悟しやがれ! アイゼン!」
ゼロ距離でも戦闘不能にまでは追い込めなかったらしく、敵の目には怒りが迸っている。
「負けないっ! レイジングハート!」
魔力球を複数出し、自分の周りに待機状態にしておく。
『いい? 1秒毎にに5のダメージを出せる人Aと、10秒毎に500のダメージを出せる人B。両者の体力が同じ100の場合、体力50、秒間10のダメージを出せる貴女に倒し易いのはどっちだと思う?』
単純な計算だと同じ。ダメージの余剰がある分Bの方が強敵と私は考えた。
『結果は当然、どちらも引き分け。けれど小さくてもダメージは蓄積するから、攻撃を避けたりするのを含めてもAの方が疲労も溜まり易く、攻撃を受けやすくなる。Bはその10分の1の頻度。一撃が大きくてもそれさえ避けられれば隙ができるし、牽制して攻撃を遅らせつつこちらの回復も狙える。実質的に相手にして難しいのはAで、貴女は今のところ、Bの方なの』
そうやってウタネちゃんに教わった。相手を倒すより、まず倒されない立ち回りこそ私みたいな砲撃メインには重要だって!
「ちっ! 行くぞ! ラケーテン……!」
「そこ!」
「うっ⁉︎」
相手の攻撃の始点を狙って二発だけ撃ち込む。エネルギーを失い回転が止まり、隙ができる。
ウタネちゃん程正確には分からないけど、大体は分かるまでには教えてもらった『動きの始点』。作り出す隙は一瞬とはいえど、実戦で使うとどれだけ有効かよく分かる。最小の力で、相手の最大を封じる。その隙に、自分の最善を!
「しまっ──」
「ディバイン──バスタァァァァァァァァァ!」
♢♢♢
「ほら、五分だ。帰れ」
互いに無傷のまま、五分が経過した。
五分前と変化があるとすれば、散らばった薬莢と、襲撃者が息を切らせていることくらいだった。
「まだだ……ベルカの騎士に、負けは無い……!」
「ったく……」
左手人差し指で首を7回叩き、手を添えて曲げる。
「倒れるまで、押し通る!」
「私が帰れと言ったら帰れ。もう勝てないのは分かったでしょう?」
状況把握に二秒。攻撃の予感と共に現状を把握し、来たる未来に刀を当てる。
「く……!」
敵にとって最高のタイミングで攻撃を防ぐ。
「五分……なるほどね」
「なんだ……貴様。戦法が違う。気迫も無くなった。今では微塵も圧力を感じない」
「ん〜……そうね。まぁそうかなぁ。で、どうする? 帰る?」
「馬鹿を言うな。折角の隙だ。頂いていく」
チャキ、と刀を構えるピンク。対して私は、軽く刀を握るだけ。
「私とやるなら、もう戻れないよ」
最終警告。もう二度とないことを示す。
「また五分と言い出すのか? もう五分も要らんぞ」
「いいや、五分。それが最後だ……」
五分後、彼女はもう刀を見る事すら出来ないだろう。