私立聖祥大附属小学校。
それが、私の通うべき学校らしい。
あの後は取り敢えずで、近くの川の底に能力で部屋を作って夜を過ごした。流石に小学生体型が夜中に出歩くとロクな事がない。そして明け方から双神の表札を探して、昼前に無事発見した。平日ということもあって、人通りを避けるのも難しくなかった。
「ここホントに私の家なんだよね?ロリコン?見てる?合ってるなら何かしろ」
あまりにあっけなく見つかった事、一人で暮らすには大き過ぎる四、五人の家族が住む様な一軒家、リビングと思われる部屋に置かれた意味不明な巨大ダンボール。人が住んでいた気配は無いけど、私の家だと言う確証も無いから不安が募る。フタガミウタネと一つでいいから何か書いとけバカ。
《ここはお前の家だ、家賃も光熱費も無いから好きにしろバーカ》
「あ?」
何も無いと思いつつダンボールを開けていると紙切れが挟まっているのに気付いた。この文面、そして家賃光熱費無しというバカげた内容は間違いなくロリコンのものだろう。まだ具体的な名前が出てないから不安は残るんだけど。
「んー……?フタガミウタネ……学生証?小学校に?うーわ顔写真も載ってる。でもいいか、これで確証も得たし。取り敢えず整理して必需品買いに行こっか」
とは言ってもダンボールの中には組み立て式のベッド、学校の制服、必要書類、印鑑、通帳くらいしか入ってない。つまり大体の物は買わないといけない。面倒。
「んー、じゃあすぐ必要じゃないのは後からで」
買い物してるとつい何を買おうとしてたか忘れるからメモをしておく。
取り敢えずトイレットペーパーはいるね、一番困る。次にお風呂セット一式、これも無いと困る。服もいる。後は……化粧水とか乳液とクリーム……は若さに任せてみよう。小学生の頃は何もしてなかったし大丈夫でしょ。気にしないし。
「よし、大型スーパー見つければ揃うかな。服なんて今はテキトーでいいし」
そうと決まればダンボールの後片付けもそこそこに財布を持って外に出る。財布は何故か生前使っていたものがあった。ご都合だ。
もし、万一の為に刀は小さくして首から下げる。ペンダントだって言えばいくらでも誤魔化せるでしょ、抜けなければ。
♢♢♢
「んー、ちょっとお腹空いたなぁ」
特に問題なく買い物を済ませ、レジ袋に入れている途中、少しばかり空腹を感じた。
食品……でもなぁ、もうメモしてたのは買ったし……いいか、めんどくさい。帰ろ。
「んー……?ん?」
何かよくわからないけど、とても嫌な予感がした。予感というより気配。私の視界には異常は無い……背後……店内で何か……
と言ってもこの世界で違和感なんて原因なんて一つしかない。恐らく高町さんがいるのだろう。逃げるしかない。
ダッシュの準備をしつつ人影に隠れながら出口を目指す。スニーキングミッションなんて縁遠い人生だったけど、できないわけじゃない。
「えっ」
直感でいると思った方を確認すると、高町さんと目が合った。
私は出口前、高町さんは一番奥。距離にして二十メートルはある。それを、目が合うなんて……見られてた?
「っ!」
高町さんが親であろう人に断りを入れているのを見て即ダッシュ。人目を気にしている場合じゃない。家バレしたら死ぬ……!
自宅への二度前の角から周囲警戒、誰にもバレるな……バレそうなら帰るな……
「はっ……はっ……やっと追いついたの!」
周囲警戒、していたはずなのに。まさか正面からくるとは……背後に意識を回し過ぎた……
「……なんでわかったの?」
「とても怪しい動きだったから。目立ってたよ?」
「……」
取り敢えず今から逃げても意味が無い。もう既に私の体力は残ってない。息が上がる程度の高町さんからは逃げられない。なので出方を伺う事にした。
「なんで、逃げ……るの?」
少しこちらを伺う様に覗き込んでくる高町さん。
「あなたと関わると、面倒になりそうだから」
隠す事ではないので、ストレートに返す。
「私を殺そうとしたのはやめなの?」
「もうあなたを殺すだけのチャンスは無い。さっきの買い物だって、一人で十分なはずだったでしょ?」
もう高町さんは一人にならない。これはもう間違いない。
「うん……折角だからって誘ったの」
息を整えて控えめに話す彼女は、今すぐ殺せる程弱々しい。
「ならなんでわざわざ追ってきたの?無視し合えば何も無かった」
「でも、まだお話できてないから」
「議論は終わったし平行線だよ。私は目撃者を消したい、あなた達は私の協力を取り付けたい。もう変わらない。見逃してあげるから帰って」
幸か不幸か、今なら目撃者無く殺せる状況にある。それを知ってか知らずか、話を続けようとする高町さん。
「帰らない。お話しないと分からないよ、距離を置いても解決しないよ」
「……はぁ」
頑なにこちらを見つめる目は、一向に諦める様子を見せない。
無理そうだ。頑固な子どもに言い聞かせる術を持つわけでもない私には、こちらが不利にならない妥協をする他ない。
「分かった。明日の夜、海鳴公園で待ち合わせ。私も生活のリズムってのがあるからね。今日はちょっと遠慮して欲しい」
「……分かったの。明日の夜、海鳴公園で待ち合わせ。うん、覚えた!」
「ユーノ、だっけ?も連れて来てね。ちゃんと関係者全員での話にしよう。二回も同じ話はしたくないし……あぁ、そんな睨まないでよ、言ったでしょ、もう殺したりする気は無いって。一応コレは持っていくけど、やる気は無いよ」
首に下げてる刀を持って示す。
全く、あれ程一人になる気が無いフリして、関係者を集めると警戒って……まぁ、分かりやすくていいけどさ。
「じゃ、そう言うことだから。今日は帰ってもらえる?」
「……うん。明日の夜、絶対だよ。信じてるから!」
そう言って走っていく高町さん。
どういう思考すれば私を信じられるのか不思議でならない。日時を決めた私ですら私が行くのか半信半疑なのに。そもそも夜って何時?
或いは、その真っ直ぐな心こそ、普通の人間が持っている感性なのかもしれない。相手の思考を読み切ったつもりを平然と信じられる、愚かな心。
私は今の時点で高町さんを殺す算段は付けてある。彼女はともかく、以前から魔法を扱うユーノという生物(?)なら、昨夜の私の戦闘から能力の一部でも見抜き、対策として仲間を集めていてもおかしくはない。そうなればこちらも初期の目的を達成するまで。『関係者全員での』……これは私と高町さん、ユーノの三人だけだ。それ以外は認めない。もし第三者を連れて来るなら、即殲滅する。魔法の質はまだ読めないけど、あの系統である限り私を上回ることはない。
「ま、これは今考えても意味無いけどね〜」
高町さんが視界から消えたのを見て、自分に向けて呟く。
その後も出来るだけ人目を避け帰宅し、それ以降は外出する事なく眠る事にした。
小学校で学生証はあるのかないのか……私の所は無かった。