「クロノくーん! 見つけたよー!」
「やっとか……」
無限書庫での捜索から早二時間。捜索はかなり深い場所に及んでいた。
「二時間で見つかって良かったと言うところか……」
クロノがエイミィに合流すると、表情筋が全て弛緩したような寝顔のユーノと、闇の書に関連するであろう書物が数冊落ちていた。
「全く……一人でよくもここまで探せたもんだな」
「スクライアの一族はこういうのに向いてる、ってのは聞いてたけど。驚きだね」
「なんだそれ、僕は初めて聞いたぞ」
「えっ、そう聞いたから一人でさせたんじゃないの?」
「いや別に。闇の書について調べたい、と言ってきたんだが、ロストロギア襲撃と重なって忙しかったから入れるようにだけして放っておいたんだ」
「ひどーい! 死んじゃったらどうするの!」
「大丈夫だっただろ?」
「だったけど! 可能性の話!」
「危険な無茶はしないはずだ。いざとなれば一人でも戻ってきてただろうさ」
クロノはユーノの周りに落ちた本を拾い、パラパラとめくる。
そこには期待通り、闇の書というワードが入っていた。
「さて……おいフェレットモドキ。起きろー」
「うぅ……う?」
「捜索ご苦労だったな」
仕事上では無く純粋な労いとしての言葉をかける。
「あぁ、うん。解析は任せるよ……」
「ああ、任された。が、まだ休めないからな。これから君には僕の師匠と会ってもらう」
「師匠……?」
「ああ。連絡はしていたんだが中々時間が取れなくてね。もう少しだけ頑張ってくれ。その後はゆっくりしてくれていい」
「あぁ、頑張るよ」
♢♢♢
「ウタネ、起きてる?」
「……起きてるよ」
ノックして返事を受け取ると、フェイトは静かに入室し、椅子に座る。
「私、やっぱりさっきの話が気になって。私たちが闇の書を止めるかどうか悩むって、どういう事?」
濁されたまま終わった問答に納得のいかなかったフェイトは、なのはに仕事を任せ、再び話を始める。
「そのままだよ。特にあなたはね。クロノは多分止めるだろうし、高町さんは……止める。けどフェイト、あなたはもしかしたら」
少し間を置いて、ウタネが口を開く。その口調は先ほどの投げやりなものと違い、とても穏やかなものだった。
「そう思う理由が知りたい。肝心なところを隠されても、ちっとも迷う理由にならない」
「だから、それで良いんだよ。私はもう、特別何かが無い限り闇の書には関わらない。私の無駄な言葉で影響を与えるのは管理局にも守護騎士達にもフェアじゃない」
「フェアじゃなくていい! 私は何が正しいのか知りたい! もうロストロギアで……被害を出したくないの……」
「……他にもやらなくちゃいけない大事な事があるんだ。闇の書は悪で、管理局は善、それでいいじゃない」
手足を縛られたそんな状態で何ができる、という言葉を呑み込み、話を引き出す為の次を探すフェイト。
「そんなの分からない。ジュエルシードの時の私から見れば、管理局は悪でしかなかった。だから、シグナム達がどう思ってるのか、知りたいの。シグナム達にもいい方向で解決できるなら、それを探りたい」
「あなたのその優しさは美徳だよ。だけど、そのせいで危険になる事もある。もし私が捕まる時、クロノがいなければまずあなたを狙ってた。誰にでもフォローに来そうな人は面倒だからね。1対1を望むならそれを拒む人から狙うのは自然だから」
「どういう事? 話を逸らさないで」
「違うよ……これはアンフェアな忠告」
「……?」
ウタネの言葉の真意が読めず、困惑する。決してフェイトに取ってマイナスでは無いはずの言葉なのに、フェイトには不安が立ち込める。
「一つだけ確かな事は、闇の書とロストロギア襲撃の犯人は別人って……っと、高町さんかな」
「え」
「フェイトちゃん! クロノ君の話、伝えに来たよ!」
ノックもなしに入室したなのは。
二人はそれを咎めるでもなく、当たり前に受け入れる。
「うん。ありがとう」
「何か話してた?」
なのはは自分の要件は後でいいと、二人の話を聞こうとする。
「えっと……」
「別に。もしこの事件中に誰かが死ぬなら、フェイトが一番危ないよって」
一切躊躇うことなくウタネが話す。小学生にとっては決して軽くない、友人の死の可能性を。
なのはは動揺するでも無く、そう、と一呼吸置いてから質問を返す。
「闇の書で?」
「いいや、ロストロギア」
「犯人を知ってるの⁉︎」
「……多分。確証は無いし直接会った事もないけど、予感はできる。近いうち、あなた達は犯人に会う」
「そんな事……これだけ探しても見つからないんだよ⁉︎」
「フェイトちゃん。ウタネちゃんを信じよう」
「なのは?」
「そして覚悟しておこう。ウタネちゃんの特訓は確実に私に役立つものだった。ヴィータちゃんと戦った時も、そのアドバイスのお陰で完全にやられずに済んだ。闇の書と同時に、その犯人と戦う覚悟を」
「……分かった。まずは我が身を。もう同じ失敗は二度としない」
大切な人を失う辛さは自分がよく知っていると、それを自分の為に誰かに背負わせるくらいなら、自分が背負ってやろうと意気込む。フェイトにとって、決して優しくはなかった母親でさえ、耐え難いものなのだからと。
「じゃあ、クロノ君からの話をするね。方針としてはまだこれまで通り。闇の書の蒐集を一度停止させて、そこからヴィータちゃん達から話を聞かないかって。被害を抑えられるのなら、現場の判断で臨機応変に、ってとこ」
「これまで通りでいいんだね。分かった」
「……」
「ウタネ? どうかした?」
「いいや。何も──」
(なのは! フェイト! 今どこだ⁉︎)
突然モニターからクロノの声が響く。
「っ、ウタネちゃんの部屋! 二人ともいます!」
(分かった、守護騎士が捕捉できた。すぐにエイミィと合流して送って貰ってくれ! 総力戦になる!)
映された映像は局員十名程度が広範囲の結界で守護騎士を包囲している現場だった。
「「はい!」」
クロノの急ぎの通達と共に二人の意識が引き締まる。今話していた事を実践する機会だ。傷付けず制圧する……実力から見ても難しい所だが、やるしかない。
「もう行くんだね」
「うん。しっかり話を聞きたいから」
「そう……じゃあ」
「なのは! 行くよ!」
「うん! じゃあね! ウタネちゃん!」
先に部屋を出たフェイトを追って、なのはも部屋を出る。
「……私に気を付けて」
「……え?」
すでに遠いウタネの声は、何故かなのはの耳にすんなりと入っていた。