ーー今日は、ダメ?
「駄目だね。楽しい理由が分かってしまった。仕組みが分かると操られてたと思ってつまらなくなる」
ーーうん
「少し見れば世界はそんなものばかりだ。僕の理想はそんなものを感じさせない楽しさだ」
「こんばんは」
「……来たか」
以前と同様、戦装束のシグナムと赤いロリ衣装のヴィータに声をかける。
「ヴィータ、それ可愛いね」
「はやてが考えてくれたんだ。ま、それは後でいい」
「見たところ、本当に一人で来たようだな」
「約束だから」
紳士的に、約束は守り、裏切り謀反は堂々と捩じ伏せる。
「では、今から私達二人と戦ってもらう」
ガシャン、とカートリッジが溢れる。
ヴィータの小型ハンマーからも同じく溢れ、前後に挟まれる形になる。
「結界は十分な範囲を取ってある。制限時間は3時間。時間切れかどちらかのギブアップで終了だ。終了の際は再び此処に戻れ」
「んー……分かった」
刀を出し、軽く体をズラし、後ろのヴィータを視界に入れる。
「よし……スタートだ」
「ふぅ……早めにギブアップしてよね」
ジリ、と二人がすり足で間合いを取る。
私も刀と鞘をそれぞれ持ち、擬似的な二刀流を演出する。
「「はぁぁぁっ!」」
「直線の攻撃で、数が同じなら止められない筈はない」
シグナムを刀で、ヴィータを鞘で相殺する。攻撃は熟練しているだけにタイミングが同時で、死角から放たれる。こちらはただそれに合わせて防御するだけ。
状況は二対一でも変わらない。いやむしろ悪化している。二人でも手が届かないとなれば、その精神の磨耗は一人の時の比ではなく……
「うっ……?」
「シグナム⁉︎」
二分と経たずして、シグナムが剣を落とす。前回からあまり時間が経ってないから引きずったのかも知れない。
しかし好機。これで終わってくれれば1番いい。
「ヴィータ! 止まるな!」
ヴィータが続行を躊躇った瞬間にシグナムが叫ぶ。一瞬緩んだヴィータの顔が再び引き締まる。
「っ!」
「えっ? うそ⁉︎」
攻撃は止まらなかった。それどころか、剣を拾ったシグナムも即座に復帰してくる。
「なんで⁉︎もういいじゃん!」
「そんな逃げ腰でいいのか! 次は殺すと言ったあの威勢はどこへ行った!」
「へぇっ⁉︎殺す⁉︎私よりいい殺され方があるって言ったよね⁉︎」
「それは1度目だろう! 2度目はどうだ! あの大鎌での戦闘は圧倒的の一言だ!」
「……2度目?」
待ってちょっと。待ってちょ。まっちょ。マッチョマッチョ。
私がシグナムと会ったのが高町さんが墜とされたあの日、次いで八神さんのお見舞いに行った一昨日。2度目の戦闘は今この場じゃ……?
「シャマルとザフィーラも呼んだ! 今日この場でカタをつける!」
「待って待って⁉︎なんでそんな話に⁉︎」
「聞く耳持たん! 我々をどこまで知っているのか知らんが、主を知ったからには消えてもらう!」
「シグナム! ヴィータ!」
混乱の中、上空から更に二人。
「シャマルか!」
「こいつが例のフタガミか」
先日見た緑の女の人と……犬。
「ペット連れとは余裕だねぇ……」
「ペットではない! 盾の守護獣、ザフィーラだ!」
数瞬後の悪寒から魔力放出の原理で体を無理矢理跳ばす。元いた場所は白い棘が乱立していた。
「むぅ……四対一かぁ……」
「卑怯とは……言わんな?」
「もちろん。人数でも道具でもなんでも使えばいい」
そんなもので私に勝てるのなら。
「ふ、聞いていた通りの自信家だな。我ら四人を前にしても揺るがんとは」
「でも、魔力量は前の子とほぼ同じよ。油断しないで」
「行くぞっ!」
四人が分かれ、シグナム、ヴィータ、ザフィーラが私を三角形で囲み、シャマルが少し離れて魔法陣を展開している。
前衛三人……バランス悪いわね。
「まぁでも……」
三人ですらも変わらない。剣を、槌を、拳と楔を、事前に予感した通りに防ぎきる。たまに来るバインドも反射神経が意識を超えて避けてくれる。そしてなにより……
「たとえ四人でも、向かい合ったその瞬間だけは一人。なら、それを防げないはずがない」
同時攻撃であろうとも刀と鞘と両足なら耐久が持てば防ぎきれる。そして耐久は能力で完全にカバーできる。
「悪いけど、私は負けないよ」
「ふ、未来が見えていようと、これに耐えられるか!」
突然三人が引いたと思うと、私の周囲数メートルに可視化されたバインド、魔力球が密集していた。辛うじて視線は通るくらいの、とんでもない密度で。
あまりにナメてる。プレシア一人にすら劣るようなこんなもの、私の能力に比べれば石ころ程の価値もない。
【壁を】
空気を固定、厚さ10センチほどの鉄の板を自分の周りに置いた様なもの。2〜3センチならともかく、この強度を貫通するほどの攻撃はこの場に無い。
「ふ、当然防ぐよな。そうだろうとも」
シグナムが正面から……弓を構えていた。
「コレの威力はそれらの比ではない。油断が過ぎたな。駆けよ、隼ッ!」
言葉通り、槍の突き、ライフルの銃弾以上の威力を持って炎を纏う矢が能力の壁と接触する。
鉄を溶かしながら速度を落とすこと無く突破するであろうその矢は……超弾性を得た空気によって減速し、私に到達するころには威力を失っていた。
「なっ……」
鉄の強度を超えたのは事実。実際に鉄の壁であればメートル単位で置かなければ防げなかっただろう。だけれども、私が壁としたのは強度を増しただけの空気。弾力のあるゴム状にも液体にもできる。
こんなもの、皇帝特権を使うまでも無い。
「ふーん……ただの魔力だ……なのに実物と変わらない重さがある」
「ふん……なんだ? 何が目的だ」
「……ねぇ、もしかして魔法関係者って頭固い話聞かない人ばっかなの?」
「あんだと!」
「何度も言ってるじゃん、八神さんを治す手伝いがしたいんだって。何度もおんなじ事話すの嫌いなの、面倒だから。次聞いたら殺すよ、八神さんの為に管理局でも敵にして良いって言ってるの。分かった?」
刀を仕舞う。
四人は病院でのヴィータの様に黙り込んでしまった。仕方ないので結論が出るまで待つ事にする。
「……いいだろう。信用しよう。ただし、直接的な協力はしない。お前が怪しまれると主に勘付かれる可能性が高くなるからな。たまたま共通の敵に会い、たまたま協力する、それでどうだ」
「おっけー。それで私は管理局に今まで通りの態度で接し、適宜情報を提供する。かつそれとなく八神さんから遠ざける」
「ああ」
「交渉成立だね。じゃあどうしようか、管理局のことだからこの結界には気付いてるよ」
「問題ない。お前は家に、我々は別の次元世界に転移する。ありきたりだが、私たちとお前は会った事はないし、互いの知識も無い」
「分かってるよ。しばらく会えないだろうから八神さんによろしく」
「ああ。お前のお土産を大層気に入っていた。事が終われば、また会ってくれ」
「もちろん」
「シグナム、準備できたわ」
「よし。ではな。約束が果たされる事を期待する」
互いに魔法陣に入れられ、淡く光って視界が消える。
居たのは自宅の寝室で、無事転送されたようだ。
明日からスパイもどきの生活が始まる。そう思うと年甲斐も無く楽しくなる。