ーー私はそのくらい楽しかったよ?
「それも人それぞれ。僕はできなかった」
ーーそれは、どんなのだったら満足できる?
「さて。ちょうど一時間だが。話す気になったか?」
「ウタネちゃん……」
「ウタネ、今なら本当に無罪で解放なんだ。プレシア事件では管理局に相当な協力をした事もある。前科にすらならない」
「ウタネ、私からもお願い。ちゃんと話してほしいの」
クロノ、高町さん、フェイトが机の向こうで拘束された私を見る。
手は後ろで椅子に括られ、足は机の脚にそれぞれ。動こうとするなら体の前で机を引きずりながら膝と指先だけでの移動になる。それはちょっと辛いし、仮にも女のする動きじゃない。
「だから……覚えがないんですけども……」
管理局アースラによる最高戦力とも言える三人に尋問されるというのはまぁ。別段アレだよ、知り合いだしなんとも思わないんだけども。
「じゃあもう一度流すぞ、この映像はなんだ?」
クロノがモニターを開き、映し出される何処かの記録。
場所は管理局のロストロギア保管庫で、収集したロストロギアの確実な保管、研究を目的に行なっているところだという。
そこに大きな音と揺れ。天井の一部に穴が空き、土煙と共に立つ白い長髪を雑にまとめ、鋭い目つきの赤い瞳がモニターを見る。
直ちに警報が鳴り、武装した魔導師が五人ほど向かうが襲撃者の持つバルディッシュを超える大きさの鎌に簡単に撃墜され、向かってくる者がいない事を確認した襲撃者はロストロギアを物色し、いくつかを持って天井の穴から消える。
以上が、始めと今で二度見せられた映像だ。
「この襲撃者が君であるだろうと言う声が多数、更に分析した結果からも身長体重が君と一致する。言い逃れはもう殆ど出来ない状況だ。だが、奪われたロストロギアは全てが高エネルギー性質であるだけでジュエルシード以上の危険を孕むものでは無いだろうとされている。今出せば全て水に流してくれるよう交渉はしてある。局内での印象は悪くなるだろうがその程度だ。賢明な判断をしてくれ」
クロノが面倒そうに書類をめくり、こちらに寄越す。内容は映像で奪われたであろうロストロギアのリストや現在私に向けられた処罰。処罰は局員が書き殴ったようで、半年謹慎から死刑まで様々。死刑て。
「……私じゃない可能性は考えてくれない?」
「今のところは皆無だ。何かあるのか?」
「鎌とか顔つきとか? ほら、全然違うでしょ?」
「確かに君は緩みきった顔をしているが、表情を作ることはできるだろう。武器に関してもそうだ、君はフェイトのバルディッシュを完璧に使いこなしていた」
「むー……所詮は法の番人かー……」
「あぁそうだ。一側面であろうと理論が通っていれば犯人だと断定するし、怪しければ拘束する。僕は艦長ほどキレイじゃないからな。怪しきは罰する、もナシではない」
「はぁ……そう。じゃあ私の秘密を知る法の番人さんに聞くけど。全方面から理論が通って本人も自白した場合でも、管理局で私をどうにかできると思ってる?」
極めて面倒に、夕飯の献立を相談する様に問う。
立場上仕方ないのは分かってる。だけども彼は私に不干渉を誓った。この拘束は明らかにそれを破っている。であればどうなるか、それを忘れる彼ではあるまい。
「……思わない。君との約束を破っている事も重々承知の上だ。だが、事はそれで収められない範囲まで広がってしまった。アースラの中での事なら僕達でなんとかしてみせるが、本局までとなるとどうしようもない。組織である以上は上に逆らう事は出来ない」
「そう……所詮それが数や権力に頼った結果よね。威張るだけの能無しども、感情だけで動く野生動物。かと言って冤罪食らうのも嫌だから……一ヶ月、最低でも二週間くらい猶予貰えない? その映像の犯人捕まえたら解放されるでしょ」
やっぱ管理局に属するのは無理ね。上を殺して私がトップになっても……面倒だからいいか。
「犯人をねつ造するのはナシだぞ」
「分かってるよ。そんな事するわけないじゃない、犯罪者じゃないんだもの」
「……一ヶ月は無理だ、二週間なら監視付きでなんとか、というところだな。監視は同じ地球在住ということでなのはとフェイトを付けるという事で大丈夫だろう。後は……いや、大丈夫だ。君が管理局と敵対しない事を心から祈る。上には何とか言ってごまかすがね」
「それはそちら次第だよ……今回のこれはまだ許すよ、そっちの立場もあるだろうからね。高町さん、フェイト、行こうか」
「「え」」
黙っていた二人が素っ頓狂な顔をする。話聞いてた?
「保護観察、今からでしょ。私はもう寝たいの。家までついてもらえる?」
「うん……」
二人に連れられアースラから地球のどこかに転送される。そこからしばらくは黙って歩いていた。
「ねぇウタネ、私はウタネがあんな事するとは思わない。犯人の心当たりはあるの?」
「別にしないとは限らないよ。人も生き物なんだ、家族を殺す人もいる」
「ん……」
「信じ過ぎるのは油断だよ……犯人ね。心当たりはない事はない、けど……」
あの映像、クロノの言う通り完全に私のそれだ。幻術や化粧じゃない、素の私。けれど私じゃない。しかも鎌なんて持ってない。持ってたらフェイトにバルディッシュを借りたりしない。でもあのバルディッシュの黄色を白にしたようなカラーに大きさ……知ってる。この世界じゃないとすれば神の手が入ってるから……送ってくるなら私の知ってる人間である可能性が高い……となれば私を見つける為に主要機関である管理局との接触は時間の問題か……かつこの世界を知ってるなら八神さんたちの事も知ってる。そっちからのアプローチもある……まずシグナムに連絡して……
「ウタネ?」
「可能性はあるから、対話になったらできるだけ情報を引き出して、要求も出来る限り飲むんだ。無茶な事は言わないはずだから」
「え?」
「ん、多分向こうは貴方達を知ってるから。加減はしてくれるはずよ」
「いやだから、何の話?」
「え? いやだから、犯人が接触して来た時の話」
「……?」
「あれ? 犯人が私じゃなく別にいたらどうしたらいいかじゃなかったっけ」
「え……いや、聞こうとはしたけど、まだ何も言ってないよ? なんで……」
急に噛み合わなくなった会話に、確認するけどやはりどこかズレてる。
「む……?」
言ってない? いやでもそうじゃなかったらそんな話はしない筈……
「おかしいね。まぁ私の直感がフェイトの質問を先読みした、くらいでいいと思うよ。前もなんか似たような事あったし」
前は誰と……んー、忘れた。
「そう……分かった。でも不調なら言ってね? 私たちは監視なんだから。病気ならちゃんと治さないと」
「あなたの思う監視は多分見守りの意味が強いね? クロノの言ってた監視は管理局に対して私を完全に支配できていると見せかけるように演技しろって事だよ。だから私の行動をたまに止めたり、指示しないといけないの」
私を味方と決めつけているフェイトを諭す。客観の立場からは意味わかんないけどね。
クロノも何かと悪党だよね。法的な悪ではないけど法になりきれない感じ。
「……ウタネちゃんって、クロノ君と仲良いよね?」
「別に? 親しくはないと思うけど」
「なんか互いを理解して信頼してるって感じなの。私たちとは見方が違うのかなって」
高町さんが妙な事を言い始める。
けれど茶化すような雰囲気ではないので、一応は真面目に答えてみる。
「んー……そうだね。確かにクロノは信頼できる。根本の考え方が食い違ってはいるけど、行動指針ではあまりモメないだろうね」
「どうしてそう思うの?」
「彼は自分で管理局の歯車の一つとして動こうと律しているけど、根本が優し過ぎる。犯罪者には容赦無いけど、冤罪の可能性を少しでも感じたら躊躇ってしまう。今の私みたいにね。管理局はやろうとすればなんでも許されるくらいの力がある。優しいからこそ彼は苦しむだろうね」
他人の苦しみを想像できないほどバカなら、どれだけ楽だっただろうか……彼も、私も。
「自分の思う正しさがあって、世界はそれと違ってて。昨日と変わらない今日を、死ぬまでずっと続けてる世界が間違ってて。そんなさ、捻くれた考えが行き過ぎてるんだよ、特に私はね」
世間からのズレほど、理解されず自分を追い詰めていく。彼らが想像してもいない悩みは全て、時間や体調が解決するだとか意味の無い言葉で流される。
「……あんまりよくわかんないけど、ウタネちゃんはやっぱり優しいよ。私なんて家族や友達だけで、世界のことなんて心の底ではどうでもよく思ってた」
「普通はそうだよ。自分の見える内が世界なんだ。けどそれで正しい。知らないものは知らない、関係無いものは関係無い。そうでなければ世界はあなた達の言う平和になってるはずだから」
誰も傷つかない、誰も困らない世界が平和だと世間は言う。私からすれば、そんなのは一面からしか人間を見ていない。
「ウタネちゃんは違うの?」
「私……は違う、かな。あんまり言わないんだけどね。私ね、全生物に消えて貰いたいんだ」
二人にだけ、今はこの二人にだけ、本音を零す。
このアクションが今後の管理局と私の距離を決定するだろう。
・もしダンベル何キロ持てる?の世界にソラが転生したら
「フルパワー、100パーセントプラス鬼の貌……全治半年は覚悟してもらうよ」
「「「……」」」