ーーどう違うの?
「それはそれ。君が何年後か、この事を覚えていたら実感するよ。多分、思い出すことさえできないけどね」
「「え……?」」
私の告白は、二人を一時的に機能停止させるには十分なものだったらしい。
硬直を解く為にも、同じように言葉を使う。
「私の望み。目的はそれなんだ。全生物を消すこと」
「なんで……」
「理由は言わないよ。あくまで私の哲学で、私の結論として出たものだから。またきっかけがあれば話すかもね」
「じゃあなんで、ジュエルシード集めに協力してくれたの? 放っておいた方が、その助けになったのに」
「んー、あんまり変わんないからかな。ジュエルシード
「あれだけのロストロギアが、擦り傷なの……?」
「言ったでしょ、それがあなたの世界。身近な人が数人、地域の人が十数名巻き込まれただけで深刻な被害だと認識してる。そりゃあ人口百人の内二十人の死は重症だよ、人で言うなら片足複雑骨折くらい。けどまだ立てるし、動ける。この世界は数十億と人間がいる。数十人死んだところで誤差の範囲なんだよ」
一部の国では国民の半分以上が飢餓に苦しむというのに、一部では全てを持て余している。世界は後者が作っているから、前者がどうなろうと大差は無い。
「ヒトは好きなんだよ。別にね、生き様の全てが嫌いなわけじゃない。だったらこうやって話してる内にほら、一刀両断」
刀を高町さんの首筋に差しむける。
「……!」
フェイトがバルディッシュを手にするが、私に殺意が無いと見ると引っ込めてくれた。
「でもしない。それをする意味は無いから」
「じゃあ、どうしたいの。ウタネちゃんが私達とは違うのは分かったよ。普通の人の思う普通の平和を望まないっていうのも。でも、それならウタネちゃんの行動は矛盾してる」
「うん。普通はそう思うよね。人を消したいのに人を救う助けをしてる。消したいなら殺して回るべきだと」
「うん」
高町さんの言いたい事を言葉にすると、それを肯定する様に頷いた。
「それも前提が違う。もし全人類を即座に殺すだけの力があったとすれば。別に一人二人、数百人数千人増えても減っても変わらない。だから、欲しいのは私の哲学への反論なんだ。私の思想は、こう間違っててこれが正しいんだって。人が生きる意味を、価値を」
世界から水を消したいからと、湖1つを干上がらせても大部分の水である海にはそう影響は無い。それと同じ。
私の言葉に、高町さんはそれ程間を置かず真っ直ぐに答える。
「ただ周りの人が大切で、楽しく暮らしたいから。他に意味なんて無いよ。自分の人生を自分の思う通りに頑張って、みんな笑って暮らせる生活を目指していく。人生って、そういうのじゃないの?」
「……驚いた。小学生がそんなしっかり人生観を持ってるんだ……」
「ウタネちゃんだって小学生だよ」
「……そうだね。確かにそうだ。でも残念ながら、高町さんのそれは私の価値を覆すものじゃない。確かに生きるだけならそれでいいと思う。立派だよ。だけど……うん、もう言っちゃおう。次は無い。あなたの生きた後はどうなる? あなた達人間が作り上げた文明はどうなる? 普通の人を記憶する人は精々が三代。100年足らずだよ。80年生きたとして、180年。それがあなたという存在の寿命。それに何か価値がある? あなた達人間の作り上げた文明。現代の地球上最大の発展を遂げたけど、後何世紀持つ? いつかは消えて無くなる。氷河期か、地球自体の崩壊か、原因は分からないけど絶対に消える。なら、今の文明に意味はある? いつか消える何かに、必要性を感じられる?」
私の心の底を、この小学生にぶつける。通算でこの子達の倍以上を生きた私が、対等な立場として胸襟を開く。
「……無くなるのが怖いの?」
「怖い。日々を死ぬ気で生き抜いているのに、それが何の意味も無い。積み上げたものが消える瞬間は死と同義だよ。死を恐れる理由もそれだ。今までの人生が消える事を怖れるんだ。なら、積み上げる前に消えればいい。いずれ価値の無くなる全てを、今ここで──!」
やはりダメだ、ここで、この地球で。
私の生まれた場所で無くとも、同じ人間が住んでいる。暮らしている。蠢いている。無意味な活動を続けている。
そんなもの、今すぐ無くしてみせよう。いずれ来る死の恐怖から解き放とう。
全てが始まる前に、全てを崩して見せよう。今宵あなた達は救われる。神は私を恨むといいさ。私はこんな人間だ。自分の理屈のために他人を全て否定する──!
【全て。完全固定、圧縮】
あらゆる物質を固定する。そのまま地面へ落としていく。
大気圏は地表へ近付き、山は平たく、ビルは崩れ、木々は軋みを上げる。
あらゆる全ては、見えない重さに潰れて消える。その様を、私は最後まで見届けて……
♢♢♢
「じゃあウタネちゃん、また明日、学校でね」
「え?」
「だから、学校。もうサボったらダメだよ」
「え……いや……うん」
「私達が付いてなきゃダメなんだから、来てなかったら迎えに来るからね」
「いや……行くよ……ちゃんと」
「うん。じゃあね」
玄関から遠ざかる二人を、ただ呆然と見つめる。
「え……」
世界は何も変わってない。まるで私の能力が痛い妄想だとばかりに。
しかし能力は健在で、今確かに使用できる。
「今度は何……? 会話がズレてるのとはまた違う」
会話のズレは私の頭が先を行き過ぎただけだ。けどこれはおかしい。まるであの会話を無かった事にされたような……
考えるだけ無駄か。分からないことはわからない。やる事を1つずつ片付けよう。それが問題解決に繋がる。
(シグナム、聞こえる?)
取り敢えず、管理局が私を監視下に置いた事を報告しよう。
(……ああ、どうした?)
三十秒ほどで返事が返ってきた。少し息が乱れているところを見ると、蒐集の帰りだろうか。
(ごめん、別件の事件で、私が管理局に監視される様になった。監視人はシグナムとヴィータがやった女の子二人)
(む……そうか。冤罪であれば仕方ない。むしろそちらにあの二人が付くのであればこちらが動きやすい。その状況を維持できそうか?)
(犯人が出てこない限りはしばらくこのままだと思う。監視と言っても緩めだからこっちはそう動かないけど、そっちに多少は向くかも)
(いざとなればそれも仕方ない。そうなったらお前はどうする)
(もちろん、そっちに。管理局なんかに八神さんを好きにはさせない)
(そうか。負けるつもりは毛頭無いが、そうなったら何もできんぞ)
(いいよ。あなた達がいなくても何かしらはするつもりだったし。医療技術は結局必要なんだ)
(どこか悪いのか? シャマルなら十分な治療ができると思うが)
(うん……また今度会えたら)
(そうか。急ぐならまた声をかけてくれ。管理局と関わらない限り協力しよう)
(ありがとう……そうだ、シグナム。ついさっき、変なこと起きなかった?)
(変?)
(例えば……やったと思ったことがやってなかったとか。時間が戻ったような感覚に囚われたとか)
(……? いや、なんともないな。管理局絡みか?)
(ううん……多分違う、と思う。私の確信もないのにごめん。確証が持てたらまた言うよ)
(……まぁ、いいだろう。それではな)
(うん)
念話を終え、意識を戻す。
原因不明、恐らく私以外認識していない能力の介入。そして高エネルギー源のみを強奪した動機。
分からないか……仕方ない。
こういう時に使えるものが無いのは不便だな、と思いながら、その不便も普通の人が感じるものだと思うと多少は人間にも同情する。
意識を切り替え、とりあえず明日寝坊しないよう、様々な紙に埋もれた教科書を発掘する事から始めた。