「キミは楽しかった?」
ーーうん!
黒い髪は笑う。
「だろうね。キミだけじゃない、全員がそうだったと思うよ」
あらゆる面で配慮がなされた1日を思い返し、尊敬する。
ーーあなたも?
「っ、レヴァンティン!」
「甘い、一見変幻自在の鞭であっても、その攻撃は使用者の行動で決まる。いくら速く長くても、分かっていれば対処出来ない攻撃ではない」
未来の軌道をなぞるように、演武の様に攻撃を防ぎきる。
「貴様ッ!」
「貴女がいくら非日常の存在とはいえ相手にしてきたのは人間でしょう? なら、私が貴女を超えられない筈はない。いくら接戦であろうと私には勝てない」
鞭状のそれを剣に戻す女性。
パワーもテクニックもスピードも魔力も、アースラで見た誰よりも高い。魔力量に関しては高町さん、スピードはフェイトには少し劣るけども。
「さて……」
「くっ、この……!」
ひたすらに続く攻撃を受け流し続ける事三分弱。そろそろかな……
「はぁっ!」
スピードやパワーに変わりはないけど、次第に狙いが急所から外れてきている。
「どうしたのお姉さん? そんな狙いじゃ……私は殺せない」
「はっ……は……っ」
私より体力がある事はまず間違いないのに、体力がある方が息を切らせている。
私より技術があるはずなのに、技術のある方が攻めきれない。
私よりパワーがあるはずなのに、パワーがある方が押し負けている。
「せいっ!」
「ぐっ……!」
少し強めに押し飛ばし、距離を置く。
優れているはずなのに届かない現実は、その精神を鈍く、それでいて深く、抉り、押し潰していく。
「もういいよ。帰って」
「なに……?」
「それ以上やると取り返しがつかない。まだ間に合う」
この世界ではフェイトに次ぐ二人目……フェイトは色々あって未遂だけど、このまま続けるなら彼女は剣を見ることすらできなくなる……
「そんなことで、みすみす引けるか……っ!」
「帰れと言ったんだ。三度目は言わせないでよ」
「レヴァンティン……カートリッジ、ロー……」
「言わせないでと言ったんだ。私が帰れと言ったら帰れ。あなたの目的は騎士として死ぬ事じゃ無いはずだ。私に殺されるよりいい死に方がある」
能力で行動を一瞬止め、言葉を被せる。
「……! 貴様、何を知っている……」
「知らないよ。関係無いし興味も無い。目的のある人間は目的のある人間に殺されるべきだ。私みたいなロクデナシに殺されるべきじゃない」
「……?」
「そら、私は私の生活さえ邪魔されなければ何もしない。家の庭の蟻がいつ死ぬかくらいどうでもいいからね。私の魔力を奪えず帰るか、この場で再起不能になるか。選ぶまでもないでしょ。貴女が帰るか攻撃してくるか、行動するまで待つよ。私はそれを尊重する」
三分、並みの精神ならもう二度と剣を持てない状態だろう。それでも殺意が衰えないのは自信か、意地か……バカか。
「……っ、く……私はまだ敗れた訳ではない……が、しかし状況が悪い」
「まぁ、それでいいけども。帰る?」
「戦略的撤退だ。
最初に言ってた魔力か……半分……半分?
そして……辿り着く意志?
「あん? ちょっと待って、ナニソレ」
「次こそは、お前の魔力を貰うぞ!」
紫の魔法陣が現れ姿を消したピンク。同時に結界も消えた。
私の魔力が半分なのか、既に戦いながら抜かれてたのか……もう一人、標的がいたのか。
「クロノッ!」
唯一に近いくらい使える魔法(?)通信。事態を把握していそうな知り合いの名を叫ぶ。
『ウタネか……先程、なのはが墜とされたとフェイトから連絡が入った』
「っ」
『今はアースラの医務室で休んでいる。命に別状は無いそうだ。このタイミングで連絡という事は君にも何かあったようだな。よかったらアースラで話をしないか?』
「……分かった。敵の情報くらいはあげる」
『すまない』
モニターが切られ、代わりにクロノの魔法陣が現れる。
気付かなかったな……しくじった。
♢♢♢
「で?」
アースラに転送されると、医務室までクロノと歩きながら情報共有をする事に。
「ああ、相手は僕たちとは違うベルカ式という魔法を使う騎士と判明している」
「そう。騎士という点は私の相手と合致してるね」
「そうか……タイミングや場所から同じ組織かチームと考えていいな。そしてベルカ式の特徴だが、ミッド式が中距離から遠距離で単数複数戦を問わないオールラウンダー的なスタイルを持つのに対し、ベルカ式は1対1の対人戦に特化している事が多い」
「うん、飛び道具が全く無かったし、接近戦に特化してるって事ね」
刀身をバラして鞭の様にするのは接近戦と呼んでいいのか疑問だけども。
「そしてなのはがやられた最大の理由かつベルカとミッドの決定的な違いだが、カートリッジシステムというものがある。君も見なかったか? デバイスに薬莢を装填する所を」
「あぁ、最初にやってた」
「最初に⁉︎カートリッジロード済みベルカ式相手に無事だったのか⁉︎」
「多分高町さんが負けてなければ完成してたんだけどね」
させる気は無かったけど誠実な態度を示しておく。
「恐ろしいな……いや、それは喜ぶべきだな。カートリッジシステムとは、薬莢に予め込めた魔力を弾く事で、瞬間的に魔力を向上させる事ができるというものだ。これゆえ通常では出せない敵デバイスを破壊する程の破壊力が出せる。しかし扱いの難しさを否定しきれず、徐々にベルカ式は衰退していったのだが……あれ程の使い手がまだ存在するとはな」
高町さんやフェイトの情報をモニターに並べながら思案している。この様子だと戦力的には良くてギリギリみたいだ。
「いっそ私が全部潰そうか?」
「いや、それも考えたがやめてくれ。問題は戦力だけじゃない。奴らの持つコレだ」
「なにこれ」
「ロストロギア……闇の書だ。相手のリンカーコアから魔力を蒐集し、全てのページが埋まった時、その力を覚醒させる……らしい。過去数回この闇の書による被害が記録されているが、その詳しい実態は不明だ」
ロストロギアってアレだよね、ジュエルシードと同じ部類の……なんだっけ、なんか……強力な? アイテム? 分からないけど。
「ふーん……つまり管理局はそれをどうにか確保したいわけだ」
「そうだな。どの様な実態であれ危険なのは確かだ。今回で終わらせたい」
「ん? ちょっとまって? 私がそのチーム潰してそれを確保するんじゃダメなの?」
「ダメだ。闇の書は主か本自体、それらを維持する環境が無くなればいずこかへ転生してしまう。あくまで保護だ。殺してしまってはならない」
「じゃあ能力で固定」
「それもやめた方がいいだろう。君はそもそも能力を使い始めると歯止めが効かないだろう。ついやってしまったでは笑い話にもならない」
「む……まぁ確かに。それは状況次第で十分にあり得る結末だ。分かった、余程のこと……私や、誰かの命に届き得る状況じゃない限り控えるよ」
「無理を言ってすまない」
「……辿り着こうとする意志」
「ん?」
「いいや? なんでもない」
……まさかね。この世界の事だと信じよう。