ーー遠いと、楽しくない?
「その場限りなら楽しいよ、それなりに。でも夜には辛くなる。なんであんなもので楽しんでたんだ、所詮そんなものか、って。理想が遠過ぎて、今が嫌になる。理想は必ず今じゃないから、今が嫌になる」
ーーでも、今しかないよ?
「今じゃなくて良い。でもきっと僕はいつか手にする。理想を手にする。その時まで、僕は……私は、オレは理想を望まない」
(シグナム?)
(すまない、大丈夫か?)
(うん……どうかした?)
(恥ずかしながら手こずっている。ヴィータもザフィーラも手が離せなくてな。少し手を借りたいのだが……)
(別に、それはいいけど……いいの? 私が協力するなら、遅かれ早かれ管理局も来るよ)
今は私に二人を引きつけてるし、何故かデバイスも修理できてないようだからシグナムたちの追跡に手を焼いてる様だけど、直接となれば一気に手は伸びるはずだ。
(あぁ……それもコイツを蒐集できるならお釣りがくる。お前に管理局の目が回っている分進みも良い。これを逃したくはない)
(……分かった。勝算があるなら乗るよ)
(座標……いや、シャマルに転移させよう。今大丈夫か?)
(いや、今は管理局に監視されてる。管理局にも転移を頼むから、その直前で拾ってくれると誤作動を言い訳にしやすい。できる?)
(……可能だそうだ。では頼む)
(わかった)
念話を切る。
これはある種、とても面倒な行動だ。シグナム達は手伝いたい、管理局は敵にしたくない。この板挟み。何故こうなったか……高町さんにジュエルシードの件で手を貸したからだ。フェイトを救う為暴走したジュエルシードを確保したからだ。
……他人への無闇な干渉はいつか自分に返ってくる。誰からも嫌われることと同じように、敵対する両者から頼られる事も辛い。こんな事になるのなら、やっぱり家に閉じこもってれば……
(クロノ。見てると思うけど、これは過剰干渉だ。迅速な対応を願う)
今はそんな場合じゃない。八神さんを救う為だ。多少の苦労は覚悟の上だ。
(見ているが。別にただのお茶会だろう。付き合ってやれよ)
(四人にクロノが覗きしてるって触れ回るよ)
(やめてくれ! そういう女性特有の脅迫はタチが悪い!)
(まぁそういうのあるよね。じゃあお手洗いって別れるから、どっかの曲がり角に置いといて)
(く……わかったよ。その建物を解析させてもらった。トイレまで二回曲がる事になる。二つ目の先に設置しておく。人目がないように頼む)
(あら、お早いね。女の子の家覗くのは手が進むかい?)
(エイミィ、やっぱり転送はナシだ。あと上にも襲撃犯はウタネで確定と伝えてくれ)
(ごめんごめん! 悪かったよ。貸し一つ、私を好きに使っていいから)
(あのなぁ、そう言う言い方を簡単にするもんじゃない)
(ん? いいよ、そういうのでも。多分クロノなら殺されないだろうし)
(なんだ⁉︎殺されるって!)
(さぁね……私は、目的の為ならなんでもするから)
(まぁ、面倒な事件でもあれば手伝って貰うさ。切るぞ)
クロノに貸し一つという事で話はついた。さぁ、作戦を顔に出さないようにしないと。多分無表情なんだけども。
言う通り角を二つ曲がり、人気の無い事を確認する。そして魔法陣に足を踏み入れた瞬間、シャマルの魔法に捕まる。
「……は?」
一応、すっとぼけておく。
出てきたのは非常に高い湿度の荒野。雲一つない晴天であるにもかかわらず赤みがかった砂地は水気を含み、少しではあるが足を取る。
およそ生物が繁栄するには過酷過ぎるであろう環境で、当然周囲には一人としていなかった。
しかし目標はすぐに見つかった。おそらく偶然を装う為少し離して落としたのだろう。いい気遣いだ。
それでも問題はあり、目標とはシグナムではなく、シグナムが手こずったであろう相手を指すからだ。5キロ程は離れていそうなものなのに大きく見える。
(シグナム、多分そこから5キロくらい離れて着いた。管理局にクレーム入れるからそのバケモノ連れてこれる?)
(あぁ、進路はそちらだ、そう時間はかからない)
(わかった)
シグナムと繋いだまま、管理局……クロノに繋ぐ。
(ねぇ、これどこ?)
(すまない、何者かにジャミングされて情報が一切こちらに来ていない。どうなった?)
(知らないよ。転移は頼んだけどこんな荒野に捨てろとは言ってない)
(念のためジャミング解除と平行して特定もしておこう。その周囲は何かあるか?)
(えーと、超巨大な活動体と、人型が三……三⁉︎)
目視と、皇帝特権使用の直感で気配を探る。すると、予想外の気配が存在していた。
(超巨大? なんだそれは)
当然クロノには異常の方が気になる様子。
(うん……クモだね、蜘蛛。砂の)
(もう少し詳しく)
(砂を固めて形作ったような蜘蛛が、砂に含まれた水分が蒸発した湯気? みたいのを全身から吹き出しながらこっち来るね。結構速いね。大きいからかな)
(こちらはまだ時間がかかりそうだ。対処できるか?)
(わかんない。勝手にやっていい? もちろん能力無しで)
(ああ、すまないが時間を繋いでくれ。防御の為なら使用も許容しよう。こちらの不手際だからな)
(そ、ありがと。じゃあ繋がったらまたお願い)
(ああ。健闘を祈る)
クロノとの念話を切る。
(シグナム、管理局はまだ此処を特定できてない。存分に過程のねつ造は可能だよ)
(そうか、それは有り難い)
(ただ……私たち以外に、二人いる。味方?)
(いや……ここには私しか来ていない。だからこそお前に連絡したのだから)
(だよね……)
(まだ少し開けるか? 管理局に映像を流されると面倒だろう?)
(……いいや、捕まえよう。その二人も蒐集すればいい)
(できるのか?)
(大丈夫。このバケモノと多少やって、偶然を装って吹っ飛ばされる。そのまま二人を拘束する)
(ふむ……わかった。できる限り私も協力しよう)
(よし……じゃあまず私から……戦いながら合流しよう)
刀を手にし、最も近い右前脚を目標に加速。同時に振り始め、射程距離に入ると同時に振り切る。
ズッ、という泥に突っ込んだ様な感触。思った以上に水分を含んでいるようだ。
「それで、切れないのね」
切った、というより当たって振り切ったのだから切れてた筈なのに、一切キズが確認できない。
「その程度では無理だな。私もしばらく斬り続けてはいたが、ご覧の通りだ」
「シグナム……そう」
蜘蛛の向こうからシグナムがやってきた。
カートリッジ込みでとすると対人能力では無理そうね。対城レベルか。
とは言っても二人とも剣士。それほどの火力は現在望めない。
「よし、一旦こいつは諦めて、魔導師二人を先に行こうか」
「どうする気だ? 距離があるんだろう?」
「コイツに飛ばしてもらおう」
「コイツ、と言ってもな。コイツは一切攻撃してこない」
「いいや、させる。形だけでもして貰えば……」
取り敢えず良い感じに跳ぶ。テニスのサーブの時のボールみたいに。
「シグナムもそれっぽく!」
「っ、ああ!」
シグナムも別の方向に飛び、準備完了。
これなら二人で蜘蛛を攻撃しているように見える……はず。
更に能力で脚一本をお借りして、私に向けてフルスイングさせていただく。
そうする事で私は目標の方向に自然に吹っ飛ぶことが出来る。
そして皇帝特権、砂地での体術を最適化する。
「ほら、そこの二人、諦めな」
取り敢えず片方へ跳び、能力強化した刀で突く。
「がっ……!」
仮面を被った男の右肩を貫通し、動きが止まったところで二人目。
「く……」
しかしそれは対応され、空中へ逃げられる。
「なんのつもり? 管理局?」
「……答えるつもりは無い」
「そう……じゃあ、アナタ達、敵?」
「……答える必要は無い」
「そう。じゃあ敵だ」
地面に刀を刺し、大振りに振り上げることで砂煙を立てる。
その隙に攻撃できなかった方へ跳び、腰を切る。
「う……」
「ほら、諦めな……?」
一人いない。攻撃してくる予感も無い。勘で言うと……逃げられる。
「フタガミウタネ……脅威だ。警戒しておくとしよう」
「くっ、このクソアマァ!」
「闇の書の完成と共にまた会おう」
砂煙と共に二人が消える。かなり速い転移魔法だ……
(ごめんシグナム。結構な魔導師だった。ダメージは与えたけど逃げられた)
(こちらは撃退できただけ構わないが……管理局の魔導師だった場合どうする気だ?)
(分からない……下手したら捕まる)
(そうか……すまない)
(いいの、気にしないで。私が勝手に突っ走ってるだけ……気を付けて)
(ああ、魔導師だな)
複数の気配、それもかなりの数。
「時空管理局だ! 闇の書蒐集の現行犯で逮捕する!」
「クロノ⁉︎」
現れたのはクロノと高町さん、フェイト、その他複数局員。
プレシア事件の際に見たような顔ぶればかりで、いかに用意してきたかよく分かる。
数の差は圧倒的で、私たちは行動の間も無く取り囲まれる事になった。