首に左手を当て、7回人差し指でつつき、手のひらを添え、目を閉じて首を左に傾ける。
「……はじめまして、ゴドーワード。
自分自身へのバトンタッチとも言える動作は、これ以上無く速やかに私の意識を切り替える。
私にも分かる、異形の魔術師。魔術を用いず、魔術の最終点に辿り着いた男。
「ヴィータちゃん⁉︎話をしようって!」
シューターを複雑に操作しながら、ヴィータとの対話を諦めないなのは。
「だから! 話す事なんてねーっつってるだろ!」
適宜シューターを鉄球で撃ち落とし、防戦に回るヴィータ。
「少しでも手伝いがしたいの! ちゃんとした闇の書の解決法を!」
「じゃあさっさと消えてくれ!」
「それじゃ何にも変わらない! 今までの闇の書を知ってるんでしょ⁉︎」
「何の事だ! 意味わかんねー事言ってんじゃねー!」
二人の会話と戦闘は平行線で、魔力だけを消耗する時間が経つ。
他の三人も変化が無く、クロノが離れたというのをなのはが感知した程度。
「しゃらくせぇ! 行くぞアイゼン! ラケーテン、シュラーク!」
ヴィータがカートリッジロード、デバイスを変形させ、回転しながらなのはへ突撃する。
「それはもう……効かないってば!」
なのはは複数のシューターを上下からヴィータへ撃ち込み、ヴィータの防御を強いる。これにより回転は止まり、元の睨み合いに戻る。
スピードコントロールを重視したシューターは、ヴィータの鉄球の倍を操作できるなのはにとって武器となり、ヴィータから見れば最悪の相性となる。
「こんなとこで無駄に時間食ってる訳にはいかねぇんだよ!」
それでもなお負けん気を見せるヴィータ。
ベルカの騎士に、負けは無し──それだけは、自分の為、仲間の為、そして、主の為にも曲げるわけにはいかなかった。
しかしヴィータとて不利は分かる。正面から突っ込んでも突破は難しい。
最善は背後からの強襲だが、相手もそれを警戒していないはずがない。
であれば一つ。鉄球による面制圧から押し切った所を接近する。
対するなのは。自身の周囲に常に十六のシューターを待機、八のシューターをヴィータへ向けて牽制。計二十四のシューターをミス無く操作する技量は、クロノの想像を遥かに上回っていた。
長距離、中距離は確実な有利、接近してもウタネから教わった接近戦。初戦ではカートリッジにより力押しされてしまったが、同等の条件となった以上は押し切られる事もない。得意分野で、油断なく撃墜する。
「アイゼン!」
「レイジングハート!」
なのはのシューターが十六、ヴィータへ向かう。
ヴィータはそれと同じ数の鉄球を力一杯撃ち出す。操作性で劣るものの、標的はシューターではなくなのは本人。であればシューターで勝手に相殺してくれる、という寸法だ。
「ん……」
少し離れた場所でシグナムが苦戦しているのを見るヴィータ。決して負けるなどと思ってはいないが、そこに何か違和感を感じた。
それを起点に、自分にも何か不調がある、と直感する。原因やどう悪いのかは分からないが、何か、今この状況か何かに致命的欠陥がある事を感じていた。
「しまっ……」
「そこっ!」
「くっ、そぉ!」
意識を逸らした隙にシューターを受けてしまうヴィータ。
けれども初弾以外は防ぎきり、爆煙の中から反撃の鉄球を飛ばす。
「なっ……」
煙が晴れてヴィータが見たのは、先程の倍はあろうかという魔力球の待機状態。
この時点でなのはは全てのシューターを制御できてはいない上、いくつかは見た目だけのハリボテも存在するが、二十四というただでさえ規格外の数を操作して見せたため、ヴィータにはその全てを警戒の対象にせざるを得なかった。
「シュ──ト!」
次々と撃ち出されるピンクの砲弾。
シールドで受けたそれは衝撃を残し、避ければ背後から襲ってくる。
反撃の余地など微塵も残さない攻撃は、ヴィータに焦りを持たせるに十分な量だった。
「しまっ……」
シールドが割れ、防御が効かなくなったところに上下左右から襲いくるシューターを、ヴィータはもはや躱せなかった。
「えっ……⁉︎」
「な……テメェ……」
しかしヴィータは健在、無傷であった。
仮面を付けた男がヴィータの前で防御を張っていたのだ。
「あっちも無理だ。ここは退け。闇の書は完成させなければならない」
仮面の男が指差した先には、フェイトに吹き飛ばされるシグナムの姿が見えた。
「誰⁉︎新しい仲間⁉︎」
なのははそれに動じず、慎重に距離を取る。
「アレは引き受ける。早くしろ」
「っ!」
仮面の男はそう言うと凄まじい速さでなのはに接近し、周囲の魔力球、クロノから教わっていた設置型バインドを全て砕いた。
「闇の書の完成を邪魔するな。黙って見ておけばいい」
「ぅ……!」
なのはの眼前に迫る拳、魔力を込めたそれは、なのはのスピードではシールドを張るのに間に合わず……
「う"ぉ"!」
「な……」
「え……」
空中から落下してきたヒトガタを貫通した。
「えぇぇぇぇぇぇぇ⁉︎」
なのはは叫んだ。臓物を見るのは初めてでは無かったが、それでもそう慣れるものではない。
男の濡れた拳と、それをいとも容易く受け入れた細身の肉体、赤く濡れる自分のシールド。
なのはの頭は若干のパニックを起こし、シールドを咄嗟に解除してしまう。
その隙を男は見逃さず、再び振りかぶった拳でなのはを森へと叩きつけた。
「一人ずつ、そして一人死んだか」
男は感情も無く呟くと、ヴィータに撤退しろという旨をまた伝え、クロノへ向けて魔力球を飛ばす。
「……おい! なんだテメー! さっきのは……さっきの落ちてきたヤツは!」
落ちてきたヒトガタは、白い長髪、無駄に細い身体。それが今では赤く染まり、重力によって森へ消えた。
「ウタネじゃねぇか!」
そういえばウタネの見た目とか書いた覚え無いですが、どうしましょうね。
Vividの方は確か載せてたので分からなかった方は参照して下さると助かります。