ーー?
「いくら良く考えられたものであれ、その程度に我を忘れるのかって」
ーー楽しめない?
「楽しいから嫌なんだ」
ーー私にはわかんない
「理想だよ、私の思う理想」
「「……」」
はい。
「どしたんや二人とも」
「何固まってんだ?」
「ん……そうだな。すまない客人。こちらへ」
「あ……どうも」
はい。
「ほんとどしたん? シグナムもウタネちゃんも固まって。先生呼ぶか?」
「い、いえ主、心配には及びません」
ナースコールに手をかけた八神さんを制するピンクの人。
「二人して固まってたら心配もするわ。なぁシャマル」
「そうですね。シグナム、少し歩いてきてはどう?」
「む……そうだな、ああ。そうしよう。よろしいですか、主」
「ええよ、ゆっくりしてな」
「はい。ありがとうございます」
そして黄緑の人に言われるままに外へ出て行くピンクの人。出て行く瞬間の殺気が怖い。
「ごめんなウタネちゃん。シグナムはちょお堅いとこあるからな」
「いや……それはいいんだけど……誰? シグナム? シャマル?」
「あー、うん。私の親戚でな、ちょっと遊びに来てんのや」
「あ、前言ってたおじさんの?」
「え? あー、うん」
いかにも歯切れの悪い八神さん。
おかしい。おかしいよ。『援助してくれてるおじさん』のとこにいる『親戚が遊びに来てる』んだよ? あれ⁉︎おかしくない⁉︎
いやいやいや、おかしいのはそこじゃなくて。名前だよ名前。カタカナじゃん。八神シグナム? おかしいでしょ。明らかにハーフでは無いし? いや? フェイトの事もあるしアリか……?
「おっけー。把握した。はじめまして、フタガミウタネです。ウタネでよろしく」
「ほら、挨拶しーや。ヴィータ」
「うぇ⁉︎あ、ヴィータ、です」
「私はシャマル。よろしくね、ウタネちゃん」
赤がヴィータ、黄緑がシャマル、ピンクがシグナムね。多分明日には忘れてる。
「やー、でも元気そうで良かったよ。まさか入院してるなんて」
「うん、心配かけてごめんな? 今はなんともないねんけど」
これは嘘だ。以前会った時より遥かに脚が悪化してる。物理的じゃなく魔法的。私じゃ対処できないもの。
「へぇ……それで、心配して来てくれたの?」
「そーなんよー。大げさやろー」
「そんな事ねぇよ、はやてに何かあったら大変だろ!」
「やけどなー、まだなんもあらへんし」
心配するヴィータにも八神さんはケラケラとしている。見た感じそこまで辛そうじゃないけど……どうだろう、
「そうなの? 病院からは30分だけって言われたんだけども」
「そーなん? まぁ倒れて搬送されたからなー。ちょお大きく見とんやない?」
大きく無い。むしろナメてる。魔法文化も無いし原因すら目処が立って無い状況だろう。それを見てるだけの親戚とは思わない。
「んー、まぁ。何も無いならいいんだ。これ、お土産に」
片手に持っていた紙袋をベッドに置く。
「ごめんなー、ありがと〜。ん、重いな?」
「うん、病院とは思ってなかったから、包丁とまな板。あと手作りのモンブラン。モンブランは特殊だから嫌なら捨ててね」
「とんでもない! 有り難く頂くよ〜。やー、包丁まで……絶対お返しするな!」
特殊、という言葉に八神さん以外の二人が反応する。と言ってもそれだけで何もしない。
喜び笑顔の八神さんはそれに気づいているのかいないのか、ケースの包丁をまじまじと眺めている。
「別にいいよ、食べきれなくなったモンブランのついでだし」
「ついででこれかいな。かっこええなぁ」
「幸いお金は困ってないからね。そろそろ帰るよ」
「うん、ありがとな」
「私、病院出るまで送ってくよ」
「ん? あぁ、ありがとう」
黙りこくっていたヴィータが突然名乗りを上げる。可愛いねぇ。
「なんやヴィータ、ウタネちゃん気になるか?」
「ん、ちょっとね」
「じゃあウタネちゃん、ごめんけどヴィータよろしく」
「おっけ。じゃあね」
ヴィータと並んで病室を出て、エレベーターに乗る。
「……どういうつもりだ?」
「ん? なにが?」
「なにがじゃねぇ。管理局が私らを見逃すってのか?」
「あー、前の襲撃、高町さん堕としたのあなた?」
「あの白いのか。手こずったけど負けやしねぇ」
魔法戦で高町さんに勝てるなら、大抵の職員は相手にもならないだろうし……フェイトやクロノでもギリギリ、ってところかな。シグナムもかなり強いしなぁ……管理局負けるんじゃ?
「でもあのピンクの人を無傷で撃退した私がこうもあっさりしてると気味が悪いと」
「ま、そんなとこだ」
「三人なら負けない、って余裕のとこ悪いけど。私、管理局の人間じゃないよ」
「あぁ?」
「管理局とは知り合いってだけ。属するとは一言も言ってないし、利害が一致すれば同行する程度の関係なんだ」
何度か頼んだりもしたけど……決して属しては無い。
しかし外から見れば属しているに等しいようで、納得は得られないようだ。
「信用すると思ってんのか?」
「信用して欲しいなぁ〜。面倒なの嫌いだし」
エレベーターを止め、ヴィータを先に降ろす。乗る人がいないのを確認してからその後を追う。
「簡単にはできねぇな」
「どーせアレでしょ、あのモンブランに何かしてると思ってるでしょ」
「そりゃそうだ」
「まー栄養満点腹持ちバッチリ高タンパクで低カロリーなシロモノだけど害は無いよ」
「なんだそりゃ?」
「不思議だよね〜……私もどう作ったのか覚えてないんだ〜」
「ナメてるよな、ナメてんだろ」
魔力が少し滲む。けどそれは殺意というより怒っているフリと言った体で、こちらを促しているような感じだ。
「怒んないで……ほんとだから……」
あのモンブラン絶対お肉とかネギとかも入ってるんだよ。買ったはずなのに無くなってたから。
「どうしたら信用してくれる? 私の想像とか全部話せばいい?」
「あ?」
「貴方達、そもそもちゃんとした……その辺にいる人とは違うよね。魔法関係は分かんないけど……それで、八神さんの足を治そうと集まった。あの足は地球の技術じゃ絶対治せない。見たところだけど大抵の治癒魔法も効かないはずだ。それで魔導師から魔力を集め、完全に治癒する魔法を八神さんに使おうとしてる……そんなとこじゃないかな」
「それだけか?」
「んー……だねぇ。あと……そうね、完成間近になったら私の魔力もあげる、ってのでどうかな」
「……」
「八神さんを助けたいってのは本当なんだよ。私が死ぬ気は無いけど、出来るだけ手助けはしたい……その手段を持つのは貴女達だけだから、必要があれば私も使っていい……だめ?」
「ちょっと待て……少し話す」
「うん……」
ヴィータが考えながら黙り込む。念話で二人と相談してるんだろうと思う。
決裂は即ち八神さんの身を更に危険に晒す。それを予感しながら返事を待つ。
「取り敢えず、明後日の夜9時、アンタとシグナムがやったとこに来な。私とシグナムでそこに行く。時間に来なかったり、管理局を連れてきたり監視させてたりする気配があれば交渉決裂だ」
「ほんと! ありがとう!」
取り敢えずオッケー。目的が協力であれ始末であれ約束は取り付けた。
今日はこれ以上を望めそうにないので素直にお礼を言って帰る。病院が見えなくなる程私が遠ざかってもヴィータはこちらを見ていた。
「おーヴィータ、おつかれ〜。ヴィータも食べよ、ウタネちゃんのモンブラン。ほっぺ落ちそうやわ〜」
「ちょっ⁉︎(シャマル!何食わせてんだよ⁉︎)」
「あの子、料理上手ね〜。はやてちゃんと良い勝負なんじゃないかしら(大丈夫よ、スキャンもしたし、ザフィーラにも食べさせたから)」
「んん……まぁ、シャマルの料理よかマシか……(ザフィーラ毒味かよ、可哀想に)うめぇ!なんだこれ!」
「今度来てくれたらレシピ聞いてみよ。こんなん料理本でも見たことないわ」