そんな奴が、何故かオレの能力にある固有結界の一つ、『偽・無限の剣製』に入りこんでいる。
「クロノくんっ!」
「クロノ! 状況は⁉︎」
管理外次元世界、地平の果てまで広がる森林の中、色彩の違う場が一つ。
急ぎ現場へ向かった二人は、指揮官のクロノに現状を問う。
「まだ結界に捕らえている。現状維持でこちらの陣形が緩むか、君たちが出た所を突破するつもりだろう」
現状はまだ動いていない。それが今の二人には嬉しいことだった。
「クロノ、確認。闇の書は確保する。けど理由次第では方向転換も考える。最大の目的は被害を最小に抑える。合ってる?」
「あ、あぁ。どうした?」
「今度は私たちが、ウタネちゃんに行動で示すの! 私はウタネちゃんに色々助けて貰って、教えて貰って」
「私は過去の呪縛から切り離して貰った。ウタネにとって小さな事でも、私たちにはとても大きい」
「ウタネちゃんの無罪を証明するためにも、ここで必ず!」
「あぁ……そうか。わかった」
意気込む二人に対し、ウタネの本音を少しとは言え脅迫と共に聞いたクロノはやめたほうがいい、という言葉を呑み込む。ウタネも怒ったとしても能力を全開にする事はないと感じていたし、闇の書解決には二人は必要不可欠だったからだ。
「行くぞ。アルフとユーノも結界維持をしてる。合流しよう」
「うん、行こう」
「あれ? ユーノ君はクロノ君のお師匠様に会いに行ったんじゃ……」
「……それがだな。情け無い話、訓練中に怪我をしただとかで延期になったんだ。教導で怪我するなんて今まで無かったのに」
師匠ながら気が緩すぎる、と愚痴をこぼしながら移動するクロノ。
二人もそれについて行き、アルフとユーノ、他局員と合流する。
「結界維持、ご苦労。これから僕とこの四人で内部へ突入、対象の無力化を狙う。それまでよろしく頼む」
「「「了解!」」」
「そして、それぞれ役割を決めよう。なのははヴィータ、フェイトはシグナム、アルフはザフィーラ、ユーノはシャマル。僕は全体的に援護する。異論は?」
「大丈夫!」
「うん、ありがとう」
「アタシも望むとこさね」
「僕も大丈夫だよ」
「よし。では行くぞ! これを最後にする!」
クロノを戦闘に結界へ突入、外部と少し色彩の違う内部を進む。
そして、その中心部で四人を視認する。
「……来たか、テスタロッサ」
「はい。あなた達の話を聞くために」
守護騎士の一人、シグナムがフェイトを見据える。
その表情に追い詰められたという感情は無く、ただ闘志に満ちていた。
「ここでオメーらをぶっ潰せば、もう邪魔は入んねー。ここが最後だ」
「そうだね。この戦いを最後に、話を聞かせてもらうから!」
誰が合図をするでなく、マッチアップされた四組が同時に動く。
クロノは少し高い位置へ飛び、全体を俯瞰する。
戦況はなのは、ユーノの二人は牽制から落ち着いた立ち上がり。フェイト、アルフは初手から全開の激しい展開だ。この辺り、うまく性格が出てるなとクロノは感じる。そして同時に、自分のするべき事が何かを考える。
恐らくなのはもフェイトも、アルフさえ援護を望んでいないだろう。自分の力を示す絶好の機会だと譲らないはずだ。その上で援護するのは指揮を下げる。手を出すとしても必要上、つまり窮地に陥った場合のみ。
そしてユーノだが、互いの拘束魔法による牽制からの牽制。見た感じ恐らくだが、向こう側……シャマルにもそう戦意は無い。他三人の内誰かが決着を付けるまでずっとああしているだろう。ユーノであれば十分に時間を稼げるはずだ。
「よし」
クロノは中心部から八人を視認できる程まで距離を取ると、援護射撃用の魔力球をいくらか待機させ、自身の周囲に念のため設置型バインドをいくらか置き、戦況を見守る事にした。
これが最善の方法だと信じて。
♢♢♢
「はぁぁぁぁ!」
「はあっ!」
剣と鎌、二つの刃物が高速で行き来する。
「レヴァンティン!」
シグナムが連結刃へデバイスを変形、自身の周囲を切り裂いていく。
「いくら射程が広くとも、今の私の速さなら……!」
「くっ!」
フェイトは複雑に変化する連結刃の網を掻い潜り、シグナムに接近する。
振り下ろしたバルディッシュは鞘に防がれるものの、確かな手応えを感じていた。
「やはり、その速度に小細工は後手に回るだけだな」
シグナムは連結刃を閉じ、レヴァンティンと鞘をそれぞれ左右に持つ。
「しかしその速さを求める故、防御面が疎かだ。当たれば……」
そして、鞘を柄頭へ当てがい、カートリッジから魔力を流し、デバイスを変形させる。
半身の構えを取ると、左手には弓となったレヴァンティン、右手には矢が握られていた。
「無事では済まん。その速さを見切った時、私の勝利だ」
矢は一本ではなく、複数が同時に弓にかけられていた。ただ一撃で終えるのでは無く、その逃げ道さえ塞ごうという魂胆だ。
そこにあるのは迎え撃つという迎撃の意志ではなく、敗北から遠ざかろうとするだけの逃避だ。以前のシグナムであれば、ただ一本の矢で持って、刺し違えてでもフェイトを確実に捉えようと構えたはず。
本人も意識しない無意識のそれは、フェイトが活路を見出すに十分な隙であった。
「バルディッシュ!」
フェイトもカートリッジをロード。装甲を更に薄く、スピードを更に増し、シグナムの周囲を飛び回る。
連結刃の時より更に二割増しの速度は、百戦錬磨のシグナムといえど気配を察するのが限界だった。
それでもなお、シグナムは周囲を高速で移動するフェイトを僅かでも捉えた。
「そこだ!」
経験から先読みした射撃は、フェイトのマントを擦るだけに終わった。
高速移動中のマントは、常にフェイトの軌道の後方にある。それはつまり、シグナムの経験をフェイトの速度が上回った、という事だ。
「はぁぁぁぁぁあ!」
「くっ、うぉぉぉぉぉ!」
弓のままのレヴァンティンでギリギリの防御が間に合ったものの、衝撃を受け止める事はできず、木々の中へ落とされる。
「シグナム、あなた……」
これまで同等にやり合ってきたライバルに競り勝ったというのに、フェイトの顔は困惑に染まっていた。
なのはがヴィータに敗北したように、これがフェイトにとってのリベンジであるのならまた変わっていたかもしれない。しかし、これまで全く対等、フェイトの経験不足による差だったそれが、今覆った。なのに、一つも喜びを感じていないかのような表情は、シグナムの方に原因があった。
シュランゲ、ボーゲンというレヴァンティン本来の『剣』としての役割を、悪く言えば果たせない状態での使用。不利な状態での奇策は、更に自身を追い詰める事になるという事も知っていたはずのシグナムだ。実力はほぼ互角、ならば騎士として、正面から受けて立つべきだった。そうしたならば、フェイトの方が上回ったとしても、ギリギリの状態にまで引き込めたはず。誰よりも、フェイトがそれを確信していた。
「ウタネ……」
シグナムをそこまで追い詰めたであろう人物の名が溢れる。
フェイトも一度、敵として立ち会ったことがある。ウタネの腕を落としてしまったからか未遂に終わったが、ウタネの戦い方は酷く心にくる。ありとあらゆる動作の先を読まれ、予行演習でもしてきたかのように防がれる。それは、自分など戦うに値しないとでも囁かれるようで、フェイトはただがむしゃらにバルディッシュを振り回すのが精一杯だった。
恐らくシグナムはそれをほぼ完全に受けたのだと感じるフェイト。ウタネとの戦いではその意志から剣士として戦い抜いたのだろうが、その戦いが終わっても無意識に避ける程影響を残しているのが見て分かる。
シグナム程の騎士でさえ、剣を手にするのを避けてしまうほどの精神攻撃……フェイトはそんな事をする人間など、過去の歴史からも見たことも聞いたこともない。
追撃は行わず、シグナムが再び姿を表すのをフェイトはただじっと待っていた。