今!
【縛れ】
「⁉︎」
男の頭の周りを丸々固定。話すどころか呼吸すら不可能なはずだ。
「甘いんじゃない?下位だからってナメてるよ」
箭疾歩で距離を詰め、全力で鎌を振る。狙いは当然、即死を狙える首。
視線をズラし、ノーモーションから加速できる歩法からの一撃は、吸い込まれるように男の首に滑り込み……
「WRYYYYYYY!」
「フェイトちゃん!」
──ザクッ
「……!」
想像より遥かに軽い音を立て森へと落ちていくソレを、無感動に見下ろし──
「────え?」
「あれ? 新顔さん、なんか落ちましたよ?」
ニィ、と口元を歪めるソレ。
「あぁ……まぁ、お前をどうしても出さないつもりなら、分からなかったな」
犯人は自分の両腕が抵抗も無く切断された事には一切触れず、痛みどころか喜びの声を発する。
「フェイト〜? 大丈夫?」
結界上空から、軽い声をかけるウタネ。先程までの緊張感などカケラも感じられない空気を作っていく。
「う……うん」
救世主の呼びかけにも、思考の追いついていない上目の前に血を流し続ける犯人がいたフェイトにはまともに答えられなかった。
「まったくもう、あなたは何でこんな事するかな?」
「こうした方が早いだろ」
困った様なセリフを、無表情で放つウタネに、なんでもないセリフを困った様に吐く犯人。
手には刀が握られ、口調や顔つきもいつもクロノ達が見ていたウタネだった。
「普通に探せば?」
「オレに気付けば逃げるだろ?」
「まさか。あなたに限ってそんな事」
「実際居場所が隠蔽されてたのは事実。管理局の牢に入れられてたとかならともかく、大方外部にお前を見られない様にするためだろ」
「あー……それは……」
ウタネは、クロノとその近くに開かれたモニターを見て、犯人も同じ様に見る。
《クロノくん! そこにウタネちゃん! いる⁉︎》
「あ、あぁ、さっき来たな」
モニターから響く怒声にも、困惑しきったクロノには響かず、ただただ肯定のみを示す。ユーノやアルフもモニターを覗き込む。
《なにこれ! 手錠! 足枷!》
「はぁ? 何を……はぁ⁉︎なんだこれは⁉︎AMFの部屋にある鋼鉄だぞ⁉︎なんでこんなにグニャグニャなんだ⁉︎」
管理局特製の対次元犯罪者用拘束が細身の少女に抜け出されたとあっては驚かないはずがない。
もっとも、クロノは能力によるものと知ってはいたが、他に教えないという約束を守るつもりで演技をしている。
「というわけで、実際に捕まってたの」
やれやれ、と肩をすくめるウタネ。
「なにやらかした?」
「あなたがロストロギア強奪した」
「あー、見た目か。にしても……そうか。外に向いたのか」
気付かなかった、といった体の犯人。そこには既に戦意も無いように見える。
「うん。まあ今はそんな事……どうでもいいよね。さて、どうする?」
「お前に会えたんだ。大人しく投降してもいい……が、それじゃあ捕まっちまうよなぁ? クロノ?」
ニヤ、とクロノに視線を向ける犯人。
「当たり前だ! ロストロギア襲撃、強奪! 職員への攻撃! 許してくれとは言わせない!」
「だよなぁまいったね……」
激昂するクロノに、犯人はいたって自然体で返す。
「ロストロギアだけでも返せば? 多少は軽くなるでしょ」
「いやー、返してもいいがもう少しいるんだ。あと二日くらい。だからさ……全員ボコる事にした」
流れていた血が止まり、森から腕と、握られた鎌があるべき位置まで戻っていく。逆再生の様に繋がった腕は全く無傷であるかの様な動作を確認した。
再び鎌を握り、殺意を持つ犯人。
「は?」
「あぁ、ウタネは手を出すなよ? 下手すりゃこの世界が持たねぇ」
「?」
「人は、真実を知った時に変化する生物だ。オレがウタネで
「……」
なにかを示す様な物言いに、ウタネは少し考える。
「だからさ、こいつらボコってオレが入ってやろうってこった」
「なに……?」
「いいだろ? お前ら全員、生きて帰れる上にさっき言った通りオレが管理局に入ってやるっつってんだ、まぁ嘱託でだけど」
「なんだと……!」
「いいじゃねーか、ランクで言うとウタネと同等に近い戦力がちょっとの痛みだけで手に入るんだぞ?」
普通に話している分警戒が薄くなるが、クロノの読み通りウタネと近い存在である様な事は確からしい。
「く……」
「まぁまぁ、やろーぜ。兎にも角にも、互いの戦力を確認し合う事が信頼への一歩だ」
「うわーシオンが信頼とか言ってる。気持ち悪い」
「テメーより言うだろ似合わねぇことすんな」
「まーいいよ、ホラ」
「っ⁉︎」
シオンと呼ばれた犯人が大の字に固まる。ウタネの未来を視ることはしなかったのか、あっさりと能力に拘束された。
「取り敢えず私とやろう? 加減はするけど、あなたの能力も知っておかないと。下手に殺されても困るし」
「はー……いいぜ、『世界』」
世界が止まる。実際がどうであれ、シオンが認識する限りでは他の全ては動く事はない。
(止まった世界では流石のウタネも動けないか……止めてられるのは四秒程度。さて、問題はこの能力。知ってるけど分からない、だな。発作での性質としてあらゆる物が徐々にウタネを呑み込んでいくというものだったが……拘束はされていても身体に干渉されてはない。しかし硬い。パワーでの脱出は不可能と見て良いな。バインドブレイク……も効かない。この世界で習い覚えた魔法という線も消えた。では話してた通り、例の発作が反転したか……)
『直死』
ソレの視界が切り替わり、世界全体が無数の死で覆われる。
(視えるな。硬度を増しているのかは知らないが元は空気。今のオレになら殺せない事はない)
『投影』
上空に西洋剣を数本投影し、死の線に沿う様に落とし、拘束を切り殺す。
(ふぅ……残り三秒くらいだが。能力解除だけで終わるのも癪だな。確認だけ、しておくか)
フェイトの近くを離れ、ウタネと同じ高さまで飛ぶシオン。
更に数本ナイフを投影、ウタネに向かって投げる。ナイフはウタネから二メートル程度で止まり、運動エネルギーを維持したまま他の物質同様止まる。
(残り二秒……動けない、見えてないのなら回避は不可能。動けるのなら対処は可能。動けず、見えているだけならば回避ないし防御は間に合うはずだ。さぁどうする? タイムアップだ)
世界が時を取り戻す。停止していたナイフは運動エネルギーを消費するために加速する。
「……」
「……ふっ」
ウタネは18のナイフを半分避け、半分を撃ち落とす。その数はおおよそ同じ。
「……驚かないんだな」
「別に? 驚くことなんてある?」
「あるさ。オレは自分の力を言ってないし、ロクに見せてないはずだ。なのに何故、お前はナイフを見切れた?」
「見切ったと思う理由は?」
「オレだってバカじゃない。ナイフの数は数えてる。半分ずつ。正確に見切らなきゃできない本数だったはずだ」
「うーん、勘、かな? 私はそうしないと戦えないから」
「……だったな。そうだとも。お前は戦闘に向いてない」
「でも戦える。戦闘をする必要は無い」
「大人しくしてればいい。闇の書なんて面倒に関わるのは違うだろう」
「これまでは今までとは違うんだよ。私だって思う事はあるし、少しの出来心だってある」
「……なんとなく察しは付く。今日の日付は?」
「……? 12月、20日だけど。たしか」
「そうか。お前はどうしたい。闇の書を、管理局を、守護騎士を」
「闇の書の解決方法を知りたい。あなたなら知ってると思って出てきたの。こんなワザワザ敵対するような事しないで、さっさと教えて」
「教えられないが、解決することはできる。だが、その話は後だ」
「……そう。じゃあこうしよう。この攻撃、これを最後にして解散だ」
ウタネは能力で空気を固め、あらゆる方向から、虫一匹通さない程の密度で槍を作る。
「見えてるんでしょ。この攻撃は逃げられない。死んだりはしないんだろうし、私が制圧して確保した、ってなら私も無実、ジュエルシードの件の借りでロストロギアを返せばなんとか無罪でしょ。分かんないけども」
「そこまで軽い組織とは思えないがな。まぁいい。この槍以降の攻撃が無いってならオレも終わる。ただ闇の書に蒐集はさせてもらう。時間が無い」
「時間……?」
「手伝えないなら、の最終手段だ。気にするな」
「分かった。じゃあ行くよ。【いけ】」
それぞれの槍が様々な速度でその中心、シオンへ発射される。
回避不能、防御……あるいは可能かもしれないが、現時点のなのはやザフィーラで不可能。迎撃不能、破壊不能の攻撃。これだけで守護騎士、管理局五名の総戦力を倍以上上回る。
「たしかに、時を止めても逃げ場が無ければ意味が無い。が、時を止める必要は無い。当たる時間を吹っ飛ばせばいい……キング・クリムゾン!」
槍とシオン以外の全てが崩壊していく。実際にはそう見えるだけではあるが、動かない物質は存在していない事になる。
「時間停止、時間跳躍。この二つで回避できない攻撃は無い……」
槍はシオンを透過し、槍同士の衝突で加速を止める。それでもなお破壊されないウタネの能力。
「停止時間を認識できたかも知れないが、この中はどうだ。見えるか? 分かるか? どちらでもいいが……さて、これで終わりだな。時は再び刻み始める」
世界は再び現実を取り戻す。景色はあるがまま、それまで存在していたものを表した。
「……瞬間移動。透過。どっちだろうね」
変わらず無表情のまま驚きを示すウタネも、約束通り追撃も防御態勢を取る事もしない。
「どっちかと言うなら透過だな。まぁいい」
「これで終わり」
ウタネとシオンが同時に得物を仕舞う。互いにキーホルダー型、デバイスで言う待機状態のそれを首にかける。
「ああ……シャマル!」
「は、はい!」
「闇の書持ってこい。蒐集させてやる」
シオンは自分からリンカーコアを取り出し、闇の書にかざす。
蒐集を終えるとやはり意識を失い、それをウタネが支える。
「……さて、えーと、どうしようか。クロノ」
「く……分かってる。そいつを回収して終わりだ。戦闘は終了する」
「うん、ありがとう。シグナム! 終わり! 撤退して!」
ウタネが守護騎士を撤退させる。
結局の所、管理局はチャンスを潰され、守護騎士は逃げ果せた形になる。闇の書の解決を望むクロノにとっても、打倒守護騎士を掲げていた三人にとっても納得し難い結果に終わった。